50.ダルトン代官軍
獣人と王国北方軍の戦いを、ダルトン代官も山の上からゆるりと観戦していた。
「あれが、オズワール王太子の軍師ラスタンが言っていた、火の出る筒か」
むしゃむしゃと、もも肉の照り焼きをかじりながらダルトンは言う。
その醜く肥え太った肉体は、百キロを軽く超えている。
ダルトンが偉そうにみじろきするたびに、腰掛けている椅子の足がギシギシと軋んだ。
「ダルトン代官様、もっと小さいのもたくさんあるそうですぜ」
ダルトンは、その顔相、凶悪にして醜悪と蔑まれ、貴族社会では下賤な男と忌み嫌われている。
だが、このような辺境の地で樹甲兵団三千を統括し、恐怖によって亜人どもを治めているこの男も只者ではない。
獣人の戦士団は、ただ敵の力を知るためだけに利用したのだ。
狡猾にして残忍なその性質はさておくにしても、ダルトンもまたこの時代においては、情報戦を重視する有能な将とは言える。
「あの火筒だけは確かに脅威だが、勝てねえことはねえな」
「思いの外、小勢でしたしねえ」
「ああ、獣人は村を襲われて負けたんだ。こっちは、守るものなんかねえ。むしろ、守るべきものがあるのは向こうよ。こっちは、その弱点を突いてやりゃあいいだけだ」
「さすが、ダルトン代官様だ。もう敵を倒す策略を思いつきやしたかい」
「まあな、王国軍の連中は俺らを田舎者と蔑むが、樹甲兵は王国最強の軍隊よ。ハルトって軍師を殺れば伯爵、ルクレティアって姫将軍を殺りゃあ侯爵にしてくれるって話だ」
「その時は、ぜひ俺らもお願いしますぜ」
「ブハハハハ。俺に任せろ。天才軍師だか、救国の英雄だか知らんが、この俺が治める領地にきたのが運の尽きだ。敵の首をあげれば、お前も閣下って呼ばれる身分にしてやるぜ!」
ダルトンがドスンドスンと身を揺らしながら、ツバを飛ばして汚らしく笑うと、椅子の足がついにその重みに耐えきれずボキッと折れた。
「ググググッ……」
あまりの激痛に、椅子にされていたエルフの男が呻く。
「ああ、俺がデブで重いってか」
ろくに食べさせてももらえない、痩せぎすのエルフの男が巨漢のダルトンを支えきれるはずがないのだ。
崩れ落ちたエルフの椅子から立ち上がると、ダルトンは剣を抜いた。
「そんなことは言ってません。どうかお許しください。ああ、助け、ぎゃぁぁぁ!」
「うるせえ。椅子がしゃべるんじゃねえよ」
土下座して謝るエルフの首を切り落として、不機嫌そうなダルトンに配下が追従を言う。
「ダルトン様、その粗末な椅子が悪かったんですぜ。代わりはまだあります」
女のエルフに比べて、男のエルフは魔力が弱い傾向にある。
魔術師として使えなくても、可愛い少年なら好事家に奴隷として売れもしようが、大の男は使い物にならない。
女エルフがゴミなら、男エルフはさらに役立たないゴミクズだ。
せいぜい、玩具にして使い潰すだけだ。
「や、やめて!」
「ああ、やめてやるぜ。もう椅子はいいや」
そう言うと、ダルトンは鎖に繋がれている男エルフを殴り飛ばした。
「ぐぎっ! ぐぎゃ!」
そうして、その痩せた背中を踏みつける。
何度か踏みしめたら、すぐに動かなくなった。
ダルトンにとってエルフは、叩けば簡単に壊れるつまらない玩具だ。
「こいつらゴミクズどもの世話も飽きた。俺たちは貴族になるんだから、もう我慢することはねえ。盛大に使い潰して、中央へとのし上がるか」
「さすがダルトン侯爵閣下! 俺たちは一生ついていきますぜ!」
「ウハハハ、閣下はまだ少し気が早え。あの軍師ハルトと、ルクレティアって姫将軍をぶち殺してからよ」
醜く肥え太った腹を揺らしながらドスドスと立ち去るダルトンは、占領したエルフの村に陣を敷き、ハルトたちが来るのを意気揚々と待ち受けるのだった。





