23話
留まる事なく魔物の大群が街を囲む防壁にぶつかり続け遂には壁は大きく崩れ、俺の目の前に立ちこめる土埃から魔物が飛び出してきた。
俺に向かって飛び付いてきた数匹の魔物を一振りで同時に払うも次々と崩れた壁の瓦礫の山を乗り越え魔物が俺に迫る。
剣を振り回し、蹴り、殴りし目の前に迫る魔物を倒したが魔物の波は次第に大きくなって止めどなく俺を襲う。横からも後ろからも同時に飛びつかれる。
躱しながら斬りつけるが躱した先からも魔物が飛び付いてくる。どんどんどん数が増える。
クソっ!俺はここで死ぬのか!?
半ばやけくそになり剣を振るう。
振るっても振るっても魔物は無限に湧き出てくるようだったが、ふと違和感を感じる。
俺に向かってくる数が少ない。
防壁を潰す程の数があった魔物がこの程度の筈がない。迫り来る魔物を倒しながらも魔物の流れを観察すると街の中央の街道に流れ込む魔物も多いが崩れた瓦礫の上に所々異常に魔物が固まっている。
よくよく見てみると魔物が瓦礫を掘り出し何かを引っ張り出すとそれに向かって周りの魔物が一斉に飛びつくのが見えた。
瓦礫から魔物が掘り出した物。
あれは兵士の腕か。
掘り出してから魔物が一斉に飛びつく僅かな間でほんの少し見えたのは血だらけになりこの街の兵士が身につけていたガントレットが付いた腕だった。
俺に迫る魔物を躱し、殺しながら更に辺りを観察するとどうやら魔物達は瓦礫の下敷きになった兵士達を掘り起こしそこに群がっている様だった。
群がる魔物の数は俺に襲いかかる魔物の数の比ではなく集まった魔物が重なり山のように盛り上がっていた。
目の前に俺がいるのに何でそっちに集まる?
そもそも瓦礫に埋まった兵士の位置をどうやって見つけているんだ...そうか!
俺は迫る魔物を倒しながらも兵士の詰所の建物を見た。入り口に魔物が殺到し入りきれず扉の枠一杯に魔物の体が詰まっていた。
そうか、血か。
目の前の獲物よりも血の匂いのする方を優先しているのか。詰所には怪我をした兵士が運ばれていた。
瓦礫の下敷きになっている兵士達も当然血を流している筈。
そして俺はある事を思いつく。
出来るかどうかわからないがやってみる価値はあるな。
魔物を躱し、殺しながら一番近くで魔物が寄り付いていない建物の壁に近づき地面に魔力を込め地面から迫り上がる土の壁に乗り建物の屋根に登る。
屋根から街を見下ろすと街の中央まで伸びる広い街道に魔物が溢れ次々と逃げ遅れた人々を呑み込んでいたが魔物は街の中央まではまだ達しておらず、崩れた東の門から街の中央までの間の人々を食い尽くそうとしている様だ。
俺は屋根伝いを走りあちらこちらの建物の屋根に逃げていた何人かの絶望感漂う表情を横目に中央北側の市場を目指した。そして俺は他の建物よりは背が低いが平べったく広い建物の屋根にたどり着き建物の入り口の前に降りたった。建物の中には魔物の気配を感じてか酷く暴れる数十頭の馬がいた。俺はその大きな馬小屋の中に入った。
ビンドラに商売に向かう予定だった筈の商人達はゴブリンの発生によりこの街で何人も足止めされており、その商人達の馬車を引くための馬が市場の横に併設された大きな馬小屋に集められていた。
俺は急いで剣で馬達を斬りつけ、全ての馬に傷を負わせた後、再度馬小屋の外から屋根に登り屋根の中央で両手を天にかざし強く魔力を込めた。
