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橋の下の少女  作者: Mch.9
6/15

再開

 夜中の汚い川辺の橋から我が家までを生垣とともに歩いている。

二人の間に会話はない。

もともと彼女とは会話の多い方ではなかったが、無視し続けた2ヶ月もあったせいか何を喋っていいかわからなくなってしまっていた。


 そんな二人に再び会話が訪れたのは私の家、丈夫そうな壁が目印のアパートの一室に着いたときだった。

 

「この部屋に来るのも何か久しぶりだね。」

 

 彼女の言葉に答えることもなく扉を開ける。

「入って。」

「うん。」

 

 2ヶ月経った私の部屋に彼女との思い出になるようなものはない。

彼女と会わなくなったあとに部屋の模様替えを行ったこともあったのだが、それ以上に大きかったのは彼女との共通の趣味であった動物虐待を行わなくなっていたことだろう。

 

「何か雰囲気変わったね。」

「模様替えしたからね。」

 端的に答える。

もっと言葉を続ければ話も盛り上がるのだろうがなぜか言葉が続かなかった。

 

 久しぶりに会ったせいか雰囲気がいつもと違っていた。

それはこの女の方もそうであろう。

普段なら私の家に来る際には持ち込んでくる小動物を入れるようなケージを持ち込んでいなかったせいもあるだろう。

彼女の今日の持ち物は普段持ってくる医療器具が入った鞄だけだった。

 

「お茶でも入れようか?」

 彼女は軽くうなずく。

ここまでの雰囲気で何かを察したのか口数を減らす。

その様に話を切り出す覚悟を決めながら紅茶とお茶菓子をテーブルまで運ぶ。

紅茶を自分の前と彼女の前、クッキーをテーブルの中央においてから喋りだす。

 

「あのさ、今日で会うの最後にしないか。」

 その言葉が来るのがわかっていたかのように彼女は動揺もなく紅茶を飲みだす。

そして半分ほど飲んだあとにティーカップを置き、喋りだす。

 

「私のやってることに飽きちゃった?」

 こう聞かれたのは以外に思った。

会う気がなくなったことは態度から分かっていたことだとしても、その理由まで理解しかけていたことは何か以前会った時の私の態度に何か思うことが会ったのかもしれない。

 

「少なくとも最近はやってない。」

「そう。」


 会話が続かない。

共通の話題がなくなってしまったからだろうか。

それともお互い何を話せばいいのかわからなくなってしまったのだろうか。

お互いの上にのしかかった重い空気が身動き一つすら許してくれなかった。

 

「ピンポーン!」

 

 そんな思い空気を動かすかのように外部からの訪問者が現れる。

今は深夜0時過ぎだ。

そんな時間に普段なら人が来ることなんてないはずなのだが、こんな日に限って予期せぬことが起こる。

 

「ちょっと出てくるね。」

 彼女に告げて玄関へと向かう。

彼女からの返答はない。

彼女のことは一旦おいといて訪問者の対処にあたる。

 

「ピンポンピンポーン!」

 また急かすように呼び鈴がなる。

非常識な時間帯での訪問者であることや冷静さの欠如しているさまに警戒した私はドアロックチェーンを掛け様子を伺うように扉を開けた。

瞬間、男の腕のようなものが扉の隙間から私を捉えんとばかりに飛び出してきた。

 

 咄嗟の出来事に後ろへ大きく飛び上がる私。

直後背中に何かが深く貫いたような激痛が走る。

あまりのことに理解の追いつかぬ私。

それを置き去りにするかのように、さらに背中の痛みが増す。

何が起こったのかと後ろを振り向く私の目には、一人の少女が私の背中に体を預けるようにもたれかかっていたのだ。

両手でメスを握り込みながら。

 

 そのことを理解しかけた私は声を出そうと喉に力を込める。

だがその行動は先程伸びた隙間からの手によって阻まれる。

どうやら刺された拍子に扉の近くまで押しのけられたらしい。

万力のように強力な右手に首を閉められる私。

背中の出血と絞首による酸素不足に苛まれた私は徐々に意識を失っていった。

失っていく意識の中ある少女の声を耳にする。

 

「大丈夫。ちゃんと作ってあげるから。大好きだよ、狭間さん。」

 

 そして私の意識は完全に途絶えた。

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