表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/113

80話 駆け下りたらボス部屋って案外すぐでした。

 10階層と20階層にちょっとした中ボス部屋があったが、待ち時間以外で時間を使うこともなく、さっくり攻略した姉弟は昼には最下層へ到着していた。

「少し急ぎ足だったけどまったく問題なかったわね」

「魔物も罠もスルーしたし、迷賊っぽいのもいたけど追いかけてこなかったな」

「そうね。まあ、ゆっくり探索する際にまた会うかもしれないけどね」

 正確には、「追いかけなかった」のではなく「追いかけられなかった」。

 下層へ行くにはどうしても通過せざるを得ない狭い通路で待ち構えていた迷賊達は、壁や天井を使って避けられ、飛ぶように走る姉弟に振り切られてしまった。慌てて武器を構えるも、すでに姉弟は範囲外。近距離戦が無理でもと矢を射るも、慌てたために姉弟から逸れるし、たまたま上手く射た矢も避けるか弾き落とされ、射程外に出られてしまった。

 上層階の迷賊が姉弟を発見後すぐに下層のお仲間に伝令に走るも、あっさり追い抜かれてそれっきり。ホームであるにも関わらず、足の速さに自信があった伝令役のプライドは人知れず打ち砕かれたのだった。

「ではボス部屋へ入る前に登録を済ませましょう」

 最下層は階段を降りてボス部屋の扉の前に転移用の水晶と陣があったので、登録を済ませておく。これでボス部屋攻略に失敗しても、次回からここまで戻って来られる仕様だ。

「順番待ちもほとんどしなくて良さそうだし、昼食は攻略後かな」

「そうだな」

 だが姉弟に攻略失敗の文字はない。それもそのはず。この迷宮のボスはウルプスの湧きの時に倒したことがあるBランクの魔物、ミノタウロスが1体だけだからだ。

 キュクロープス(Aランク)やオーガ(Bランク)、その他諸々もいる中で戦っても勝てた相手なので、よほど下手をうたなければ負けることはない。

 ただし、上級ダンジョンへの通行証を発行してもらうには、中級ダンジョン制覇が推奨されているので、制覇するしかない。まあ失敗したとしても姉弟のランクは問題ないため、何度か意思確認される程度だろうが、それでもスムーズに手続きをしてもらう方がいいので姉弟は油断せず一発制覇を目指している。

 とりあえず、一組パーティが扉の前で待っていたので、その後ろに並ぶことにした。待っているパーティが少ない場合はパーティ全員で並んでもいいとされているので、前に並ぶ人に倣えば面倒がなくていい。

 そのまましばらく待っていると、閉まっていた扉が勢いよく開き、中から4人組の冒険者が飛び出して来た。

(ああ……だからあんなに扉から離れていたのね)

 ボス部屋の扉は人が入れば外側はロックが掛かるが、内側からならいつでも出られる仕様になっていることが多い。あくまでも多いだけなので、ボスを倒さなければ部屋から出られないという鬼畜仕様なダンジョンもある。ある種の罠部屋と言ってもいい。

 とりあえずこのダンジョンはそんな鬼畜仕様ではないので安心してボス部屋へ挑める。

 息を切らしながら地べたにへたり込むパーティをよそに、ボス部屋の扉はゆっくりと閉まって行き、完全に閉まったところで次のパーティが中へと乗り込んでいった。

 ボスはボス部屋から出ることはないので部屋から出さえすれば安全だが、ボス部屋から出てきたパーティメンバーの顔色は青いままだ。

 そしてふらつきながらゆっくりと立ち上がり、頼りない足取りで転移陣へ近づくと、そのままどこかへ転移してしまう。

 他者の恐怖する顔を見ても姉弟の顔色は変わらないが、けして冷たいと言う勿れ。姉弟の前に並んでいたパーティも淡泊な反応だったが、こういう場合、自分の力量を計り損ねた者が悪いと考えるのが冒険者である。パーティ全員が身動き取れない状況なら手助けするが、むしろむやみやたらに手を貸す方が侮辱と取られる。助けられる側からお願いしてそれを受け入れるのはOKなので、助け合いの精神はきちんと存在する。

