18.待ち伏せなら、地雷だよねやっぱり。
敵襲と感じた帝国軍歩兵は、すぐさま密集陣形を取る。
そのような訓練を受けているからなのだが、これはもう反射みたいな動きだ。
そして、そのうちの誰かが地雷を踏んでしまうと――
「ぎゃぁぁぁ!」
皮肉なことに密集陣形が、爆発の被害を拡大させる。
「熱い! 熱い!」
「……腕が、俺の腕がぁ」
ボーン、ギャー、ボーン、ギャーの繰り返しで、帝国軍はあっという間に兵の数をすり減らしていく。
「こんなのに付き合ってられるか!」
金で雇われただけの傭兵たちは、我先に逃げ出した。
可哀想なことに、逃げた先で地雷を踏んでしまって吹き飛ばされた。
地雷原深くに誘い込まれてしまった帝国軍は、まるで喉に釣り針が引っかかった魚のように、暴れれば暴れるほど地雷を踏んでしまう。
実に巧妙で、嫌らしい配置だった。
「ど、どうすりゃいい。逃げるっていっても、どっちに逃げれば?」
「もう嫌だー! うあぁぁぁああ!」
恐怖のあまり、あらぬ方向に走り出した兵士がボーン! と弾けてそのまま無残な屍をさらす。
ゾッとした顔で、兵士たちは顔を見合わせる。
征くも地獄、退くも地獄。
恐ろしくて身動きすらとれない。
もはや、これは戦どころではない。
そんな中で、猛将ドハンの叫びが響く。
「怯むな! ともかく状況を確認せよ!」
敵の姿が見えぬのに、一方的に攻撃を受けているのが不可解だ。
それが兵の動揺を誘うのだが、そこは肝が太いドハンだ。
周りが騒ぐせいで、却って頭は冷えて敵の攻撃を観察する。
まるで地中から火が噴き上がっているようだが、敵は火山の噴火のようなものを起こせるのか。
それとも、これも『幻の魔術師』の幻術かと手で額をおさえる。
直接の打撃はなかったが、ドハン将軍とて爆風のダメージを受けている。
「将軍、ここは一旦引きましょう。帝宮魔術師団がおりますので、退路は開けます。なあ、魔術師イージウス!」
ヴェルナー准将がそう提案する。
いや、准将でなくても誰だって撤退しかありえないと思う。
「見たところ、時間差で発動する罠のように思われます。一度爆発の炎が噴き上がったあと、二度目はありません。引くならば、まっすぐに後退すればよいかと」
師団長の任を預かり、次席帝宮魔術師の地位にある白髪の老魔術師イージウスは、学究のような面持ちで、冷静にそう報告する。
科学と魔術の違いはあれど、帝宮魔術師は高度な訓練を受けた知的エリートだ。
攻撃の性質ぐらい見抜けなくては、魔術師は務まらない。
爆発の数が多いのにはさすがに驚くが、単発ではもっと派手な魔術だってある。
この程度の爆発で判断を鈍らせる人間は、魔術師失格である。
「魔術師イージウス、一度爆発すれば終わりの罠と言ったな」
「はい」
「ならば、対策は簡単だ。おい命令だ、雑兵どもを前に立たせて歩かせろ」
ドハンは、ニヤッと笑ってそう命じた。
「何をなさるおつもりですか将軍!」
「まだ街への侵攻が済んでおらんのだ。この激しい音で馬も怯えておるし、貴重な騎兵を使い潰すわけにもいかんだろう」
つまり、軽装歩兵に先方させ、罠を踏ませて進路を切り開けと言っているのか。
「このような状況で雑兵が、そんな命令聞くとも思えません……」
「ヴェルナー准将、それを聞かせるのがお前の仕事であろうが!」
「すでに兵の士気が低下しております。今引けば犠牲もまだ少なく、再戦を期することも……」
「ならん! 雑兵が進まぬなら、後ろから督戦してやればいい。全軍に命じる、生き残りたければ進め! 臆して退く者あらば、このドハンが突き殺してくれるぞ!」
帝国軍を率いる猛将ドハンは、まだ侵攻を諦めきれなかった。
レギオンの街は、もう目に見える位置なのに、ここまできて引けるわけがないと考えたのだ。
確かに街の守りが地雷だけであれば、それも叶ったかもしれない。
結果的に、この判断が帝国軍の被害をさらに甚大なものにすることとなる。
※※※
そんな感じで、侵攻してきた帝国軍が右往左往しているそのとき。
その先のレギオンの街の前の天幕で、ハルトが大あくびをしていた。
「ふぁぁ」
爆発音がしたので、天幕からでてきて双眼鏡で覗く。
