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95話 初めての調査依頼とニコライ先生の調合教室です。

「「おはようございます!」」

 翌朝、カルロとサントが起きてきて、キッチンで朝食を作っていたヒメカに朝の挨拶をした。他の人達はすでに起きていて、朝の仕事や庭で剣の素振りをしたりしている。

「おはようございます。昨日はよく眠れた?」

「はい! ベッドとかすごいふわふわで!」

「布団に入ったらすぐに寝てしまいました」

 ベッドは好評だったようで、疲れも残っていない様子。その後は、お手伝いを申し出た2人とヒメカで会話を楽しみながら朝食作りをしながら全員が揃うのを待った。

『いただきまーす!』

 仕事と鍛錬を終えた人達が汗を流すのを待ち、本日の朝食がスタート。食卓に並べられたのはパンにスープ、オムレツ、ポークソテー、デザート。いつもより量も品数も多いが、客人達はさらにおかわりをした。

『御馳走様でした!』

 少し多いかな? と思うくらい作られていた朝食は見事に完食され、食後の紅茶を出している間に、ヒメカは朝食作りの前に準備しておいた料理をユウトに渡した。

「一応2週間分を想定して作ったけれど、足りなければ現地調達か街に戻るかしてね。パンと材料は多めに渡しておくから」

「分かった」

 ヒメカより容量が少ないと言っても、ユウトのマジックポーチの容量もかなりのものなので問題なく受け取り、数と量を確認してポーチに収納した。

「姉さんもニコライさんのお迎えよろしく」

「はーい」

 ニコライの自宅は以前に教えてもらっているので問題ない。学院生組もニコライの名前を聞いて少しソワソワしているので、ヒメカが誘い、一緒にお迎えに行くことになった。

「じゃあ、俺達はそろそろ出発するわ」

「いってきます」

「いってらっしゃい。気を付けてね」

 ユウトとナストは冒険者装備をきっちり整え、荷物のチェックを簡単にした後、家を出た。



「まずは冒険者ギルド」

「えっと……ダンジョンごとに通行証が必要で、依頼を受理したら特別通行証を発行してくれるんだったよな? 他の通行証持ってても大丈夫なやつ。お前は今どこの通行証を持ってるんだ?」

「オビギュ。あそこは調合素材が豊富だからな。冒険者に人気がないみたいだが」

「まあ、金稼ぎならリトス? だっけ。そっちの方がいいもんなー。オビギュは特殊攻撃してくる魔物が多過ぎるし」

「よく知ってるな」

 ナストは昨日、街に出た時にその辺りを調べたらしく、ざっくりとダンジョン関連の情報を持っていた。

「そりゃ、俺の目的はダンジョンだし、その位調べるだろ」

 ナストは当たり前のように言っているが、冒険者の中には下調べをしない者もいる。ちょうどギルドへ入るか入らないかという位でその話になったため、ナストの発言を聞いてしまって視線を泳がせる冒険者が数人いた。

「ま、いいや。それより手続きしようぜ!」

「パーティ名はまた『ヴェルメリオ』でいいか?」

「おー……って、お前また俺にリーダーを押し付けようとしてないか!?」

「俺Cランク、お前Bランク。冒険者歴もお前の方が長い。何もおかしなことはない」

 そう言って、受付でさっさとナストをリーダーにして手続きしたユウト。受付嬢も苦笑しながらナストに確認を取り、ナストが多少不服そうにしながらも頷いたので、そのまま手続きを終えた。

「それでは特別通行証を発行いたしますのでギルドカードの提示をお願いします…………はい。ではこれで調査依頼:ラトローの迷宮を受理しました。30分後に出発する馬車に空きがありますが、ご利用になられますか?」

「いえ、大丈夫です」

「かしこまりました。では、現地に到着しましたら、出向している職員に一言お声かけください。指示はその時にされると思いますのでくれぐれも勝手な行動はお控えください」

 依頼を受ける冒険者全員に言っているのだろうが、笑顔で釘を刺す受付嬢にナストとユウトは静かに頷いてギルドを出た。



 ユウトの魔法でラトローの迷宮へ転移した2人は、さっそく受付嬢に言われた通り、冒険者ギルドの制服を着ている職員へ声をかけて説明を受けた。

 今はボス部屋へ繰り返し挑む高ランク冒険者と、街へ卸す肉や素材を集める冒険者とに分かれて仕事をしているらしい。ユウトが発見者であることと、ナストがBランクであることもあり、2人はボス部屋へ挑戦するグループに配備された。

