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誰が為の力?  作者: 渋谷 啓介
27/30

27話

「ルディ様もうすぐに王都に到着致します」


ウォルトの言葉を聞き、馬車の小さな窓から外を覗くと久しぶりに見る王都を囲む巨大な防壁が見えた。リースロット領から馬車に揺られて6日が経ちようやく今日、王都に着く。


馬車には俺と執事のウォルトが同乗し馬車を中心に馬に乗った数名の騎士が列をなしていた。勇者召喚成功の一報を聞いてからすぐに王都で勇者お披露目の会の日程が決まったようでそれに参加するため王立学校卒業以来久々に王都に向かう事となった。父上は既に王都にあるリースロット領主別宅に滞在しているため、俺は母を領に残し数人の騎士と執事のウォルトと共に王都までの旅路を順調に進んだ。


バルリング王国王都レイクローグは大きな湖を北を背に作られた城郭都市で規模、人口共に国内最大級の巨大な都市だ。建国以前は魔物の蔓延る魔境と呼ばれていたそうだが初代国王と女勇者が強力な魔物を根絶やしにし、更に豊富な水と豊穣な大地を利用して農業や酪農で発展しており未だその名残で都市西側の平野には広大な畑や牧場が広がっており、巨大な都市の食糧の殆どを賄えている。


都市は出入り口となる門が東西南の三箇所設けられ日々多くの人々が行き交う。都市はいくつもの区間に分かれているが都市北側の城を中心に南に向かい半円状に北側が貴族の居住、南側を平民の居住と大きく分かれていて俺が通っていた王立学校も北側の貴族の居住地区に建てられている。広い都市を行き来出来るよう、馬車用の道路と歩道が分かれ蜘蛛の巣の様に張り巡らせられており、これも女勇者の助言により整備されたとされている。


リースロット領主の別宅も貴族の居住地区にあるため防壁を超えそのまま北側に馬車を走らせた。貴族の居住地区は爵位の順位により王城に近い場所から高位貴族の住まいが建てられリースロット領主の別宅は貴族の居住地区南側に建てられている。伯爵家に与えられた立地はそれほど広くないため他の貴族と比べればこじんまりとした館であり更に館の造りも父上の趣向で華美を好まず無骨な造りとなっているため全体的に地味だ。俺もあまり派手な物は好まないため特に気にしてはいない。


館に着き中へ入るとロビーに父上がいた。背は高いが線が細く痩せていて貴族に似付かない質素な服に身を包んでいる。更にいつも柔和な笑みを浮かべているため見た目だけでも武がある様に見えず実際腕っ節だけで言えば貴族の娘なのに冒険者まがいで剣を振るっていたらしい母上の方が上の様だ。

しかし父上は他の者に負けない知力を持ち合わせ、更に貴族としての王への忠誠心の高さを非常に良く評価されており、他の貴族家の方々にも一目置かれていた。


「やあ、ルディ。無事に到着したようだね。疲れはないかい?」

「ええ、父上。特には」

「それは良かった。勇者様のお披露目は明日の夜に王城で行われるそうだ。それまではゆっくりするといいよ」

「ありがとうございます。それと...」

「ふふ、マルティナさんの事だね?希望通り今日の夕食に招待しているよ」「そうですか。ありがとうございます」

「それじゃあ私は書斎にいるから何か用があれば言ってね」


そういい父上は二階の書斎へ向かった。俺も特にすることは無く夕食まで寝室で休む事を執事のウォルトへ告げ夕食までの時間をゆったりと過ごした。





夕食の席で久しぶりの再会となったマルティナ・ヴェーラーは美しかった。以前にもあった幼さを秘めつつも大人の女性の艶やかさも伺えるような雰囲気を持ち愛らしく穢れを知らない様な引っ掛かりのない美しさだった。久しぶりの再会に恥ずかしいのか白い頬を赤らめ、その潤んだ薄い翠色の目を俺に合わせては下を向きを繰り返していた。


「やあ久しぶりだね、マルティナ。元気にしていたかい?」

「お、お久しぶりでございます、ルディ様」「王立学校の頃のようにルディと呼んでくれないかい?」「そ、そ、そ、そんな事出来ません!それに王立学校でも呼び捨てなんてした事ありませんでした!」

「ふふ、そうだったっけ?まあいいや。元気そうで何よりだよ。俺は未来の妻との久しぶりの再会を心から喜んでいるよ」

「み、未来の妻だなんて、そ、そうなのですが、妻だなんて...」


顔を真っ赤にしてあたふたしている姿を見ると先程感じた艶やかさは消え幼さが全面に現れていてその姿は愛らしくより一層微笑ましく思え、俺も父上もその場にいた使用人達も笑みを浮かべた。


