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90話 お迎えの準備をします。

 ジュディとの話が終わり、部屋から出てきたヒメカとジェードはたくさんの子ども達に突撃され、さまざまな感謝の言葉を受けながら孤児院を後にした。少し時間が押したが、2人はそのまま商業ギルドへ向かい、マルスランと商談をした後、もう一度市場へ寄ってテオへのお土産を購入し、冒険者ギルドへ手紙が届いていないかだけ確認してから帰宅した。

「ただいまー。お留守番ありがとう。はい、これお土産」

「おかえりなさい! ありがとうございます!」

 ヒメカから植物の種が入った小さな袋を受け取ったテオは、大事そうに胸に抱えながらお礼を言った。テオは食べ物より珍しい種子や植物の方が嬉しいようなので、お土産は珍しい種子や園芸関連が多い。セキトバとスイ用のスペースが確保出来ていれば、庭は好きにしていいと言っているので、今はグリーンカーテンだけでなく野菜や花も植えられているようだ。

「ところで悠は一日中籠っているの?」

「昼に一度出て来られたので、ご主人様が用意してくださったサンドイッチをお渡ししました」

「そう。それなら夕食時にも出て来るかな? 一応、用意はしておきましょうか。テオは今日、どんなことをしていたの? 1人で暇じゃなかった?」

「いえ! 今日は庭の手入れをしたり勉強をしたりしていたので。御主人様とジェードはどうでしたか?」

 テオの純粋な質問に、ケントとニコライの掛け合いや、頼んでいた糸が上質以上だったこと、スリの少年とその少年が暮らす孤児院のこと、そして商業ギルドで糸が良い値段で売れたことなどを伝えた。

「それと、手紙が届いていたのだけど、ギル君が学院のお友達2人も一緒に連れて来たいみたいなのだけど、テオとジェードの意見を聞きたくて」

「えっと、ご主人様……ユウト様のご意見は聞かなくていいんですか?」

「後で聞くから大丈夫。全員が了承しないならお断りするつもりだからいつ聞いても同じだし。……あと、前々から思っていたのだけど、御主人様だと私かユウトか分かり難いから名前で呼んでみない?」

「えと、ヒメカ様、ですか……?」

「様もなしで」

「えええ!? ジ、ジェード……」

 さらっと本題から外れて希望を混ぜ込むヒメカに、テオは手紙の内容より目の前の主人を名前で呼ぶ方に気が逸れてしまった。

「ヒメカ様、私共はヒメカ様とユウト様の奴隷だと対外的に主張する必要がありますので、様付けはお許しいただければと思います」

 テオに助けを求められたジェードがすかさず助け舟を出すと、ヒメカもそれ以上食い下がることはなく、あっさりと「今はそれでいいわ」と引き下がった。

「ええと、それでごしゅ……ヒメカ様のお知り合いであるギル様のご友人を招くかどうか、でしたよね」

「ええ」

 慣れない呼び方で詰まってしまうテオだったが、ヒメカは指摘せずにそのまま話を続けるようだ。

「あの、学院ということは、そのご友人というのはお貴族様なのですか?」

「いえ、たしか前に庶民仲間だって手紙で書いてあった気がするから貴族ではないはずよ。1人が商家の3男で、もう1人が食堂の子だったはず」

 商家の3男というのはその子の口癖らしく、「どうせ家を継がないから魔法で一旗揚げる」とよく言っているのだと手紙に書いていたのをヒメカは覚えていた。食堂の子は、王都にいる時にギルに誘われて食事をしにいったので、ヒメカも名前は知っている。その時はタイミング悪く本人に会えなかったが、どうやらその子はギルが急に成績優秀になった理由を聞いていて、将来は冒険者希望ということもあり、ヒメカとユウトに会いたがっていたのだそうだ。前回会えなかったので、今回こそはとギルを拝み倒した結果がこの手紙らしい。一応、共同研究課題として取り組みたいからとは書いてあるが、オブラートに包んでいるようで包み切れていない文章でそのことが書かれている。

「えっと、それなら俺は構いません」

「ジェードはどう思う?」

「私も構いませんが、孤児院はいかがされますか?」

「一応、学院の課題のために来るわけだから、社会勉強ということで連れて行けばいいんじゃない? 悠が了承したら手紙に書いておくわ」



 夕食時、ユウトに手紙の件を伝えると、あっさり了承が得られたので、ヒメカはさっそく返事を書いて、明日の朝、冒険者ギルドに届けてもらうことにした。

「あの、ロザリア国の学校に通う人って冒険者になる人が多いんですか?」

 テオはギル達の通う学院に興味を持ったようで、手紙を書き終えたヒメカに質問を投げかけた。

「んー、どうなのかしら? 私は学院に通っていないから詳しく知らないのよね。ギル君達が来たら色々と話を聞いてみたらいいんじゃないかしら?」

「はい! そうします!」

「ギル様はどのようなことが好きなのでしょうか?」

「ギル君は剣が好きよ。毎日欠かさず鍛錬していたし、才能もあったからユウトがたまに見てあげていたのよ。今はどのくらい強くなっているのかしら? 楽しみね」

「ヒメカ様は何かギル様に教えていたんですか?」

「私は座学担当だったわね。ギル君に教科書見せて貰って、分からない所はギル君が学院へ行っている間に図書館で調べたりしたわ」

 ヒメカもロザリアの事を興味津々な様子で聞いてくれるテオとジェードに嬉しくなって色々と話したり質問に答えたりしていたが、「そろそろ眠らないと」とヒメカが言ったことで終わりになった。



