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85話 家が完成。そして家族が増えました。

 打ち上げ兼食事会をして、ヤンが酔いつぶれたりしつつも、他の3人にローブの感想と問題点を聞くことが出来た。機能には問題ないが、ローブ自体の耐久性の問題や撥水性も欲しいという意見などが出され、なかなかに密な話し合いがなされた。

 成功報酬として、渡してある消臭の魔道具の中身はただの水で、詰め替え可能であることを告げると大喜びされる。

 ちなみに、貴重な魔道具を知り合って間もない人にぽんぽんと渡す姉弟を心配していたが少し見直した、というありがたいお言葉を、マリベル達に説教付きで頂いたのは記憶に新しい。

 詰め替え可能なことを教えなかったことは勿論、ローブの素材を耐久性の低い布にしたり、他者から見えないように隠蔽の魔法陣も組み込んだりしているので保険はかけていたと説明することでようやくお説教は収まる。それでもやはり魔道具を簡単に人に渡すのはたとえ親しい知り合いでも危険、という忠言をいただき、姉弟は素直に頷いた。

 製作者のヒメカはあの隠蔽が解ける人なら真似されてもいいと思っているが、口には出さなかった。賢明である。すでに渡してしまっている分があることは黙秘した。



 そして翌日。午前中に色々な手配を済ませ、早めの昼食を食べて業者を招き入れた。

「お前ら昨日派手にやったんだってな? 噂になってるぜ」

「まぁちょっと……それよりネロさんが知っているということは一般の方まで話が届いてしまっているのでしょうか?」

「ウチはテーブルや椅子の修理を頼まれた店の手伝いにやった奴らからの情報だから早い方だと思うが……まあ、冒険者連中には認められたみたいだし気にすんな!」

 ネロ曰く、昨日、ヒメカ達が引き上げたあと打ち上げという名の宴会があったらしく、飲み過ぎた冒険者によって一部テーブルや椅子が破壊されたらしい。戦闘後で高揚した気分のまま酒をあおると一定数そういう輩が出るため、すでに慣れている業者は午前中には納品を終えたとか。噂はその時に仕入れたようだ。

「まあ、堂々と工事に参加できるようになったのでいいですが。あ、家の中ですが、基本トイレ以外は入れないようになっているので、入れない部屋=立ち入り禁止ということでお願いします」

「了解だ。全員に伝えておくわ。ちなみにこれはただの好奇心なんだが、魔法で入れないようにしてるのか?」

「はい。どんなに怪力でも開けられませんし、攻撃したら反射する仕組みの基本的な防衛機能付きです。まあ、貴重品は置いていませんけど」

 魔法と聞いて目を輝かせるネロ。昨日までの冒険者ギルドの反応が異例だっただけで、魔法士は普通に憧れるもののようだ。

 家全体の魔法陣は切っているため、盗難防止で魔道具などはマジックポーチに入れているが、大きな家具はそのままにしているので念のため。今日の午前中だけでそれを設置したので単純な魔法陣だが、単純故に強固でもある。

 その他にも注意事項を確認し、全体に周知させてからの工事を開始した。



 夕方、その日の工事は終了。姉弟が遠慮なく工事を手伝ったために、作業は通常よりも早く進んでしまう。ネロ達職人は完成させたらいくら貰えるというものだが、日雇い労働者にとっては日数が短くなるのは喜ばしくない。

 作業の途中でネロに相談を受け、今日の昼食がなかった分、作業終了後に庭で酒の入らない宴会を開くことになり、ヒメカが離脱。ユウトのみの参加となった。セキトバ達は午前中に運動したので午後は厩舎で大人しくしている。

「パンが焼けました!」

「じゃあ取り出して次も焼いちゃって。火傷しないようにね」

「みじん切り終わりました」

「生地に混ぜて成形までしておいてくれる? 焼くのは直前にするから」

 料理は多めに用意し、持ち帰り用も一応用意するヒメカ達。普段から余剰分を作るのでストックは充分あるし、3人での作業なので慌てる必要はない。

 そうしてしばらく作業していると、今日の仕事が終わった作業員達がぞろぞろと出てきた。

「テオとジェードはお手拭と飲み物を配って来てくれる? 参加できない人には持ち帰り分があることも伝えてね」

「「はい」」

 ヒメカの指示に従ってテオとジェードが誘導案内しに動く。ユウトは全員に『洗浄』をかけてからヒメカに合流し、配膳を手伝った。

「よーし。全員飲み物と食べ物は行き渡ったな!? んじゃかんぱーい!」

『うえーい!』

 姉弟の代わりにネロが音頭を取って宴会が始まった。

「うわ美っっ味!!」

「やべえ。うちのかーちゃんよりよっぽど美味いぞ!」

「いや、食堂よりも美味いだろ。見たことねえ食べ物ばっかだけど美味い!」

「果実水が冷てぇ! 酒はないが最高だな!!」

 料理の味は好評なようで、大皿に盛られた料理があっという間に無くなっていく。配膳係のテオとジェードは大忙しで、追加料理を作るヒメカとユウトも簡易キッチンフル稼働で手を動かす。