 現在ボス部屋の中のパーティも、姉弟がいなければ先程のパーティが手助けを求める時間分くらいはこの場に残っているだろう。あくまで親切心によるものなので絶対とは言えないが、応えない者は自分の時に応えてもらえないというだけだ。

「一応警戒しながら待ちましょうか」

 目撃例はないが、一応盗賊がいる迷宮なので『探知』の範囲は上の階まで広げておくヒメカ。不意をつかれても、持前の敏捷性で避けた上に反撃も出来るので、単なる気休め程度でしかないが精神疲労が断然違うのでそうしている。どうせ魔力はほとんど使う事がないからと鑑定スキルも上乗せしている。

(そういえば最近自分のステータスチェックをしてなかったわね)

 どうせ時間はあるし、とヒメカは自分のステータスを開いてみる。


【ヒメカ・ホウライ 種族:人族 性別:女 年齢:15歳

 備考:異世界の落とし子/聖女の卵/英雄の卵

 魔法適正:光・闇・火・水・風・土

 職業: 冒険者/研究者/商人/付与術士/細工師/魔道具技師/調合師/木工師

 賞罰:なし

▶状態:健康


 HP:14914/14914

 MP:18051/18366


▼物理攻撃力:5983

  ▶魔法攻撃力:8983

▼物理防御力:4327

  ▶魔法防御力:7030

 俊敏性:8884

▼スキル:鑑定・採取・観察・解体・暗記・算術・交渉 ・・・

体術・気配遮断・忍び足・追跡・強撃・短剣術 ・・・

魔力感知・魔力操作・魔力制御・魔力視・魔力隠蔽 ・・・

数学・力学・薬草学・鉱物学・医学・魔法学・魔法陣学 ・・・

・・・

▶持ち物 】


(……色々気になるけれど、1つずつ考察してみましょう。まず全体的に項目が増えているのはいいわね。職業欄は飽和状態だけど……調合師があるのは悠と知識共有しているから? あ、でも石鹸等は共同で作るしレシピは私の知識だったから……? まあ、いいか。商人は遠慮したいけど。木工師は家具を作った時に付いたのかな? 賞罰は特に言うことはなし。で、新たに増えている項目【状態】だけどさらに開けるようになっていたわね……)

 面倒なので持ち物欄だけでなくスキル欄も閉じるように念じてからステータスを再びチェック。

 状態欄を意識すると、全身図(前/後)が並んでいる。ただし、特に怪我も病気もしていない健康優良児なのでまったく参考にならない。ということでヒメカはナイフを取り出して自身の左腕を切った。

【怪我(微)ナイフによる切創。自然治癒可能。】

 全身図の左腕部分から線が伸びてそう書かれてあるのを確認してから回復魔法で治療すると、怪我の文字が消え、元の全身図のみになる。

(なるほど)

「…………姉さん、いきなり何してんの?」

 宙を眺めているだけならば別段気にしないが、いきなりナイフを取り出して自分を傷付け、治療した後満足するように頷いた姉に、ユウトは声を掛けずにはいられなかった。

「ステータスの検証。悠のステータスには状態欄ってある?」

「えっと……ある。健康になってる」

「そこから全身の図が見れるようになってない?」

「? いや、なってないけど?」

「ん? ということは私の方だけなのね……とすれば治療院通いの影響? それとも鑑定を使う頻度の差? でも最近は私もそんなに使っていないし……悠、ステータスの項目だけ教えて?」

 見ている物が違うため、どの程度違うのか検証することにした。



 人が全く来なかったため、存分に検証してみた結果、基本は同じ。ただし、状態の全身図の部分のみ違うのと、ユウトの職業欄に付与術士と細工師がない。知識はあるはずなので実際に作ったことがないからだと結論付けた。

 次に検証したのが素材類の鑑定の差。こちらはユウトの方がより詳細なデータが得られた。特に調合関係の説明文がユウトの方が細かく記載されており、鮮度の項目の評価段階がヒメカは優・良・可・不可の4段階。ユウトはさらに細かく10段階。そして素材を見ながら薬品名を思い浮かべると、【あと△△分、□□という処理で保管】という補足が付いた。実際に検証してみたことがある物にのみ補足が付くのでそういうことなのだろう。

