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93話 のんびりとお勉強します。

 その後、まだ商品が気になっていた学院生達にケントが甲斐甲斐しくあれこれと教えていたのだが、ギルのお腹がなったことで終了となった。

 元々さらっと街を歩くだけの予定だったので長居するつもりはなく、ケントの店の前に来たのも昼過ぎだったので、ユウトは少しお茶をさせてもらったら昼食にしようと考えていた。

 飲み物はケントに出して貰ったし、軽く摘まめる物をユウトが提供したので、食欲よりも好奇心が勝っていたが、午前中歩き回ったおかげでどうやら限界がきたようだ。ギルのお腹が鳴ったことでそういえばお腹がすいた、とカルロとサントもお腹をさする。

「少し遅いけど昼食を食べに行くか」

「「「はい!」」」

 ケントとニコライにお礼を言って店を出た5人は、ユウトのマジックポーチに収納されていた軽食を虫押さえに食べながら、市場へやってきた。

「凄い! 色んな屋台がいっぱいある!」

「日によって店は違うが、大体陳列する商品によってエリア分けされている。食べ物のエリアはもっと奥だ」

 目新しい物がたくさん並ぶ市場は興味を引かれるが、今は空腹を解消する方が優先だと、ユウトの後ろを遅れないようについて行く。ユウトとジェードもしっかり目を離さないようにしながら人混みを進む。

 そして目的のエリアに到着すると、支払いはユウト持ちでそれぞれ好きな物を購入して落ち着ける場所へ移動しての昼食となった。

 なるべく全員が被らないように購入して、シェアしながら食べているが、やはり見慣れない物ばかりで外れもある。飛び上るほど辛い肉串を、せっかく買ってもらったのだからと頑張って食べようとするが、我慢してまで食べる必要はないとユウトは自分用に購入したものと交換した。

 ユウトも辛さに弱いわけではないが、その肉串はユウトの許容量を超えていたので、ヒメカに次いで激辛系に強いジェードに半分以上手伝ってもらいながら無事完食。それを食べたジェードの感想は「たしかに辛いですが美味しいです」だった。



「ひ、ひはがひいひいふう(し、舌がひりひりする)」

「……………………」

 運悪くそれを最初に食べてしまったギルと、あまりにもギルが良いリアクションをするものだから、好奇心と完食しなければという使命感からそれを一口食べてみたサントが額に汗を浮かべながら口を押えて悶えているので、ユウトは2人に回復魔法をかけてやり、念のためポーションも飲ませて口直しの果実水を手渡した。

「治った! ありがとうユウトさん!」

「ありがとうございます。助かりました」

「こいつらがお手数おかけします」

 基本辛めの味付けであることは伝えておいたが、1品だけ予想以上の辛さだったのだから仕方がない。ユウトでさえジェードに手伝ってもらうレベルだったのだから、辛いと知ってもなお完食しようと意気込みを見せただけ偉い。

「気にするな。それより腹は膨れたか?」

「はい!」

「御馳走様でした!」

「美味しかったです」

 その後は市場で屋台を見て回り、街観光は全てのエリアを回りきることは出来なかったが、時間になったので帰宅した。



 ユウト達が家に帰ると、リビングにいたのはナストだけだった。

「ただいま。姉さんとテオは?」

「馬の世話しに行った。夕食にはまだ早いし軽く手合せしようぜ」

「それで木剣を持ってリビングで待ってたのか」

「そ。さっきまではヒメカとやってたけど」

 よくよくみれば涼しい室内でうっすらと汗を掻いているナスト。昼前には戻って来ていたはずだが、どの位ヒメカと打ち合っていたのだろうか。

「1勝出来たか?」

「…………魔法なしでも全敗だよこの野郎!」

 意地悪な質問を投げかけるユウトに、ナストは悔しそうに答えた。それを聞いた学院生組は、ヒメカさんってやっぱり強いんだ! と目を輝かせた。



 ジェードは作業着に着替えてヒメカ達の元へ行き、あとの全員で剣の稽古をすることになった。

 初めにナストとユウトが軽く打ち合い、ある程度お手本を見せたら一度距離を置き、同じタイミングで踏み切った。そこからの真剣勝負はユウトの勝利で終わると、その後はナストとユウトが先生役で学院生組の稽古となった。

 子守りはしないと豪語していたナストだが、教え方はわりと丁寧で的確。生徒役の3人も優秀ということもあって、教わったことを教わっただけ吸収していった。

 日が暮れるギリギリまで稽古をしたら、とっくに仕事を終えて風呂も済ませていたヒメカから声が掛けられ、汗だくの体を風呂で綺麗に洗い流して夕食となった。

「おー! すげぇ豪華だな! これ全部食べていいのか!?」

「はい。おかわりもあるので気軽にお声かけください」

「うわぁ! 美味しそう!」

 ギルが素早い動きでユウトの隣に座り、カルロ、サントとギルにつられて慌てて着席した。



 デザートまで完食すると、ナストはこっそりユウトに耳打ちする。

(なあ、食事のマナーってあんなんでいいのか?)

(ん?)

(いや、なんつーか、そこらへんのガキと変わらないっつーか……がっつかない分上品っちゃ上品だけど……)

 いきなり何を言い出すのかと思っていたユウトも、そこまで聞くと得心がいった。そういえばナストには彼らからマナーを学べ、と言っていたのだった。食事に夢中になっているかと思えば、真面目にもしっかり観察していたようだ。

(今日はただの歓迎会で、楽しませるのがメインなんだから、マナーが必要な食事は出さない。堅苦しい雰囲気じゃせっかくの食事が楽しめないだろ)

(お、おう。そうだな……いや知ってたぞ! うん!)

