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87話 紹介します。

翌日、いつもより少し早目に朝の仕事を終わらせて出かける準備をする。

「テオ、ジェード、これ付けて?」

「あ、完成したんだ?」

「褒めてくれていいわよー」

「えらいえらい」

 ヒメカが細いレザーで出来たブレスレットをテオとジェードに渡してつけるように促すと、ユウトはそれが何かをすぐさま理解した。若干棒読みで褒めながらも、慣れた手付きでヒメカの頭を撫でる。

「あの、これは何ですか?」

「護身用魔道具よ。出来れば首飾りに術式を組み込みたかったのだけど、折角のデザインを崩してしまったり、魔法の相互干渉を起こしたりと、私の技量では両立が出来なかったから諦めて別にしたわ」

 自分の技量不足を悔しそうにしながらも、出来には満足している様子。だが、その効果については語らなかった。そしてデザインは言わずもがなユウトである。

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

「結局普通の物になってしまったから気にしないで」

 長々と家にいても仕方がないので、テオとジェードが嬉しそうに装着したのを確認して、4人は外へ出た。

「午前中でも暑いわねぇ。今日は水分補給がてらこまめに休憩を取りながらお買い物しましょう」

 まだ午前中にも関わらず、外はすでに暑い。湿度が高くないのがせめてもの救いである。

「テオとジェードも疲れたら遠慮なく言ってね」

「はい」

「わかりました」

「じゃあまず武器屋と防具屋へ行きましょう」

 ヒメカの先導で一行は冒険者ギルド方面へ歩き出した。



「今日みたいな日は果実水が美味しいわね」

「冷やすと更に美味しい」

「魔法が解禁になったからねー」

 午前中色々なお店を回り、今は昼休憩。まだ予定は消化しきっていないが、とりあえず昼食を、ということで市場で適当に買って木陰を見つけて休んでいた。

「あら、ヒメカちゃん達じゃないの! 奇遇ね~」

「カールさん! お久しぶりです。今日お店に行ったんですよー。2人を正式に引き取ったのでご挨拶をしたくて」

「あらそうだったの? ごめんなさいね~。週に2日は、お店の子に任せてお休みさせてもらっているの。街を歩きながらあの子にはどんな服が似合うかしら? って考えているとどんどん創作意欲が湧くのよね~」

 休憩中だった4人に声を掛けてきたのは、テオとジェードの服を買ったお店のお兄さん(?)のカール。

「もしかしてお店の服はカールさんが作った物だったんですか?」

「全部じゃないけどね。お店の上が工房になっているのよ~。オーダーメイドの服はそっちで作っているから良かったら遊びに来てね」

「ありがとうございます。ああ、立ち話もなんですからどうぞ座ってください」

「あら、ありがとう。じゃあお隣失礼するわね」

 ヒメカの隣にカールが座る。手にはヒメカと同じく果実水を持っていたので、良ければ冷たくするというと喜んだ。

「ヒメカちゃんは魔法士さんだったのねぇ」

「隠さなくて良くなったので、こうして人前でも使えるようになりました」

「ああ、もしかして冒険者ギルドの? 前にこの街に来た魔法士集団が嫌な奴でーっていう話は聞いていたけれど……解決したみたいで良かったわぁ」

 正確には「姉弟は」認められたというだけで魔法士に対する偏見は少し薄れた程度である。初対面で追い出すことはしないだろうが、余程腕の良い魔法士でもなければパーティを組みたがる者はいないだろう。

「それより! テオちゃんとジェードちゃんだったわよね? 前に会った時より2人ともすっごく綺麗になってるじゃないの~。純朴で可愛いテオちゃんとすっきり美人系のジェードちゃん! うーん、服のアイディアがどんどん湧いてくるわぁ~」

