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誰が為の力?  作者: 渋谷 啓介
19/30

19話

敵は8人。出来れば様子を見ながら少しずつ数を減らしていきたいところだがこの辺りはかなりの数のゴブリンが蔓延っているようだ。


身を隠しながら機会を待っている間に俺がゴブリンに背後を取られる可能性は高い。

ならば先手必勝で行くしかない。


その時、俺と逆の方角から騎士達に向かって数匹のゴブリンが茂みより飛び出し襲いかかり、騎士達の気がそちらに向いた。


今だ。気づかれるのを覚悟で身を隠していた木の影から飛び出し素早く駆ける。ゴブリンを相手にしていた者以外が俺に気付きこちらに剣を向けるも俺の魔法の射程距離に入っていた。


駆ける勢いそのままに体を無理矢理屈め魔力を込め地面に触れ、直ぐさま体を起こしつつ風の刃を放ち、先に飛び出す風の刃を追うように騎士達に近づいた。


手前にいた4人の騎士達の足元から突き上げた土の槍は騎士達を串刺しにし、風の刃が二人の騎士に襲いかかるが一人の首が飛ぶも一人は避けた。魔法を使える者のようで魔力を感じ避けたようだが距離を詰めていた俺はその騎士の首を剣で突き殺し、残る騎士の一人が俺に剣を振り下ろし、その刃が俺の顔を掠るも、剣筋を躱しざまに横に剣を振り首を落とし、全ての騎士を殺した。


後は辺境の領主バスク・オーリアのみ。


バスク・オーリアは剣を抜いて抜いてはいたが構える事をせず、にやけ顔でこちらを観察するように見ていた。自分に仕える騎士達が殺された事への動揺はその姿から一切感じられない。


「ほう。なかなかやるようだな貴様。」


顔はにやけているがその大きな体から溢れる威圧感と殺気が篭った言葉に俺は気を引き締める。


最初に魔法で急襲したとき、バスク・オーリアを或いは殺せたかもしれないが俺はそれをやらなかった。試したい事があるためだ。


バスク・オーリアはバルリング王国内において武力だけであれば五本の指に入る強さだと聞いたことがあった。もちろんそれはあくまで貴族達の中だけでの噂であり、このアルフヘイム大陸では数百年戦争がなく力を示す場が少ないため実際どれほどの強さなのかは他の者と比べる事は出来ないがこの男がかなりの強者である事は間違いないはずだ。


俺はこの男と一戦を交える事で今の自分の強さを確認したかった。

勇者がどれほどの力を持っているか俺は知らない。

しかし1000前に召喚された女勇者の力が事実であれば、それに近い力をあの男が持ち合わせていても不思議ではなく、それが本当であれば恐らく今の俺では刃が立たない。しかし、レベルの概念を捉え成長した俺がどの程度の力を付けたか確認しておきたかった。

その相手としてバスク・オーリアは最良の相手だと思えた。


「冒険者の様にも見えるが、魔法を使える者は少ない。貴様、何者だ?」

「...ケマ村の無念を晴らす者だ」

「ケマ村の無念?と、言うことはマイクスは無事任務を果たしという事か。しかし、何故お前はそれを知って生きている?」

「マイクスは俺が殺した」


バスク・オーリアはにやつくのをやめ顔を顰めた。


「やはりあの男は役に立たないクズであったか。こいつらといい、役に立たない者ばかりだ。極めて不愉快!」


バスク・オーリアは足元に転がる騎士の頭を蹴りつけ怒りを露わにした。


「ふん。まあいい。貴様一人でここにいるところを見ると貴様以外は村の事を知らないであろうが、他に知る者がいれば厄介だ。貴様を痛めつけ吐いてもらうとしよう」


バスク・オーリアはゆっくりと剣を構えその剣先を俺に向け、一層威圧感がまし、顔にはまたいやらしい笑みを浮かべた。長い足を一歩、強く踏み出し俺との距離を一気に縮め袈裟斬りを見舞ってきた。

