第一章 ~花畑~
人間に生まれたかった。
いや、違う。
愛される何かに生まれたかった。
今日も今日とて、恨まれる。
「またアンタは!この店を潰す気かい!?」
「そ、そんなんじゃ「いいから出ていきな!アンタはクビだよ!」
そう言われ閉められるドア。
一人道に尻餅をつき、呆然と店を見上げる僕。
はぁ。またやっちゃった。今月二回目の皿割り。
僕はクロエ。よく女の子の名前だってからかわれるけど、男だよ。
さっきのは、ついさっきまで働いていた店からのクビ発言。
今年で6回のクビ。
まだ半年も経ってないのに。
「弱ったなぁ……もう近くには店という店もないし……。」
辺りを見回すが、ガラの悪い大人や、お腹を空かせて倒れ込んでいる猫。それしかいなかった。
そう。お察しの通り、ここは[超]が沢山ついていいほどの貧しい村。
それ以外は、他の村と変わったところは見当たらない。
……ただ。
「お母さん。あの男の子、目の下に鱗が付いてる。」
「こらっ!見ちゃいけません!」
僕は、他の人と少し……ううん、だいぶ変わっている。
目の下に、鱗のようなものが付いているからだ。
「おい、あいつか。例の人型ドラゴン。」
「あぁ、呪われた人間なんだとか。」
「なんだよそれ、気持ち悪ぃ。」
近くで誰かがそう言ってる。
僕だって、こんな、こんな姿で生まれてきたかった訳じゃないっ!
僕は耳を塞いで、その場から走り去った。
もう嫌だ、聞きたくない。
しかし、無駄に人が溢れかえってるこの村では、あちこちから僕の噂が聞こえてくる。
嫌だ嫌だ嫌だっ!
もう言わないでっ!
一人にさせてっ!
僕は泣きたい気持ちを抑え、とにかく走った。
僕は記憶があまりないからわからないけど、殆どの人型ドラゴン(僕らはドランと呼んでいる。)は、親の遺伝子から鱗がでてくるらしい。
でも、僕は例外だった。
どうやら記憶喪失とやらで、気がつけば路地裏に倒れていたらしい。
それで、知らない人に助けてもらって、困り事もなく過ごしてたんだけど。
ある日、その人は人が変わったかのように、何かあれば僕に当たるようになった。
僕は耐えきれなかった。
だから、家を出て、住み込みOKのバイトを探して、必死になって頑張ったのに!
なんで?
どうして、
こんな簡単に
全てが崩れていくの……?
気がつけば草原に出ていた。
とても綺麗だった。
草しかないけど、それでも、立派に生き生きと生えていた。
「こんな場所、あったんだ。」
知らなかった。今まで色々な所を歩いてきたのに。
色々と言ってはみたものの、そういえばあの町から出たことはなかった気がする。
「それにしても…。」
その光景は、綺麗としか言いようがなかった。
遠くを見ると、花畑があった。
よくは見えないが、色々な花が咲いているのは確かだ。
「……行って、みようかな。」
少しだけ、すぐにバイトを探さないとだし、もうすぐ日が暮れるからね。
フワッと辺りにいい香りが漂う。
「良い匂い。あんな村のそばにこんな……。」
言葉が出てこなかった。
綺麗、美しい、ううん、そんな言葉じゃあ表せないくらい素晴らしい場所だった。
花の知識はないが、近くの花屋で見た事がないから、珍しい花が何種類もあるっていうのはわかった。
(あそこの花屋は種類も少ないしわかんないけど。)
ふと僕はその場に寝転んだ。眠たくもなんともないのに、寝転んでみたいとも思わ無かったのに。
まるで花畑の一部になったように、僕は動きたくなくなった。
まあ、このまま此処に居てもいいんだけど。
動いても、行く当ても、帰る場所もない僕に動く必要なんてなかった。
「このまま消えて終えばいいのにな。」
涙がこぼれた。
泣いても何もならないと思ってはいるのに、
涙が止まらなくて、
それを必死に抑えようとして、
嗚咽が漏れた。
「うぁっ……うっぅ…。」
もう嫌だ。
どうして僕は生きてるの?
さっきの店でだって失敗するし、他の店は気味が悪いからって採用してくれないし。
お金も持ってない、家もない僕に、生きてる価値なんてあるの?
「誰かっ、助けて、よっ……。」
「そこの人ー。」
声が聞こえた。拭っていた手をどける。
すると目の前に男性の顔が迫っていた。
「ぷえぁっ!?」
突然のことで頭がいっぱいいっぱいになり、素っ頓狂な声を上げてしまった僕に対して、彼は必死に笑いをこらえていた。
「ぷえぁってっっ、くくっ……っ。」
「そ、そんなに笑わなくてもいいでしょう!」
「あーごめんごめんって、そんなことより。」
彼はコホンっと咳をすると、
「その花、人を眠らせて食っちまう化けもんみたいな花だから、早く離れた方がいいぞ。」
と言った。
え……?これが、本当に?
そういえば、さっきから視界が、歪んでっ……。
ドサッ。
僕は力なく倒れた
「お、おい!しっかりしろっ!」