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橋の下の少女  作者: Mch.9
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少女との出会い

 人間は皆、社会の荒波の中でストレスを抱えながら生きている。

子供の頃に夢見た希望もなく、容赦の無い現実の中をただただ無為に立ち止まれずに歩いていく。

だから、酒やタバコが必要なのだろう。

 

 私は今人気のない道を猫を片手に歩いている。

夜0時過ぎ、無作為に捨てられたゴミによって汚染された川沿いの橋の下。

人気のないところを好む不良共ですら近づき難いような異様な空間。

そんな空間を私は歩いている。

 

 なぜこんな空間に私がいるのかというと、それはもちろん私にとってのタバコを吸うためである。

この光景を見られたら間違いなく私は通報されるであろう。

私のタバコは少々どぎつい、小動物への虐待であるのだから。

誰にも邪魔されない場所で自身のみの娯楽を味わう、それが唯一の私の楽しみであった。

だからだろう。目の前の存在をやかましいと思ったのは。

 

 その人間は、少女のように思えた。

こんな時間帯、場所に女子がいれば間違いなく悪いおじさんに襲われるだろう。

それなのにこの少女は平然とここにいて、橋の壁に頭を垂れるように座りながら何かをしていた。

間違いなく訳有りだろう。

家にいられないのか、はたまた他人には見せられないようなことをしているのか。

これからの私の愉悦の邪魔にならないよう少女の弱みを握ることに決めた。

弱みを握れなくともこの場所へまた来ようと思われないよう誘導することにした。

 

 少女に話しかける前に少しの間だけ彼女を観察することにした。

これには理由があった。


 第一に彼女を無防備な状態でいさせるためだ。

他社のいない一人の空間でこそ人は本当の弱みを晒すからだと思ったからだ。

家出中の少女ならともかく、ご趣味を満喫中の人間であったなら無闇に話しかけるのは最善ではないだろう。

むしろ他人に言えないような悪徳が行われていたのならこの人間にとって弱みとなるだろう。

その弱みを突きつけ脅すことでここには近づけさせないようにできるだろう。

 

 第二に弱みを握る、行動の把握が完了する前に仮に気づかれてもこちらに害がないからだ。

もし今の状態、片手に猫を抱えた状態で話しかけようものなら猫を話題として話が発展しかねない。

だが、無言で立ち尽くし自分のことをじっと見つめている見知らぬ人という状態なら、見つけ次第怖がり逃げ出すだろう。

ましてやその恐怖体験から二度とこの場所へは近づいてこないだろう。

だから、彼女を観察し続けた。

 

―――

 観察を始めて解ったのだが、彼女は私と共通の趣味を持っているのかもしれない。

それどころか私よりも高次の次元に達しているかもしれない。

だからだろう。

彼女とお近づきになりたい意志で話しかけてしまった。

 

「君、何やってる。」

 彼女は突然声をかけられたことに驚きを隠せないようであった。

 

「違うんだ。君を注意しようなんてそんな気は全くないんだ。」

 声をかけるが彼女は警戒したままだ。

だから、意を決して切り出すことにした。

 

「実は私も好きなんだ。これが。」

 そう言って猫の死骸を見せつけた。


 死骸を見せつければ彼女は心を開いてくれるであろう。

その確信はあったが、彼女の対応が変わるまでは安心することはできなかった。

もし、勝手に同じ趣味であると決めつけて違っていたのだとしたら、私はどうすればいいのだろうか。

そう考えていたが、杞憂に終わったらしい。

 

「その猫どうするんですか?」

 彼女が話しかけてきた。

言い忘れていたが辺りには無残に切り刻まれた動物の死骸が大量に転がっている。

こんな場所で聞いてきたのだからおそらく答えをわかって聞いているのだろう。


 私は彼女が先程までいじっていた物が気になって目をやる。

それは異質だった。

見たこともないような言葉にしてしまうのも禁じられるほどのものだった。

 

 それはもともとの生物は細身のラブラドールレトリバーのように思えた。

だが犬ではなかった。

前足には猫のような爪を備え、後ろ足は子ヤギのよう、背中からは猛禽類のものと思われる羽が生え、尻尾はイグアナのそれに思えた。

それが奇怪な動物の死体だったのなら驚愕を覚える程度で済んだであろう。

しかしそれは生きようとしていた。

ところどころ筋繊維や血管を剥き出しにしながらも。

前足と後ろ足が原因で頭を垂れるようにアンバランスになった体を必死に起き上がらせようとしていた。

 

「これは君が造ったのかい?」

 つい口元がにやけてしまう。

こんな物が造れるのなら神にも等しいのだから。


「誰にも言わないで…。」

「誰かになんて言うもんか。むしろ理解できないような愚民に言うもんか。これは芸術だ。理解し合えるものだけでのみ語り合う素晴らしきものだ。」

 

 あまりの饒舌さに彼女が言葉を失っていた。

慌てて落ち着きを取り戻す。

「すまない。つい取り乱して。」

「…大丈夫です。……」

 

 どう話していいのかわからないのだろうか、言葉に詰まっている。

なので話しやすい話題を振ってあげることにした。

「そのキメラ。良ければどうやって作ったか教えてくれないか?」

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