24話
俺の目の前で絶望と恐怖をばら撒いた魔物による魑魅魍魎の大群が急激に収縮していくが代わりに現れる強い個体。俺は屋根の上から変化し強くなった魔物に対し倒せるギリギリの魔力を込め作った風の刃を飛ばしその首を飛ばしていく。
血の雨を降らせた行程で多少回復できたとはいえ枯渇寸前まで魔力を使うことになってしまった為、俺に残る魔力は少ない。魔力を節約する為出来るだけ強く変態した個体同士が争う場所に魔法を使い殺した。
レベルの概念を知って分かったことはやはりある程度の強さを手に入れた後ではいくら弱い魔物を倒した所でレベルが上がる気配がなく、レベルを上げるには強い魔物を倒す必要があると言う事だった。
もし魔物にも同じ様にそれが当てはまるのであれば変態した個体同士の喰い合いは更に強力な魔物を生み出す可能性があり非常に危険だ。
この魔物同士の争いで起こる淘汰の結果が魔獣という化け物を生むのだろう。
変態した魔物が弱い魔物を喰い殺す分にはそれ以上強くなる可能性は低く、それに魔物の数をどんどん減らして貰えるのは都合がいい。変態した魔物だが今程の強さであれば俺には問題ないが数は多くこれ以上強くなられては厳しい。
気付けば魔物の大群の規模は四分の一程になっていたが俺の魔力も底を尽きそうになり、あちこちで起こる変態した魔物同士の争いを止める事が出来なくなってしまい、中には更に変態し強力になる魔物の姿が見て取れた。
俺は覚悟を決め屋根から飛び降り魔物を踏みつけ街道の真ん中、魔物の群れの中に身を投げた。
減ったとはいえ魔物の数は多い。
一斉に飛びついてくる魔物を斬り伏せた。
斬って斬って斬って斬りまくり、変態した魔物同士の争いの起こる場所へ向かい喰い合いに介入し潰す。
躱しきれなかった魔物の牙や爪が俺の体に少しずつ傷を作るがその痛みを感じる事はなかった。
俺の心には小さく快感と興奮の火が灯り剣を振るい魔物を殺すたびその火は大きくなっていきそして狂気が宿る。絶望と恐怖を感じた魔物の群れを切り崩す快感。変態した個体を殺すたびに感じるレベルの向上による興奮。
こい、もっとこい!
俺は顔に歪んだ笑みを浮かべながら次々と魔物を狂い殺していった。
早朝に街を襲ったスタンピードは日が真上に上がった頃にはその規模を十分の一まで縮めた。300か400かそれ以上か、俺は魔物を殺しまくった。
魔物の赤黒い返り血を大量に浴びた服は重くなりそれを脱いで俺は痩せて骨と皮だけの上半身の裸体を晒す。剣は直ぐに刃こぼれした為、街道に落ちていた魔物に喰われた冒険者の物だろう武器を拾っては魔物にぶつけ、壊れを繰り返し今は大きめの斧を振りかぶり休む事なく魔物にぶつけていた。
身体のあちらこちらから軋む音を聴き力が入りにくくなった手が小刻みに震えているのに気付き肉体の限界を感じるがそれでも心に宿った狂気が俺を突き動かし止まる事なく魔物を殺していった。
一際大きな体のゴブリンが目の前に現れた。
ゴブリンロードと呼ばれるホブゴブリンよりも更に強い魔物が複数俺に向かってくる。俺は先頭のゴブリンロードに勢いを付けて正面から飛びつきその頭上から斧を叩き付け体を両断した。俺は地面につく程身を屈め、迫ってくるゴブリンロードの足を力任せに斧で叩き、骨に食い込むも両断できず斧の柄が刃元から折れたが俺は柄のない斧の刃を素手で持ち更に迫るゴブリンロードの顔にぶつけ、食い込んだ刃の上から拳を見舞い更に刃を食い込ませ絶命に至らせた。
拳は傷つくも傷は浅くレベル上昇により肉体が信じられない程の強度になっていた。
迫りくる複数のゴブリンロードを殴りつけ、蹴り、地面に転がっている石をぶつけ、転がる魔物の死体をぶつけ、武器を拾って殴りつけ、目に入ったものはなんでも利用してがむしゃらに殺していった。