 明らかに顔に「なるほど!」と書いていたが、ユウトは呆れる視線を向けただけで追究しなかった。

「それはそうとして、お前は満足したか?」

「ん? あ、ああ。知らん料理も多かったが全部美味かったぞ」

 ちゃっかり全種制覇していたナストはそう答えると、ユウトは「それはよかった」と言って頷いた。一応ナストの歓迎会でもあったので、ギル達の食べ方を観察していて料理を楽しめなかったのでは、せっかく料理を作ってくれたヒメカとテオに申し訳ない。まあ、パンパンに膨れた腹と食事中のリアクション、そして食後の満足そうな笑顔で一目瞭然だが。

「明日の打ち合わせは少し休憩してからにするか?」

「いや、俺は今すぐでも大丈夫だ。お前は?」

「問題ない。それならお前の部屋で………………いや、ここでするか」

 ギル達の熱烈な視線を感じたユウトは空気を読んだ。ナストも笑いながら了承したのだった。



 ギル達が冒険者の打ち合わせを真剣に聞いている中、ヒメカ達はいつも通り雑談をしたり勉強をしたりしていた。

 そこで、テオがもう読み書き計算を問題なく出来るので、手が空く日中に何をするか、という話になった。

「でも何をすればいいのか……庭で育てている作物の世話はすぐ終わってしまいますし」

 スイとセキトバを放すので、畑スペースは広くない。このまま文字と計算練習をしてもいいが、勿体ない気もする、とヒメカは頭を悩ませた。

「うーん。新しいことに挑戦してみるか、料理の練習がてら市場で屋台を出してみるか。それとも厩舎の使っていない部分を潰して畑にする……?」

「屋台がいいのでは? テオの腕とヒメカ様から教わったレシピならば客は集まると思います」

 ジェードも簡単な経理を習っている最中なので、架空の数字を使って練習するよりも、テオに屋台をしてもらってその会計管理をした方がお金の流れが感じられると賛成した。

「と、ジェードが言っているけれどテオはどう思う? 率直な意見を聞きたいわ」

「ええと、そもそも奴隷が屋台を出せるものなのでしょうか?」

「場所を借りる時に名義を私がすれば平気だし、テオも商業ギルドのギルド証を持っているから本人でも問題ないかも。店番を奴隷にさせている店舗は結構多いからそちらも大丈夫。首元を隠している人の一部は奴隷だったりするし」

 この暑い中、屋根で日を遮っているとはいえわざわざ布で首を隠している商人に疑問を持ったヒメカが魔力感知をしてみると、隠している首に隷属の首輪を装着しているのが分かった。テオとジェードも何度か市場には行っているが、首元を隠す商人は多いので疑問に思わなかったようだ。

 他にも、材料はヒメカのポーチにたんまりあるし、屋台は建材があるからヒメカが作ると言う。レシピを真似されても気にしない、人手が足りなければ人を雇えばいい、と、懸念を1つ1つ潰していき、とりあえず1度、お試しで出店してみることになった。

 次は何を売るか話し合おうとすると、ヒメカ達の区切りがついたのを待っていたナストに声をかけられた。

「ちょっといいか?」

「あ、はい。どうしましたか?」

「道具類はヒメカが持っているって聞いたからな。ガキどもも気になるみたいだし、今移し替えてしまいたい。チェックも出来るし」

「了解しました。……ではテオとジェードはいくつか案を出しておいて。個人的にはホーンブルかオーク肉を消費したいわ」

「わかりました!」

「かしこまりました」

 そう言ってヒメカが席を立ち、ユウト達の待つ方へ行って共用の道具類を床に並べた。

「……なんか少なくね?」

「水は魔法で出すし、食事も作った物を持っていくから調理器具が要らない」

 荷物が少なくなるのはありがたいことなので、ナストは1つ頷くと、その他の必需品をユウトと一緒に確認した。

「ここでテント組み立ててもいいか?」

「はい。大丈夫です」

 外は真っ暗だし室内といっても広さは充分にあるので、テントの組み立て講習をしながら破れがないか等の点検をした。

「うし。テントも問題ないな」

 張ったばかりのテントを畳み、他にもランプやロープなど、チェックしておいた方が良い物はすべて状態を確かめていき、問題ないことを確認した物からユウトのポーチへ収納し、最終確認終了だ。

「あの、テントの点検って毎回するんですか?」

「やった方がいいのは確かだな。まあ、先輩冒険者が後輩の道具チェックするのはよくあるけど、こいつら相手じゃここまでしない」

 道具管理は冒険者の基本。今回、ナストはそのことをギル達に教えるためにやったが、ヒメカもユウトもその辺りはしっかりしているので心配していない。ナストは道具の大切さをしっかりと未来の後輩達に語って聞かせた。

「ところで、こいつらみたいに魔法で道具を補うのは普通なのか?」

「え…………いえ、俺達そこまで魔力はないので……」

「剣を習うのも魔力切れ対策ですし……」

「魔法を戦闘で使わないなら……」

 非常識な魔力運用だが、はっきりと本人の前で「非常識」とは言えないのでしどろもどろになる可哀想な学院生達。ナストは自分の感覚は正しかったと納得するように頷き、姉弟は「便利なのになー」と思いながらも一応自覚はあるので口を噤んだ。


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