72.王都城門の戦い
要塞の間の間道を走り抜ける馬車からあたりを見回して、ハルトがつぶやく。
「要塞からの攻撃が完全に止まりましたね」
初めての攻城戦であったが、レンゲル兵長が指揮する砲撃隊はいい仕事をしてくれたようだ。
「ハルト様、王都が目の前です。吊り橋は下りてますし、城門は開いてます!」
「どうせ誘い出す罠でしょうが、歓迎してくれるならばそのまま行きましょう。多少無理にでも突破しますよ」
ハルトがそう言うと、エリーゼは馬車の手綱を緩めて馬を全力で走らせる。
「ハルト様、全ての馬車は私が守ります!」
「貴方が頼りですよシルフィー、なんとか王都の中まで持たせてください」
ハルトたちが使う銃器と比べて魔術が優れている点は防御力にある。
そのため、ハルトはシルフィーたちエルフの魔術師には一切攻撃させず馬車を防御させることだけに専念させたのだ。
ただ絶対防御魔法などと言う名前でも、その防御力は魔術師の魔力に比例している。
そして攻撃を受けるたびに、その魔力は削られていく。
いかに王国最強の魔術師シルフィーでも、先ほどの矢の雨を正面切って防ぎ切るのは辛かったのだろう。
額から冷や汗を流して、苦しそうに息をついている。
もはや、限界は近いと思うべきだろう。
「あとは、ガトリング砲でなんとかするしかありませんね」
「ワシらに任せておいてくれ! そのためについてきたんじゃからな!」
ハルトの隣の馬車では、なんとドルトム自らがガトリング砲を撃ちまくっている。
ダダダダダダダダダダダダダッ!
水平方向に一斉射。
大型の箱型馬車の上に設置された連射式のガトリング砲が火を噴き、大きな城門棟の上にいる弓兵たちを瞬く間に全員撃ち落としていく。
「これなら、数の差はなんとかなりそうですね」
たった五台のガトリング砲の一斉掃射で、一瞬にして王都の大門が陥落してしまった。
そもそもガトリング砲は防御用の兵器であり、攻撃に使うものではなかったはずなのだが圧倒的なまでの攻撃力である。
史実よりも、随分と威力が強まってないか?
我ながら恐ろしい物を造ってしまったとハルトは思う。
城門をくぐるとやはり待ち構えていた一万もの守備隊が道を塞ぎ無数の矢を放ってくる。
司令官のワルカスは、要塞から駆け込んで途中で馬に飛び乗ってここまで回り込んできている。
「ハァハァ、あの、馬車の上の、飛び道具を潰すんですよ!」
声を枯らして叫ぶワルカスも必死だった。
すぐにガトリング砲が脅威だと見抜いて檄を飛ばしたのは、腐りきっても有能なエリートというところか。
「させません!」
シルフィーたち魔術師が絶対防御魔法を使うが、その勢いを殺しきれず馬車の上に設置したガトリング砲の砲座が一台ガシャンと崩れた。
ここまで絶対防壁を狙って削り続けてきた、反乱軍の攻撃も無駄ではなかったわけだ。
だが残り四台のガトリング砲が、交代交代に撃ち続けるだけで反乱軍の歩兵はバタバタと倒れていく。
王都の反乱軍は、密集陣形で攻めてくることしか知らなかった。
なにせ初めてガトリング砲を見たのだから、銃器に対しては散兵戦術が良いなどと知る由もない。
わざわざ殺されに出てくるようなものなので瞬く間に凄まじい犠牲が出た。
「なんなんだあれは!」
ガトリング砲の分速二百発の銃弾が、眼の前に雨あられと飛んでくるのだ。
あまりの威力を前にして、後方の弓兵たちの手が止まった。
「なにをやってるんですか、攻撃を続けなさい! 撃て! 撃て!」
ワルカスの叫びで、弓兵たちは気がついたように再び撃ち始めるが、ただの弓とガトリング砲で勝負になるわけがない。
兵士たちの密集陣形は、あまりにも撃ちやすい的であった。
瞬く間に五千人もの歩兵が壊滅的な被害を受けた。
もう弓兵は残っていない、こうなれば直接攻撃だ。
「ええい、今度は騎士隊突撃しなさい!」
