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橋の下の少女  作者: Mch.9
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宴会

 昔は見向きもしなかったお酒を私は嗜んでいる。

あの喉を焼くような感触がそこまで好きではないが、それを理由に誰かと話をすることはどうやら嫌いではないらしい。

 

 私は今居酒屋でのバイトで知り合った神崎と食事をしている。

それにはある少女と付き合い疲弊していた私に心配をかけてくれた礼というものであっただろう。

少女と縁を切った私にはもう息災であることの報告をしなければならない義務のようなものを彼女に感じていた。

だから私は彼女を食事へと誘ったのだ。


「最近元気になりましたねぇ。」

 カクテルを片手に同僚の神崎が語りかけてくる。

彼女はベロンベロンによっているのだが、そんな夢心地の人にすら心配されるほど以前の私は無理をしていたのだろう。

 

「最近は、食事の制限とかしなくなりましたから。」

 彼女への支援を辞めてから二月程経ったが、まだ居酒屋でのバイトは続けている。

 

「じゃあ、なんで飲んでないんですかぁ?ここは酒の席だぞぉ?後輩くん!!」

 口を尖らせ眉を釣り上げた変顔で神崎は圧をかけてくる。

 

「お酒は最近嗜むようになったものですから、まだそんなに飲めないんですよ。」

 私の説明を苦しばかりの逃げ文句だと彼女は感じたらしい。

「ならなんで日本酒なんか頼むかなぁ。飲むならサワーを飲め。ということでハイ注も〜ん!」

 そう言いながら彼女は呼び出し用のインターホンを押す。

ここの居酒屋は少々特殊な注文方式を採用している。

お客がインターホンを押すと店員のもとまで電話が繋がりメニューを注文することができる。

個室に加えこの注文方法を採用していることから、このお店は飲み会の雰囲気をできる限り邪魔をしない配慮がなされているようだった。


 しばらくしてインターホンから店員の可愛らしい声が聞こえてくる。

それを遮るように彼女はレモンサワーの注文を行ったのだ。

しかも二人分。

他人のペースに付き合わされるのは如何せんとうまく断る様を考え込んでるうちに彼女が声をかけてきた。

 

「ところで結局なんでそんなにお金が必要だったの?」

 先ほどとは違いわりと真剣な面持ちで訪ねてきた。

さてなんて説明すればよいのだろうか。

汚いところをうまく隠して語る術を探すが見つからないので語らないことにした。

 

「それは言えませんね。」

「言えないって、まさか悪いことしてたんじゃないよね。」

 わざとらしい蔑みの顔を作って彼女は嘲笑してくる。

何かをしようとしている子の為に力になりたいと貢いで支える。

数多の動物という形で。

これは善行ではないだろう。

かと言って悪行と呼ばれるほどのことかと考えてみると、確か動物愛護管理法の44条に犯罪だと書かれていたような。

黙っていたほうがいいだろう。

 

「ぶーぶーぶーぶー」

 良くないタイミングでスマホがなる。

差出人は生垣だろう。

あれ以来彼女とは会ってはいなかった。

連絡もほとんど出ず、LINEもほとんど返していなかった。

 

「でなくていいの?」

 神埼が問いかけてくる。

どう答えようか考えたあげくこう答えることにした。


「最近不仲になってしまいまして。」

「ふーん。女の子?」

 なぜわかったのだろうか、これが女の直感というやつなのだろうか。

 

「ま、そうですね。共通の趣味で仲良くなったんですが」

 これは言わなくても良かったことかもしれない。

だがつい口からこぼれてしまった。

 

「何かあったの?」

 心配されたのかそれとも単なる好奇心なのか訪ねてくる。

彼女とのことを消化したかったのだろうかつい答えてしまった。 

「一緒にいても楽しめなくなってしまって。」


「ふーん。趣味ってもしかして言えないこと?」

 具体的な内容とまではいかないが彼女にはなんとなくで私のことを見透かされてしまうらしい。

彼女の看破にどう答えたらいいか戸惑っていると彼女が神妙な面持ちで語りかけてきた。

 

「その子君のことが好きなんじゃないかな。」

「まさか。」

 真面目な顔で何を言い出すのかと思い、笑ってしまう。

 

「いや、だって…その子も同じ趣味を持っていたんでしょ。表立っては言えないような。趣味が合って仲良くなったって話は結構聞くけど、それは表立って言えるような共通の趣味だってアピールできるようなものでアピールできる場があるからでしょ。」

 

 一息ついてから続ける。

「でもその子と君の趣味は違うんでしょ。話の会う人と会うこと自体が珍しいような。そんな人と話して遊んで大体3ヶ月ぐらいか。それとももっとかな。全くその気がないってのはないんじゃないかな。」

 

 3ヶ月というのは私が居酒屋で働きだして憔悴していた期間のことだ。

もう彼女の中では、あの少女と私の頑張りとをつなげる方程式があるらしい。

 

「それに汚い話、お金恵んでくれる人ってそれだけで好意とか抱いちゃうものよ。ま、それは依存から来てる好きという感情とは違うものなんだけど。でも勘違いしちゃうんだよね。」

 何か思い当たる記憶でもあるかのように彼女は達観したような表情を浮かべる。

 

「そういうもんですか。」

「そういうものだよ。きっと。」

 彼女はカクテルを一口飲むと更に続ける。

 

「もう会わなくなって1月から2月ほど経ってるんでしょ。それでも未だに電話なんてかけてくるなんてよっぽどの思いがあるんだよ。きっと。だから最後にちゃんと聞いてあげなよ。ちゃんと振られたって経験も女の子には必要な経験だからね。」

 そう言い終わると彼女は右手に抱えたカクテルのグラスを空にした。

 

 本来ならこの手の色恋の与太は聞き流していただろう。

だが、ここまで自分のことや少女のことまで看破してみせた彼女の言葉には妙な説得力があり、つい聞き入れてしまったのかもしれない。

 

「そこまであなたがおっしゃるなら少しだけ考えてみますかな。」

 笑いながら答える。

  

「ここまで喋らせといて少しとか君かなりひねくれてるねぇ。」

「いえそんなことはありませんよ。感謝してますよ神崎先輩。」

 実際、感謝している。

でなければこのような会など開かなかったであろう。

「都合のいいときだけ後輩面しちゃって。感謝しているなら態度で示しなさい。」


「お待たせしましたお客様。レモンサワーでございます。」

 都合の良いタイミングで店員がお酒を持ってきてくれた。

 

「それでは、私の分のお酒を神崎さんにお譲りしますよ。」

「君ぃ、うまいこと逃れようとしているな。そうはいかんぞぉ。飲めぇ!」


 うまく断ることはできなかったが、手をつけなければ結局飲んでくれるだろう。

とりあえずおつまみにでも手を出して残りの時間を楽しむことにした。

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