66.勝利の好機
後方の丘の上で、ハルトが「ついに好機が来た」とつぶやいた頃。
反乱軍の本陣では、反乱軍の首魁ラファイエットがまったく同じセリフをつぶやいていた。
敵は辛うじて耐え、プファルツ傭兵団は押し返された。
プファルツ団長も討たれたという話だが、その代わりにミンチ伯爵を倒してくれたそうだ。
突撃には失敗したとはいえ、陣列には大きなダメージを与えたであろうし、片方の将を失った敵の士気は落ちた。
あとひと押しすれば、敵は積木くずしに倒れるだろう。
「アハハハッ、やってくれたなプファルツ。この私に、最高の舞台をプレゼントしてくれた!」
高笑いしながら金髪をかきあげるラファイエットを、改革派貴族の若い騎士たちが期待に満ちた目で見つめる。
「ラファイエット様!」
「ああ、諸君。これが最後の決戦となるだろう。本陣を引き払うぞ。いよいよ我々が出て勝負を決める時だ!」
「ついにこの日が来たのですね!」
「ああ、長かった。いや、これが革命の始まりなのだ」
無能な王族、貴族どもをこの国から一掃し、平民から広く有能な人材を募って新しい政治を行う。
新時代の幕明け。
そしてラファイエットは、時代を切り開いた英雄として永久に歴史に名を留めることだろう。
「ラファイエット様、民衆も皆がご出馬を待っております」
「それでは全軍に命じよう。我に続けと!」
颯爽と馬に飛び乗ると、ラファイエットは金糸の装飾が施された白いマントを翻して号令をかけた。
改革派貴族千人もまた誇らしげに、整然と隊列を組みながら突き進む。
お目付け役がいなくなった途端にこうなってしまうのだ。
待ち受ける砲撃の恐ろしさも、銃撃の激しさも、経験していないラファイエットには想像することができない。
先ほど討たれたプファルツが見ていたら化けて出そうなほど、愚かな動きであった。
※※※
砲兵隊が居並ぶ後方の丘で、双眼鏡で戦況を見ながら少年兵ボブジョンが呆れて言う。
「あの白い騎士隊。良い的ですね」
「あれこそが軍師様の言ってた殲滅目標だが、まだ撃つんじゃねえぞ」
砲兵隊を任されたレンゲル兵長は、そう忠告する。
作戦を確実なものにすべく、軍師ハルトと副官エリーゼは銃兵隊を指揮するために丘を下りている。
丘の上から見ているとよくわかる。
三倍もの数の反乱軍を、鎮圧軍はいつしか綺麗に半円形に囲んでいる。
そうして、殲滅目標は綺麗にルクレティアの待つ中央の奥深くに引きつけられていくのだ。
まるで自ら殺されに行くかのように。
敵も味方も、全てはハルトの予想した通りに動いていく。
ハルトの指示に従って動くだけのレンゲル兵長から見れば、どんな魔術なのかと空恐ろしくなるほどだ。
「よし、そろそろだ。砲弾装填しろ!」
「砲弾装填完了!」
「照準、よく狙えよ……」
砲兵隊が狙い撃つのは、誘い出されて前線に上がってきたラファイエット率いる騎士隊ではなく、その周りであった。
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次回も明日のお昼に更新します。