 アイディア帳にいくつも服のデッサンを書き連ねるカールの手が止まらない。その中には女性ものもあるので、おそらく姉弟も対象になっているようだ。

「すみませんがそろそろ動かないと時間が……」

「あ! そうよね。ごめんなさい夢中になっちゃって……。また会えて嬉しかったわ。よかったらお店にも来てね」

「はい。ではまた」

 昼食も食べ終わり、適当なところで切り上げてカールと別れ、午後の予定を消化するために移動するのだった。



「えっと、とりあえず行きたいところは巡ったし、最後にケントさんのお店に行きましょうか」

 一通りお店巡りをしたところで、最後にケントの素材屋に行くことにした一行。お店の近くまで来ると、中から調合師のニコライの声も聞こえた。

「こんにちは」

「いらっしゃい!」

「ニコライさんもいらしていたんですね。お久しぶりです」

「ほっほ。素材を買いに来たついでにちいと話をしていたところだ」

 ヒメカとユウトがケントやニコライと挨拶をすると、テオとジェードも頭を下げる。

「そっちの2人は新しい奴隷か?」

 ケントがテオとジェードを指差してそう言うと、ヒメカとユウトは顔を見合わせ、一拍遅れて小さく笑いながら否定した。

「いえ。以前連れていた2人ですよ。テオとジェードと言います」

 前回この店に来た時、テオとジェードは痩せ細っていたし、主人の邪魔にならないよう空気に徹していたので、ケントには別人に思えたのだろう。

「ほー……だいぶ見違えたな。良い顔するようになったじゃねーか」

「そうさなぁ。だが、別人に間違えるほどではないと思うぞ? おぬしは見る目がないのぅ」

「うっ……! そ、それより今日は何が入り用なんだ? 店頭に出してないやつもあるぜ!」

 ニコライに弄られるケントは、これ以上弄られまいと、ユウトへ向き直って話しかける。

「そうですね――――」

 ユウトはケントに助け舟を出すように、お目当ての薬草の名前を列挙していった。

 その間、ニコライはヒメカ達と話をすることにしたらしく、勝手に店の奥から椅子を取り出して座るように言った。

「お嬢ちゃん達もあやつらを待つ間、このジジイと話をしようではないか。ささ、座った座った」

「ふふ。では失礼して」

「そっちのテオとジェードじゃったか? 2人も座りなさい」

 テオとジェードもニコライに促されて戸惑いながら椅子に座り、色々と話をすることになった。



 ケントとユウトを待っている間、ニコライはいろんな話をするが、ヒメカにも調合の知識があることを知って後半はほとんど調合の話になった。分かり易く噛み砕いて話してくれるので、テオやジェードの勉強にもなっている。

「おい爺さん。何、若いのを無理矢理捕まえて延々と調合の話をしてんだよ」

「ん? なんじゃ。もうそっちは終わったのか? 今良い所なんじゃ。ちいと待っておれ」

「いや、ここは俺の店なんだが!? 長話をするような店じゃないぞ!」

「ほっほ。おぬしと違って頭の良い子らじゃからな。ついつい話が乗ってしまうんじゃ」

 調合の話>店主 なようで、ケントはそっちのけでニコライはキリが良い所まで話し続け、諦めたケントとニコライの話が気になるユウトもその輪に加わった。

「――――ふぅ。随分話し込んでしまったのう。おぬしたち、若いのに結構な知識量じゃのう。ついつい興が乗ってしまった」

「恐れ入ります」

 調合にはほとんど手の出していないヒメカも知識はユウト並にあるため、色々と質問をしてしまったが、ユウトが加わったことにより更に深い話になっていった。

「お前らマジで今の理解出来たのか……?」

「「大体は」」

 本職:冒険者のヒメカとユウトが平然とニコライの話についていっていたため、途中から理解を超えてしまったケントは目を見張る。もしかしてついていけなかったのは俺だけなのかとテオとジェードを見ると、「実は途中からわかりませんでした」と言うテオとジェードもケント側だと知って安心した。

