29話
灰色のローブを纏う者が抱えた女性の顔が一瞬見えたがその人物が友人であるライラ・ガーベルトの様に思えた。記憶にある彼女の顔と大分印象が違っていたが、彼女に最後に会ったのは王立学校の時以来で数年の月日が経っているから印象が違うのも当然なのかもしれない。
彼女がライラだとして考えられるのは、何らかの理由で騎士としてこの場に趣き襲われたという事だった。王立学校時代彼女は騎士になりたいと常々言っていた。女性の身で更に公爵家の娘である彼女が騎士になる事は難しいだろうと当時思っていたが、それを実現し騎士としての任務で危険で深い森であるこの場にいるのであればそこまで不思議ではない。
抱えられた彼女の衣服は鎧下に騎士が着る一般的な服で彼女が騎士である可能性は高いし、先程魔物に喰われていた騎士らの死体の側に鎧だけが転がっていた物が一つあった。鎧を脱がし死体の側に置いておけば魔物に襲われ死体を全て喰われた様に偽装できる。
公爵家である彼女を誘拐するのが目的か?
いや、そうであれば荷馬車に入れられた複数の人々は邪魔になるはずで人々がこの場にいる理由が分からない。ともかく彼女がライラである事を確認するためにも、冒険者達を無力化する必要がある。
ローブを纏う者は女性を荷台に入れその馬車の御者台へ乗ろうとした瞬間俺は茂みから飛び出し真っ正面から突っ込んでいった。
御者台に向かい飛びつき、虚を突かれてかこちらを見て固まったままのローブの者と横の冒険者の頭を一発ずつメイスで素早く突き、骨の砕ける感触を感じながら直ぐに高く跳躍し二人の頭上を飛び越え横並びになっている隣の馬車の御者台の冒険者を同じ様にメイスで突き一撃で倒し、更に横の御者台に向かって飛びもう一人の冒険者を沈めた。
最後の一人が隣の馬車の座っていた御者台を足場に立ち上がり剣を抜きこちらに向けて構えた瞬間魔法で風の刃を飛ばし首を刈り全ての標的を倒した。
念のため倒した冒険者の仲間が残っているかもしれないためメイスを構えながら警戒しつつライラらしき女性の入れられた馬車の屋形の中を覗くと荷台に入れられた人々が震えながらこちらを一斉に見たが気にせずに横たわるライラらしき女性の顔を覗いた。
大人びてはいるが間違いなく俺の知るライラ・ガーベルトに思える。
「ライラ、おい、ライラ」
声を掛けながら頭部から少し血が付いていたので魔法で傷を直していると、彼女は小さく唸りながらゆっくりと目を開き俺と目が合った。
「...なっ!?貴様、何者だ!?」
彼女は勢いよく立ち上がり俺と距離を取り身構え睨んだが軽い目眩が襲ったのかふらつき倒れそうになったので彼女を抱きしめるように身体を支えた。
「頭に怪我してるのだから無茶するなよ。相変わらずそそっかしいな」
俺が声を掛けると俺の胸に顔を埋める形となった彼女は勢い良く俺の顔を見上げ、見つめ、綺麗な銀色の瞳を大きく見開いた。
「お、お前、まさか...ルディか?ルディ・リースロットなのか!?」
俺は小さく頷くと彼女は見開いた目を細め、涙が溢れた。そして俺の胸に顔を埋め暫く泣いた。暫く泣いた後彼女は俺から身体を離し頰を赤らめ俺の顔を見た。
「ルディ、どうしてお前がここにいるのだ?犯罪奴隷に落とされたと聞いていたが。それにその顔、随分窶れている」
ライラはゆっくりと俺の頰に手を当て撫でたが、はっとした顔を真っ赤にして素早く撫でていた手を引っ込めた。
「そ、そのなんだ。とにかく無事で良かった!」
うん、うんと頷くが顔は赤いままだった。
「それよりライラ。君はどうしてこんな所に?何があった?」
「何が...そうだ!隊長が!」
俺はライラから説明を受けたがどうやら彼女が所属する小隊の隊長から嵌められた様だ。
「最近アズドーラ国内で行方不明者が増えているらしい。もしかしたらここにいる人々がそうかもしれない」
「誘拐か」
「ああ、私もそうだと思う。ローブの男の話だと、人々を連れ海を渡る予定だった様だ」
海を渡るとなるとヴェルムヘイム大陸か。人身売買する気だったのだろう。それにしても...。
俺は未だ怯えた表情をこちらに向ける人々を見渡しため息をついた。ライラが人々を置いたままにするはずはないだろうから街まで連れて行かないと行けないが馬車4台一杯に人々が積まれている。
俺とライラの二人で連れて行くには人数不足だな。
面倒な事になった。
「どうしたルディ?」
「いや、俺と君だけで全員を街まで送るのは難しいと思ってね」
「ん?何を言っている?仲間はいないのか?」
「ああ、俺一人だけだ」
とりあえず俺とライラは屋形から外に出て今からどうするか話をしようと思ったがライラは馬車の御者台に横たわる男達の死体を見て驚いていた。
「ルディ!?お前一人でこれをやったのか?」
頷き、どういう戦いをしたかを伝えたらライラは更に驚いていた。
「冗談、ではない様だな。まさか一人で5人を相手に無傷だとは。今までお前に何があったか聞きたいがそれは後でゆっくりするとして、こいつらと戦った際、隊長の姿はなかったか?」
俺は隊長らしき騎士の姿は見ていない事と、残りの騎士の死体とライラの鎧らしきものが森の中にあったと伝えると彼女はぐっと拳を握りしめて、怒りの様にも悲しみの様にも見える表情を浮かべ、「そうか」と一言呟いた。とりあえずここにいる全員を森を抜けた先の村に一旦移し、ライラが更にその先の街の領主に応援を打診する事に決まった。
「隊長の姿がなかったという事はすでに王都に向かっているはずだろう。この件は急ぎ父に伝えなければ」
俺は御者台の死体を集め森の中に運びついでにライラの鎧を拾って馬車に戻ると馬車に積まれた人々から話を聞いていたライラが眉を顰めていた。
「やはり、皆村や街から攫われた様だが、困った事に攫われた人の中にはバルリング王国の人間もいるようだ。これは思っていた以上にまずい事態だ」
アズドーラとバルリング王国は友好を結んではいるが力は圧倒的にバルリング王国に傾いている。バルリング王国の人間の誘拐にアズドーラの騎士が絡んでいるとなると、外交上非常にまずく、友好条約の撤廃まで話が進む可能性は充分にあり、ライラにとってはかなり慎重に事に当たる必要が出て来た。
「やはり、急ぎ父に連絡しなければ最悪バルリング王国と事を構える自体に発展するかもしれない。とにかく急いで全員を運ぼう。今の時間であれば日が沈む前になんとか村にたどり着けるだろう」
攫われた人々の中には商人見習いで馬車の御者を経験した事のあるものがいたようで彼らにも協力してもらう事にし急いで人々を乗せた荷馬車を走らせ一番近い村に向かった。




