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94話 決を採ります。

「明日からの準備はもう終わり?」

「ああ」

「ならこっちを手伝ってくれないかしら?」

 にっこり笑うヒメカに急かされて全員着席し、テオとジェードも交えて屋台のメニュー決めをすることになった。

「候補はハンバーガー、肉串、果実水、トト芋揚げです。アイスも案が出ましたが、人気が出過ぎて対応が追いつかないと予想しましたので保留しました」

「なるほどね。うん。私もそう思うわ。では私からはウインナーをパンに挟んだものと衣をつけて揚げたものを提案するわ」

 ハンバーグ、トト芋揚げ(フライドポテト)は今日も食卓に出したので、ハンバーガーはパンに挟んだだけだと説明。ホットドッグとアメリカンドッグはまだウインナーを作ったことがなかったので姉弟以外はさっぱり分からないようだ。

「まだお腹が大丈夫なら作りますが、どうします?」

 ナストと学院生組は元気に手を挙げながら「食べる!」と答え、小食な家主側は一口、二口なら、ということで今から試食を作ることにした。

 ヒメカの指示でウインナーを作るのだが、ミンチは風魔法、冷やしながら混ぜるために氷魔法、チャームシープの腸を洗うのに水魔法を使うなど、魔法を多用するヒメカ。先程非常識だと再確認されたばかりだが、便利な物は使う主義である。

 無事ウインナーが出来たので、焼き、茹で、燻製にしてそのまま食べる用と、それらをパンに挟んでホットドッグ、爪楊枝に刺して衣をつけて揚げたミニアメリカンドッグの完成である。ついでに、チーズや卵を燻製したり、オニオンブロッサムや、にんにくに似たパルゥを上げたりと品目が増えた。

「…………」

「…………ごめんなさい、やりすぎたわ」

 こんなに食べられないんだけど? というユウトの無言の圧力に、ヒメカは素直に謝罪。

 調子に乗って追加で作ってしまった分をヒメカが収納しようとすると、まだまだお腹に余裕があると豪語するナスト達から待ったがかかったので、ナストとギルはそれぞれ1人前ずつ、カルロとサントは2人で1人前を食べることになった。

 ペロリとそれらを完食した面々に驚愕するヒメカ達だったが、とりあえず意見を聞こうということで本題に戻る。

「では今食べた物にハンバーガー、肉串、果実水、トト芋揚げを加えて1種類に絞りたいと思います」

「え!? 1種類だけなのか!?」

「そんなぁ!」

「いや、あの、貴方達は屋台で買わなくていいのよ? 言ってくれれば作るし、ナストさんの分は悠に持たせるので……」

 1種類と聞いて絶望するナストとギルだったが、用意してくれるという言葉にガッツポーズ。2人ほどではないが、カルロとサントも手を叩いて喜んでいる。



 話を戻し、再度何にするかを話し合うと、肉串は他にも屋台があるから、トト芋揚げはレシピが簡単で真似されやすいということで消去される。果実水も競合店があるというので、ヒメカの魔法か魔道具で冷たい物を出すと言うと、アイスと同じく人気が出過ぎるだろうということで保留にされた。

 残るはハンバーガー、ホットドッグ、アメリカンドッグだが、意見が割れた。

 まずハンバーガーはナストとサントが一票を投じた。食べ応え抜群で、照り焼きソースとマヨネーズは肉にも野菜にも絡んで美味しく、野菜嫌いでも問題なく食べられる。それに店先でハンバーグを焼けば匂いで客寄せも出来ると主張。

 次にホットドッグ。こちらはギルとテオが賛成派で、パリッとしたウインナーをパンで挟んだだけでも充分おいしく腹持ちもいい。ウインナーやケチャップの製法が予想しにくく、マスタードはこの国の人に好まれそうなことと、ケチャップとマスタード以外にも、チーズをかけたり、ソースを変えたり、野菜も一緒に挟んだりと味のバリエーションがつけやすいのではないか、と主張。

 そして最後にカルロとジェードのアメリカンドッグ。油で揚げる調理方法は斬新で客の興味を引くし、串に刺したまま受け渡し出来るので包装代が安上がりで済む。その他、製法やマスタードについてはホットドッグ組の意見をそのまま流用。大きめの鍋を使えば一度に複数本一気に作れる利点もあると主張した。