 途中、近所の人が何事かと覗きに来たのでそれも巻き込んで人が増え、家族にも食べさせたいという人がいたので身内も呼んで良い事にしてさらに人が増えた。

 賑やかな席になるが、近隣住民も巻き込んでいるので問題ない。ただし、料理を作る姉弟は目が回るほど大忙し。スープのおかわりはセルフにしたり、フライパンでの調理は諦めて大きな鉄板で諸々焼いたり、主婦の方々が手伝ってくれたり、ご近所さんは家から差し入れを持って来てくれたり。図らずも地域交流をすることが出来た。

 解散する頃にはすっかり仲間意識が芽生え、テオやジェードも文句も言わず良く働く良い子として可愛がられるようになっていた。ヒメカとユウトはそんな2人の両親的立ち位置として認識されていて、実はジェードが一番年上と判明して大層驚かれたりもした。

「今日は御馳走さん」

「明日からの昼飯楽しみにしてるぜ」

「もう昼飯の話かよ」

 片付けを終えて、去り際に一言二言ヒメカ達に声を掛けてから帰っていく人々を見送った後、最後に残ったネロと少しだけ話をすることにした。

「不満解消は成功でしたか?」

「むしろ大成功だろ。美味い飯はやる気にも繋がるからな。明日からの作業は期待してくれていいぞ!」

「それだと余計に日数が短くなるんですが……ネロさんの見立てだと完成はいつ頃になりますか?」

「そうだな……明後日には終わって明々後日に俺とお前らで最終点検って感じになるだろうな」

 魔法ってのはホント便利なもんだ、とネロは続けた。しかし、そうなると本来予定していた工期が半分になってしまう。人件費は浮くが、ネロはそれを喜べる人間ではない。

「ネロさん達業者には完成報酬。残りの人件費は頭割りにするのは? 緊急工事だったからとかなんとか理由をつければ問題ないんじゃないですか?」

「いいのか? 浮いた分の人件費は依頼主に払い戻しが普通なんだが」

「私達には早く終わるというメリットがあるので。人件費の分配はネロさんに一任するという契約ですし、すでに無い物と思っているので問題ありません」

 浮いた人件費を返されてもそのまま貯金コースなので、労働の対価として支払った方が経済効果としてもいいだろう、というのが姉弟の考えである。

「経済効果……」

「要するに、お金は使わない人間が持つより使う人間が持った方がいいってことです。あまり難しく考えなくていいですよ。一週間分の仕事を3日間に詰め込んだと考えてもらえればいいので。無駄にお金をばらまくわけでもないですし健全です」

 姉弟になんやかんやと言いくるめられ、結局人件費は頭割りで計算することになる。マルスランで鍛えられた交渉術は効果抜群である。ただ、これだけはということで、ユウト達も頭割りの人数に組み込まれることになった。

「んじゃ俺も帰るわ。遅くまで悪かったな。今日は御馳走さん」

「いえいえ、お構いなく。明日からも宜しくお願いしますね」

 ネロを見送り、家全体の防犯魔法陣を作動させて風呂を済ませてから宿へ向かった。



 翌日、翌々日と、ネロの工房の従業員も日雇い作業員も一丸となって作業に当たったこともあって順調に作業が進み、着工から4日目の午前。最終点検も終わってついに2階部分が完成となった。

 作業員は昨日の時点で解散しており、ネロも4人の分の給料を手渡し、工事完了のサインを貰ったらすぐに帰っていったので、今ここにいるのは姉弟とテオ、ジェード、そしてセキトバとスイの4人と2頭である。

