25話
バルリング王国における勇者とは象徴であり国の繁栄をもたらす存在である事は間違いなく勇者召喚の成功には多くの者が神へ感謝を捧げる事となり私もその一人であった。
しかし今、私はその勇者の事で頭を抱えていた。
1000年ぶりに成功した勇者召喚に国中が湧き、特に王都では連日祝祭が催され多くの人々が王都へ集まり勇者召喚の成功を祝った。
しかし勇者の存在自体を懐疑的に思う者も多く特に貴族の中には勇者に対し批判的な者も一部存在し、王族が用意した偽物ではないかと噂を流す者もいたが、それらを知った勇者から自身の力を示すべく武闘会の開催の提案があり執り行う事となった。
多くの強者が国中から集められたが結果から言うと勇者は圧倒的だった。魔法を自在に操り、剣の一振りで多くの者達を倒し、その小さな体からは想像できない力をそこで示しやはり勇者は本物であると証明した。
王族、特に王は大いに喜ばれ宰相である私も勇者の力を信じ、更なる国の発展に心躍らせた。勇者の存在を懐疑的に思う一部の貴族達も表立って批判する事はなくなった。しかし、ある事をきっかけに勇者へのそして王族への不満が貴族の中に広がっていく。
それは旧リースロット領領主グルガン・リースロット伯爵が王の命を狙い国家転覆を企みその為の計画を進めていたとして極刑に処され、更にグルガン・リースロット唯一の子息であるルディ・リースロットもその計画に加担していたとして犯罪奴隷に落とされ大陸西の荒野へ流された事である。
そしてこの計画にいち早く気付き証拠を集め糾弾したのが勇者だった。王への忠誠心が誰よりも高いと思われていた伯爵が王の命を狙うなど信じられなかったが勇者の揃えた証拠は十分に説得力のあるものであり伯爵が国家転覆を企んでいた事は明白だった。
無実を訴える伯爵は訴えを退けられ処刑され、その後、子息は犯罪奴隷とされて荒野に送られるのが決まったのだがその際伯爵夫人とその家臣らはそれらの罪に関係はなかったとされた。
しかし直ぐにそれが覆り夫人や家臣達、領主の館に勤めていた執事やメイド、下人などが全て伯爵の計画に関わっていたとされ全員処刑されてしまった。
これに関しての内情を宰相であるはずの私は詳しく知らない。王から後に説明されたのは夫人や家臣達は雲隠れし伯爵の意思を継いで国家転覆を図る恐れがあったため内密に勇者に領主の館に派遣させ、勇者が到着した際に夫人や家臣達が逃げる所だったためやむ終えず殺してしまったと聞かされた。
この件から王は勇者に対しての信頼が高まり過剰とも言える便宜を図るようになる。これに貴族達が思わない訳が無い。表には出さないか勇者に対しての不満は随分溜まっているようだ。
しかし、問題はそこではなく勇者の行動が問題なのだ。国政への過度な意見をし国の制度を王に変えさせようとしたり新しい農法を試すだかで成功するかわからない大きな事業を国庫を使い行おうとしたり。王も勇者を信頼してすぐに取り掛かるよう命令しそうになったが、私が王をなだめ、結局旧リースロット領を勇者のものとして領内で勇者の好きなように運営してもらい、その試みが成功すれば徐々に王国全体に普及させるという所でなんとか王を説得できた。
そして今、勇者からの書簡が届き私は頭を抱える。
書簡には様々な事業を行うにあたり当初予定していた予算が大幅に足りず王国からの支援を寄越せとのことだった。私は内密に旧リースロット領に密偵を放ち逐一報告を受けていたが勇者が推し進める事業の殆どが失敗している様だった。勇者からの書簡であれば王に報告せざるを得ず、それを聞いた王は勇者に支援をするよう命じるだろう。そんな王を説得しないといけないと思うと私は非常に頭が痛くなるのだった。
そんな折、文官より報告を受けた。王国内西の荒野に面する辺境の地オーリア領のある街が魔物の大群に襲われたという話だった。魔物の数は夥しく辺境の街の分厚い防壁を崩し街の中に侵入し多くの人々を死に追いやったという。それを聞き直ぐにスタンピードを想像したが魔物達は崩れた防壁から街の三分の一程で魔物同士の喰い合いが始まり共倒れ、被害はそれ以上なかったとの事だ。
史実にあるスタンピードであれば街一つ無くなってもおかしくないはず。では違う何かなのか?
「それとカッテ宰相閣下、他にも気になる報告がございまして、生き残った街の多くの者が魔物を操る不気味な男を見たとの目撃情報があるようです」
その男は血の雨を降らせ、魔物を操り、何人もの兵士を殺し街から姿を消したとの事。スタンピードでなければその謎の男が魔物を操り街を襲わせたのではないだろうか。更にオーリア領領主も魔物の大群が現れる前に行方不明になっていたそうで、それもその男が関係しているのではないかとの話だ。
もしその話通りであればオーリア領領主のバスク・オーリアはその男に誘拐或いは殺された可能性は高い。しかしバスク・オーリアは性根は腐っているが強さにおいては王国屈指の猛者だ。その猛者をどうにか出来る実力が魔物を操る男にはある事になる。
厄介だな。しかしそこで一つ思いつく。
魔物の大群に街が襲われた事と、魔物を操り街を襲わせた謎の男の話はすぐに王国内に広がるだろう。勇者にその件を当たらせよう。旧リースロット領から離せば事業の展開は遅くなりその間に王を説得する時間が増えるはず。魔物を操る邪悪な存在を滅する為勇者が立ち上がる。悪くない話ではないか。私は直ぐに王への謁見を求め許可を頂き、旧リースロット領にいる勇者へ親書を送った。




