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96話 引きの強さはさすがです。

「ナスト、その水晶球にカードをかざせ」

「へいへいっと。ユウト、この階の魔物は俺1人で相手してもいいか? 次は最下層だろ? 準備運動しておきたい」

 ナストとユウトは一度15階層のセーフティエリアを確認してから20階層へ到着し、再び魔法陣の登録をしてから装備を整えていると、ナストが提案。前回ヒメカとここへ来た時は、初めてこのダンジョンに挑戦するということで割と慎重に進んだので時間的余裕はあるし、ナストならば20階層の階層ボスであってもさくっと倒せるだろうと踏んだユウトはナストの提案を受け入れることにした。

 そしていざ階層ボスへと挑戦するが、やはりナストだけでもあっさりと討伐してしまう。

「うーん、あんま準備運動にはならなかったな」

「大丈夫か?」

「お前もいるし、おそらく大丈夫だろう」

「わかった。じゃあ最下層まで行こう」

「了解」

 そうして最下層まで一気に走ったユウトとナストは、あっという間に最下層に到着。ヤン達ボス部屋組と合流することになる。

「ヤンさん」

「おー……? ってユウト!? ……話半分で聞いていたが本当に早い到着だな」

「嘘は苦手です。それより亜種は確認できましたか?」

「いんや。全然だな。で、この後のことだが、休憩は必要か? 今別グループが挑戦中だが大丈夫そうなら次に入ってもらうつもりなんだが……」

「問題ありません」

「よし。ではもう一度確認な。亜種が出たら中から扉を開けてくれ。ギルド職員1名と俺達『光の風』が中へ入って存在確認、観察をする。俺は職員の護衛をするが、他の奴らは討伐に参加する」

「なるべく色んな攻撃をするように立ち回る、でしたよね?」

「ああ。亜種初挑戦のナストには申し訳ないが、出来るだけ情報を得たいからよろしく頼む。まあ、俺達もミノタウロス亜種は初めてなんだがな」

「いえ、大丈夫っす。本人達から事前情報は貰ってるし、ユウトもいるんで」

「それは心強い」

 そう言ってヤンはナストの肩を叩き、ギルド職員とパーティメンバーで打ち合わせするためにその場を離れた。

「……ナストはギルド所属になりたいのか?」

 ヤンが職員達と話している姿を憧れるように眺めているナストへ、ユウトは声をかけた。ウルプスを拠点にするとすでに決めているナストには、ギルド所属冒険者というのは目標なのではと考えたからだ。

「んー……どうだろ? ランクを上げればなれるってもんでもないし、まあ、それだけギルドに貢献したってことだから普通に尊敬する」

「……そうか」

 「ギルド所属」に興味がないユウトはいまいち共感出来ずにいるが、ナストがヤン達『光の風』に憧れていることだけは分かった。ウルプスには現在ギルド所属パーティがいないことをナストから聞きながら、時々質問を投げかけながら時間を過ごすのだった。



「お、前の連中が終わったようだな。ナスト、ユウト、頼んだぞー」

「は、はい!」

「はい」

 ナストとユウトがすることは、通常個体ならばそのまま討伐→地上へ戻ってもう一度最下層まで走る。亜種個体ならば片方が相手取りながらもう一人が扉を開けて待機しているヤン達を部屋へ招き入れ、そのまま情報収集がてら討伐→地上へ戻り、条件を変えながら亜種が出るパターンを検証することになっている。

(とりあえず亜種が出ないことには何とも言えないが……)

 扉に手を掛けるナストの背中を見やりながら、扉が開くと一緒に中へ入っていった。



 背後の扉が完全に閉まるのを感じながら、抜剣した状態で部屋の中央へ歩を進めるナストとユウト。直前に、魔法による各種強化を行っており、マナポーションで魔力の回復もしているので万全の状態ではある。

 2人が中ほどまで来ると、ズシンズシンと重量感のある足音が聞こえてくる。

「運がいいな。一発だ」

 ユウトは見覚えのある赤い巨体にわずかに口元を緩ませた。

「ナスト、亜種だ。外で待機している人達を呼んできてくれ」

「分かってる」

 目を見開いて巨体を見上げていたナストが、ミノタウロス亜種から目を離さないようにじりじりと後退し、亜種の攻撃範囲から外れると一目散に扉へ走った。

 ミノタウロス亜種はナストなど目もくれず、ゆったりとした動作で斧を構え、ユウトを見下ろした。

(……? 何だか前とは……あ)

 ミノタウロス亜種は大きく息を吸い込むように状態を反らしながら魔力を練り上げているのをユウトは感じた。ヒメカから聞いていたが、それにしては練り上げた魔力量は大した量ではない。

 ユウトがそんなことを考えていると、ミノタウロス亜種が人一人包み込んでしまう大きさの炎の塊をユウトに向けて吐き出した。

「魔法主体で戦う個体か」

 ユウトは熱気を感じながら氷魔法を展開、そのまま炎の塊にぶつけて相殺した。



 ユウトがミノタウロス亜種の初撃を相殺した頃、『光の風』とギルド職員を連れたナストが部屋へ招き入れていたため、その様子は部屋の外で待機していた他の冒険者達も目にすることとなる。

