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83話 家を買います。

「昼にはまだ少し早いから先に武器屋へ行くか?」

「うん」

 冒険者ギルドからさほど離れていない場所に、腕がいいと評判の武器屋があるのでそこへ向かった。武器屋では刃が欠けた細剣を見てもらい、修理可能らしいのでお願いするのと、新しい剣を購入して店を出る。

「少し時間が微妙だし靴屋は午後にしましょうか?」

「そうだな」

 特に予定はないし、市場経由でブラブラと街を歩きながら家へ帰ると、テオとジェードが迎えてくれる。

「お腹一杯になったら無理に食べなくてもいいからね」

 昼食を食べる習慣がなかったので、量は控えめにして足りなければおかわりをする方式を取るが、やはり2人ともあまり食べられなかった。

 心なしか落ち込む2人に、料理自体は気に入っていた様子だったのでまた作るという約束をして昼食は終了。食休みをしてから、少しだけ勉強を教えたり、料理を教えたりしながら交流を図った。

 キリが良い所で終わりにして姉弟は靴屋へ赴くべく家を出た。



「んじゃこれで納品ってことでいいな?」

「はい。ありがとうございました」

 午前中に冒険者ギルドへ行く時に冒険者スタイルだったので、どうせ冒険者業用の靴なのでちょうどいいとばかりにそのままの格好で靴屋へ向かった姉弟。店に入るなり、「そういえば冒険者だった」などと言われるのはもう慣れっこである。

 比較的早く済むユウトの後にヒメカの最終チェックも終了し、問題なかったのでそのまま納品の流れである。

「余った革は返すが端切れはどうする?」

「端切れはそちらで処分してもらえますか? ところで革はどの程度余りましたか?」

「4分の3ほどだな。すまねえ、何回か失敗しちまった」

「それは大丈夫です。革への加工もしてもらいましたし、それにこれ、自動サイズ調節機能付きですよね? 大分予算オーバーだったのでは……?」

 靴自体ぴったりフィットに作られているが、さらに魔石を埋め込んで自動サイズ調節の付与がされていた。それも上質な魔石を使っているようで、少なくとも靴の買い替え時まで効果がなくなるということはないだろう。

「いや、まあ……そこはほら、勉強料ってことだ。ワイバーンを扱えるなんて靴職人冥利に尽きらぁ」

 笑ってそういっているが、それを見る奥さんの視線が怖い。

 姉弟は頷き合うと、残った分の革をそのままあげることにした。ワイバーンの皮はまだあるので今回渡しておいた分の残りを渡しても問題ない。代わりに、皮を加工してくれる工房を紹介してもらうことに。明日、ミノタウロス亜種の皮が返却されるはずなので、それを革にしてもらうのだ。

 ミノタウロス亜種という言葉に店主が反応したが、今の所、新たに靴を仕立ててもらう予定はないのでスルー。

「じゃあ、これがダグ工房の地図な。相手方には今日中に連絡しとく。フェルザー工房の紹介って言えばいいからよ」

「ありがとうございます」

 簡単な地図が描かれたメモを貰い、またのご利用と素材持ち込み大歓迎との言葉をいただいて店を出た。

「加工してない皮ってどのくらいある?」

「王都にいる間にほとんど済ませてあるからそんなにないわよ。ワイバーンは存在を忘れていただけだもの」

 革を扱う職人が聞いたら涙しそうだが、現在ヒメカのポーチには大量の素材が眠っている。本人達は必要になった時に思い出すくらいで頓着していないし、ステータスの持ち物欄で確認できることの弊害だろうか、まめにチェックすることもない。料理関係と調合関係はしっかり記憶しているようなので、記憶力の問題というより興味のあるなしなのだろう。

