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84話 魔法士だとバレました。

 翌日、マルスランに話し合いの結果を報告すると、工匠は要望にピッタリの人物がいるというので、すぐに面会の手配をしてもらって商業ギルドで打ち合わせ。材料は商業ギルドがすでに用意してくれているというので、明日から着工して貰えることになった。

「色々と条件を付けてしまいましたが、本当に大丈夫ですか?」

「むしろ俺にとっちゃ好条件なくらいだ。全額前払いだし、人件費もたんまり用意してくれる。魔法士だってのを隠す事情も知ってっから安心しな。ただ、その、孤児も雇ってやってもいいか? しっかり口止めはしておくからよ」

「問題のない方なら身分は問いません。人事はネロさんに一任します」

「いいのか!? いやぁ~話の分かる依頼主で嬉しいぜ!」

 ネロは情に厚い人物のようで、人を雇う時は孤児や奴隷を中心に雇ったり、暇を見つけては孤児院の修理を無償でしたりしているらしい。知り合いが困っていれば仕事を斡旋したり、自腹を切って雇い入れたりすることもあるとのことだ。早い、丁寧、誠実で腕がよく、それなりに名が売れているので仕事はよく舞い込むが本人は貧乏。従業員に慕われているし借金もない。貧乏なのは定期的に炊き出しをしたり、寄付をしたり、孤児院の修繕費を自腹で出したりしているからだ。

「では契約の締結ということでよろしいですか?」

「はい」

「よろしく頼む」

 契約書にサインして握手を交わした。



「一度冒険者ギルドへ行って『光の風』の皆さんが帰ってきているか聞いてみましょうか」

 まだ午前中なので戻ってきている可能性は低いが、戻っていなくとも受付で伝言を頼んでおこうということになった。

 2人が冒険者ギルドへ顔を出すと、何だか剣呑とした空気が流れるのを感じた姉弟は、さっさと用事を済ますべく受付へ足を向けるが、巨体が道を塞いだ。

「……何か御用ですか?」

 男が何かする前に、ユウトはヒメカの腕を引いて自身の後ろに隠す。ヒメカは何か言おうとしていたが、ユウトに先手を取られたので大人しくしておくことにしたようだ。急遽冒険者ギルドへ来たので、姉弟の服装が冒険者仕様ではないため、はた目には冒険者に絡まれる一般人である。

「お前ら魔法士なんだってな」

 道を塞ぐ男がそう言うと、ユウト達へ向かう視線が更に険しくなる。この空気の原因は姉弟が魔法士であることが知られた故のものだということが判明。ユウトが対峙している後ろで、ヒメカがさりげなく視線を巡らせると、見知った顔もちらほら見つけるが、皆、困惑している様子で成り行きを見守っている。

「あんたには関係ない」

 言葉少なに返し、ヒメカの手を掴んで男の横をすり抜けようとするが、新たに2人の男がそれを防いだ。

「関係おおありだ。お前らが魔法士ならこのギルドから追い出さなきゃならないんだからな」

 正義感()溢れるお言葉に、ユウトのただでさえ働かない表情筋からさらに表情が消えて無になっている。目の前の男を見据えながら何も映していないようなその目は、相手に何とも表現しがたい圧を感じさせた。

 ユウトは意図しないことだが、それが呼び水になってギルド全体に殺気が膨れ上がった。魔法士というだけで排除の対象だと思っているのは道を塞ぐ男達だけではないらしい。

((うわ、面倒くさっ))

 自分の行為が正しいと信じきっている輩ほど面倒なものはない。何せ理屈が通じない。何を訴えても「魔法士だから悪い」で済まされてしまう。さらにそれが集団になることで厄介さは格段に跳ね上がる。それに、相手はユウト達が魔法士であると確信している様子なので今更誤魔化すことも難しい。

「おうおう。随分騒がしいじゃねえか」

「あん? 誰だぁ、って……ヤンの兄貴!!」

 姉弟がどう切り抜けようかと考えていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。残念ながら視界は男共に遮られているので、男と同じくらいの背丈のユウトはともかくヒメカは全く見えなかったが、「ヤン」という名前で『光の風』が帰ってきたのだと分かった。

