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誰が為の力?  作者: 渋谷 啓介
21/30

21話

魔物の大群が街に迫っている事を聞かされ動揺する兵士達を尻目に俺は、この危機から逃れる方法を必死に考えた。

考えれば考える程、今の状況が絶望的でありどういった手段を取ろうとも魔物の大群に飲み込まれる自分の姿しか思い浮かばない。


どうする?どうすればいい?


必死に模索するがどの考えも現実的ではなかった。

俺は狼狽ていた。


「来た...来たぞー!」


気が付けば動揺していた兵士達は門を閉める者、気絶した兵士を詰所へ運ぶ者、街を囲む防壁に登り門の真上辺りで魔物を確認する者に分かれていたがその防壁に登った兵士が門を閉め終えた兵士に叫んだ。

その叫びを聞いた俺は門の横にある防壁の階段を急いで駆け上がり防壁の上から魔物の大群を見た。


草原や森が広がる光景の先に影が見えた。

影はかなりの距離の地平線を作り時間が経つにつれ遠くから聞こえる地響きが次第に大きくなり、影の線はこちら側に広がってきてゆっくりとしかし確実に草原や森を塗り替えていく。夥しい数の魔物達は俺の予想を遥かに超える数だった。


正確な数が分かるはずが無い。

これ程の大軍を見た事がないのだから。


俺は魔物の大群の迫る光景を見て横で顔を青くしわなわなと震える兵士の肩を叩いた。


「おい!この街に兵士は何人いる?」

「な、なんだお前は。いつの間にここに居た?」

「そんな事はどうだっていい!何人だ!?」

「じゅ、11人だ。」


震える口を動かし兵士は答えた。

聞いた所でどうにかなる訳ではない事は分かっていてもそこからこの状況を脱する何かを掴めるかもしれないと思ったがやはり何の意味も俺にもたらす事のない返答だった。


「だ、大丈夫だ。この街を囲む壁は厚い。街に閉じこもっていればあれをやり過ごせる。そうだ、助かる...やり過ごせる筈だ!」


顔を青くした兵士は自分に言い聞かせるようにも、俺からその通りだと同意を得て安心したいようにも感じられるように言った。


「おい!魔物の様子はどうなっている!?」


門を閉め終えた兵士が階段を駆け上がり俺を見て不審がるような顔をしたが迫る魔物の大群に気付き驚愕した。


「なっ!なんだよあれは!」

「だ、大丈夫だ!この街の壁は突破できない、やり過ごせる筈だ!」

「あ、ああ。そうだな...そうだ!この街の壁を超えられ訳がない。大丈夫だ!」


二人の兵士の会話を聞いて、無理だ、助からないと俺は言いかけたが言葉を飲み込み口を紡いだ。伝えた所でどうにかなることも出来ることもない筈だ。


「今、急いで反対側の門を閉めるように伝えに行ってもらっている。それから隊長からは街中から魔除けの香を集めて防壁の上から焚いて魔物を逸らせと命令されてるからお前も手伝え」

「あ、ああ。分かった」


二人の兵士は階段を降り街道を走っていった。

防壁の上から街を見下ろすと、早朝で疎らではあるが街道には兵士達の様子を不審に思った様子の者達の姿が見て取れた。


俺はそのまま魔物の大群が街に近づいてくる様子をただ見ていた。

逃げる事も戦う事も絶望的な状況の中、可能性は低いと分かりつつも先程の兵士達が語った街の防壁でなんとか凌げるかもしれないという一途の望みに賭けるしかないと思った。


壁は辺境の街ゆえに厚く頑丈に作られている。

そもそも迫り来る魔物の大群が史実にあるスタンピードと同じものであるかすら分からないし、全く違った現象であるかもしれない。

史実には魔物除けの香は意味をなさないとあったがそれは事実でなく、兵士達の話の中にでた、壁の上から魔物除けの香を焚くことによって魔物が街を避けるかもしれない。


いつしか俺は自分が生き残る可能性を根拠も何もない防壁や魔物除けの香の効果をそして不可能だと思われた荒野から脱出できた自分の運を肯定する事によって虚像で作り上げた希望にすがった。





無数の魔物の地を駆ける轟音と地響きが街に響き街の中の者達が騒ぎ出す。防壁から街の外に広がる光景は壮絶で見渡す殆どの地を魔物が埋め、街まで後一歩の所まで魔物が隙間なくひしめき合い街に迫っていた。

殆どがゴブリンであったが中には他の魔物も混じっているのが見て取れた。


大丈夫だ、俺は絶対に生き残れる。


俺は魔物の群れを見つめながら祈るように自分は助かると繰り返した。


そして魔物の群れは速度を落とすことなく一直線に防壁の外側にぶつかった。

防壁が大きく揺れ、俺は足元をふらつかせた。

魔物除けの香を集め終えた数人の兵士達は防壁の上を目指し階段を登る途中でその大きな揺れに足元を掬われ階段から転げ落ちた。大きな揺れはすぐに収まるものの壁に伝わる衝撃は止まることなく継続され、俺が大きな揺れで崩した体勢を戻し防壁の外側を覗くと壁にぶつかり潰れた魔物の後ろから次々と後続の魔物達が壁にぶつかっていた。


後ろからぶつかる魔物と壁に挟まれ圧死した魔物の死体がどんどん積み上がり 死体の山は壁沿いにせり上がっていった。悲鳴が聞こえ振り返り街の中を見下ろすと街の中に魔物が入り込んでいた。最初の衝撃で門が突破されたようでそこから街の中に留まることなく魔物が溢れ出していた。冒険者らしき何名かが迎え撃つも抵抗虚しく魔物に飲まれていき逃げ惑う人々と共に食いつかれる姿があった。


その悲惨な光景に目を奪われた一瞬、俺の足元に亀裂が入る。


不味い!


急ぎその場を離れようと足に力を込めたが込めた力は地に伝わらず浮遊感を感じ足元が崩れ、宙に投げ出され、防壁が崩壊する様を見ながら落下する。このまま落ちれば瓦礫の下敷きになると判断し、一緒に落下する大きな壁の瓦礫を踏み台にして飛び、崩落地点より離れて着地し瓦礫の下敷きになるのを回避したが、崩落地点に立ち込める土埃から無数の魔物達が俺の目の前に姿を現した。







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