10話
時折吹く風が森の木々を揺らす音が聞こえるのみで荒野は変わらず静かだが真上に上がった日の光は強く、肌をじりじりと焼く。
静寂を破る様に、かすかに、そして次第に大きくなる地を規則正しく叩く音が遠くから聞こえた。ワイバーンの襲撃から1ヶ月を過ぎた頃、どうやらようやく荒野から一番近い街ビンドラから調査の為の兵がやって来たらしい。
俺は砦の二階に上がり裏手側の部屋の窓から森の中を通る唯一の道の先を見た。
目に魔力を込め遠視する。
7人か、思っていたより多いな。
七頭の馬とそれに乗った7人の兵士が馬上で身体を上下する度に兵士が纏う鎧が断続的に日の光を反射して明滅している。
あの早さだと後10分程でこちらに到着しそうだな。
俺は荒野の兵士の死体から剥ぎ取って準備していた安物の鎧と兜を被り砦を出て砦の門から少し距離がある荒野の一角の何十体もの肉が朽ち果て骨が剥き出しの死体や完全には腐り切ってない死体が固まっている場所に、それらの中に混ざるようにうつ伏せになり兜をずらして表情を隠し静止しつつも様子を伺った。
魔力を込めた片方の耳を地面に付け地面から伝わる音を聞き様子を伺った。
目や耳など身体の一部に魔力を込めその部分の感覚を高める魔法は魔物を数多く葬った影響で魔力の操作性が高くなり実現する事が出来た俺のオリジナルだ。
しばらくして馬の蹄の音が大きくなりどうやら砦にたどり着いたようだ。
馬の歩く音、馬から降り地に足をつける音、歩く音。数は目視した時に確認した時と変わらず7。内3人は砦の中へ入り、残り4人は荒野へ、こちらへ向かってくる足音が聞こえる。一度立ち止まり、暫くしてまたこちらへ歩き出すが立ち止まる前の進みと違いゆっくりと探るように歩く足音が聞こえる。
気付いたな。
次第に4人は寝そべる俺から距離を保ったまま四方を囲むよう位置し4人同時にゆっくりと俺との距離を縮める。
俺の周りには朽ちた死体ばかりだ。
その中に俺という綺麗な死体がある事に警戒しない訳がない。
先程馬上にあった彼らの姿を目視した時に目に付いた光を綺麗に反射する彼らの鎧はどれも丁寧に磨かれた質の高いもので普通の兵士が纏う事のできない高価な物だ。
7人の構成はこの国の騎士団の小隊の基本。騎士は一騎打ちを美徳とするが小隊で動く際は1人の敵に3人ないしは4人で囲み確実に安全に殺すのが基本だと教えられる。
そして騎士団に所属する物の殆どが貴族出身者で彼らは幼い頃より騎士としての規律を重んじ基本を忠実に行動する様に教わる。
思った通りの行動だな。
じりじりと同じ速度で距離を詰める4人の騎士がある程度近づいた事を耳で確認し、俺は指一本で地面をトンと叩く。
騎士4人のそれぞれ足元から一斉に鋭く尖った太い土の槍が生え、物凄い速さで騎士らに襲いかかり、4人の身体を下から上まで同時に突き刺し、串刺しにした。
俺は、ずらして表情を隠していた兜の位置を正しい位置に戻しつつ腰の剣を抜きながら素早く立ち上がり構え、4人の即死を確認し息をついた。
詠唱無しの魔法発動が可能になった事も、この固い鎧をあっさり貫いた魔法の威力もレベルが上がったおかげだ。
魔法の威力が通用するか不安だったが、良かった。彼らの纏う鎧はミスリル製の物だと思うがミスリル製の防具は魔法の抵抗力が比較的高い。
以前の俺の魔法なら一撃必殺はあり得なかっただろうな。
俺は串刺しになった騎士から上等な剣と鞘を剥ぎ取り、兜を脱ぎ捨て静かに足早に砦に近づいた。
魔力を込めた耳を地面に付け様子を伺うも気配は感じられず、どうやら残りの3人は砦の二階にいるようだ。砦に忍び込み二階に上がると部屋の奥から3人の話声が聞こえた。
躊躇せず部屋に踏み込むと同時に、立っていた3人の中で俺から一番遠い騎士に魔法で風の刃を飛ばし首を刎ね、魔法を使うには距離が近すぎる手前の騎士の首を剣で貫き素早く抜き、こちらに斬りかかろうとし剣を振り上げた騎士の腕を刎ね、鎧の上から打ち付けるも剣が真っ二つに折れたが打ち付けた衝撃で後ろに飛ばされて尻餅をついた最後の騎士に素早く近づき折れた剣の刃元を力尽くで首に深く差し込み息の根を断った。
俺はいつの間にやら顔に付いた返り血に気付き腕でそれを拭い、深く息を吐いた。
なんとかなったな。
元々の計画では砦に潜み時間を掛けて一人づつタイミングを見計らい襲い、最悪の場合馬だけ盗んで逃げる積りだったが急遽思い付いた方法で先に同時に4人排除出来たのが大きかった。運が良かった。
しばらく身体を休めた後、二階の死体を3つ同時に持ち上げる事の出来た自分の腕力に驚きつつも一階に運び、その後荒野にある4人の騎士の死体を砦まで運び一頭の馬を残し、残りの6頭の馬に括り付け森に放した。
これで、騎士の死体は馬ごと森の魔物が処分してくれるだろう。
それにしてもここは一体何なんだ?
荒野の死体の所まで馬を動かそうとしても嫌がってあまり荒野に入りたがらなかったみたいだった。
まあ、いいか。
馬も手に入ったし、ようやくここから抜け出せる。明日の日の出前に出発しよう。