「今回は早かったんすね」

「採取依頼だったからな。それよりこれは何の騒ぎだ? 若いのを取り囲んで何だか穏やかじゃねえな」

「い、いえ、こいつらが魔法士だってんでちょっと脅して出て行ってもらおうと……別に怪我させようなんざ思ってやせんぜ! 勿論!」

「魔法士? ……ってヒメカとユウトじゃねえか」

「え、お、お知り合いで……?」

「まあな。おーい、エーランド、マリベル、ついでにミスト! ヒメカ達がいたぞー」

 まさか自分達が絡んでいたのが、兄貴と呼んでいるヤンの知り合いだったことで若干及び腰になる男達。さらに、ヤンが声を掛けたことでエーランド、マリベル、ミストもやってきたのを見て、男の額に汗が滲む。

(ヤンさんだけじゃなく『光の風』全員の知り合いなのかよ)

(お、おい、どうする……)

(どうするって……)

 男達がこそこそと相談している間も、ヒメカやユウトは『光の風』と仲良く会話している。というか、男達に絡まれた件もペロッと話してしまっていた。

「ヤ、ヤンさん! そいつら魔法士だぞ!? 仲良くしない方がいいって!!」

「そ、そうだそうだ!」

「え、知ってるけど?」

「!?」

 周りで殺気を向けていた冒険者の1人がそう告げるが、ヤンはあっさり知っていると答えたので騒がしかったギルド内はしーんと静まり返ってしまう。

 そしてタイミングが良いのか悪いのか、剣呑とした空気を察した職員が呼びに行ったらしいギルドマスターのイゴールが到着。なんとも言えない雰囲気に首を傾げながら、騒ぎの中心と思しきユウト達の方へゆっくりとやってきた。

「急いで来てみりゃ何がどうなってんだ?」

 イゴールも最近のやたら魔法士を敵視する風潮を問題視していたので慌ててやってきたのだが、呼びに来た受付嬢の説明では一触即発で危険な状態と聞いていたが、どうもそんな雰囲気ではない。

「とりあえず騒ぎの中心はついて来い。ヤン達もあとで話を聞くから納品を済ませたら第一会議室まで来いよ」

 イゴールの指示にそれぞれ了解の返事をして、とりあえず姉弟は大人しく会議室へついて行った。



 会議室にはレティシアが待っていて、事の経緯を聞かれる。

 姉弟は嘘偽りなくありのままを淡々と報告し、ノマ達は魔法士=悪であることを前面に押し出して言い募る。

 一通り両者の話を聞いた後、イゴールは頭を抱え、レティシアは残念なものを見る目をノマ達に向ける。

「はぁー…………」

 イゴールの口から大きなため息が吐き出される。

「問題を起こした魔法士は全員追い出しただろうが。それなのに何故こんなことを起こす? それともこいつらが何かやらかしたのか?」

「「「…………」」」

 反論も出来ないが納得もしていない表情でムスッとしている男共に、イゴールはもう一度分かり易くため息を吐いた。

「ならいっそ試合でもしますか? お互いの事が分からないから衝突するのでしょうし、お2人の実力を見れば魔法士だのなんだのと言わなくなるのでは?」

 1人だけ冷静に聞いていたレティシアが提案する。ギルドとしては今回の騒動をきっかけに魔法士への嫌悪感が薄れればと考えているようだ。そもそもの原因は、ルールを守らない、仲間との連携も出来ない、プライドだけは人並み以上の無能な魔法士が集団でやってきてしまったからなのだから、ここで有能な魔法士の存在を周知しておけばギルド内の空気に一石を投じられるので、と考えてのこの発言である。

 イゴールはレティシアの提案を実行すべきか頭を悩ませる。

(冒険者は実力主義。ギルドでも互いを知るための試合は推奨歓迎している。問題は、こいつらがその一石になれるかということなのだが…………)

 実力はミノタウロス亜種討伐だけでも充分満たしている。人格に関しては、ダンジョン講習後の報告で、いつにない充実した講習の立役者で、普通に他の研修生とも良好な関係を築いたとある。それどころか、『光の風』全員に気に入られている節もある。

「失礼します」

 考えていると、手続きを終えたヤン達が来たのでイゴールは意見を求めてみた。

「いいんじゃないですか? というか俺も2人が魔法士としてどう戦うのか気になりますし」

 ヤンはあっさりと賛成に回る。

 他の3名も、言葉は違えども姉弟の冒険者としての腕に興味津々のようで賛成した。姉弟に絡んだ男達はヤン達がそういうならと乗り気な様子。そして姉弟はというと、別にどちらでも構わないという姿勢のようだ。