 本当に亜種が……と動揺が広がるが、ナストが開いた扉が閉まるとその声は聞こえなくなる。

「おー。一発で亜種出すとかお前らやるなぁ」

「え、俺も入るんですか? ユウトだけじゃないっすかね?」

「はいはーい。そこ、雑談してないでさっさと持ち場につく!」

 マリベルの一喝でナストは慌ててユウトの方へ走っていき、ヤンはギルド職員の視界を遮らないが、すぐカバーできる位置で剣と盾を構えた。

 エーランド、ミスト、マリベル、ナストがミノタウロス亜種を囲むように位置取り、それぞれ攻撃を開始する。

「ぅ熱っ! こいつ近づいただけでめっちゃ熱い!」

 軽戦士なので近接戦をするミストが踵側から亜種の足を切りつけると、肌から漏れる熱気にすぐさま後ろに飛んだ。

「大丈夫!?」

「へーきへーき。防具のおかげで火傷はしてない」

 事前情報から魔耐性防具を身に付けていたミストに怪我はない。弓で攻撃していたマリベルが遠くから声をかけると、ミストは飄々とした返事をする。エーランドも初手は弓を使っていたので無事である。

 ユウトはミストの言葉を聞き、少し距離を取って意識してミノタウロス亜種の魔力の流れを探る。すると、体内の魔力が活性化して体表面を覆っていることを知る。前回の亜種とは本当に全く違う戦い方をする個体である。

「魔力が全身を覆っています。初手魔法攻撃を仕掛けてきたりと、前回と違う行動ばかりです」

「了解だ。ヤン! 聞こえたか?」

 ユウトの声は『拡声』魔法で全員に聞こえている。確認のためにエーランドが扉付近のヤンに声をかけると、「おー」という返事が聞こえて来た。

「ではユウトは中距離で回避優先。魔法で俺達のフォローを頼む」

「了解しました」

 作戦は予定通り、ヤン以外の『光の風』とナストが中心で攻撃、ユウトは魔法に専念しながらミノタウロス亜種の情報収集をする。前衛はミストとナスト、中衛がユウト、後衛にマリベル、エーランドは現在後衛で、必要ならば前に出る陣形を取った。指揮はエーランドが取る。

「予定は変更なし! 総員かかれ!」



 ミノタウロス亜種と戦闘すること暫し。『鑑定』で相手のHPをマメに確認していたユウトは、そろそろ半分を切るのが分かっていた。

(接近されると斧で牽制、距離が開くと炎弾で攻撃ばかりだな)

 炎弾がヤンとギルド職員の方向にも飛ぶ場面もあったが、尽くユウトが阻止。魔法主体の行動に慣れていないユウトでも、今の所は問題なく動けている。

(戦闘中に魔力感知はキツイんだな……攻撃をしなくていいから何とかなってるけど、これに近接戦までするとなると1、2発はもらう気がする)

 フォローのために全体把握を常にしなければならず、魔力消費を考えながら鎮火活動、魔法攻撃の迎撃、場合によっては複数人を同時に守らなければならない。

(早く討伐させてほしい……)

 その指示が出ないのは、おそらくヒメカが報告した全体攻撃を確認したいからなのだろう。ギルド職員が部屋へ入ってきてすぐに設置した、防具をつけた案山子達を視界の隅に捉えながらユウトは小さくため息を吐く。



 ユウトが攻撃に参加できずに焦れている間も攻撃は続いており、残りHPが1割を切った頃にようやくお望みの攻撃をしてきたミノタウロス亜種。

 ユウトの合図で全員扉近くへ集まり、『障壁』で味方全員を全力で守り、炎の波が治まるのを待ちつつマナポーションで魔力回復、障壁にぶつかる炎が治まって視界が開けるとすぐさま鎮火する。

「まじかー……」

 黒焦げの室内を見ながらミストが呆然と零す。ユウトの障壁がなければああなったのか、と、鎮火されてもなおぶすぶすと煙を上げる案山子を見つめる。

「一応原型は留めているから確殺の一撃ってわけではなさそうだぞ?」

「でも火傷は不可避って感じよね。防具も良いのじゃないとダメそう」

「技術がないと致命傷になりかねない」

「魔法、特に火に強い防具で固めればってとこか。防具がない部分を上手く守れば対処は可能みたいだけど……」

「あの、考察するのはいいんですけど、アレ、もう討伐してもいいですか?」

 全体攻撃にさらされた案山子の状態を黙々と確認するギルド職員と、それを見ながらそれぞれ考察する『光の風』の面々。ユウトが親指で憤慨しているミノタウロス亜種を差しながら聞くと、ギルド職員がOKサインを出したので、ユウトは他の人の了承を得て、1人で亜種へ駆けだした。

 そしてわずかに残っていたミノタウロス亜種のHPも、全力で強化された1撃で首を落とされたことで消失した。ユウトによってはね飛ばされた首がヤン達の方向へ飛んできてゴロゴロと転がり、壁にぶつかって止まる。

「亜種は収納しますか?」

 ゆっくりと倒れる胴体に巻き込まれないように歩いて戻ってくるユウト。ここにいる冒険者はユウトの強さを知っているので驚く者はいないが、調査のためにいたギルド職員は目を丸くしてポカンと口を開いている。

「頼めるか? 1体は丸々証明としてギルドに提出しなければならないからな。勿論、討伐者の物ではあるから換金して相応の額を支払われることになっている」

 ギルド職員が放心しているので代わりにヤンが答えると、ユウトは一礼してすぐそばの頭を回収、胴体の方へと歩いて行った。



 首と胴体の別れた亜種とその武器を回収すると、後は亜種が出現する条件を探るために、ダンジョンを何往復もする耐久レースが始まるのだった。



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