「部屋割はどうする? 個室も可能だけど」

「ベッド2つ入れると狭いものね。家具も欲しいものがあれば作るわよ?」

「あ、あの、その前にいいでしょうか……!」

 部屋の配置転換を話していると、テオが意を決したように声を上げたため、姉弟は聞く体勢を作る。ジェードはさりげなくテオの隣に涼しげな表情で立っていた。

「俺達をご主人様の正式な奴隷にしていただけないでしょうか……!」

「よろしくお願いします」

 テオがその言葉を紡ぐまでに小さなうめき声を出したり百面相したりと大分時間がかかったが、ようやく絞り出せた。

 ジェードは元より希望を伝えていたため、至極簡潔なものだったが、姉弟には充分である。ヒメカはパッと表情を明るくし、ユウトも口元を緩ませて穏やかな笑みを浮かべた。

「「勿論。これからよろしく」」

 ぴったりと口を揃えて応えると、ユウトはテオの頭を撫で、ヒメカとジェードは手を取り合って喜んでいる。テオはジェードの様子に違和感を覚えて問いただすと、ジェードはあっさりヒメカにテオが悩んでいることを相談していたと白状する。ついでとばかりに、料理の手伝いを申し出たのもそうしたらテオも同じことをする気がしたからだとか、姉弟が馬の世話をするのを止めなかったのも意図的なものだった、と追い討ちをかけた。

「料理に関しては個人的に覚えたかったのも確かですが」

「…………姉さんの観察力はさすがだよ」

 ユウトは、ジェードのことを「したたか」だと評していたヒメカの言葉を今ここで実感させられた。消極的なようでしっかりテオの後押しをして、さらには自己の利益まで得るとは。

 テオはジェードの手の上で転がされていたことを告白されて混乱していたが、ジェードの行動がなければまだ迷っていたかもしれないから、と、ジェードに対してお礼を言い、姉弟に対して「これからよろしくお願いします」と頭を下げた。

「後は手続きをしたら正式にうちの子ね」

「テオとジェードが良ければ今日の午後に行きたいんだけど」

「あ、はい! 大丈夫です!」

「問題ありません」

「夕食は豪華にしましょうね」

 ただし、量は食べられないので素材と味で勝負。こっそりとミノタウロス亜種の味見をしていたヒメカは、極上赤身肉であるそれをシンプルにステーキにすることに決めた。



 昼食を家で済ませてから一行はルーベンの元へやって来ていた。

「おお! お待ち申し上げておりました!」

 外出用の服に着替えたテオとジェードを見てルーベンは嬉しそうに頷く。日々満足な食事を取れているからか、ガリガリに痩せ細っていた体はそれでもまだ細いが健康体へと近づいている。

「本日の御用向きは契約の書き換えでよろしいでしょうか?」

「はい。でもその前に、首輪をこれにしていただきたいのですが可能ですか?」

 そういってヒメカが取り出したのは、隷属の首輪というよりファッションとして付けられるようなデザイン性のある物だった。奴隷が自分で取り外し出来ない点を除けば、それが隷属の首輪だと誰も気付かないだろう。しかも、デザインは2種類で、どちらがテオ用でどちらがジェード用なのか一瞥しただけで分かるくらい、身に付ける人に合わせてデザインされていた。

「…………」

「ご主人様、いつの間にこれを……?」

「実は前々から準備はしていたの。デザインはユウトで製作は私の合作よ。結構上手くできたと思うのだけど……」

「もしかして他のやつが良かったか?」

 自信作として出したのだが、予想より薄い反応に、もしかしたら趣味ではなかったのでは? と心配になってくる。

「いえ、是非これを使わせていただきたいです」

「俺も! 俺も、これがいいです!」

 首輪を引っ込めようとヒメカが手を伸ばすと、テオとジェードが素早くガード。気を遣わなくていいと言っても、これが良いのだと譲らない。

 その遣り取りに、静かに見ていたルーベンが耐え切れずに笑い声をあげた。

「ふっ……ははははは。いやぁ、本当にいい関係を築いているようで安心しました。ホウライ様、彼らは気に入っていないわけではなく、感動して反応が遅れてしまっただけですよ。私から見てもその首輪は素晴らしい出来ですし、とても似合うことでしょう。ぜひそちらを使いましょう」

 魔石のランクも問題ないということで、お抱えの付与術士に契約魔法を付与してもらっている間に契約内容を話し合う。

 結果、本当に必要最低限で、常識の範囲内なら好きにしていい、という緩い契約になった。

 すべての手続きを終えると、新しい隷属の首輪を嬉しそうに撫でるテオとジェード。そんな2人にルーベンは「幸せになるんだぞ」と声を掛けていた。


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