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7.副官は従騎士エリーゼ

 任地に向かおうとするハルトの下に、マントをたなびかせた従騎士エリーゼがやってくる。

 その後ろには、三百人の兵士を連れている。


 なんだろうと思ったら見知った顔が多い。

 カノン撤退戦のときの兵士たちが中心で、市民兵として参加してくれた人々も混じっていた。


「なんだ、見送りに来てくれたのですか」


 知らない人々に英雄とチヤホヤされても、ハルトは辟易へきえきしてしまうだけだが、こうして一緒に戦った仲間に見送ってもらえるなら少し嬉しく思う。


「いいえ、見送りではありません。私はハルト様の副官としてお仕えしに参りました。この者たちも、ハルト様の直属の兵として任地にお供いたします」


 そう言うと、エリーゼは恭しく跪いた。

 よく見れば騎士の鎧を着ていない。


「鎧を着てないんですね」

「ええ、ハルト様がこれからの戦闘には動きやすい格好のほうがいいとおっしゃっていたので、兵卒たちにもそれは徹底させています」


 華麗な軍服姿が、清楚なエリーゼにはよく似合っていた。

 いや、そんなことを言ってる場合じゃないか。


「しかし、私に仕えるとはどういうことです。エリーゼさん、あなたは累代の騎士でしょう」


 ハルトも一等書記官に昇進して、かろうじて士爵の位を授けられたものの。

 格式を重んずる王国貴族の常識でいえば、累代の士爵家と昨日今日できたばっかりのハルトの家とでは格が違う。


「仕えていたミンチ伯爵は行方知れずですし、領地も失ってしまいました。どうしようかと王国軍に相談したら、プレシー宰相閣下がハルト様の副官の任を与えてくださったのです」

「なるほど、そういうわけでしたか」


 あの宰相の爺様か。

 気を利かせたつもりなのかなあと、ハルトは頭をかいた。


「ここにいる皆も、このまま王都にいても難民でしかありません。ハルト様の大隊に入れると聞いて、喜び勇んでやってきたのです」

「そういうことですか」


 一人のほうが気楽だし、配下の兵ができるのは管理が面倒なだけなんだけどなあと思うのだが、ここでハルトが断ると彼らは失業してしまうかもしれない。

 彼らには前の戦闘を手伝ってもらった借りもあるので、ありがたく受け入れることにした。


「あのときは、忙しくて挨拶もできなかったですからね。兵長レンゲルでさ。よろしくおねがいしますよ、カノンの英雄閣下!」


 ハルトは、レンゲル兵長と握手する。

 若くて頼りないハルトとは対照的に、レンゲルは軍隊経験も豊富なおっさんだった。


 三百人の大隊は、ハルトの副官でもある騎士エリーゼが大隊長となるが、実質上はその補佐をする筆頭百人隊長、レンゲル兵長が指揮することとなる。

 他にも、一緒に戦った三十人の兵士は、それぞれ小隊長に着任している。


「英雄はやめてくださいよ、もうこりごりですしね」

「ハルト閣下は謙虚でいらっしゃる。俺たちなんざ、奇跡の三十人と讃えられて、酒場で鼻が高かったですぜ」


「私もそれぐらいなら良かったんですが……」


 もともとあまり派手なことが好きではないハルトには、パレードで引き回されるのはさすがにキツかった。

 受勲式の後も、プレシー宰相の貴族の社交界に引き回されて、大変な一日だった。


 どんなに豪華な料理や酒がでても、高慢ちきな貴族のパーティーで見世物のようにされては、味などわかったものでない。

 街の酒場で気楽に酒でも飲んでいられたら、そっちのほうがよかったな。


「それに手銃ハンドガンといいましたか、コイツは素晴らしいですからね」

「ああ、まだ持ってたんですか」


 パイプオルガンを解体して間に合わせに作ったそれは、使い捨ての単発銃だ。

 金属の強度が足りなかったので、一発撃つごとに銃身が破裂する危険な粗悪品だった。


「これは戦争を変えると小官は思います。こんなものが作れるハルト閣下に、付いていけば俺たちも出世できるんじゃないかとね」


 戦争するつもりなんかないんだけどなと、ハルトはため息をつく。

 世話になった兵士たちに、そんな危険な代物をいつまでも使わせているわけにはいかない。


「今度の任地にいったら、もっと良いものを作って差し上げますよ」

「そのときは、ぜひ俺たちにも協力させてください」


 火薬の原料を集めるのに、人足に硝石の取れそうな土を集めさせたりするのにも費用がかかるのだ。

 昔からチビチビと作って貯めてはいたのだが、ハルトの給料だけでは人件費や材料費を捻出するだけでも一苦労だったから、手伝ってもらえたらかなり助かる。


「その火薬は作るの大変なんですよ。家畜小屋の糞尿混じりの土を延々と煮たりするんですが、大丈夫ですか?」

「ハハッ、俺たち兵隊は臭いのは慣れっこでさ。こいつら兵卒は元は市民ですし、手先が器用なものもおりますよ」


 ほほう、それは頼もしい。

 部下ができるのも、悪いことばかりではないようだ。


「しかし、みんなも生きるためとはいえ軍人なんて大変ですね」


 元カノンの市民だった兵卒たちには、まだ子供のような若い子も混じっている。

 他に仕事がないのだろうか、何も好きこのんで生命の危険がある兵隊になんてならなくてもいいのにな。


「みんな英雄殿と一緒に戦えて、光栄に思ってますよ。なあボブジョン」


 レンゲル兵長は、純朴そうな童顔の兵士に声をかけた。


「ハッ! 英雄様に俺の家族の命を救っていただき、ほんとに感謝しております。英雄様のために、全力で働きます! なんでもやります!」


 ハルトを尊敬の眼差しで見つめ、最敬礼するボブジョン少年はそう叫んだ。

 ただでさえ大変な兵隊稼業なのに、なんでもやるなんて言わないほうがいいのになあと苦笑する。


 前世では、ブラック企業で苦労したハルトだ。

 なるべくホワイトな職場環境を作っていきたいとは思う。


「ハルト様、それでは末永くよろしくお願いします」


 話はまとまったと、エリーゼがそうまとめた。

 全員がハルトに敬礼する。


「わかりました。ではあとで、三百人の名簿を作って見せてくださいね」

「もう作ってあります」


 軽いメモ書き程度の内容ではあるが、エリーゼはすでにわかりやすく組織図にしてあった。


「ふむ、仕事が早いのは良いことですね」


 エリーゼはハルトに褒められ、白い頬を仄かに赤らめて、嬉しそうに微笑んだ。

 どうやら彼女は、有能な副官になりそうだ。


 こうして、ハルトとその副官エリーゼ。

 そして、それに追随するハルト大隊三百人は新しい任地へと向かうのだった。

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