74.ラスタン討伐
激しい閃光と爆発、もうもうと煙が上がる中でエリーゼは叫ぶ。
「ハルト様!」
「……ふう、火薬の山に誘爆しなくてよかったですね」
水樽で湿らせたとはいえ、万が一火薬の山に引火して誘爆したら大変なことになっていた。
もしラスタンが、爆発させて全員道連れにするつもりだったらと思うとゾッとする。
あの爆発なので、さすがにラスタンも生きてはいないだろうが、最後の最後までヒヤヒヤさせられる敵だった。
「ハルト様、背中に破片が……」
エリーゼが青い顔でハルトの背中に触れる。
ハルトの背中には、爆発で撒き散らされた破片が刺さっている。
ラスタンは、手榴弾のように破片を仕込んで殺傷力を上げる工夫までしていたのだ。
「ああ、こんな物まで仕込んでいるとは恐ろしい敵でしたね」
「ハルト様、動かないでください!」
「あ、いや大丈夫ですよ。破片は身体には刺さってません」
ハルトは、ボロボロに破れかかってる上着を見せる。
「あ、鉄杉ですか」
ハルトの上着には、亜人属領で拾い集めた鉄杉の破片が仕込んであったのだ。
「鋼の刃も弾く装甲ですからね、簡易的な防刃チョッキになると思ったんですよ」
自分で使ってみて動きの邪魔にならなければいずれは兵士にも着させようと思っていたのだが、まさかこんな風に役に立つとは思っても見なかった。
後で死体を調べてみればわかるが、ラスタンが銃撃を耐え抜いたのも鉄杉を服に仕込んでいたからだろう。
ラスタンは、ハルトの発想に同じスピードで追随してこれたのだ。
天与の才能『権謀術数の主』は、伊達ではなかったということだろう。
無駄な戦いは極力したくないハルトだが、ラスタンだけはここで倒せてよかったのかもしれない。
そうでなければ、ラスタンはやがてハルトたちの技術力に追いついて来たかもしれなかった。
「でもハルト様、危ない真似はしないでください!」
確かに頭脳労働専門のハルトには相応しくないスタンドプレーだった。
もう二度とやりたくないが、そこまで追い詰められた戦いだったということでもある。
「咄嗟のことでしたからね」
「私はハルト様のためなら死んでも構いません。でも、ハルト様は唯一無二のお方なのですから、御身を第一にしてください。ハルト様が怪我でもされたら私……」
エリーゼの声が震えている。
これは本気で怒られそうだなと苦笑したハルトは、誤魔化すようにエリーゼの頭を撫でて言う。
「死んでも構わないなんて言わないでくださいよ。エリーゼがいなくなったら、誰が私の身の回りの世話をしてくれるんですか」
生活力皆無のハルトは、もう頼りっきりになっているので、エリーゼがいないと何もできなくなっているのだ。
そう言ったのは照れ隠しもあったが、半ば本心でもある。
危険を冒してでも守ろうとしてしまったのは、結局そういう身勝手な理由からだろう。
エリーゼに死なれてはハルトが困るのだ。
「ハルト様、ありがとうございます。もう死んでもいいなんていいません」
ハルトが自分で言ってても割と最低なセリフだなと思ったのだが、エリーゼには感じ入るところがあったらしい。
琥珀色の瞳に涙を浮かべて、ハルトの胸に顔を埋めた。
「ああ、エリーゼがいなくなったら本気で困りますからね。勝手なことばかり言いますが……」
「ハルト様に必要としていただいて、私は嬉しいです」
こうして、ラスタンを倒したハルトたちは王都の反乱を喰い止めることができたのであった。





