18話
村を出た俺は夜の暗闇の中を東に馬を走らせた。この先馬を全力で走らせれば1日ほどでサクマと言う小さな街にたどり着けるがここでも長居は出来ないだろう。マイクスが言った事が本当であれば村人は全て殺され、商人もマイクスも死体となり何が起こったのか知るものは俺以外いない。そうなれば自然とギルドを通して商人の護衛の任務をマイクスと一緒に受けた俺の姿がそこになければ俺を疑うのは当然の事だろう。マイクスは死んだ。俺が殺した。だが怒りは治らず、逆に更に燃え上がる。大きくなり過ぎた怒りは勇者に向けてだけではなく、村での出来事のきっかけとなった、辺境の領主に対してもその有り余る怒りの矛先を向けた。貴族たる者、特に領主となる者はその領民を想う事こそ正しい在り方であると父上は常々言っていた。しかし辺境の領主は自分の過ちを関係のない人々の命を持って解決に至らせた。許される筈がない。理不尽に散っていった村人達の無念は俺が晴らす。俺の中で新たな決意が生まれる中、次第に夜は老けていった。
村を出る前に俺を襲って来た商人とマイクスの体や部屋を探ったがいくつかの金は持っていたが魔除けの香はどこにもなかった。ビンドラからケマ村までの片道分しか持って来なかったのか?なぜ?村人を殺した後街に戻るつもりはなかったのか?疑問を抱くがそれ以上考えず村を後にしたのだが次の街サクマまでの道のりでは魔除けの香はなく魔物と何度か戦う事となった。何故か街に近づくにつれ出てきた魔物はゴブリンばかりでしかも数が多い。馬を走らせ巻こうとしたが走りっぱなしだった事による疲れのせいか早さが出ないところに道の茂みから一斉に5匹のゴブリンが馬に飛びつき馬体にしがみつき噛み付く。堪らず馬は倒れるが俺は馬の転倒に巻き込まれる寸前に飛び出し、地面に着地した後剣を抜き馬が倒れた勢いで飛ばされたゴブリン達に素早く距離を詰め全て一撃で倒す。息をつく暇もなく新たにゴブリンが複数現れ、中にはホブゴブリンも混じっていたが次々と現れるゴブリン達を魔法と剣を使い全て狩っていった。現れるゴブリン達を狩り尽くし、気付けば50匹以上の死体が転がっていた。不味いなこれは。他の魔物が寄り付く前に立ち去ろう。馬に近づくが息はしているものの、転倒した弾みによるものか足が折れていて立ち上がれないようだった。どうする事も出来ないが苦しみながら魔物に食われるよりはと思い、すまないと謝りながら苦しまぬよう剣の一閃で首を落とした。それにしてもゴブリンばかりで、この数は異常だ。確かにゴブリンは魔物の中でも繁殖力が高いと聞くが...。その時、道沿いの茂みの先の森から何やら争うような音と人の声がかすかに聞こえた。どうするか迷ったが魔物に襲われているのであれば助けようと思い、音を立てないよう気をつけながらも急ぎ声のする方へ走った。
近づくにつれ露わになる声の主のその姿を一目見て警戒し木の陰に隠れ様子を伺った。声の主は人だったが複数いた。纏う装備から騎士だと思える者たちが7人。自分達に近寄る多くのゴブリン達を剣で切りつけている。そして一際目立つ高価な鎧に身を纏い騎士達に指示を出している男が一人。かなり背が高い。その男の立ち姿は何か見覚えのあるような気がして、目に魔力を込め遠視し顔を確認する。間違いない。辺境の領主、バスク・オーリアだ。
バスク・オーリア男爵はこの辺境の地オーリア領を治める領主だ。元々王都の子爵家の長男であり、かなりの武闘派で体格にも恵まれ腕も立つがその激しい気性により素行が悪く爵位を継げなかった。持て余したその力を振るわせるためとの理由で婿養子として辺境を治めるオーリア領主の男爵家に入らされたが厄介払いされたのは明らかだった。そして前領主の死後男爵位を継ぎ辺境の地を治めていた。オーリア領は辺境であるが領主の爵位は低い。バルリング王国北のバグリアス領も同じ辺境の地ではあるがその広大な森を領地とし、また森から得られる恵が産業となっているために荒野に広く面しただけのオーリア領とは比べるまでも無く価値があり、バグリアス領領主は辺境伯の爵位を賜っている。バルリング王国にとってオーリア領は価値の無い不毛な領地扱いされているため治める領主にも爵位の低いものとなっている。俺は昔、王都の舞踏会でバスク・オーリアと面識を持ったことがある。威圧感のある体格と相手を見下すような態度は非常に印象深かった。遠視により確認した顔には俺が記憶しているものより少し老いが見れて取れたが騎士らに高圧的な態度で指示する姿はまさに昔見たあの男に間違いないと納得させた。これは、絶好の機会だ。バスク・オーリアを殺し村人の無念を、俺の怒りを晴らす好機だ。勇者を殺した後に奴を殺そうと思っていたが、まさかこんなにも早く機会に恵まれるとは思わなかった。しかし何故こんな所にあの男がいるのだろうか。ビンドラにいるとばかり思っていたが。出来過ぎていると言えばそうだが、荒野を抜け出せた事に続く運の良さが出たのか 或いは死神からの慈悲か。何でもいい、奴を殺せるのなら。