「夕食は何を作ろうかな~。悠は食べたい物ある?」

「魚」

「じゃあ魚のフライとー…………んー?」

「どうした?」

「ねえ、あれってお米っぽくない?」

 ヒメカが指差す方向には、馬車から下ろされた大袋の中身を店の人がチェックしている様子である。

「うん。やっぱりお米ね」

 鑑定を使ったのか、断言するヒメカは颯爽と店へ向かう。ユウトもまたコメを渇望していたので異論はない。すぐにヒメカを追いかけた。

「すみません、それはおいくらですか? 出来るだけたくさん欲しいんですが……」

 ユウトが追いついた時にはすでにヒメカは交渉を始めていた。

「あー、悪いな嬢ちゃん。もうほとんど売り先は決まってるんだよ。でも1袋(約30kg)なら売れるよ。金1銀6。量り売りはしてない」

「ではそれでお願いします」

 目の前に念願のお米があるのだから買わないわけがない。ヒメカは即決で支払った。

「まいど! しっかし嬢ちゃんも変わってるね。こんなの買うのは金持ちの食道楽だけだと思ってたよ」

「食道楽」

 鑑定で【○○に近い味】とあればこちらではあまり食べられていない物も食べているので否定は出来ない。ただ、薬の素材と思われていたり、手を加えないと美味しくないというだけで食用に出来ない物を食べているわけではない。素材の味で勝負といわんばかりのこの世界の料理とは少し違うだけで、美味しければ普通に受け入れられる。

「そのままだと固くて食えたもんじゃないが、水で煮るといいらしいぞ。米を育ててるとこじゃそうやって食べるらしい」

「ありがとうございます」

 次の入荷時期も聞いてみるが、あまりにも人気がないため再来月まで入荷はしないとのことだ。その入荷も完全注文制だというので、5袋注文して前金を支払い、割符を受け取った。

「これはどうする? 配達も承っているが」

「大丈夫です。このまま貰って行きます」

 米の袋をマジックポーチに収納すると、軽やかな足取りで家路についた。



「あの、このニオイは……?」

 夕方は仕事があるのでせめて配膳だけでも手伝えたらとテオとジェードが急いで風呂から上がると、少々独特な匂いが漂っていた。テオが疑問を口にすると、ヒメカは顔を向けて答えた。

「ああ、ごめんなさい。お米を焚いてみたの」

「おこめ、ですか?」

 購入したお店の人に食道楽扱いされるだけあってテオは米を知らないようだ。

「私達がいたところでは食べられていたものなのだけど、今日たまたま見つけたから買っちゃったの。ちゃんとパンもあるから安心してね」

 炊いたご飯は味見してみるが、日本の米には敵わないが米は米。久々に食べた事も相まって美味しさ倍増である。

 一方でユウトは、ヒメカがお米を焚いている間に隣で味噌汁を作っていた。米の味をみてから作り始めたのと、鰹節もどきを削ったのがユウトなのでそのまま料理もすることにしたようだ。出汁は鰹節もどきの他に昆布もどきも使う。出汁の味見はしたし、具材は今まで食べてきた野菜を中心に、そして味噌は異世界産なので不味くなることはないだろう。

「…………」

「? ああ、悠も一通り料理は出来るのよ」

「姉さんが作った方が美味しいから普段はしないだけ」

 初めて見るユウトの料理姿にテオがちらちらと視線を送るので、すかさずヒメカが答えた。一時、ジェードの真似をして無理に丁寧な言葉遣いをしていたが、姉弟が砕けた口調でいいと伝えて以降、そこまで無理はしなくなったが、時々言葉を飲み込む。

 ジェードは言葉こそ丁寧だが、観察力も適応力も高く、質問があれば率直に聞くようになった。その成長は目覚ましく、今は食事に興味を持っているようで、先程からずっと料理から目を離さない。

「味見してみる?」

「いただきます」

 即答するジェードに、味噌汁を少量とご飯を一口分食べさせてみる。勿論テオにも。感想としては、どちらも好き。ただ、テオはどちらかといえばご飯よりパン派。ジェードは米もパンもどちらも同じくらい好き、と好みが若干違った。

「でもこのスープにはおこめの方が合うと思います」

「じゃあ今日の主食はお米にしてみましょう」

 メインの魚のフライも出来上がったので手分けしてテーブルに運んだ。



 翌日、午前中はスイとセキトバとともに遠乗りに行き、午後は冒険者ギルドへ立ち寄ってからダグ工房へ皮の加工をお願いしに行く。

 価値の分からなかったアッハタート金貨は、金の他に希少金属も使われているらしく1枚が大金貨になって姉弟の手元に戻って来た。宝石や魔石、ミノタウロス亜種の売却額もプラスされて、またも大金を手にすることになる。