 翌日、朝食を済ませてすぐに手紙を冒険者ギルドへ持っていき、帰宅後は急ピッチで来客の準備に取り掛かった。

 ギルのために用意した大きなベッドがあるものの、さすがに3人は厳しいということで、急遽、客室を整えることになった。前回はヒメカとユウトだけでしていた作業も、今回は倍の人数ということで、さくさくと部屋が出来上がっていく。食卓の椅子も増やし、その他、必要な物を買いに走って準備は万端に整えた。

「ギル君の部屋も2階に移したし、あとは4日後にお迎えに行くだけね」

 出来る用意を早めに済ませたのは、ユウトの希望でまたオビギュの迷宮に潜るからである。そろそろ冒険者ギルドにも貢献しておいた方がいいと判断したので、自分達のついでに採取依頼をいくつか消化するという。ただし、往復は魔法で一瞬。ダンジョン内の転移陣も全て登録しているので日帰りか翌日には帰ってくる予定である。

 この日は客室の用意が終われば特別用事がないので、ヒメカとジェードは孤児院へ赴き、テオはヒメカに貰った種を植える準備、ユウトは調合室で日中を過ごした。



「…………」

「…………」

 翌日、宣言通り姉弟はオビギュの迷宮で採取ツアーをしていた。

 先程までは熱帯階層にいたが、今は氷雪階層で黙々と雪を掘っては植物の採取をしている。ユウトは主に個人用を採取し、ヒメカが依頼用の素材を集めながら、一定の距離以上は離れないようにして次の階層の階段まで進む。依頼の品の中には、人の体温でも融けてしまう面倒な性質の植物もあるが、下調べと知識で道具の準備は万端だ。

「依頼分終了っと。そっちは?」

「エイスの花があと20は欲しい」

「了解」

 必要な採取を終えたヒメカがユウトの手伝いに回り、次の階層へ続く階段を目指して蛇行しながら進んだ。

 氷雪階層の次は砂漠、密林と特殊な階層を中心に採取を行い、深部である45階層以下は依頼中心に採取をしながら進んで、ボス部屋でキマイラを討伐して地上へ戻った。



 ヒメカとユウトが冒険者ギルドで納品を終えて帰宅すると、ジェードは今日の昼に客が来たことを伝えた。

「本日昼頃、『シルバーアックス』のルイジ様他4名の方がいらっしゃいまして、御用向きをお尋ねしましたところ、治療費を用意出来たのでお支払したいとおっしゃっていました。遅くとも明日には帰って来るとお伝えしましたがよろしかったでしょうか?」

「ええ、大丈夫よ。ありがとう」

 写生が得意なヒメカが写真並みの似顔絵を描いて見せていたので、名前と照らし合わせて本人であることは確認していたジェードは、とりあえず定宿の場所と伝言を受け取ったそうだ。

「思ったより早かったな」

「ラトローの迷宮はまだ封鎖されているものね」

 ボロボロの武器と防具の修理費もあっただろうに、と話すヒメカとユウト。

「そういえば、お肉の値段がどんどん上がってきているって肉屋のおじさんが困ってました。はやく調査が終わるといいんですけど……」

 魔物肉は家畜よりも種類も多く、美味しいのでそれを商売にしている人は大打撃だろう。アルヒの塔でホーンラビットやチャームシープの肉が取れるが、その他の肉は主にラトローの迷宮産である。

「そういえば亜種の確認がまだ出来ていないのだったわね」

「迷賊は一掃されたみたいだけどな」

 話の流れで、冒険者ギルドで仕入れたばかりの情報を口にするヒメカとユウト。発見者であるヒメカとユウトも声はかけられていたが、調査員の募集には多くの冒険者が殺到していたこともあり、オビギュの迷宮を優先させてもらっていた。

 少し家族会議をした後、ギル達を迎えに行ってもまだ調査が行われていれば、ヒメカとユウトが交互に調査協力に向かうことになった。

 少しの好奇心もあってそれを提案した姉弟だったが、まるで窮地に立たされた街を救う英雄を見るようなキラキラした目を姉弟に向けて大賛成するテオの純粋さを眩しく感じる姉弟だった。フラットな姿勢で判断し、賛成したジェードの意見もあって満場一致で可決されたが、とりあえず姉弟はテオの誤認を正さなければと、そちらの方が気がかりなようだった。

(他人なら放置だけど身内はマズイ)

(フィルター越しで見られるのはちょっとね……)

 今回のことに大義などないと一生懸命に説明する姉弟と、最終的に苦笑しながら頷いたテオは見ていて面白かった、と後にジェードは語る。


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