「スキルについては、元々向こうの世界で出来たことでも、こちらの世界で活用して初めて増える。こっちの世界に存在しないものは記載されないってことが分かっていればいいかな。というか、ステータス自体に関しては他者との比較が数値で出来て便利って程度なのよね」

「たしかに。備考欄とか怖すぎるから忘れたい」

 ユウトの備考欄にも【英雄の卵】があった。聖女がない分ヒメカよりマシだが、英雄なんて面倒なものになる気はない。ステータスを見られるのが異世界の人間限定なのがありがたいやら、そもそもそんなものを記載するなと抗議したいやら心中は複雑である。

 そんなこんな話していると、前回同様、扉が勢いよく開かれ冒険者が雪崩れ込んできた。

「エルゲ! 早く来い!」

「すまん、ルイジを頼む。俺がエルゲを迎えに……!」

「お前だって怪我してるだろ! 無理だ!」

「じゃあどうしろってんだよ! まさかエルゲを見捨てる気か!?」

「ああ! そんなぁ!! お願い! 誰かエルゲを助けて!!」

 全員が負傷しており、特に怪我の酷いメンバーを担いでいた剣士が戻ろうとするが止められてしまう。止めた男も自力で逃げ延びたが足を負傷しているので戻る事は出来ない。もう1人は軽傷だが女性で、エルゲと呼ばれた体格のいい男性を引っ張ってくるのは無理だろう。

「手助けが必要か?」

 瞬時に状況把握を終えたユウトとヒメカは、すぐさまパーティの元へ駆け寄り声を掛けた。

「え……あ、た、頼む! 中で足止めをしてくれている仲間がいるんだ!!」

「お願いします!!」

「エルゲを助けてくれ!!」

「了解した」

 意思確認をしたので遠慮なくボス部屋へ飛び込むと、瞬時にエルゲと呼ばれた男の怪我の具合を確認。攻撃を耐え続けたせいで両足を骨折していて自力での脱出が難しそうだったため、ヒメカがミノタウロスとエルゲの間に体を滑り込ませて振り上げられた斧を剣でいなし、多少大げさに立ち回りながら斬撃を二度三度とお見舞いして自分に目を向けさせ、その場から離す。その間にユウトがエルゲを肩に担ぎ上げて扉の外へ走った。途中でエルゲが気を失ってしまい、手に持っていた盾と剣を取り落としてしまったが、無事に脱出成功。ヒメカはそれを目視確認すると、なるべく扉から離れるようにミノタウロスを誘導し、追いかけてこないよう股下を潜り抜けながら両足の腱を斬って逃走。途中、エルゲが落とした盾と剣を回収して部屋を出た。

「ただいま~」

「おかえり。お疲れ様」

 あれだけの大立ち回りをしながらも何事もないように話す姉弟に、意識がある他の者は唖然とするしかない。

 しかし、すぐに街まで戻らなければと思い直すが、不可能だと気付いて落ち込んだ。

 全員怪我人で内2人は意識不明。意識はあるが片足を骨折している男と、軽傷だが細身の女性は気を失っている男を担げない。意識不明の2人が目を覚ましても自力での移動は出来ないかもしれない。地上へ戻っても、動ける人間が街へ戻って馬車の手配をして怪我人を街へ運び、怪我の具合からみて教会で治療してもらわなければならないだろうが、馬車を借りるお金や治療費の事を考えると武器や防具を売ってもお金が足りない。教会の治癒師はあまり腕がいいとは言えず、ある程度治療してもらった後は自然治癒に任せて完治するまで仕事が出来ない。仲間を助けてくれた目の前の2人にも何かお礼をしなければならないが、それも難しい。借金奴隷という言葉が頭をよぎった3人は顔を青くさせながらカタカタと震えている。

「あの……」

「ごめんなさい!」「「すまない!」」

「「?」」

 急に具合でも悪くなったのかとヒメカが声をかけようとしたら謝られてしまった。姉弟は訳が分からず目を丸くした後、顔を見合わせる。

「あ、あの、私達……お金がなくて……」

「必ずお礼はする! だがしばらく待って欲しいんだ!」

「身勝手なのは承知だがどうかお願いします!」

 そこまで聞けば姉弟も合点がいった。というか、治療費すら怪しいのでは、というところまで勘付いてしまった。

(どうする姉さん? 魔法士なのばらして治療する? お金がないって言ってる人間に教会の治療費より高いポーション差し出すのはちょっと……)

