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窓際の天才軍師 ~左遷先で楽しようとしたら救国の英雄に祭り上げられました~  作者: 風来山
第三章「幻の魔術師」

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29.帝都バルバスブルグ

 バルバス帝国の帝都バルバスブルグ。

 六十万の民をそのうちに抱える、壮麗にして堅固なる帝国の首都である。


 その中心にある偉大なる帝城の謁見の間、あまりにも大きな玉座に座る金髪の小さな少年が、頬杖をついてつまらなそうに伝令の報告を聞いていた。


 バルバス帝国皇太子、ヴィクトル・バルバス。

 御年、わずかに十三歳。


 帝国最高位の血筋に生まれ、衆に優れた器量を兼ね備え、幼き頃よりその類まれな才能タレントを示した彼を、人は女神ミリスが帝国に与えた恩寵おんちょうと呼んだ。

 瞬く間に、帝国の最高権力を握り、年老いて一線を退いた皇帝に変わって軍務、政務の実権を握った天才少年である。


 その輝く金髪と白皙の頬は、伝令の兵士が思わず、役目も忘れて目を奪われてしまうほどの美貌である。

 絶世の美女とうたわれた母親譲りで、見目麗しい美少女のようでもあった。


 しかし、その可愛らしい容姿に反して、性格は猛々しく苛烈なほどでもある。

 皇帝権力を強化しようとする皇太子に反発する貴族や廷臣のなかには、ヴィクトリア姫などと揶揄するものがあったが、ヴィクトルはそれを決して許さない。


 相手がどのような大貴族や大官であろうとも、自分に対する侮蔑は絶対に許さず、一人ひとり冷酷に潰していく。

 一方で従順な者は許し、たとえ相手が平民であっても有能な才能を見出して取り立て、大々的な帝政改革を断行した。


 わずか十三歳の少年は、次第に恐れと敬意を抱かせる君主として成長しつつあった。

 報告を聞いたヴィクトル皇太子は、張りのある声で答える。


「王国軍は兵を三つに割ったと、本当に見間違いではないのか」

「ハッ、いくつも同じ報告が入っておりますので、間違いはないかと」


 敵はアホウかと、ヴィクトル皇太子はつぶやく。

 ルティアーナ王国のシャルル王太子か、その作戦参謀か。


 あるいは、その両方が救いようのない愚物なのであろう。

 帝政改革を行っているヴィクトル皇太子が痛感していることだが、貴族社会ではままあることだ。


「それにしたって、信じられん愚策だな。あの『幻の魔術師』は、参戦していないのか」


 ノルト大要塞を落とした天才軍師、皇太子が密かに恐れている『幻の魔術師』は今どこにいるのか。

 この大戦に参戦していないのか。あるいは、作戦に携われない地位の人間なのか。


 どちらにしても、『幻の魔術師』の天才的な軍略を評価できない敵の首脳部はあまりにも愚か、無能の極みといってもいい。

 そんな連中が、権力を持っていること自体が害悪と言えよう。


 まあいい。

 愚かな敵を全て攻め滅ぼせば、『幻の魔術師』も出てこざるを得ない。


 むしろ、勝負は最初の決戦を終えてからのちだ。

 そこに灰色の総髪の騎士が入ってくる。


 『帝国の剣』と呼ばれる、シュタイナー将軍であった。

 その手には、血まみれの貴族の首がぶら下がっている。


「皇太子殿下、大公爵の素っ首ここに!」

「おお、シュタイナー。ご苦労であった」


 ちょっとお使いに行ってきたと言わんばかりの気軽さで、シュタイナー将軍は貴族反乱の首謀者の首を差し出す。


「あれほど余を困らせてくれた門閥貴族派の盟主が、こうなればあっけないものだ」


 ブリューゲルト大公爵は、皇太子の手の内で踊らされていたのだ。

 ノルトラインを失ったミスドラース伯爵が、ブリューゲルト大公爵のもとに逃げ込むことも、王国と密かに通じていることも、皇太子には全てお見通しであった。


 その上で反乱に備えて、門閥貴族派の中に皇太子派の手の者を埋伏させていたのだ。

 ブリューゲルト大公爵が雇い入れた傭兵までもが、皇太子にすでに雇われていたスパイだったのだから徹底している。


 こうして、反乱が起こると同時に、邪魔な門閥貴族派をまとめて片付けたシュタイナー将軍が、連れて帰った帝国兵が一万五千。

 これで帝都の戦力は、三万に増強された。


 この段階で、王国側と互角の戦力を手に入れたことになるのだ。

 帝国の門閥貴族派も、王国軍も、ヴィクトル皇太子の誘いにまんまと乗ってしまった。


 よしと、立ち上がったヴィクトル。


「では、シュタイナー。続けてで悪いが、余とともに……」


 その声を遮って、シュタイナーは淡々と言う。


「すでに、王国軍を成敗する準備は整えておきました。殿下自らのご出陣とあって、将軍どもはみんな張り切っておりますぞ」


 その言やよしと、ヴィクトルはうなずいた。

 さすがはシュタイナー。神速を尊ぶ、帝国騎士のかがみである。


 連戦の疲れも見せず、ピクニックに出かけるような調子で、言ってのける。

 さすがは我が剣、頼もしいやつよと皇太子は嬉しそうに笑った。


「しかし、惜しむらくは敵の将が愚かすぎることだな。せっかくの決戦だ、噂に聞く『幻の魔術師』と一戦交えてみたかったが……」

「王国に勝ち進めていけば、いずれまみえることもあるのではありませんか」


 それもそうだ。

 むしろ、『幻の魔術師』の影が見えぬことこそ不気味。


 ここは、油断せずに一気に片を付けるべきだろう。


「ガードナー!」


 ヴィクトル皇太子は、その場に控えていた角刈りの巨漢、ガードナー将軍に声をかける。

 皇太子よりアダマンタイトの大鎧を与えられたガードナーは『帝国の盾』と呼ばれ、シュタイナーと共に並び評される守りに長けた将軍だ。


「ハハッ!」

「兵二千と、魔術師を百人ほど残していく。お前が指揮するなら、帝都の守りはこれで十分であろうな」


「十分すぎるほどかと。いつもどおり、お任せください」


 ヴィクトル皇太子は満足げに頷いて、高貴なる貝紫色のマントを翻して帝都を出陣した。

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