 よって、賛成多数により試合が成立した。

「日時はどうする?」

「今日でいかがでしょう? どうやら他にも魔法士を敵視する方々がいるようですから見学していただきましょう。訓練場は押さえておきます」

「だそうだが双方問題ないか?」

 どちらも首肯したので本日開催決定。場所もすぐに押さえられたため観客を募り、あの場にいたほぼ全員が見学することとなった。



「誤魔化すために試合をって話してたのに普通に魔法士として試合することになったな」

「時間稼ぎになればと思って言っていたことだしね。それにここで周知しておけば堂々と工事に参加できるわけだし悪くはないと思うわよ」

「そう考えると結構いいタイミングだったのか」

 姉弟は冒険者装備に着替えてから訓練場へ移動し、選手はそれぞれ体を解しながら会場が整うのを待つ。観客は訓練場を取り囲むように配置された観客席で賭けを始めている。ノマ達はあれでもBランク冒険者でそれなりに知名度もあるらしく、レートはノマ側有利。ただ、ヤン達がユウト達へ賭けているのと、講習で一緒だったパーティの一部や『シルバーアックス』、その他、2人とも近接戦闘の出来る魔法士ということもあり、姉弟に賭ける者もそれなりにいるようだ。

 審判はイゴール。レティシアは観客席の一番良く見える席にヤン達と共に座っている。そして何故かテオとジェードもその場にいる。

 姉弟は、昼食が遅れるとテオとジェードへ伝えてもらうようにミストへ依頼したのだが、ミストが戻って来ると何故か2人も一緒だった。ミスト曰く、見学しながら食事は出来るのだから折角だし連れて来た、との言である。急に連れて来られて状況が分からないテオとジェードには、マリベルとエーランドが説明してようやく呑み込めたようで今はご主人様の試合が始まるのを待っている。

「では双方準備はいいか?」

「「「はい!」」」

「「はい」」

 意気込んで返事をするノマ側3人と、特に気負いなく平坦な返事をするユウト達。

 選手の了承が取れたことで、イゴールは場内と場外を隔てる障壁発生装置を起動。観客の安全を確保して、選手たちに持ち場へ着くように促した。

「では最後の確認だ。勝利条件は相手を全員戦闘不能にすること。判断は審判である俺、マルズ支部のギルドマスター、イゴールが行う。審判の指示には絶対に従うこと。そして、殺傷力の高い攻撃はなしだ。双方異論はないな?」

 イゴールが観客にも聞こえるようにルールを述べる。そして、選手たちが首肯したのを確認。

「よし。では……始め!!」

 イゴールの合図により、試合が始まった。



「やめ! 勝者、『メラン』!!」

「うっわ……まじか…………」

 試合終了の合図。しかし、ヤンの呟きでさえはっきりと聞こえるほど観客席は静まり返っていた。

 それもそのはず。Bランク3人のチームが一瞬で戦闘不能に追いやられてしまったのだ。

 スタートの合図と同時に距離を詰めようとした3人に対し、ヒメカが3発の『魔法弾』を撃ち出す。1人にクリティカルヒットして障壁まで吹っ飛ばして戦闘不能に。『魔法弾』を武器で受け流したり避けたりした2人も、『俊敏性上昇』によってスピードを強化したユウトに接近を許してしまい、とっさに防御しようとするも、ユウトの攻撃の方が速く、そのまま意識を刈り取られてしまった。

 まさに瞬殺。

 魔力を射出するだけの『魔法弾』は目視での軌道が読みにくく、それだけで脅威なのだが、長々とした魔法詠唱も予備動作もないために反応が遅れてしまう。

 『俊敏性上昇』は魔力感知に慣れていないと発動すら気付けない地味な魔法で、前線に立たない魔法士にはあまり重要視されていない魔法。魔法士が仲間に掛けたとしても、仲間の慣れも必要で、感覚のみで魔法を行使する一般の魔法士ではよほど魔力操作に長けていないと性能にバラつきが出てしまうこともあり、戦闘中に使用する魔法士は少ないが、移動や逃走用としては知られている。