マルティナとの出会いは王立学校だった。大人しく人見知りする彼女だが非常に勉強熱心で特に魔法に関しては造形が深く、初めて話しかけた時は中々心を開いてくれなかったが魔法の話になると饒舌になりその態度の差異に可愛らしく思いつつもよく笑わせてもらい、気付けば良き友人となっていた。


王立学校の卒業後しばらくして彼女との婚約は決まり、俺も特に抵抗は無く受け入れる事が出来た。マルティナの住むヴェーラー侯爵領はリースロット領からかなりの距離があり頻繁に会う事が出来ず約一年ぶりの再会だった。手紙でのやり取りは度々行なっていてマルティナも勇者召喚のお披露目の場に参加するために王都に行くと知っていた。


マルティナと会う機会が出来たのも勇者召喚のお陰だな。俺はまだ見ぬ勇者に小さく感謝した。





翌日、日が沈んだ頃、俺は父上と共に王城へ登城した。勇者お披露目となる会場に通された。会場とされた部屋は広く絢爛豪華な造りがされ椅子の置かれていないいくつものテーブルには豪華な料理が並んでいた。既に多くの招待客が集まっていて、ちらほらと見知った者の姿も見受けられ、その中には王立学校で共に学んだ者もおり、先に会場にいたマルティナと合流して数人の学友達と久しぶりの再会を喜んだ。


暫くののち会場に声がかかり、王と王妃が姿を現した。


「皆の者、この度はよくぞこの場に集まってくれた。今日はバルリング王国にとって記念すべき日となるだろう」


王は簡単に述べ、側に付く宰相に目配せした。


「それではこれより勇者様にご登場頂く」


会場の扉が開きカルラ第二王女が姿を現しその後に付いて勇者が現れた。黒い髪に黒い目は確かに勇者の証であるが顔立ちは幼く小柄で成人前の子供の様に思える勇者の姿を見てかざわめきが起こる。王の前で跪き一礼した後に王と並び、その顔には笑顔が見て取れた。


宰相からこの度の勇者召喚の経緯が語られ体調が優れずこの場にいない召喚を成功させた宮廷魔導士アルド・カッパーと召喚に際して大いに貢献されたとしてカルラ第二王女にそれぞれ大袈裟とも言える賛辞が送られ、話が終わると全員に酒の注がれた杯が配られ、王が乾杯を宣言し会が始まった。


高位の貴族から順番に王と王妃を前にし祝辞をのべ、続いて勇者を前にして祝辞を述べた。俺も父上と共に列へ並び他の者と同じように王と王妃、続いて勇者に祝辞を述べ下がった。勇者は幼くあるがニコニコと人懐っこいような笑顔を終始崩さず力を持つ者の驕りは感じられなかった。全ての貴族が祝辞を述べた後、王と王妃は席を外し勇者と勇者に付き添うカルラ第二王女は会場に残り親交を深めようともしくは勇者を見定めようと多くの貴族が取り囲んでいた。


俺はマルティナと合流した後、マルティナとの婚約を改めて伝えるために高位貴族を中心に挨拶をして回った。挨拶回りが終わり暫くして食事を楽しんでいた俺とマルティナに声が掛かった。勇者とカルラ第二王女だった。


「これは、勇者様。改めましてルディ・リースロットでございます」

「勇者です。よろしく」


変わらずニコニコと勇者は笑顔を絶やさず言った。

だが何故俺の所へ?


「あら!?でしたら貴方があのリースロットの俊豪ルディ様ですか?」


王女は可愛らしい目を爛々と輝かせて言った。


「ねぇ、カルラ。俊豪ってなんだい?」

「ええ、勇者様。こちらのルディ様は王立学校建設以来の天才と呼ばれ、剣も魔法も知力も同年代に並ぶ者はなく、将来を最も期待される方と噂される方なのです」


いえいえそんな事はありませんよと謙遜しつつ、一言二言交わした後勇者とカルラ王女は違う貴族の元へ向かった。勇者が王族を呼び捨てにした事に内心驚き咎められる様子もない事から勇者の立ち位置は既に王族に並ぶ者と認識されているのではと感じた。


それよりも勇者だ。

ニコニコと笑顔を崩さなかったが王女が俺の噂について語った後「...へぇ、天才でイケメン、天然チートかよ」と小さく呟いたのを聞いた。意味は良く分からなかったが呟いた後のほんの一瞬、ねっとりとした気持ちの悪い視線が俺に注がれたような気がした。マルティナを許嫁と紹介した時も同じ様な視線を向けられた様な気がした。


気のせいだったと思うが俺はふとある事を思い出した。妬み、僻み、嫌悪、憎悪が入り混じった不気味で気味の悪い視線を俺に向けた王立学校の一部の者達の顔を。

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