「あ、ヤンさん! 新しい参加者です!」

「おー……ってユウトじゃねーの。用事は良かったのか?」

 職員がボス部屋攻略組のまとめ役へと声をかけ、ユウトとナストが振り返ると、そこにいたのは、マルズ冒険者ギルド専属パーティ『光の風』のリーダー、ヤンだった。

「姉さんが街に残って、俺はこいつと別行動することにしました」

「そりゃ助かる。……んで? そいつは?」

 ユウトの実力は知っているので、ヤンはその隣に立つナストを一瞥。ナストは本能的にヤンが高ランク冒険者であることを察知してやや緊張している。

「以前パーティを組んだことがあるので連れてきました。Bランク冒険者のナストです。臨時パーティですがうちのリーダーです」

 ユウトがナストをリーダーだと紹介すると、ヤンの目がキラリと光り、何か感心するような視線をナストに送った。

「そうかそうか! そりゃいい! 強い奴は大歓迎だぜ!」

「ちょ、ま、待ってください! 俺こいつより強くないですからね!?」

「ん? そうなのか?」

 ユウトがリーダーはナストだと断言したので、ヤンはてっきりナストの方が強いのだと勘違いしたようだ。ナストは慌てて否定し、ユウトを睨む。

「お前も否定しろよ!」

「確かに俺や姉さんには勝てないが、お前は弱くないだろ? 少なくとも剣士としてはBランクでも半分より上じゃないか?」

「お、おう……」

 突然のデレにふいをつかれる形となり、ナストに驚きと照れが襲う。ユウトは事実を述べただけで特に褒めたつもりはなく、ナストが複雑そうな顔をしているのをみて首を傾げた。

「ふーん。まあいいや。とりあえずユウトがそう言うならナストも最下層組に入れても問題ないか。俺はギルド専属パーティ『光の矢』のリーダーでヤンという。ランクはA。よろしく頼むぜ、ナスト」

「あ、こ、こちらこそよろしくお願いします! パーティ『ヴェルメリオ』の一応リーダーです!」

 ギルドの専属になるには実力だけでなくその他諸々厳しい審査が必要だと知っているナストは、羨望の眼差しを向けながら差し出されたヤンの手を取って握手。すっかり後輩モードである。

「ん? パーティ名も変えてるのか?」

「ナストと組んだ時はこのパーティ名です」

「なるほど」

 ナストの手を放したヤンはふと疑問を口にすると、ユウト答え、納得した。そしてさっそく打ち合わせをしようと適当な場所に腰を落ち着けた。

 とりあえず、現状の確認をざっくりとして、今までに試してきた作戦を一通り聞いたユウトとナスト。そして、一つだけ試せていないことがあるのでそれをしてくれないか、とヤンに頼まれる。

「転移陣を使わずに地上階から最下層まで一気に駆け下りる、ですか?」

「一応途中の転移陣も登録しながら下りてきてくれ。出来る限り、当時と同じ状況が望ましい」

 足に自信がある冒険者でパーティを組み直して挑戦したようだが、半日もせずにボス部屋まで到達することが出来なかったらしい。それに、無茶な進軍のせいでボス部屋に到着する頃には全員へとへとでボス部屋に挑戦など出来るはずもなく断念した。