 ユウトの攻撃を目で追えて中途半端とはいえ防御しようとしていたノマ達ならば、もう少し気構えしていれば十分対処可能な攻撃である。あくまで小手調べのつもりで放った攻撃がことごとく成功してしまったことに、姉弟の方が驚いたくらいだ。

 なんとなく微妙な気持ちで幕が下りた勝負だが、勝負は勝負。姉弟は勝利を手にした。

 しかし、それで観衆が納得したかというと微妙で、主に賭けに負けた者達から自分とも勝負しろという申し出が殺到。収拾がつかなくなったために、一旦食事休憩を挟み、個人またはパーティ戦が執り行われることになった。



 結局、夕方まで『メラン』対誰かの試合は続き、何故か『メラン』側である『光の風』も参戦したり、威力を抑えた魔法を維持するのに疲れてきたユウト達が最終的に近接戦のみで対戦したり、『メラン』vs他の冒険者になり、やられては復活して戦線復帰するので氷魔法での範囲攻撃で復帰できないようにして決着をつけたりと、なかなかにカオスな様相を呈した。

 テオとジェードは冒険者としての主人を初めて見て、いつもと違う2人の勇姿に驚きと興奮を覚えながら観戦していたが、残念ながら仕事があるので途中で帰ってしまった。

 最終的な『メラン』の勝率は9割以上。全勝はさすがに無理だったがかなりいい数字である。そのおかげか、ユウトとヒメカはマルズの冒険者たちに認められて、2人を追い出そうとする者はいなくなった。

「久しぶりに思い切り動いた気がするわねー」

「また武器の修理に行かないといけなくなった。姉さんは?」

「色々な武器を持ち替えながらだったから悠ほどじゃないけど……まあ一応全部メンテナンスはした方がいいかな? 修理を頼んでいたのも取りに行かないといけないし」

 汗を拭いながら呟くヒメカとユウト。ただし、反応は相手を入れ替えての連戦に継ぐ連戦で、姉弟にも疲労の色が見える。それでもまだ余力を残しているのだから恐ろしい。

「おーお疲れさん! いい勉強になったぜ! 氷漬けにされる経験もできたしな!」

「その氷を武器も使わず力技で脱出した人が何を言ってるんですか。魔法弾が直撃してもお構いなしですし、威力調整する身になってください!」

「ははは。まあでもちゃんとダメージはあったぞ」

「ヤンは頑丈さが取り柄だもの。他の子に合わせていたらほぼノーダメージよ」

 全員が同じだけの強靭さとは限らないので、範囲鑑定を使ってかなり繊細に魔法の威力を調整していたヒメカに対し、ヤンはC、Dランク冒険者に交ざって襲ってくるので性質が悪い。ヤンが意図していたかは謎だが、その戦法で魔法の威力が下がることに気付いた高ランク冒険者達が同じことをするようになってしまった。

「マリベルさんも容赦なかったですよね?」

「うふふ。ちゃんと刃を潰していたり鏃が丸い練習用だから当たっても大丈夫だったのよ? 完全に防がれてしまったけれど」

「あそこで武器を手放すとは思わなかったよな。しかも素手でもスゲェ強ぇの」

「ホントよねー。アレで魔法まで使えるとか詐欺よ詐欺。エーランドなんか、貴方を見習って武器だけじゃなくて徒手格闘も極めようかとか言ってるわよ」

 ユウトもマリベルに抗議するが、その抗議は流されてしまう。マリベルをはじめとした斥候達の連携誘導に引っかかってヒメカから距離を取らされ、集団に囲まれたのは苦い経験となった。さらにその集団の隙間を縫うように中距離からの正確な攻撃。逃げ場もないので剣を捨ててでも対処しなければならない場面だった。

 姉弟にとっても色々学べる戦闘訓練だったが、もう二度としたくない経験としても姉弟の脳裏に焼き付くことになった。

「はぁ……もういいです。それより、この後何もないようでしたら今日家へ来ませんか? 例の物の感想も聞きたいですし、夕食を御馳走します」

「行く行く! お前らん家の飯マジで美味いんだよな~」

「すぐにミストとエーランドを呼んでくるわ! ギルドの入口で待ってて頂戴!」

 マリベルが別の場所で他の冒険者達と話しているミストとエーランドを回収しに走っていった。


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