 ただし、「どれを出しても売れる」というのが共通認識で、自分の押したものじゃなくてもいいというスタンスらしい。

「うーん、どれももっともな意見で困ったわね」

「もう3回屋台出して一巡すればいいんじゃないか?」

 ユウトの提案にヒメカ以外の全員が乗り気になり、ギル達も手伝いを申し出た。それを受けて、ヒメカも少し考えてから頷いた。

「本人達もやる気だし、3日くらいなら問題ないかしら」

 屋台を出すとなると日中が潰れてしまうが、ギル達が乗り気なので問題ないだろう。孤児院にもいかなければならないが、そちらも、最低限の計算を教えたら、書式だけ渡しておいてたまに帳簿を見せて計算チェックするくらいでいいだろうとヒメカは楽観的に考える。ジェードのついでに教える予定だったが、計算から教えないといけない相手に方法だけ教えて終わりというわけにもいかないので、最悪、ジェードだけでも派遣する形になるだろう。

 とりあえずそこまで決めて、急ぐ案件ではないので詳しいことはまた後日決めようということになった。

 ジェードとテオ、そしてギル達は自分達の部屋で休むことにし、リビングには冒険者組だけが残り、とりあえず、ユウトはニコライの件を報告してヒメカの了承を取った。

「ニコライ?」

「そうだけど……どうした?」

「いや、なんかどっかで聞いたことがあるような……ないような?」

 唸りながら思い出そうと頑張るナストだが、1分も経たずに思い出せそうにないからと諦めた。

「ま、その内思い出すさ。たぶん」

「ふーん」

「思い出そうとしない時ほど思い出すことはありますしね。それより悠、メリム草とマナ草を少し分けてくれない? 私の手持ちはほとんど売ってしまったから」

 ヒメカが魔物の素材や食材等々を大量に持っているように、ユウトもまた調合素材を貯め込んでいるので、ギル達の練習用に素材を分けてもらった。ギル達の調合練習は初級ポーションと初級マナポーションを作る予定である。

「進捗が早いようなら姉さんの判断で適当によろしく」

「わかったわ」

ユウトからポーションとマナポーション以外の素材をヒメカが受け取ると、ナストはヒメカからもダンジョン、特にミノタウロス亜種について話を聞いた。

「魔法に関してはヒメカの方が詳しいらしいからな」

 事前準備は念入りにする、というのはウルプス支部の教官に口酸っぱく言われるので、ナストは習慣付いている。

「えっと――――」



 ヒメカが対峙して感じたことを伝えると、ナストは少し苦い顔をした。

「……なあ、ヒメカが感じた攻撃はユウトでも対処可能なんだよな?」

「可能です。魔力管理に注意が必要ですが悠なら問題ないですし、予備動作と魔力の流れも共有しているのでタイミングも分かるのではないかと」

「その辺は打ち合わせてる。俺はあまり突っ込んで行かずに剣と魔法の両立でナストに前衛を任せる予定」

「そう。じゃあコレ持って行って」

 現地に行くわけでもないので詳しい作戦は聞かないが、2人を信用しているヒメカはポーチからゴルフポール大の魔道具を2つと指輪を取り出した。

「これは?」

「緊急連絡用の使い捨て魔道具。これを壊したら指輪の魔石が連動して壊れる仕組みになっているから、治療や応援が必要なら床にたたきつけるなりして割っちゃってください」

「ま、魔道具を使い捨て……」

「単純な物なのでお気になさらず」

 姉弟は効果を試すためにすでに何度も壊しているので、いまさら2個追加で壊したところでどうということもない。恐々とそれを受け取るナストと違って、ユウトはさっさと1つを受け取ってポーチに収納した。

「ナストさんが赤で悠が青ね。あ、ちなみになんですが、2人が別行動する可能性はありますか? あるならナストさんを『地点登録』したいです」

「調査とはいえ基本はパーティ単位だが……一応しておいてもらえるか?」

「はい。……完了です。では何かあればそれで呼んでください」

「サンキュ。……ってそうだ! お前らこれもだし、前にくれたやつも! そうぽんぽん人にあげるなよ! 怖くて人前で使えねーよ!」

 流されそうになったが、ナストはずっと言いたかったことを思い出して説教を始めた。一頻り説教された姉弟が、じゃあいらないのか? と聞くとそれは別らしい。貰えるものは貰うそうだ。

「ハァ…………まあ確かに相当役に立つ物だし礼は言っとく。ありがとな」

「どういたしまして」

 あまりにも説教の甲斐がなさそうだと感じたナストは、溜息1つで説教を切り上げ、感謝を述べておいた。

「んじゃそろそろ俺も寝るわ」

「おやすみ」

「食糧は明日の朝、悠に渡しておきますね」

「よろしく頼む」

 そう言って部屋へ引っ込んだナスト。ユウトもナストと同じくそろそろ寝るというので、ヒメカは料理の仕込みをしてから寝た。


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