グングンと魔力が吸い取られる感覚を感じながらもかざした両手の先の空中に向かい複数の真っ赤な帯の様なものが馬小屋の入り口から伸びて集まり球体を形作る。真っ赤な帯から供給される真っ赤な液体が球体を大きくし俺のかざした両手の先には民家ほどの大きさになった赤い球体が浮かんでいる。魔力を使い馬の血を集め大きな球体を作った。
俺は体のだるさを感じた。
水であれば難しい事ではないがどういう理由からかは分からないが血を集め球体を作るにはかなりの魔力を使った。
両手を上にかざし、血の球体を空中にとどめまま血の球体と共に再度屋根伝いに崩れた防壁に向かった。屋根に登り逃げていた人々全員が俺と俺の両手の先にある大きな赤い球体が通り過ぎるのを唖然としてみていた。俺が街道沿いの建物の屋根を走るのと同時に街道に溢れる魔物達が一斉に俺の走る方角と同じ方向に向かう。
俺を追いかけてきていた。
やはり血の匂いに誘われている。
そして門の近くの建物の屋根に到着すると建物を無数の魔物が囲み重なり俺に向かってくる。俺は血の球体に魔力を送って操り、魔物の大群全てに向かって血の雨を降らせた。大量の魔力を使う事になったが雨の粒が出来るだけ細かくなるように魔力で球体の型をかえ、見える全ての魔物に降り注ぐようにした。
サァーっと血の雨は魔物に降り注ぎ大半の魔物の体が濡れる。そして全てを降らし終わり魔物達を見てみると魔物の同士での喰い合いが始まっていた。街に散らばった魔物達も崩れた防壁の前に集まり喰い合いに参加する。血に惹かれるのが暴走した魔物達にとっての優先事項であるならばその血を魔物に塗り喰い合わせればと思いついたのだがなんとか成功したようだ。
血濡られた魔物達の食い尽合う光景は残酷で悍ましい光景だった。しかし俺は直ぐにその場を離れ次の準備をする為、再度街の中央北側の市場を屋根伝いに魔力切れ寸前の重い体を押して走って向かった。
市場に到着し屋根から降り薬屋に向かい店に入ろうとしたが木製の扉は固く閉ざされていた。
魔物の襲撃を知り店の中で立て籠もっているのだろう。時間の限られた俺は剣を抜き何度か扉を斬りつけ力一杯蹴り飛ばした。扉は崩れ中には初老の店主らしき男とその妻であろう初老の女性が震えてこちらを見た。
「あ、あんた誰だ!?」
声を震わせ怒鳴る男を無視して棚に置いてあった、質の低いそうな魔力回復に効果のある薬をあるだけ手に取り男の前に立った。
「これを全て欲しい。金は...」
懐に手を入れるも金の入った袋がなくなっていることに気づいた。戦いの最中に落としてしまったのだろうがそれに気づかない程俺は焦っていたようだ。しかし今は希望が見えて来た分だけ落ち付いていられた。
「金はない。死にたく無ければ見逃せ」
俺は剣を二人に向け脅し首を立てに降らせてから急いで建物の屋根に登り崩れた防壁の方へ屋根ね上を走りながら薬を全て飲み干した。次第に体の重さが少し取れ魔力の回復を感じたがやはり質の低いものだったようで満足な効果を得られなかった。
急いで壁近くの建物に向かい、到着して屋根から下の魔物の様子を伺った。喰い合いは続いており物凄い早さで魔物達が数を減らしていく。
何とか成功したが、しかしこれからだな。
俺は一匹のゴブリンが目に止まった。
喰い合いの最中、明らかに他の魔物より強さが目立っている。他の魔物を蹴散らし食い尽くそのゴブリンは次第にガリガリのその体が膨らみ全身の筋肉が隆起した。ゴブリンはホブゴブリンへと姿を変え、その変化を間近で見た俺はやはり魔物は他の魔物を食らう事で強くなり型を変えるのだと分かった。
次第に魔物達の一部がどんどん変態してゆき、強い個体が生まれ始めた。




