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窓際の天才軍師 ~左遷先で楽しようとしたら救国の英雄に祭り上げられました~  作者: 風来山
第三章「幻の魔術師」

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33.帝都陥落

 ヴィクトル皇太子は、必ずや勝利を手にされるだろう。

 それゆえに、帝都を守る自分の出番はあるまいと、粛々と警戒していた『帝国の盾』ガードナーは、妙な報告を聞く。


「なんだと、敵に捕らえられたヴェルナー准将が帰ったと?」


 帝都の大門の前に、帝国兵たちが大量に集まっている。


「見知った顔が多くおりますので、兵士たちが門を開けてもいいかと聞いてますが」

「待て、私が確認しよう」


 なぜ、捕虜が解放されたのか。

 王国軍がノルト大要塞から出撃したので、邪魔になるからということであろうか。


 いやしかし、敗残兵を解放すれば、またすぐ帝国の戦力になると考えるはず。

 このタイミングで帝都に戻されるのはおかしい。


 どうも、きな臭いものを感じる。

 敵の策かもしれないので、大門の楼閣にまで赴いて声をかけた。


「ヴェルナー准将。確かにヴェルナーか!」


 目を凝らして見るが、確かにヴェルナーだ。

 敵地でドハン将軍と共に死んだものかとも思っていたが、足も生えている。


「ガードナー将軍、お久しぶりです。なぜ遠路はるばる故郷まで帰ってきた我らを、暖かく迎え入れてはくれないのですか」

「私は、殿下より帝都を守るように仰せつかっている。この門は、殿下の軍が帰還するまで開けることはできない」


 機動的に使える魔術師が百人残っているとはいえ、手元の兵はわずかに二千しかいない。

 帝都の強固な外壁あっての防衛計画なのだ。


 万が一にも大門を破られれば、いかに守将ガードナーとはいえ、帝都を守り切ることはできない。


「将軍閣下、何か我らに不審なところがあるのでしょうか?」


 そう思っていたからこそ帝都に入れないのだが、直接そう言われれば、心苦しい。

 ヴェルナー准将を始めとして、みんな見知った顔ばかりだ。


「不審などとは言っておらん。ただ、私は留守を預かる守将として、この戦争が終わるまで門を開けぬと言っているだけだ。今しばらく、そこで待ってくれないか」


 ヴェルナーは、負傷した兵士たちを前に出す。

 たくさんの馬車に乗せられた敗残兵たちは、みんな血が滲んだ包帯を巻いて苦しんでいる。


「こちらには、治療を必要とする戦傷兵もたくさんいるのです。帝都にいる家族に会いたがっている者も多い。役目の大事さはわかりますが、みんな帝国のために戦った者たちばかりです。どうか彼らだけでも、配慮してはくれないでしょうか」


