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橋の下の少女  作者: Mch.9
14/15

逃走

「誰?」


 扉の開く音で彼女が起きてしまった。

やってしまったという思いに駆られ一瞬動きを止めてしまう。

「何してるの?」

 

 彼女の一声で正気に戻る。

正気に戻った私は急いで扉を開け放ち逃げるように駆け出した。

「どこ行くの?」

 

 逃げる私を彼女は追いかけてくる。

隣の部屋はリビングのようであった。

いやかつてリビングだったと表現した方が良さそうだ。

キッチンとリビングが低い壁1つ隔ててつながった部屋のようになっている。

その壁に接するように大きな机が1つ置かれているのだがその机は埃にまみれ、ところどころ食べかすや調味料のようなシミが見られた。

その近くでは椅子が3つほど転がっている。

あとはガラスの割れた食器棚がある。

 

「ねぇなんで逃げてるの?」

 青い顔をして生垣が追いかけてくる。

それを無視して次の部屋へ逃げ込む。

 

 次の部屋は玄関のようだ。

ここを出ればとうとう外へと出られるのだろうか。


 ガラスのようなものが飛んでくる。

危機を覚え振り返る。

そこには半狂乱になりながら物を投げつけた女がいた。

 

「どこ行こうとしてるの、狭間さん。」

「警察に逃げ込んで助けを乞う。」

 私の返答に興奮を交えながらも冷静さを取り繕うとした声色で問いかけてくる。

 

「なんでどこかへ行こうとするんですか?そんなに私と一緒が嫌ですか?」

「ああ、私はお前が嫌いだ。」

 自然と否定の言葉が出た。

それほど私はこいつのことが嫌いなのだろう。


 嫌悪の宣言とともに私は玄関の扉を開け外へ走り抜ける。

 

 外へ出ると山の中であった。

どうやら田舎の一軒家に監禁されているようであった。

ここから街まで戻る方法を考える。

座標も方位もわからない山中では山道に戻ることを最優先らしい。

そのために山を登って見晴らしのいいところへ行くことが推奨されている。

少なくとも山道を逸れることは愚の骨頂らしい。

なのですぐ近くに見える山道へとかけていく。

 

「逃がすかぁ!!」

 怒号を上げて女が迫ってくる。

私は追いつかれまいと足に力を込める。

長期間の断食により体力の落ちたであろう体は恐怖によるドーパミンからか、そこまで走ることを苦しくは感じさせなかった。

その勢いに任せ女から遠ざかろうと山道を2度3度曲がった辺りだったろうか、生垣が半身で片腕を垂らしながら私の前に睨みつけるように立っていた。

 

「やっと…追いついた。」

 紅潮した声で彼女がつぶやく。

彼女の前に立ち止まる私。

咄嗟の判断で彼女に蹴りをくらわす。

 

「うヴォ!?」

 腹に蹴りを食らった生垣は2〜3メートルほど吹き飛ばされる。

彼女が怯んだすきに再度逃げ出す。

 

「もう許さない!あんたもうブッ殺してやるから!?」

 生垣の怒りのこもった叫びが走り抜けた後ろの方から聞こえてきた。

その声に走りながら振り返る。

どうやら彼女はまた追いかけてくるようだった。

 

「狭間さん。いいこと教えてあげますよ。狭間さんを捉えてた部屋にゾンビがたくさんいたでしょ。あれねスマホで操作できるんだ。スマホである番号にかけて私の声を届けるとね、命令に従って動き出すんだよ。カプセルに取り付けられてるスピーカーを通してね!!」

 

 カプセル?

あの並べられた機械のことだろうか?

あの装置にはそんな機能が取り付けられていたのだろうか。

危機感を覚えた私はより一層逃げる足に力を込めようとした。

だがその行為は彼女の素っ頓狂な声にかき消された。

 

「はぁ!どういうこと?電話通じないんだけど!?」

 

 彼女はゾンビたちを動かすために電話を使ったのだが、どうやら不具合があったらしい。


「何か問題でもあったか?」

 立ち止まった私は問いただす。

だが生け垣に私の声は聞こえていないようだった。

 

「向こうもあっちも圏外ってわけじゃないし、番号にかけ間違えてもいないし。まさか、部屋のブレーカーでも落ちた!?」


 部屋のブレーカーではないが装置の電源をことごとく抜いた覚えならある。

それが原因かどうかはわからないがどうやら助かったらしい。

そうとも知らずあたふたしている彼女を見て私は優越感にでも浸ったのだろう。

 

「なんで繋がらないか教えてやろうか?」

「…何よ?」

 私の皮肉めいた口調に彼女は驚いたのか間をおいてから答える。

そんな彼女に勝利宣言するかのように答える。

 

「そのゾンビを動かすための機械とやらの電源を私が切ってきたからだよ。」

「ふざけるな!」

 私の返答に激昂する生垣、立ち止まっていた私に殴りかかってくる。

その腹めがけて蹴りをくらわす。

すると彼女はまた遠くへ吹き飛んでいった。

 

「痛いよ。」

 うつ伏せのまま泣き出す生垣。

だが監禁された挙げ句拷問まで受けた過去から同情はできなかった。

 

「そのまま一生這いつくばってろ。」

 捨て台詞とともにその場を駆け出した。

走り去ったあとには少女の喋り声だけが残った。

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