プレゼント
普段私は車の工場で働いている。
たいした学歴もない私でも入ることができ、それでいてここまで給料のいい仕事もないだろう。
少なくとも普通に生きていくだけなら申し分のない仕事である。
だが、最近は居酒屋でのバイトも行っている。
なぜなら、意気投合した少女生垣に資材を提供するためだ。
彼女はどうやら高校生らしい。
学校が休みの日にバイトをしては、趣味につぎ込んでいたらしい。
しかし、高校生がバイトで稼げる金額などたいしたものではない。
こちらが見せてほしいとお願いしたことに加え、このような理由から彼女に支援を行っているのだ。
最近その額も馬鹿にならなくなってきた。
眠る時間を削り、食費も削ってやっとこさ彼女との付き合いを続けていた。
「狭間さん、大丈夫ですか?」
話しかけてきたのは同僚の神崎という女だ。
私がどう考えても無理をしていることに気をかけてくれる女だ。
「私は大丈夫ですよ。少なくとも働けます。」
「そんなこと言ったってふらついてるじゃないですか?そこまでしないといけないほど切羽詰まってるんですか?」
彼女には、何度か心配されている。
そのたびにお金が必要だからと言い聞かしているのだが、そのかいも虚しく毎日話しかけてくる。
「そういう訳じゃないんだ。ただ、どうしても見守りたいことがあるんだ。そのためにもお金が必要なんだ。」
半年ほど前、偶然であった少女が見せた神がかったような奇行。
その更なる先を見たくて初めた支援。
だが、蓋を開けてみれば毎回同じことの繰り返しのように思えた。
材料を変え、形状を変えてもやっていることは動物のパーツの交換ばかりである。
終いには、それを横で見続けた私には少女と同じことができるようになってしまっていた。
教わることもなく、一人のときになんとなくでやってみたという行動で。
その結果や連日の疲労感が私に、今やっていることへの無益さを感じさせるようになっていた。
そのせいか、最近彼女と会いたいという欲求も減退し始めている。
むしろ、日頃の疲れや私自身の変化からかめんどくさいとすら思い始めるようになってきた。
LINEが私の右太ももを震わす。
おそらく彼女からだろう。
今回はどの動物を買わされるのだろうか。
今はあの催促のつぶやきを見る気にもならない。
「もし、それが誰かのためにやっていることだとしたら、その人と話し合ってみるのも大切ですよ。伝えて初めて理解してもらえることもありますし。理解されなくとも頭の片隅にでも苦しんでることが伝われば少しずつ改善していくと思うんですよ。だから、一人で苦しまないでくださいね。」
そう告げると彼女は仕事へと戻っていくのであった。
「伝えて初めて理解してもらえる、か。」
同僚の言葉に何か思うことがあった私は少女にLINEを送ることにした。
―――
LINEを送ってから2時間ほどで彼女からの返信が来た。
LINEの内容はこうだった。
すごいことを思いついたからあるものがほしいというものだった。
お金がなくなってきている旨を伝えたせいか、これだけは絶対に欲しいと強調をつけた文言で書かれていた。
だが、こんなふうに言われても本来ならもう買ってあげようとは思わなかっただろう。
しかし、今回提示してきたものは普段の小動物ではなく、ある機械であったため、興味を持ってしまった。
それはヒューマンヒューマンインターフェースというものだった。
バックヤードブレインズ社の商品で、二人の人間の腕に取り付けると片方の人間が行った行動ともう一人の行動が脳から神経に送られる信号を伝えることによってリンクするというものだった。
彼女の普段にない反応に私は出会った頃の高揚感を覚え始めていた。
あのとき初めて見せられた人智を超えた行いの世界。
それをまた見せてもらえるのではないかと淡く期待してしまった。
だから彼女にもう一度だけ支援することに決めた。