 ヴェルナーの切々とした訴え、負傷者の痛々しい姿に、規律には厳しいが情に厚いところもあるガードナーの心が揺らいだ。


「うーむわかった、その者らだけ入れよう。門を少し開けてやれ」

「助かります」


 大門が開くと、負傷兵たちの馬車が入り込む。

 それと同時に外にいた帝国兵たちもわっと駆け込んだ。


「やった、帰れるぞ!」

「俺たちは生きて帰れたんだ!」


「ま、待て。負傷兵だけだと言っておろうが!」


 故郷を目の前にして、家族や恋人の名前を呼び、感激の涙を流す帝国兵たちの足は止まらない。

 門を守る兵が押し止めるのも聞かず、久しぶりに故郷に戻れた喜びに歓声を上げながら入城する。


 そうしてその騒ぎに紛れて、ハルト大隊を乗せた馬車もこっそりと帝都に入った。


「誠に申し訳ないガードナー将軍。故郷を前にして、兵の我慢が利かなかったようだ。我らを迎え入れてくれて感謝する」

「こうなっては仕方がない。これまでの事情は、こちらでゆっくり聞かせてもらおう」


 なんと言ってもヴェルナーは、ヴィクトル殿下が一兵卒から准将にまで引き立てた直臣中の直臣。

 そんな油断がガードナーにもあった。


「本当に助かりましたよガードナー将軍。まさか、剣の届く距離にまで招き入れてくれるとは……」


 微笑みながら手を広げて、抱きしめる素振りをしたヴェルナーは、不意をついてガードナーの腰から剣を取り上げる。


「な、何のつもりだ!」

「帝都は我々が占拠した、ということです。もう中に入ってしまったからには、抵抗は無意味だとわかってください」


「裏切ったというのか、なぜ忠臣である貴公がそんな真似をする!」

「すまないガードナー将軍。戦争が終わったあとで、この命をかけて必ず償いはする。これも、帝国のためなのです」


「帝国のためだと。ふざけるな! 兵士が多少中に入っただけで、まだこちらには百名の魔術師だっているぞ。いかに数にまさろうとも……」

「やはり素直に降伏してはくれませんよね。ガードナー将軍、あちらの大塔を見てください」


 ヴェルナー准将がそう言った途端に。

 ドーンドーンと鳴り響く音と共に大砲の弾が炸裂し、帝都の守りの要である円形型の側防塔が脆くも崩れた。


 街の中に入ったハルト大隊が、八門の大砲を浴びせたのだ。


「バカな! 帝都を守ってきた大塔が……」


 帝宮魔術師ですら、そのようなことは不可能だ。


「ガードナー将軍。聡明な貴公なら、ご理解いただけると思う。こんな奸計など使わずとも、大砲の力を使って大門を破ることもできたのです。これは一重に、王国、帝国、双方の犠牲を少なくするための策です」

「貴公の言ってる意味がわからん。ヴェルナーなぜだ、なぜ裏切った」


「私は殿下を裏切ったつもりはありません」

「ならばなぜだ……今の攻撃は噂に聞く『幻の魔術師』の力か。それが凄いことはわかった! だが、敵は帝国本土深くに攻め込んできている。殿下の軍略を持ってすれば、敵を討ち果たすことは十分に可能だ」


「もちろん、私だって殿下の勝利を信じております」

「ならば、なぜだ!」


「先程の攻撃の威力を見たでしょう。『幻の魔術師』と殿下が、帝都でまともに戦ったらどうなりますか?」

「それは……」


 いかに帝国軍が精強でも、敵とてむざむざとはやられない。

 決死の抵抗が行われるだろう。


「たとえ戦に勝ったとしても、麗しき帝都は無残に打ち砕かれて廃都となり、帝国三万の兵の命と臣民六十万の生活が失われる! ガードナー将軍、あなたにその覚悟がお有りか!」


 実際のところ、ハルトの所持している大砲はまだ八門。

 巨大な帝都を全て撃ち砕くほどの戦力には到底ならないのだが、そこはハルトが上手くハッタリを利かせた。


 盛大なるデモンストレーションでノルト大要塞の壁を軽々と撃ち砕いて見せたハルトに、捕虜となっていた帝国兵たちは腰砕けになったし、ヴェルナーはこのまま戦争になれば帝国とて危ういと思ったのは必定であった。


 なにせ、鉄砲も大砲もまだ魔術と勘違いしていて、ハルトを『幻の魔術師』と呼んでいる帝国軍である。

 ヴェルナーだけではない、ガードナーもその強大な威力を目の当たりにして、過剰に恐れてしまう。


 それに加えてヴェルナーの涙ながらの説得に、ガードナーの心が揺れた。


「しかし……」


 そうしている間にも、ガードナーに降伏を迫るべく、新たな砲撃で側防塔が撃ち倒された。

 帝都は、すでに大混乱に陥っている。


「これ以上の犠牲が出ないうちに降伏していただきたい。将軍が降伏しないならば、順番に帝都の防衛施設を破壊していく手はずになっています。次は、恐れ多くも皇帝陛下のおわす宮殿です」

「ま、待て! それだけはいかん!」


「ならば将軍。私を信じて降伏していただきたい! 王国の軍師、『幻の魔術師』殿が求めているのは、帝国との休戦なのです。これ以上追撃せずに王国軍を無事に返してくれるなら、今回の戦で占領した帝国の領地は全て返して戻ると言っています」

「それが本当なら、王国はなんでこんな侵攻を始めたのだ。こんなことに何の意味がある?」


「今回の王国軍の無謀な侵攻は、『幻の魔術師』殿も望まぬものであったそうです。だから、私は無益な犠牲を避けるべく、帝国の臣として命を捨てる覚悟で『幻の魔術師』殿に協力したのです。将軍も真の忠臣であるというのならば、何が帝国の臣民と偉大なる陛下の御為になるかをお考えください」


 その言葉は、私心なき至誠であった。

 ガードナーとて、『帝国の盾』と呼ばれる優れた名将だ。


 それがわからないはずもない。


「……わかった。皆の者、白旗を掲げよ。帝都はしばし、お前らに預けよう」


 帝都の城門で白旗が上がって、戦闘は終結となった。


「ガードナー将軍、かたじけない」


 頭を下げるヴェルナーから、ガードナーは自分の剣を奪い返す。

 そうして、門を下に降りて叫ぶ。


「だが、私だけは別だ! 一矢報いることもなく帝都を明け渡したとあっては、殿下に申し訳が立たぬわ。王国軍に、誰ぞと思わんものはおるか! 一騎打ちを持って、この戦を終わらせようぞ」