(正規の値段を貰わないと後々面倒なのよねぇ……これが知り合いだったら多少安くしても問題ないんだけど……)

 むしろダンジョン内という特殊な場所では正規より割高の取引が普通。まだ人目に触れていないし、口止めを条件に回復魔法を使い慣れているヒメカが治療することになった。

「あの、お礼は別にいつでもいいので、早く治療した方がいいですよ? 私、回復魔法が使えるのでよければ治しましょうか?」

「「「へ???」」」

「マルズって魔法士嫌いの風潮があったので秘密にしていたんです。武器も使えるのでそっちの方が安全かな~と思いまして。なので貴方達が黙っていてくれるなら治療します。これでも中位回復魔法まで使えます」

 手の内を明かしたからにはYESと答えて貰いたいが、相手が断った場合も一応考えているヒメカである。どうするか? 「前衛職です」と言い張って、ギャラリーがいる場所で適当な相手と剣を切り結べばいい。ツボは「魔法士ではない」とは言わないこと。それなら嘘も吐いていない。

 魔法士と言われて警戒の色を滲ませた3人は、少しだけ仲間内で話し合わせてほしいと言うので快く了承してその場から少し距離を置いて話し合いの結果を待つ。

 しばらくして決着がついたのか、鎮痛な面持ちで「お願いします」と言ってきたので、ヒメカは重傷者から順に治療を始めた。

 ユウトはその間に治療費について話し合う。交渉相手は『シルバーアックス』のマティアス。重傷ではないが軽傷とも言えない怪我をしているが、このパーティではサブリーダーをしているらしい。リーダーはルイジと呼ばれていた男で、現在気絶中なので代理でマティアスが交渉するという。といってもユウトは教会の治療費など知らないので、相手に大体の目安を聞いてそれを基準にじゃあこのくらいで、と金額指定するだけだ。

「料金の上乗せはいいのか?」

「魔法士であることを黙秘してくれるなら相殺でいいです」

「そりゃ約束は絶対に守るが……」

「魔法士なのもバレたくないですが、さらに回復魔法が使えることで教会に行かずに姉さんに治療を依頼してきそうで警戒してるんです。教会を敵に回すのは得策じゃないんで」

「ああ、まあ、あんだけ腕のいい治癒師だと頼む奴はいるだろうな。正直、教会の治癒師よりよほど腕がいい」

「……やめてくださいよ?」

「わかってる」

 じっとりとした視線を向けてくるユウトに、苦笑しながらもマティアスはしっかり頷いた。

「マティアス、皆の治療が終わったから貴方も……」

「ヘルゲは?」

「私は手持ちのポーションで充分だから平気。貴方、平気そうにしてるけど骨にヒビが入ってるんでしょ?」

「え」

「……治癒師の子が言ってたけど本当だったみたいね。いいから早く治療してもらいなさいよ」

 交渉はもう終わっているからどうぞとユウトも快く送り出し、ヘルゼとマティアスの治療が終わったところで改めて自己紹介をした。足を骨折していた男はエジットというらしい。

 気絶していた2人もその時には目覚めていた、というか叩き起こされていたので自己紹介とお礼を述べた。ヒメカが本人に不具合がないか聞きたいと言ったところ、親切なヘルゲが治療済みなルイジとエルゲを平手で起こしてくれたようだ。ちなみにエルゲとヘルゲは双子の兄妹だとか。

「じゃあ俺達はこれで失礼する」

「今日は言われた通り街へ戻るよ」

「魔法士だからって疑って悪かった。まだ苦手意識は残ってっけど、少なくともお前らは別だって分かった」

「約束は必ず守るし守らせるから安心してくれ」

「なるべく早く治療費を払えるように頑張るわ」

 転移陣で地上へ戻る『シルバーアックス』を見送った姉弟は、さっそくボスに挑むことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