「お金を稼ぐ必要がなくなったわねー」

「家の資金を稼ぐどころか大幅に黒字だからな」

 金貨4000枚、できれば5000枚を目安に稼ごうという話になっていたので、すでに目標は達せられた。ポーション類を自作している上に、いざとなれば魔法無双ができる姉弟ならば、上級ダンジョンでそのくらい稼ぐことは可能だった。そうでなくとも、調合薬や魔道具、料理レシピなど、稼ぐ手段はいくつか持っている。

「棚ぼたとはいえ予定金額稼いだし、商業ギルドへ行く?」

「そうね。一応他の物件チェックもしたいし行きましょうか。庭の広さは今くらいでいいけど部屋数は増やしたいのよね。いつまでもテオとジェードを相部屋にしておくのもどうかと思うし、客室ももう1室あった方がいいと思うの」

「今の家を2階建てにすればいいんじゃない? 部屋数以外は問題ないし」

 購入する家について話しながら商業ギルドへ向かった。



「ようこそいらっしゃいました」

「こんにちは。今日もよろしくお願いします」

 挨拶もそこそこに、すでにお馴染みの会議室でマルスランと商談を交わす。まずは、今、姉弟が住んでいる家の価格とその理由を細かく確認。

 さすが不動産部門の役職付き。水を得た魚のように生き生きとした様子で交渉を進めていくが、ヒメカもまた容赦なく疑問を投げかけたり事細かに説明を求めたりしながらガチ交渉である。

「これ、風呂と渡り廊下の分も入ってますよね? 元々ない物を物件の値段に盛り込むのはいかがなものかと」

「いえいえ。あそこは閑静な住宅街ですし治安もいいので購入希望者は多いのです。ですからそのお値段となっているのですよ」

「だとしても高すぎます。周辺の空き家の料金を調べましたが同規模の新築でもこれより安いですよ?」

 ヒメカは、土地代は周辺とさほど変わらないからこのくらい、工費や材料費を考えると建物自体はこのくらい、と根拠のある数字を提示しながら少しでも有利になるよう交渉を進める。マルスランも負けじと追加項目と金額を乗せて来て、一進一退を繰り返しながら、折衷案を模索する。それでも最初よりだいぶ安く見積もることが出来た。

 さらに、家という大きな買い物なので交渉にはユウトも参戦している。とはいえ、メインはヒメカに譲り、ユウト自身はあまり口を出さずに話をしっかり聞いておき、時々鋭い質問を投げかける。その目の付け所がなかなかにマルスランの痛い所を突き、ヒメカが手持ちの情報と照らし合わせたり、思考したりしてすぐさま交渉に盛り込むので隙がほとんど無くなってしまう。

「わかりました。ではすべて合わせて金貨4000枚でいかがでしょう?」

「3500が妥当では?」

「さすがにそれは安すぎます。3900」

「そうですか? では3600で」

 ここまで来るとユウトの出番はないので、あとはヒメカに丸投げで静観。結果、諸々を含めて金貨3780枚ということで落ち着いた。

「ではそれで契約書を作成させていただきますね。次に建物についてですが、物置を1つ潰して階段にする必要はありますが、2階部分を増築することは可能です。すぐにでも工事に取りかかれますがいかがしますか?」

 物件の購入の話がまとまったので次は増築について。元々2階建てを想定した造りだったようで、基礎はしっかりしているそうだ。工事は材料の手配や職人の仲介など、全て商業ギルドを通して依頼することを約束している。

「日数と工費はどの程度かかりますか?」

「1週間程度は見ておいた方がいいでしょう。工費は金貨600枚ほどになるかとは思いますが、御二方が協力してくださるならば日数も減らせますし工費もお安くなるかと」

 具体的にはマジックポーチと魔法で大部分を短縮できるとか。勿論専門知識が必要な部分は本職に任せるべきだが、姉弟が作った風呂や渡り廊下を見る限り十分な戦力になる、と。短期間で工事をしたい際に優秀な魔法士を雇うことは珍しくないらしい。その優秀な魔法士を雇うのが一番難しいのだが。

「問題はその期間ダンジョンに潜れないことよね。あと仮住まいの手配? あの、厩舎は使えますか?」

「庭と厩舎は問題なく使えますよ。職人は街の方にお願いするので通いで来てもらうとして、昼食は用意していただく必要がありますね。お任せいただければそちらも手配いたします」

 家を建てたりする際には職人達の食事の用意を家主がするのが当たり前なのだとか。近くの食堂にケータリングをお願いすることが多いが、家の人間が作る事も珍しくはないらしい。

