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窓際の天才軍師 ~左遷先で楽しようとしたら救国の英雄に祭り上げられました~  作者: 風来山
第三章「幻の魔術師」

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28.王太子進軍!

 ついに帝国に向けて、王国の総軍が出陣となり、清冽を思わせる青地に白百合の王国旗が高々と掲げられた。


「ルティアーナ王国シャルル王太子殿下、ご出陣!」


 大要塞の教会の鐘楼しょうろうが祝福の鐘をならし、三万を数える兵士たちが、ドッと歓声を上げる中、ゆっくりと白馬に乗った王太子が護衛隊を引き連れ駆けていく。

 ついにこの日が来たと、寝る間も惜しんで奔走したワルカスは感慨に胸打たれていた。


 至宝の冠を戴き、金襴緞子きんらんどんすに身を包んだ輝ける王太子シャルルは、全軍を前に颯爽と現れ、聖剣を掲げて厳かに声を張り上げる。


「皆の者! 私、シャルルはここに、邪悪なるバルバス帝国を討つことを宣言する! 帝都バルバスブルグを落とし、この戦を王国の勝利で終わらせる日まで、戦い続けることを女神ミリスに誓おう!」


 優しいと言えば聞こえがいいが、気弱と思われていたシャルル王太子。

 その印象を払拭する猛々しい宣言に、兵士たちは酔ったように「シャルル王太子バンザイ!」を連呼した。


 全ては、王太子の軍師ワルカスの作った脚本であり演出であった。

 王太子は、筋書き通りにしゃべっているだけだ。


「ふーむ。猪突姫とハルトの第三軍は、コソコソと出ていきましたね」


 なにか文句を付けてきたら、シャルル王太子の最高指揮権を使って、さらに難癖をつけてやろうとワルカスは待ち構えていたのだが、あっけないものだ。

 もちろん、こちらの思い通りに動いてくれるならそれでも構わない。


 あの軍師ハルトは、油断ならない。

 万が一にも、何かの奇策で王太子が翻意ほんいでもしたら事なので、大人しくしてくれるならそれに越したことはない。


「さすがのノルトラインの英雄も、今回は何もできんでしょうな」


 ワルカスに追従を言うのは、第二軍を率いるコンデ侯爵の軍師スタンプだ。

 参謀本部の次官補を務める彼は、ワルカスの腰巾着こしぎんちゃくである。


 第一軍の一万五千と、第二軍の一万は、ワルカスの自由となる。

 軍官僚としても有能なワルカスは、遠征における補給の重要性もきちんと考慮している。


 第一軍と第二軍は、事前に情報も収集して、物資の補給路の確保も済んでいる。

 王国の予算で補給もたっぷりと、第三軍は勝手にしろというものだ。


 もともと、第三軍は最初から当てにしていない。

 兵を五千も第一軍に引き抜いてやったので、第三軍は少ない兵数で資源都市リューンの攻略にも苦労するだろう。


 ハルトは、楽したいと言っていたのだから、ゆっくりやっていればいい。

 ゆっくりしすぎて攻略に失敗して、敵地で邪魔な猪突姫ともども死んでくれたらなおいい。


 一方ワルカスは、一万五千の兵を率いて堂々と王者の進軍。

 帝都に攻め寄せ、スタンプの第二軍一万と、帝国の門閥貴族軍とで、帝都バルバスブルグを挟み撃ちにして陥落させる。


 そうして、シャルル王太子殿下はバルバスの皇帝ともなり、大陸の統一王としてシャルル大王と呼ばれることになるだろう。


「さすれば、私は大宰相というところかな」


 大宰相ワルカス・カーツの名が、王国の歴史書に永遠に刻まれることとなるだろう。


「その時は、私もお引き立ての程をよろしくおねがいします」


 参謀本部次官補のスタンプは、かなり年上にもかかわらず、若いワルカスにお追従を言う。

 ワルカスのような名門貴族出身ではないからで、彼も苦労している。


「フハハハ、任せておきなさい。王国もそろそろ、世代交代の時期でしょう」


 いつになく上機嫌なワルカスは、心なしかいつもの目の隈も薄くなっているほどで、機嫌よく笑顔で応えた。

 名門貴族出身で、最高学院を首席で卒業したワルカスの天才的な作戦を、参謀本部総長のキースも、宰相のプレシーも理解できずに、反対しおったのだ。


 シャルル王太子がいたから良かったものの、あの愚物どもには反吐が出る。

 ワルカスが大宰相になった暁には、真っ先にあの無能な老人どもには引退してもらおう。


 思えば、豊かな王国を無難に治めて、豪華王の名で知られた国王ラウールも年老いて衰えが見えている。

 猪突猛進しか知らない、愚かな第一王女ルクレティアを溺愛しているのも目に余る。


 そのルクレティアの軍師ハルトが、ノルト大要塞を陥落させたことが、今回の戦の契機となったのだ。

 もしや、ラウール陛下はシャルル王太子を廃して、ルクレティアに婿を迎えて王国を治めさせるつもりではないか。


 そんな疑念が、噂されるようになったのだ。

 思えば、今回の大遠征にシャルル王太子が重い腰をあげてくださったのも、そのおかげと言える。


 そこだけは、ノルトラインの英雄であるハルトにワルカスも感謝している。


「だが、英雄は都合よく使い潰されるものと知るべきでしたね」


 天才軍師などとおだてられて、小癪にもルクレティア姫に取り入っても、所詮は最高学院の落ちこぼれ。

 シャルル王太子を押さえているワルカスの敵ではなかった。


 帝国軍も、王国軍も、みんなワルカスの手の上で踊っている。

 笑いが止まらない。


「ではスタンプ。帝都で会いましょう」

「ハッ、帝都で!」


 足早に先出したハルトの第三軍に続いて、ワルカスの第一軍とスタンプの第二軍も、帝国の領土へと進撃した。

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