司令官であるワルカスの命令に馬蹄の音を響かせて先頭の騎士たちが突撃するが、ガトリング砲の一斉掃射の前に騎士突撃はあまりにも愚かな命令だ。
それは、ただ徒に犠牲者を増やすのみだった。
「あんな死に方は嫌だ……」
折り重なった味方の死体に怖気づいた後方の騎士が、馬を捨てて次々と逃げていく。
馬を捨てて、街の側道に逃げれば助かる。
誇り高いはずの騎士ですら敵前逃亡するのである。
最初はなんとか踏みとどまって戦っていた兵士たちからも、徐々に逃亡者が出始める。
「なにをやっている、逃げるな!」
ワルカスは、怒号を上げるが一度逃げ腰になった兵士たちの流れは止まらない。
「うああ、まだ死にたくねえよ!」
「俺もだぁ!」
ついにガトリング砲を構えたハルトたちの前から、ラスタン派の兵士たちがいなくなった。
あとに残されたのは、ワルカスと踏みとどまった騎士数人のみ。
「う、動くな! これが目に入らないのか!」
ワルカスは、最後の手段として捕らえていた捕虜を前に出して人質として前に突き出した。
「オズワールお兄様!」
ルクレティアが声を上げる。
あれが、第二王子オズワールか。
かなり陰気そうな印象だが、確かに第一王子シャルルやルクレティアとも似ている。
「わ、私はこの国の王太子だぞ! 撃つんじゃない!」
ワルカスに剣を喉元に突きつけられて、引きつった表情でそう言った。
「さあ、オズワール殿下は人質ですよ! 大人しく武器を捨てなさい!」
そうワルカスが叫んだ瞬間、パーン! と、銃声が響いた。
馬車から飛び降りたハルトが、ワルカスたちに向けて拳銃を撃ちはなったのだ。
「あれ、外しましたか。拳銃って距離があると当たらないものですね」
のんきなハルトの声に、ワルカスとオズワールの声が綺麗に重なる。
「「何を撃っている!」」
そう二人に言われて、思わず笑ってしまうハルト。
「何をと言われましても、ワルカスさん。今更オズワール殿下が人質として価値を持つと思うんですか?」
これはハルトのハッタリだった。
さすがにルクレティアが、兄のオズワールも助けたがっているのは知っている。
だが、人質に取られては面倒なことになるので、わざと弾を外して撃ってこう言ったのだ。
ワルカスならば、ルクレティア派のこっちはオズワールを亡き者にしようとしていると邪推してくれるはずだと考えたのだ。
「クソッ!」
ハルトの読みどおり、ワルカスは人質のオズワールを捨てて逃げようとする。
そこを後ろからエリーゼたちが狙撃して、背中から撃たれたワルカスはあっけなく倒れ伏した。
「さて、行きましょうか」
「はい!」
ハルトが馬車に乗ると、エリーゼが再び馬車を走らせる。
乱戦のさなかだ。
撃たれたワルカスは、それでもまだ辛うじて息があったが誰にも顧みられることはない。
「シャルル様、私は……」
胸ポケットからこぼれ出た今は亡き主君の肖像画に手を伸ばそうとして、ついに息絶えた。
その亡骸は、ハルトたちの馬車が巻き起こす砂煙の中に消えていった。
※※※
ハルトたちが向かう先は、国王がいる王城だ。
「ハルト様、すみません」
完全に力尽きたのか、倒れ込んでくるシルフィーをハルトはやさしく抱きとめると、馬車の床に横たわらせる。
ハルトたちを乗せた馬車は再び、王城へと向かって走る。
「いや、シルフィーよくやってくれました。ゆっくり休んでください」
そんなハルトに、エリーゼが叫ぶ。
「ハルト様、もうすぐ王城ですが様子がおかしいです!」
さすがにラスタンたちも王都の民を巻き添えにするつもりはなかったらしく、住人はどうやらすでに避難しているようだが、それにしても街が静かすぎる。
あとは、王城を囲んでいるラスタンたちを倒せばいいはずなのだが……。
ハルトたちの前に、黒い砂山のようなものがぶちまけられているのが見えた。
そうしてそこにラスタンが、クロスボウを構えた兵士を連れて待ち構えていたのだった。





