69.そして王都へ
そういえばミンチ伯爵はどうなったのかなと思っていたところに、ハルトの元に信じがたい報告が入る。
「ミンチ伯爵が勝手に自軍を率いて追撃していった?」
その前に生きてたのかって話だが、少なくとも重傷を受けていたはずなのにもう全回復して、その上で功を焦って突発したのか。
眼の前の危機がなくなったらミンチ伯爵は、またいつもの調子に戻ってしまったようだ。
いまだに十万を超えるあの数を追撃して、相手が我に返って逆襲されたらどうするつもりなのだろう。
反乱軍はもはや組織的な反抗はできないだろうが、まだ国が荒れている状態なのだ。
これから王都までの道のりは、敵地と化していると予想される。
敵対的な農民兵がゲリラ戦を仕掛けてくる可能性も高い。
それに、ラファイエットたちが手銃を使っていたのも気になる。
火薬を使った兵器を理解し始めているラスタンが、罠を仕掛けてくる可能性も警戒すべきなのだが……。
「どうされますハルト殿。ミンチ伯爵を呼び戻しましょうか」
クレイ准将にそう尋ねられるが、ハルトは首を横に降った。
「いや、ミンチ伯爵の軍がそのまま囮となってくれるなら好都合です。共同作戦はここまでですね」
「さようですか。ハルト殿やエリーゼ殿の元主君にこう言ってしまっては申し訳ないですが、これ以上はいられても邪魔になるだけですね」
一緒に王都まで行って、ミンチ伯爵に第二王子オズワールの復権などを企てられても面倒になる。
利害が一致しているのはここまでだから、勝手に自分たちだけで突撃していったならその動きも利用させてもらおう。
ハルトたちと逸れて補給を受けられないミンチ伯爵の率いる王国南方軍は、戦況がどう流れても途中で立ち往生するだろう。
「ミンチ伯爵たちより先に王都までたどり着いて、さっさと王族を奪還してしまいましょう」
こうしてルクレティアの指揮する王国北方軍は、ミンチ伯爵たちを囮にしつつ迅速に王都に向かう。
やはりハルトの予想通り農民が反徒と化した荒れた地域を通ることとなったため、地域の安定に部隊のほとんどが削がれることとなった。
そこで、王都を守る要塞に防衛用の大砲を迅速に提供することを目的として、ハルト大隊と少数の騎士隊のみで王都まで向かうことにした。
百門の大砲さえあれば、ラスタン派がどう動いても対応はできるだろう。
そんな計画で、ようやく王都を囲んでいた農民反乱軍を蹴散らして道がひらけた時、先行していたクレイ准将の密偵が恐ろしい情報をもたらしてきた。
「オズワール殿下は、王都の防衛を指揮させるためにワルカスを牢から出したそうです」
「どこまでバカなんですか……」
「オズワール殿下は王国中央の軍官僚や貴族からそっぽを向かれているので、この危機的状況に際して指揮できる人間がいなくなり止む無くの処置だそうです」
「それにしたって、ありえない選択でしょう」
ワルカスなんかを王都防衛軍の指揮官にしたら十中八九裏切る。
いや、だからこそか。
第二王子オズワールの軍師ラスタンがそそのかした結果だな。
これまでのことを考えると、ワルカスもラスタンのコマとして使われていると見ていいだろう。
「困りましたね」
さすがは、姫将軍ルクレティアの異母兄と言うべきか。
こちらの予想を上回ってくる最悪の選択肢を取ってくる。
もうすでに用済みになったオズワールは殺されてるんじゃないだろうかとも思えた。
遠方に見える王都からは、ところどころから煙が上がっているのが見える。
嫌な予感がするが、ともかく行けるところまで行ってみるしか無いだろう。





