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窓際の天才軍師 ~左遷先で楽しようとしたら救国の英雄に祭り上げられました~  作者: 風来山
第三章「幻の魔術師」

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35.選ばれし者らの邂逅

 帝都バルバスブルグで、両軍の司令官が相対する。

 王国第三軍の司令官、ルティアーナ王国第一王女ルクレティアと、バルバス帝国軍最高司令官、皇太子ヴィクトル・バルバスによって、ここに休戦条約が結ばれた。


 休戦は、当面北方戦線だけのものだが、両国ともに戦力は疲弊し、国内は大荒れのため、南方戦線でも現状維持で国境が確定されて、しばらくは平和になると思われる。

 会談の控えの間で、ようやく面倒な戦争が終わったなとハルトが休んでいると、ヴェルナー准将がやってくる。


「ハルト殿、この度はありがとうございました」

「いえ、こちらこそ助かりましたよ。ヴェルナー准将が協力してくれなかったら、もっと無益な血が流されたことでしょう」


 ヴェルナーが帝国に将軍として戻れたことにも、ハルトはお祝いを言う。

 もし向こうが再雇用してこなければ、こっちが雇おうと思っていたのだが、やはり使える人材は手放さないらしい。


 話も合う相手だったので、少し惜しいなと思うハルトである。


「ときに、ヴィクトル殿下がハルト殿と話したいとおっしゃってるんですが」

「私をですか?」


「ええ、殿下がどうしてもとおっしゃいまして」


 そりゃ面倒だなと思うハルトだが、今回の功労者であるヴェルナー准将にそう頼まれては仕方がない。

 ハルトは、ヴィクトル皇太子とルクレティア姫様とが会談している会場に入っていく。


「……お前が、ハルトか。ようやく会えたな」

「どうも、皇太子殿下」


 ヴィクトルは、ぎこちない笑みを浮かべるハルトの顔をまじまじと見つめる。

 初対面なのに、どこか昔から知り得た相手のような気もする。


 意外なようでもあり、ああそうかと思う感じもする。

 かの『幻の魔術師』とはどのような男なのか、様々な想像を繰り広げたものだが、こういう男かとヴィクトルはニンマリと満足げな笑みを浮かべた。


 一方、ハルトのほうも面食らっていた。

 えっ、子供? しかもこれ、女の子なの、男の子なの? 


 いや、皇太子殿下なんだから、女の子なわけないよな。

 男装の美少女にしか見えないんだが、こんなに可愛い子が女の子なわけないってやつか?


 この子に嬉々として仕えてる帝国軍の将軍ってなに? もしかして、全員ロリコン?

 ……などとハルトは、いろいろ失礼なことを考えている。


 しかし、殿下だけならともかく、殿下の後ろで厳つい顔の将軍が並んでるこの状況で、言える空気ではない。

 もしかして女の子かとか口走ったら、その場で殺されそうな雰囲気だ。


「なんだ、余の顔がそんなに珍しいか」

「はあ、すみません」


 ジロジロ見てしまうのは失礼だったかと、ハルトは謝った。


「ふん、余の見た目はまだ子供だしな。そのような反応は、昔から慣れっこだ。口に出したらまた戦争を再開せねばならんから、思ってることは言うなよ」

「はあ……」


 子供とか、そういう問題じゃないんだけどなあと、ハルトは頭をかく。

 まさか、ヴィクトル皇太子をヴィクトリア姫と揶揄した貴族や高官が、縛り首になっているとは知らないハルトである。


 余計なことを言わずに良かったというものだ。


「フフフッ、しかしお前がこの本の著者のハルトか。こんなにも若いとは思わなかった」


 自分の年を差し置いて、そんなことを言うヴィクトル。


「あー!」


 若いとはハルトのほうが言いたいことだが、それよりも驚くことがあった。

 自分が大昔に書いた本を、皇太子殿下が持っていたからだ。


 ヴィクトルが持っているのは「政経試論」。

 ハルトが知っている、政治・経済の知識を格言集としてまとめたものだ。


 軍事技術じゃないなら大丈夫だろうし、目新しい知識なので絶対売れると思って出したのだが、そもそも識字率がそんなに高くないこの世界では、ほとんど利益にならなかった。

 ちなみに、ハルトは小説も何作か書いているが、そっちもあんまり売れていない。


 ハルトが若い頃に、少ない元手で現代知識を生かして儲けようと、いろんな副業をやったなかで、出版業は失敗した部類である。


「余は、幼き頃より帝都の図書館全ての蔵書を紐解いてきたが、万巻の書と比べてもハルトの知識には叶わぬ。まさに、お前こそは世紀を超えた天才と言えるな」

「はあ、そうですか」


 どっちが天才だよとハルトは思う。

 読書好きのハルトにしたって、図書館の本を全部読むなんて天才エピソードはない。


「この本の知識を頼りに、余は帝政改革を行ってきたのだ」

「なるほど」


 正しく理解し実行できる人間がいれば、たとえ断片であったとしても現代の政治・経済の知識は役に立っただろう。

 ハルトは、自分が全く知らない間に、帝国の歴史にかなり介入してしまったようである。


「ハルト。お前には見せたいものがたくさんあるのだ。おい、あれを持て」


 ヴィクトルが運ばせたのは、銃身がパイプオルガンのパイプで作られた手銃ハンドガンであった。

 ハルトが作った、粗末な手製の爆弾の残骸もいくつかある。


「こんなものをどうやって手に入れたんですか」

「カノンの街で、拾い集めた残骸を調べ、同じように再現してみた。こちらだって『幻の魔術師』の尻尾を掴もうと必死だったのだ。これは火薬という錬金術で爆発させて、鉄の弾を飛ばす道具なのだろう」