「検証したいけど明日からダンジョンだしな……」

「忘れない程度に書き残しておいて帰ってからすればいいんじゃない?」

「そうするか」

 そんな話をするユウト達。それを聞きながら、ケントはダンジョンという言葉を拾った。

「ん? ダンジョンってどれに行くんだ?」

「オビギュです。色々採取出来るらしいので楽しみにしてるんです」

「おお! あそこは種類豊富で調合師には垂涎のお宝がゴロゴロあるからのぅ。……そうじゃ、それならば一つこのジジイの依頼を受けてくれんかのぅ?」

「あ! 爺さんズルいぞ! 俺だってお願いしたいのを我慢したってのに……」

「ほっほ。頼むだけはタダじゃ。……して、どうかのぅ?」

 ニコライに詳しい話を聞き、ついでだからとケントが欲しい素材というのも聞く。

「……初めて行くダンジョンなので絶対とは言えませんが、採取出来たら持ってきます」

「うむうむ。それで結構じゃ」

「なんか俺も便乗して悪いな。ちゃんと正規の値段で買い取るからよ」

「なんじゃ。無理を言うのだから上乗せくらいせんか」

「そうしたいが俺は金持ちの爺さんと違って金がねえんだよ!」

「こちらも確約は出来ないので、それで大丈夫ですよ。ギルドを通すと失敗した時が痛いので」

 1度や2度の失敗ならば問題ないのだが、依頼失敗はない方が良い。今の所、無茶な依頼は徹底的に避けて依頼成功率100%を維持している姉弟は、出来ればこのままそれを維持したい。

「本人達がそれでいいなら何も言わんよ。ただ、出来ればモーリュの花だけは手に入れて欲しいのぅ」

「上級毒消しの素材ですね。優先的に探してみます」

「うむ。よろしく頼む」

 非公式の依頼を受けた姉弟はニコライの店の場所を聞いておき、ダンジョンから戻ったら一度顔を出すと約束して店を出た。



「今日の夕食は俺が作るから姉さんはローブの細工をお願い。明日出発だし寝不足はマズイ」

「んー……じゃあお言葉に甘えちゃおうかな。でも下地は出来ているし、そう時間はかからないと思うから終わったら手伝うわね」

 帰宅して今日購入した物を選別していると、ユウトが夕食当番に立候補。ヒメカは就寝前にやってしまおうと思っていたが、ユウトの気遣いに感謝してその申し出をありがたく受け取った。

「あの、俺も仕事を終えたら手伝います!」

「お手伝いさせていただきます」

「サンキュ。でもそんなに凝った物は作らないから急がなくていいからな」

 あくまでもメインはセキトバとスイのお世話だと釘を刺しつつ、手伝いはありがたいのでユウトはお礼を言った。

「じゃあ私は少し部屋に籠るわね」

「ああ」

 ユウトの指示で食材を取り出したヒメカが自室へ籠ると、3人もそれぞれ動き始めた。

 その日の夕食は冷しゃぶメインの簡単手早く作れるメニューだったため、配膳くらいしか手伝うことがなかったことを追記しておく。



 翌日。準備と体調を万全に整えたユウトとヒメカは、テオとジェードが仕事を始める頃には朝食を済ませて家を出た。

「すみません。通行証の発行をお願いします」

 早朝のギルドは閑散としていたため、待ち時間もなく手続きはすぐに終わり、北門からオビギュの迷宮へ向かった。

「上級ダンジョンだからなのか、朝だからなのか、それともこのダンジョンだからなのか……」

 逸る足でオビギュの迷宮へ到着するが、入口にはギルド職員しか見当たらない。少しでも採取の時間を取りたかったので今までより早く家を出たが、長い列が出来ていたアルヒの塔やラトローの迷宮とは大違いだ。

 しかし、姉弟は待ち時間が短縮できたと大喜びでダンジョンへ潜った。


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