約束
「普通に足のパーツだけ変えようとすると動いたりしないんだけどさ、元々の神経線維に対応するように筋繊維をつなぎ留めていくとパルスを受け取るようになって動くようになるんだよね。」
「へー。だから、こんなバラバラの手足でも動かすことができるんだ。」
「そうそう。それにね肢神経をつなぎ直すのにも注意することがあってね、毛細血管ってあるじゃん。これを傷つけないのももちろんのことなんだけどね、皮膚から乖離させすぎても駄目なの。だから擦過傷で済む程度の隙間から繋がないといけないの。」
初対面の頃と比べるとずいぶん親しくなったものだ。
ここまでするのにずいぶん苦労した。
さんざんあなたの素晴らしさを説いたあげく、何度も頼み込んでやっとのことで彼女の警戒を解くことができた。
「それでさ、さっき言ってたキメラって何なの?」
少し意外に思った。
今熱心に説明している生物は神話上のそれにすごく類似していたからだ。
「ああ、神話上の生物でね、獅子の頭に鷹の羽、蛇の尻尾を携えた生物なんだけど。」
彼女のキョトンとした顔に説明が足りなかったのだと改めて言葉を付け足す。
「広義の意味では様々な生物を組み合わせた生物。それをキメラっていうんだ。」
「だからキメラって言ってたんだ。犬に猫にイグアナに梟にいろいろ使ったからね。あと、ヤギだっけ?」
「そんなによく手に入れられたね。」
純粋に思った。
ヤギやイグアナならともかく梟ってものすごく高いんじゃないんか。
少なくとも未成年に手にすることができる生き物だとは思えない。
だが、その答えは割と納得できるものだった。
「ヤギとイグアナとワンちゃんはお年玉とバイト代で買ってね、梟はお父さんの家に行ったとき死んじゃったのもらったんだよ。」
「すごいんだね。君ぐらいの年代の子がそこまでするなんてオジサンには信じられないよ。」
彼女の年齢は中学生ぐらいに思えた。
黒髪のショートカットでの憧顔や背の低さからだろうか、良くても高校一年生ぐらいにしか思えなかった。
その年代でここまでのことが、この年代でなくともここまでのことができることは純粋に天才としか思えなかった。
「良ければ今度実際に作るところを見せてくれないか?」
褒められて恥ずかしそうに頬を掻いていた少女に問いかける。
「えー、どうしようかな。」
わざとらしく困った反応をする。
誘いに乗りやすいよう様式美のような文言を呟く。
「もし作ってくれるなら美味しいご飯奢りますよ。」
「えー、じゃ行っちゃおうかな。」
乗ってきた。やはり、まんざらでもないらしい。
「本当ですか!?是非是非来てください。日時とか決めたいので連絡先を伺っても?」
「何教えればいいですか?メアドですか?LINEですか?」
「LINEで大丈夫ですよ。メアドだと怖いかもしれませんし。」
「怖いってなんですかそれwww。じゃ、心配ですしLINEにさせてもらいます。」
彼女と合う約束を取り付けた。
その日が今から楽しみだ。