「帰ってから相談しないと」

「そうだな」

「すみません、返事は明日まで待っていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい。構いませんよ。では土地と家の権利書をご用意してきますので少々お待ちください」

 マルスランが席を立ち、戻ってきて契約書や権利書に不備がないか確認をしてから支払いと署名を行い、無事、家を手に入れた。



「――――というわけで話し合いをしたいと思います」

 家を購入したことの報告と、2階部分の増設についてざっくり説明し、それに伴う問題についてまとめる。

 主な議題は

 ・工事中の宿

 ・厩舎はそのままなので宿から通ってもらう必要がある事

 ・資材を置いたり職人が出入りしたりするため、日中スイとセキトバを庭に放せなくなること

 ・姉弟も工事に参加するか否か

 ・建設中の食事のお世話

 ・出来ればギルが来るまでに工事を終わらせておきたい事

「リトスの迷宮は完全に後回しにしてオビギュ一本に絞れば、ギルくんが来る前までに工事もダンジョンに潜るのも可能。工事参加は賛成。商業ギルドにはすでに知られているし、この家の改装をする時に使っているから噂位にはなっている気がするのよね。どちらにせよ工事中全く家主が顔を出さないのもどうかと思うから、街には居るようにする予定よ。スイとセキトバは私か悠が外に連れ出せば問題ない……というかむしろ喜びそうね。食事に関してはどうしても貴方達の協力が必要だから全員の意思確認をしてから、というのが私の考えね」

 ダンジョンで口止めをしたばかりであるが、日数短縮と予算削減いうメリットの方が勝った。

「大人数分の料理を作るのは手間じゃないか?」

「パンとスープとメイン1~2品にするから平気。スープは大鍋で一気に作っちゃうし、メインも焼くだけ、揚げるだけにしておけばいいからね。でも下準備や配膳はしてもらうことになるからケータリングでもいいと思っているわ」

「あ、あの……主様は魔法士であることを隠したいんですよね? だったら工事参加はしない方がいいと思います。食事の手伝いは喜んでさせていただきます」

「私も後学のためにも料理の勉強をさせていただきたく思います。工事に参加するか否かはご主人様方にお任せいたしますが、出来れば日雇い労働者の仕事の場を用意していただけないかと」

 ジェード曰く、今回のように緊急に人を集める場合、単純な作業を奴隷にさせることがあるそうだ。体力仕事ではあるが、手当も付いて割のいい仕事なのだとか。

「冒険者を雇う可能性もありますが、日雇い労働者の方が確実に人数を集められますし、安く雇えますのでぜひ御一考くださいませ」

「なるほど……それなら単純作業は人を多めに雇ってもらうことにしましょうか」

「うちは知られたくないことも多いから、契約で縛れる分メリットが大きいし、マルスランさんに相談してみよう」

 ユウトの言葉を受けてヒメカがメモを取る。

「料理はうちで作るので決定?」

「2人ともやる気だし、それでいいんじゃないか?」

 こちらも決定。

 その後も意見を出し合い、最終的にこうなった。

 ・ヒメカとユウトも工事には参加するが、表側は完全に職人任せ。人目の少ない内部と庭側メインでの参加。

 ・人件費は多めに設定。人事権は工匠に委ねられるが、邪魔にならない程度に多く人を雇ってもらうように相談。

 ・午前中はユウトが参加。ヒメカは食事作りメイン。午後はヒメカが工事に参加。ユウトはスイとセキトバを連れて街の外へ。テオとジェードは、午前中はヒメカの補助、午後は交替でヒメカとユウトのどちらかにつく。朝夕の仕事はいつも通り。

 実際にはもっと細かい事まで決めておいて、マルスランや工匠の返答によっては臨機応変に対応ということになったが割愛。

「宿は近い所に素泊まりで、食事とお風呂は家のを使うんでいいよな?」

「そうね。あと、お風呂は職人さん達にも解放しましょうか」

 風呂を解放するならばタンクを拡張しておかなければならないが、数分もあれば出来る事なので問題ない。ということで、ヒメカはすぐに作業を終わらせて戻ってきた。シャンプーとトリートメントは在庫の関係で4人のみ使うことに。石鹸は全身に使えるタイプなのでそちらを使ってもらう事にする。窃盗には注意するようにとテオとジェードから指摘があったので、そちらも対応策を決めた。


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