 そこにいた兵士たちは、巨漢のガードナーの恐ろしさに慌てふためいて逃げ惑う。

 ハルトだって、こんなデカブツの相手はまっぴらごめんだ。


「ハルト、ここは私が行って終わらせてもいいわよね?」


 姫様偉い。

 一騎打ちするにしても、ちゃんとハルトに確認が取れるようになっている。


「構いませんが、怪我をしないようにしてくださいね」

「わかったわ。ガードナー将軍! ルティアーナ王国将軍、ルクレティア・ルティアーナが相手よ」


 輝く魔法剣を掲げてやってくる姫将軍に、ガードナーは嬉しそうに呵々大笑する。


「おお、噂の姫将軍か。いいだろう、相手に不足なし!」


 一騎打ちは騎士の誉れである。

 遺恨無く戦争を終らせるためにも、ここは両軍の将軍が戦うべきであった。


「いやぁああ!」


 高らかなときの声と共に、疾風のごとく切りかかる姫将軍ルクレティア。

 その手に輝くは、王国の至宝である魔法剣レーヴァテイン。


 相手が並の将であったならば、その一撃で決まるはずであった。

 その必殺の一撃を、ガードナー将軍はそのまま鎧の篭手で受け止めた。


 彼の身につけている鎧は、皇太子より下賜された魔法鎧プレインシールド。

 ルクレティアの振るう剣と同じく、アダマンタイトの一枚板で作られた帝国最強の鎧である。


 どのような攻撃も通しはしない。


「どりゃあぁ!」


 すかさずガードナーも全力で打ちかかったが、ルクレティアの魔法鎧スターグリムも守りは固く、その攻撃を通さない。

 その巨体から振るわれる重い斬撃で、ルクレティアは吹き飛ばされたように見えたが、どうやら力を殺すために自ら下がったようだ。


 平気な顔で、また打ちかかっていく。


「やるわね!」

「そちらも見事!」


 ルクレティアの魔法剣と、ガードナーの振るう剣がぶつかり合い火花を散らす。

 恐るべき膂力りょりょくを誇るガードナーか、技と速度で勝るルクレティアか。


 お互い互角の魔法鎧を付けていることがあって、勝負は付かないように思われた。

 だが、数合打ち合ったのち。


 ひらりと攻撃をかわすルクレティアを追いかけようと、ガードナーが前のめりになった瞬間を狙って、ルクレティアが渾身の打ち込みを仕掛けた。


 キンッと音を立てて、ガードナーの振るう剣が折れた。

 魔法剣レーヴァテインの威力は強く、ルクレティアは巧みに同じ場所を切り続けてガードナーの剣を削っていたのだ。


 そして、それだけでは終わらない。


「ぐぬぬぅうう!」


 ルクレティアの魔法剣が煌めいたと思うと、ズバッとガードナーの腕が断ち切られた。

 剣が折れたことで動きが止まってしまった瞬間に、さらに下段から切り上げて鎧のつなぎ目ごと右腕を断ち切ったのだ。


「そこまで!」


 ガクッと膝を突いたガードナーに、ヴェルナーが叫びながら駆け寄る。


「やりすぎじゃないかな……」


 ハルトが思わずつぶやいた。

 剣が折れたところで、勝負はついていたように見えたんだが、まったく戦闘力のないハルトには騎士の戦いは恐ろしく見える。


「えっ、ごめんなさい! これぐらいやっとかないとまた戦おうとする騎士もいるから、やりすぎちゃった!?」


 その判断はハルトにはつかないけども、どうやら正しかったようだ。


「……俺の負けよ。さあ、一思いに殺すがよい」


 そういって潔く首を差し出そうとするガードナーを、ハルトとヴェルナーは必死になだめる。


「そんなことをしたら遺恨が残ってしまいますから」

「そうですよガードナー将軍。あなたは、帝国を守るために生きなければならない人だ!」


 切られた腕は、すぐであればなんとか回復ポーションでつなげるようだし、まあこれぐらいはしょうがないかと思う。

 また間違えてしまったかと思った姫様は、半泣きになってハルトの前に跪く。


「ごめんなさい。私が間違ってたらお仕置きして……」

「いや、姫様もよくやりましたから」


「ほんとに?」

「ええ、おかげで敵将は降伏してくれましたからね」


「じゃあ、褒めて」

「よくやってくれましたよ」


 これどうしたらいいんだと思いつつ、姫様の燃えるような赤髪を撫でてあげる。

 嬉しそうにすり寄ってくる姫様の無邪気な笑顔を見て、なんだか放し飼いの猛獣を飼ってるような恐ろしい気がするハルトであった。

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