「つまり魔法でスピード強化して最下層を目指せばいいんですね?」

「そういうことだ。何が亜種出現の鍵になるか分からんからな。出来ることは全て試しておきたい」

「了解しました。ナストもそれでいいな?」

「おー。つか、やっぱお前がリーダーの方が良かったんじゃ……」

 ナストの訴えはまるっと無視され、ボス部屋組が準備を終えて先に転移陣で最下層へ向かった後、『ヴェルメリオ』もまたダンジョンに足を踏み入れた。



 一方その頃、ヒメカ達はニコライの家にやってきていた。

「おはようございます。本日から調合のご指導をいただけるようで……お世話になります」

「「「よろしくおねがいします!」」」

「ほっほ。朝から元気じゃな。では早速案内してもらおうかの」

「はい」

 すでに出かける準備を終えていたニコライは、言葉こそいつも通りだが、足取り軽く家の戸締りをした。



 ヒメカがニコライを迎えに行っている間、ユウトとナストはラトローの迷宮内を爆走していた。

「もうすぐ10階層。戦闘があるがさっさと終わらせる」

「了解」

 ユウトの魔法で移動速度を上げ、かなりの速さで走るナスト。最初はそのスピードに慣れず、何度か頭をぶつけたり転んだりしてユウトに補助されていたが、すぐに慣れて今は自分の足で走っている。

 10階層の中ボス部屋の前の水晶球にカードをかざして登録、戦闘準備をしてから突入するが、すでに一度戦っているユウトと、Bランク冒険者のナストの相手ではなかったのでさっさと倒してユウトが回収、次の階層へと急いだ。

「その場で剥ぎ取りしなくていいのは楽だよなー」

「素材を無駄にしなくていいのは便利。次は20階で魔法陣の登録」

「へいへい」

 ダンジョンを楽しむ暇はないが、Bランクのナストにとってボス以外は相手にならないためさっさと最下層へ辿り着きたい。軽い口調で返事をする。

「それよりやっぱお前がリーダーを――――」

「さっさと行くぞ」

 ナストの申し出を遮り、ユウトは20階層へ向けて走り出した。



「おお! なかなかいい設備ではないか!」

 ニコライを家まで連れて帰り、留守番をしていたテオとジェードが出迎えると、挨拶もそこそこにさっそく調合室が見たいというので案内した。

 学院生達も調合室に入るのは初めてなので、魔法陣を開錠して中へ入る時から好奇心に満ちた視線で辺りを見回している。棚には色んな素材がガラス瓶に入れられて並んでいるし、本棚は空きスペースが多いが貴重な書籍や研究資料の一部が並べられている。見られても問題ないものを、もう記憶済みだからとユウトが置いて行った物だ。ただし研究資料といってもほぼ数字が書かれているだけのメモ書きで、調合初心者にはただの暗号である。研究内容を知っているヒメカならば解読可能で、ニコライは調合素材名も書かれている一部のものから推測できるかどうかというところ。

「これはわざと分かり難くしているのかの?」

「いえ、ただのメモ書きですね。私が細かい数値を忘れた時に見返すための物です」

 ユウトもヒメカほどではないが秘密主義の逆をいく性格なので、レシピを誤魔化す目的はない。ただ、文字に起こすのを面倒くさがっただけである。

「下級ポーションのレシピはきちんと手順を書き起こしているので大丈夫です」

 書き起こしたのはヒメカだが、ニコライもいるので問題ないだろうと、レシピを記した紙をニコライに渡した。

「……ふむ。随分研究したようじゃな。これならば同じ素材を使ったとしてもそこらの調合師なぞ足元にも及ばんじゃろうて。若いのに大したもんじゃ」

「ありがとうございます。悠が帰ってきたら伝えておきますね」

 ニコライのお墨付きを貰ったので、同じレシピを書いてある紙を学院生達にも配った。

「あの、このレシピ、教本に載っている物と大分違うのですが……」

「うむ。では教本の方も見せてもらえるかの?」

「は、はい!」

 カルロが調合の教科書を渡すと、それをみたニコライは苦笑を漏らした。

「う、うむ……基礎を学ぶにはいいかもしれんが、このレシピでは店には出せんの。薬効が低すぎる」

「ロザリアでは、ポーション類は教会で買うのが常なので……。こちらのように調合師が店を持つことは珍しいのです」

「なるほどのう。しかし、教会がそんなに力を持っているとは……隣国といえどもあり方は様々じゃの」

「そのようですね」

 教会について話すが、調合がしてみたいが大人しく待っている学院生達のためにも、そろそろ調合を始める事にした。


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