 思ったより、よくわかっている。


「火薬の製法をどこで?」

「それであれば、もともと帝国にもあったものなのだ」


 ヴィクトルは、古い文献を持ってくる。

 そこには、火薬の製法が記してあった。


「この硝石という材料が、我が国では取れなくてな。爆発させるだけなら、魔法のほうが便利なので廃れた技術だったのだ」


 硝石の精製ができないのであれば、そんなに大規模には使われないかとハルトはホッとする。

 中世風ファンタジー世界だと思っていたが、なかなか中世の技術レベルもバカにしたものではない。


 ハルトの前で、手銃ハンドガンを得意げに撃って見せて、どうだと言わんばかりだったが、銃身が破裂してしまっていた。

 銃の構造が理解できたのは凄いと思うが、なんでわざわざパイプオルガンのパイプを使っているんだろう。


 パイプを錫や鉛の合金より、鉄で作ったほうが破裂しにくいとはすぐに思いつくと思うんだが。

 科学技術の知識がなく、魔術と勘違いしているからだろうか。


 ともかく、ここは好都合なので、勘違いさせたままでいようとハルトは褒め称えた。


「お見事ですね」

「そうであろう! おぬしの魔術の種など、余にかかればお見通しよ」


 褒められたのが嬉しいのか、頬を紅潮させて満面の笑みを浮かべている可愛らしいヴィクトル皇太子は、まだ子供だなとハルトは微笑ましく思った。

 ただ、短期間にここまで構造を再現されたのは恐ろしくもあるし、これからもっと機密に注意しなきゃなと思う。


「殿下は、転生者ではないのですね」

「転生者とはなんだ?」


 嘘はついていないように見えた。

 現代日本の知識があるなら、ハルトの書いた本や拾い集めた残骸を参考にしなくても、もっと上手くできたはずだしな。


「殿下は、女神ミリスに才能タレントを与えられた選ばれし子だと聞いたので」

「それよ! おぬしの『卓越した知性』もそれであろう。女神ミリスは、ときに下界へ才能タレントを持った者を生み出すのだ。そこのルクレティア王女もそうだ」


「私?」と、いきなり名指しされたルクレティアはびっくりする。


 ハルトは、ヴィクトルの説明にうなずく。


「なるほど、なんだか謎が解けました」


 転生するときの女神ミリスの言葉を思い出す。


『……女神に選ばれし子には、天与の才能(タレント)が送られるのです』

『卓越した知性、類まれなる幸運、抜きん出た人望、衆に優れた器量……』


 ヴィクトル皇太子や、ルクレティア王女は、日本からの転生者ではないにせよ、女神に選ばれし子なのだろう。

 周りを巻き込んで無謀な戦闘ばかりするルクレティアが、こんなにも臣から敬愛されているのは、『抜きん出た人望』という才能タレントの力だったと言うわけだ。


「ハルトよ。余の持つ才能タレントは『衆に優れた器量』だ。この世界の統括者となり、世界をより良き方向へと導いていく責務があると思っている」


 それは大国の皇太子様らしくて素晴らしい。

 好きにしたらいいと思うハルト。


「ハルト、お前のことを余は師とも思っておる。また、その類まれなる才能タレントも余の統治には必要なもの。どうか、我が帝国の大宰相となって余を支えてくれぬか」


 まさに『衆に優れた器量』を以て、ハルトを幕下へ誘うヴィクトル。


「ちょっと、皇太子! あんた、なんで私の軍師を口説いてるのよ!」


 それを止めたのはルクレティアだった。

 前に出て、渡さないと手を広げてガードするルクレティアを見て、どうしたものかなとハルトは頭をかく。


「ヴィクトル皇太子殿下」

「なんだ」


「お誘いはありがたいのですが、宰相などという仕事は私には向いていると思いません」

「そうであるか。残念だ」


 意外にも、さっと諦めてしまうので、ハルトもルクレティアも拍子抜けする。


「なんだ、その顔は……フフ、余が諦めたとでも思ったか」

「えっ、諦めてないんですか」


「当たり前よ。この世界はいずれ全て余のものだ。一時、そなたの身柄は、ルクレティア姫のもとに預けておこう。やがては大会戦でそなたらを正面から打ち破って、そのときはそうだな。大宰相で満足せぬなら、副皇帝にでもしてやるさ」


 そう言い残して、麗しき皇太子殿下は貝紫色のマントをひるがえすと、笑いながら去っていった。

 世界の副皇帝とは豪気なものだが、ハルトはちっとも嬉しくない。


 より高い位を望んでるわけじゃなくて、面倒くさいだけなんですが……。

 そういうハルトのぼやきは、誰にも聞こえていなかったのであった。

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