22話
「バリド様っ!アシェ村が魔物の大群に襲われたとの知らせが入っております!」
早朝の内政会議の場に慌てた様子の騎士が会議室に押し入り告げた。その一報を聞いた私を含めたその場にいた全ての者の顔が青ざめる。皆、魔物の大群と聞いて思い浮かべるのはスタンピード、魔物の大群による暴走で引き起こされる大災害だ。
我がクリード領の歴史の中でスタンピードが起こったことなどこれまで一度もない。ヴェルヘイム大陸内においても200年程前に一度起きて以来だった。アシェ村はここより歩いて半日もかからない距離にある。
次に領都であるこの城郭都市が襲われてもおかしくはない。
騎士によればアシェ村を臨む小高い丘の上からたまたま通りがかった商人が恐ろしい数の魔物に村が飲み込まれるのを目撃したとの事だった。
とにかく情報が必要であるため、急ぎ騎士団団長を呼び魔物の群勢のおおよその数とどんな魔物がいるかを調べるためにアシェ村の近くに派遣するよう伝え、内政会議をそのまま魔物対策の会議に変更した。スタンピードを改めて詳しく知る為に城にあるスタンピードに関する資料を急いで集めさせ調べた。
スタンピードの発生には様々な理由が考えられるが主な原因は短期間での魔物の大量発生によるものだとされていた。魔物は周囲の魔物が急激に増えるとエサの枯渇を恐れ、その飢餓に対しての恐怖が生存本能を刺激しそれを高め、本能の赴くままにエサを喰い漁りそれが次第に伝染して大きな渦となりそれが魔物の大群の暴走を引き起こすのではないかとされていた。
集められた多くの資料を調べつつ会議ではどう対策に当たるかを話し合ったがなかなか妙案が出ない。資料に記された殆どの対策案はスタンピードの規模によるが基本的には無い、というより現状だと不可能なものばかりで、スタンピードがいつ起こってもいいように年単位で時間を掛け罠や防壁を作って備えておく事が前提の対策ばかりだった。
400年前以前はスタンピードは数年に一度の頻度で起こっていた様で殆どの街がその備えを行い対策が常に考えられていたらしい。しかし今から約400年前に隣の大陸アルムヘイムに現れた勇者なる人物が奴隷達を解放しその働き口として魔物を狩るのを生業とした冒険者という職業を作りアルムヘイム大陸全土に急速に広まりそのままこちらの大陸まで広がった。冒険者達が魔物を狩る事で魔物の繁殖を抑える事になり、数年に一度から数十年に一度、いまでは数百年に一度の頻度までに減退していった。減退するにつれ維持するのに財政への負担が大きいスタンピードへの備えはされなくなり、特に元々魔物の発生自体が少なかった我がクリード領は早い段階で備えを放棄した。
クリード領ではスタンピードは起こらないと思われていた。
会議では防衛戦と位置づけ領都で様子を見つつこちらを襲ってくるのであれば迎え撃つしか無いと言う意見が多く出た。確かにここからアシェ村までの距離は近いが周囲のエサを喰い尽くせば直ぐに魔物同士の喰い合いがはじまりスタンピードは発生源からあまり広がらないと言われているためこの領都まで襲ってこないかもしれない。
しかしこちらに来なかったとしても問題がある。
魔物同士の食い合いが始まれば強力な魔物が生まれると聞く。元々アシェ村は数年前、豊富な鉱脈の発見によりその発掘の拠点として作った新しい村であり産業の少ない我が領にとって今後非常に重要な場所となると考えていた。
鉱脈からは質が良い鉱石が大量に採れると予想されており、その為に多くの技術者と労働力となる奴隷をすでに他領からかなりの費用を使い呼び領都に寄せていた。このままアシェ村の周辺に強力な魔物が蔓延るようになれば鉱脈の採掘が出来ず領都の財政はいずれ破綻する。私は戦ざるを得ない状況にあった。
早朝に始まった会議も何も決まらず日の沈み掛けていた頃、アシェ村近辺に派遣した騎士が戻り状況を聞いた。騎士は最初に魔物の大群を目撃した商人と同じアシェ村を見渡せる小高い丘から様子を伺った様だが数はおよそ800体程でアシェ村を中心に集まっており、遠くからではあったが複数の魔物が入り乱れている様であったとの事だった。800という数は想定してた数よりも少なかった。
これは、勝機があるのでは?
私は会議に集まる者たちに魔物を討伐する方針を伝えたが反発を受けるが強引に意見を押し通し馬と家畜と兵と冒険者を集められるだけ集め自ら指揮をとりアシェ村に向かった。村から離れた場所に到着し魔物同士の喰い合いは激しく強い個体も出始めていた。資料の中にあった暴走した魔物は血の匂いに惹かれるという特徴を信じ馬に家畜の血を塗りたくり肉を背負わせ村の近くから四方八方に走らせいくつかの中隊に分けた兵士と冒険者の混合部隊に群れを離れた魔物をゆっくりと確実に殺していくよう指示し3日を掛け目立った魔物は全て駆逐できた。
そしてその後、私は英雄と言われる様になった。