その鋭く重い一撃を俺は剣で受けた。


そして俺は悟った。


たった一回の、相手の剣筋を己の剣で受けただけの、たったそれだけの事で相手と俺の力の差が余りにも開いていることを悟った。


圧倒的に俺の方が、強い。


剣と剣をせめぎ合わせお互いが動かない。バスク・オーリアはそれを嫌ったのか、せめぎ合う自分の剣に力を込め俺の剣を押しその反動で後ろへ少し飛び俺との間合いを取った。


「なるほど、大した腕を持って---」


俺は瞬時に間合いを詰め剣を横に払い、バスクの持つ剣を真っ二つに折った。俺の早さについてこれなかった様だ。身構えることも目でも追うことも出来なかった俺の鋭い一振りで自分の剣が折られた事に驚いたのだろう、にやついた表情を引っ込め目を見開いて固まった。


俺は自分の予想以上の強さの成長に喜び、そしてこれから目の前の男を甚振り苦痛を与えられる事を想像し顔に歪んだ笑みを浮かべた。


一瞬の動揺の後はっとしたバスク・オーリアは後退って距離をとり俺に片手を向けた。


「ファイヤーボー---ぎゃあ!」


魔法を放とうと詠唱しようとしたようだが、俺は詠唱が終わる前に俺に向けた腕を切り飛ばした。

バスク・オーリアは痛みによるためかその場に蹲ずくまるも直ぐに蹲った体を地面に転がし騎士の死体に近づき死体の手に握ってあった剣を取ろうとし、残る片方の手を伸ばすが俺はその伸ばされた手に上から剣を突き立て更に手を貫通した剣は地に深く刺さりその手を地面に釘付けにした。


深傷をおい痛みに呻くバスクに追い討ちをかけるように身に纏ったその高価な鎧の上から肋を目掛け力を込めて蹴り上げ、鎧の凹む激しい音と同時に蹴り上げた俺の足の甲には肋の骨が折れる感触が伝わった。

更にその衝撃に体は勢いよく飛ばされ、打ち付けられていた手はその勢いで刺さった剣に裂かれ血をばらまく。わめき散らし虫の様に蠢くその姿には先程までの強者の風格はなく、地を這い苦痛に喚くその男の姿に俺は言い様のない快楽を感じた。


ああ、満たされていく様だ。


もがき苦しむ男の髪を掴み顔を上げさせ、俺はその顔を覗き込んだ。苦痛に歪みきったその表情は更に俺を満たす。


「バスク・オーリア。お前は何故ここにいた。答えろ」

「き、貴様、こ、殺せっ」

「殺しはしない。今からお前の残った腕と両足と舌と耳とをゆっくり切り落としその度に回復魔法をかけ生かしてやる。切り落とした物は二度と元に戻らぬよう魔物の餌にしてな。無残に生きろ」

「や、やめろ!い、いや、やめて下さい!」

「なら答えろ。何故ここに居た?」

「わ、私はゴブリンの巣を根絶やしにする為の指揮をとるためにここにきた。」

「それは本来領主がやるべき事ではないだろう?」「領主が直接赴くことで威厳を示すためという建前で本当の目的はケト村の処分が終わった後に合わせゴブリン討伐の帰還の途中であの村に立ち寄り、マイクスに罪を着せ、あの男の口を封じるため。領主の私の判断であればその場で問答無用に処分できるから」

「それにしてはタイミングよくゴブリンが大量発生したのだな。まさか...」

「ああ、ゴブリンの繁殖を促すため何人もの奴隷を密かにゴブリンに与えるよう指示した。幸い都合よくワイバーン襲撃があって奴隷を荒野に送る事が出来なかったから部下に命令させる口実に出来た」


この男はどこまでも腐っているな。


「そうか大体の事情は分かった」

「な、なら私を殺してくれ」


俺はバスク・オーリアの両足を風の刃で両断した。


「ぎゃあぁぁ!」


痛みに上げる叫び声を聞きながら切り落とした足の傷口に回復魔法をかけ止血した。


「な、何をしている?」

「約束通り殺してやる。だがお前を殺すのは俺じゃない」


血の匂いに連られたのか、茂みのあちらこちらからゴブリン達が顔を出す。


「なっ!?」

「苦しみながら、死ね」


俺はゴブリン達に囲まれる前にその場を後にした。

バスク・オーリアのものであろう断末魔が遠くから聞こえていたがそれはすぐに消えた。






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