15話
ギルドの食堂でテーブルに着き一杯の酒を頼んだ。抑えようとしても湧き上がる怒り、憎悪を飲み込む様に温く味の薄い安物の酒を飲んだ。
夢に現れた奴が言っていたリースロット領を我が物にするかのような戯言が現実となっていた。
俺は想像する。
下卑た笑みを浮かべその手で弄る先にある裸の女性の姿。美しい顔を苦痛に歪ませ瞳から涙を零すマルティナの姿を。
ばきっ!
音が響き周りからの視線を集める。
酒の入っていた木の杯を握りつぶしていた。
落ち着け落ち着け落ち着け。
そうと決まった訳じゃない。
焦っては駄目だ。
だが現実だったらどうする?
指を加えて待っていられるわけがないっ!
抑えきれない気持ちが俺を突き動し席を立とうとしたその時、声がかかる。
「よう。にぃちゃん。怖い顔してどうしたよ?」
冒険者だろう。鍛えられ盛り上がった筋肉が目立つその男は強面の顔にカラッとした満面の笑みを浮かべていた。人の良さそうな、そして何か懐かしいようなその突然の笑顔に気持ちが収まっていくのが分かる。
「にいちゃん、がりがりだなぁ。ちゃんと飯食ってるか?よし、俺が奢ってやるから食え食え。おーい、ねーちゃん!注文!」
店員を呼びその男は自分の分と俺の分の食事を注文した。
「俺はマイクスっていうんだがにぃちゃんは?」
「俺はル...ディオスです」
「そうか、ディオスか。よろしくな!」
それから俺達は簡単な自己紹介を済ませ、料理が運ばれてきた。
そういえばまともな食事は久しぶりだな。
うん、うまい...。
気付けば気持ちは収まり、無心に料理を口にしていた。
「お、おい、どうした?泣くほど美味いかそれ?」
マイクスの言葉で初めて俺は涙を流している事に気付いた。確かに久しぶりのまともな食事は身体に染みるようだった。
だがそれよりも、マイクスの憎めない笑顔や雰囲気が俺に安心感を与え懐かしくそして嬉しくもあり心を癒されていくのを感じ感極まっていたのだと思う。
マイクスのそれは節々に家臣であったディオスを思い出させた。
「それでな、一つ相談があるんだけどよ」
食事を終えた後、マイクスからは商人の護衛の仕事を一緒にやらないかと持ちかけられた。つい先日いい稼ぎになると思いこの街に来たマイクスは、魔物討伐を中心に仕事を受けていたそうだが魔物の強さに苦労しここで仕事をするのは難しいと悟ったようだ。いつ旅だとうか迷っていた時その依頼を見つけたそうだ。
商人の護衛は報酬も良く更に護衛中の食事等は商人の方が賄ってくれるとあり都合がいいと考えたが依頼には2人以上でないと受けられない制限があった為一緒に受けてくれる冒険者を探していたそうで
「ここの冒険者は魔物が強いってのもあって、複数で組んでる奴らがほとんどでよ。あんまり人数が多くなると逆に報酬の問題で依頼を断わられる事もあるから一人の奴を探してたんだよ。そしたら丁度にぃちゃんを見つけてな。一人でいるみたいだしそれに、あんまり強そうじゃないからここでやっていくのは難しそうに見えたんで説得しやすいと思って声かけたんだよ」
詳しく聞けば商人の行き先はこの街から東に進み村一つ挟んでその先の街まで行くとの事だった。俺にも都合の良い条件だったため、出発は明日の朝ということだったがその申し入れを受ける事にした。
「おぉ!本当か!そりゃ、ありがてぇ。俺はこう見えてもCランクだからな。魔物は安心して任せてくれや!」
その後簡単な打ち合わせをして明日の朝ギルドの前に集合する事に決まりマイクスは受付を済ませ立ち去って行った。今日中に街を出るつもりだったが問題ないだろう。この後宿を探さないといけないな。それにしても護衛の仕事か。俺は何か感慨深い物があると感じた。
俺の剣の師でもある家臣のディオスは元冒険者だった。大柄で白髪混じりの中年だったが身体はかなり鍛えておりリースロット領内でも一二を争う剣の使い手だった。
豪胆な性格で人当たりも良くいつも大きな声で笑う男で周りからの人望は厚かった。
そんなディオスが、よく冒険者だった頃の話を幼い俺にしてくれていたのだがその中でもリースロット家に仕えるようになった経緯を良く話してくれた。
ディオスは貧しい村人の子として生まれたが貧しさを苦にし子供の頃に村を飛び出したらしい。街にでたディオスは初め小間使いのような仕事をしていたが性に合わず大柄な体格を生かして冒険者となった。
それから色々とあり、その色々あった武勇伝も聞かせて貰ったが、ある日商人の護衛の依頼についた。複数の冒険者と共に護衛に出たのだが途中に盗賊から襲われディオス以外の冒険者は殺されてしまったが残ったディオス一人でこれを撃退。しかも護衛の商人をほったらかして盗賊を追いかけ回しアジトを見つけ一人で突っ込んで行って勇猛果敢に戦い、遂には一人で盗賊団を壊滅させた。
その盗賊団はリースロット領で多くの被害をもたらしていたようで父上も頭を抱えていたそうだ。
そんなディオスの活躍が認められ父上はディオスをリースロット家の騎士に召し上げた。
「坊ちゃん。父上である領主様をしっかりと見本にしなされ。私は盗賊を根絶やしにしたとはいえ本来ならば騎士などなれない村人の子です。それを領主様は血筋に拘らず実力と成果のみで騎士として仕える事をお許しになられた。領主様の様な器の大きな男になって下され。がははっ!」
そうやって俺に笑って話してくれていた家臣にマイカスは何処と無く似ていた。