「おー、派手にやってるなあ」
まだ朝も明けやらぬが、薄暗がりの中でも地雷の爆発はよく見える。
地雷地帯に入り込んだ敵をグルッと囲むように設置してある。
先方で地雷が爆発して、それに動揺して陣が乱れれば今度は左右の地雷原に触れてしまう。
まっすぐな性格のドハン将軍に合わせて作ってみたのだが、まさかこうも綺麗に決まるとは思わなかった。
「ハルト様、コーヒーです」
「うん、ありがとう」
さすがに戦地の陣営なので、エリーゼもメイド服ではなく軍服を着用している。
「ハルト様の読みどおりでしたね!」
「しかし敵さんも、こんな朝方に攻めて来るとはご苦労なことだなあ」
攻めてくるとわかっていれば伏兵を配置するのは簡単だが、その時刻だけは向こうが決めることだ。
夜陰に乗じての奇襲の可能性を考慮して、こうして待ち構えていたのだが早朝に来るとは思わなかった。
むしろ夜更かしは得意なハルトだが、朝方は弱い。
野営でも、眠気覚ましに濃いコーヒーを淹れてくれるエリーゼが、ハルトにとっては何よりの援軍であった。
そこに白馬を疾駆させて、姫様がやってきた。
「王国北方軍将軍、ルクレティア・ルティアーナ。見参!」
ほんとに戦場で見参って言う人がいるんだと、ハルトは呆然と馬上の姫様を見上げるが、確かに見参って感じである。
アダマンタイトとミスリルで作られた輝く魔法鎧に、アダマンタイトの宝剣を腰にぶら下げた勇壮な姫将軍だ。
配下の騎士たちは、常に猪突猛進の姫様を必死に追いかけてきている。
朝っぱらだというのに、姫様はたいそう元気に張り切っているなあと、ハルトはおざなりに挨拶した。
「ああ、どうも」
寝癖のある頭をくしゃくしゃと撫でるハルトに、エリーゼは「ハルト様、御髪が乱れております」と、さっと櫛を通していく。
「よーし、全員揃ったわね。では、突撃!」
「ちょ、ちょっと、いきなりなにを言い出してるんですか!」
姫様が無茶苦茶言うから、さすがのハルトも驚く。
名目上は、姫様が指揮官だから、勝手をやられると困るのだ。
「なによ!」
「なによじゃないですよ。大将が一人で突撃なんてダメですよ」
まだ全員揃ってもいないし、地雷原にハマっている敵に巻き込まれたらこっちにも被害が出るだろう。
それ以前に、あそこに突っ込むとか、ありえないと思うんだが……。
そうだった。
この姫様には、まともな常識が通用しないんだった。
「せっかくの追撃のチャンスなのに……」
ところどころで起こる爆発と血煙の中で敵がばっこばっこ死んでる戦況を、そう見るのか。
恐れを知らないというのは、恐ろしい。
地雷の配置は、各部隊の隊長には通達してある。
後で地雷を回収する手間を考えて、本体から小石に偽装した目印が露出しているから気をつければ踏まないだろう。
若干、敵に露見する恐れもあったのだが、薄暗いので気が付かなかったようだ。
仮に気がついたとしても、容易に大軍で通れないような配置なので、足止めには十分。
うーんと、ハルトは唸る。
こっちは地雷の位置を知ってる。
向こうは知らないというアドバンテージを生かして、士気が落ちた敵を突撃で切り崩して敗走させる戦術は、場合によってはありかもしれない。
しかし、乱戦になって共倒れになる可能性も高いので危険過ぎる。
「姫様、軍師ハルト殿の作戦には従うという約束ですぞ」
クレイ准将にもそう言われて、姫様は「わかってるわよ」と言ってくれる。
「まあ、戦わずに勝つのが一番ですからね」
ハルトが騎士の誉れを全否定するようなことを言うので、騎士道精神に厚い姫様はムスッとしている。
「でもどうするのよ。敵はまだ諦めてはいないようよ」
姫様の指摘どおり、帝国軍は陣形を入れ替え、軽装歩兵を前に出して前進させる兆しを見せている。
どうやら地雷に気がついたらしい。
地雷原を歩兵に踏ませて、人海戦術で強引に突っ切ろうというわけか。
もちろんそれぐらいはするとの予想は立てていたが、想定した中でも最悪の選択だなあとハルトは嫌そうな顔をする。
「次の手は考えてますよ」
ハルトの合図で、キュルキュルと音を立てて投石機がやってきた。