ゴブリンロードを20体以上殺したあとにその後続は無く魔物がこちらに襲ってくる姿は見られない少し離れた所で一匹のゴブリンが魔物の死体を貪っていた。近づき頭を踏み潰し虚ろな目で周囲を見渡した。
生きた魔物の姿はなく、そこにあるのは赤黒い血の川に身を浸す無数の魔物の死体や肉片だけがあり街の一部を不気味に赤黒ぐろく染めていた。
そうか、終わったのか。
体から力が抜けてゆき、節々に痛みと重みを感じた。離れた建物の屋根の上から何人もの人間がこちらに視線を送る。人々は一様に顔に恐怖を浮かべていた。そしてこちらの様子を伺いながらも街の中央からこちらへ近づく数名の兵士の姿を見た所で視界はゆっくりと暗くなり意識を失った。
「おい!貴様!起きろ!」
ガンガンと何かが打ち付けられているような音と何者かの声で目を覚ます。薄暗い部屋は殺風景でどうやら牢屋のようで音のする方には鉄格子を外側から棒で叩く兵士がおり、その横には俺を睨みつけるも何か怯えるようにも感じる視線を向ける兵士がいた。俺は体に鎖が巻き付けられ身動きが取りづらい状態で牢屋の壁を背に座っていた。体に浴びた魔物の血が乾き異臭を放っていた。
兵士と目が合い、俺が目を覚ました事に気づいたのか鉄格子の扉の部分に鍵を差し込み扉を開け二人の兵士は槍を構え牽制しながら俺に近づいた。
「おい、化け物!立て!今から上の部屋で尋問する!」
上の部屋?ここは地下か。...化け物?
「化け物、と言うのはどういう事だ?」
「貴様は魔物の大群を誘導し街を滅ぼそうとした。そんな事が出来る人間が化け物でなくてなんだというんだ!」
「何を言っている?俺は魔物を殺しはしたが呼び寄せてはいないが?」
「しらばくれるな!多くの街の人間が怪しげな魔法を使って血の雨を降らし魔物を操っていたのを目撃している!」
確かに魔物の大群が街に押し寄せ動揺した状態で俺がやった事を見れば疑われる可能性は確かにある。
確かにあるだろうが気にくわない。
何より無実の罪を着させられようとしているこの状態はまさに勇者が俺に、俺達にやった事と同じだ。
許せる筈が無い。
俺はそれ以上話さずゆっくりと立ち上がる。睨みつけて来ていた兵士が一瞬立ち上がった俺を見てビクつくのを見逃さなかった。
なるほど、化け物、か。
俺は足の裏に魔力を込め魔法を発動してみた。二人の兵士の足元から土の槍が勢いよく生えそれぞれ兵士達を同時に貫いた。
やっぱりだ。目覚めた時になんとなく感じていたがレベルの上がった影響か今までより自在に魔法を操れるようになっている。今までは足で魔法を発動など出来なかった。
俺は体に巻かれた鎖に力を込め、それだけで鎖を断ち切る事が出来た。
どうやら化け物に相応しい力を手に入れたみたいだな。
苦笑しながらも地下を抜け階段を上がり上の部屋に一人だけいた兵士の背後を素早くとり素手でその首をへし折り声を上げる隙すら作らせず殺した。兵士達が飲むためのものであろう水が並々に入った大きな甕を軽々持ち上げ頭から水を被り、近くに置いてあった布で体についていた魔物の返り血を拭い取り、殺した兵士の衣服や鎧、剣を剥ぎ取り身につけた。
建物を出ると夜で辺りは暗かった。
門があり、どうやらここは崩れた防壁とは違う方の街の門で捕らえられていたのは兵士の詰所だとわかった。門に近づき見張りの兵士も素早く処理してその死体を詰所の中に放り込み、門をくぐり街の外に出た。
今更化け物が兵士を殺そうとも不思議では無いだろう。街を襲ったスタンピードを一人で抑えた事に感傷など何もなく夜の暗闇に身を溶かしながら俺は街を後にした。




