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78話 今日からお試し期間です。

 マルスランに詳しい話を聞いた後、奴隷商へも足を運ぶ。餅は餅屋、奴隷のことは奴隷商に聞くのが一番。ということで、少々相談に乗ってもらうことにした。

「ようこそお越しいただきました。して、本日はどのような御用向きでしょうか?」

 対応してくれたのはルーベン。店頭には副店長のダニエルの姿もあったが、わざわざ店長が対応してくれるらしい。長々とした前置きはさておき、早速本題へ入る。

 短期雇用だったが正式に雇用したい意思があることと、テオに関しては現在返答待ちであることも伝える。その他、確認しておきたい事もつらつらと一通り述べると、ルーベンは相槌を打ちながら一つ一つ丁寧に説明、提案、修正をする。分からないことは率直に分からないと答えるので姉弟としても大助かりである。

 ちなみに、ジェードから聞いた話は、よくとは言わないが実際にある事だった。

「……ふむ。それにしてもこの短期間で随分気に入っていただけたようですね」

「ウチの馬たちの様子から丁寧に仕事をしてくれているのは分かりますし、人柄も好ましいので。それに、正式に雇用すれば食事も好きにしていいのですよね?」

「ははは! そうですね。確かに。……初めていらした時もお気になさっていましたが、余程気になるのですね」

「それはもう。元々奴隷に馴染みがないので自分達だけ豪勢な食事をしている気分になりますし、1日2食なのも心配になります」

 ※この世界からすれば、常にパンは焼き立て、新鮮な食材を使って調味料も制限なく使い放題、味付けも風変りだが手が込んでいて格別に美味しい姉弟の食事が豪勢なのは間違いない。

「そうですか……ではこういうのはいかがでしょう?」

 ルーベンの提案は、奴隷2人に姉弟が主人となった場合の待遇を今日から試してみる、というものだった。

「しかし、それだと断られた場合が悲惨ではありませんか? 食事に制限をかけたのはそれがあったからでしょう?」

 それを聞いたヒメカはすぐにでも食事改善をしたかったので大喜びだが、冷静でもあった。

「本音を言いますと、私は御二方があの2人の主人になっていただければ幸いだと思っております。長年奴隷商人をしておりますが、仕事さえしてくれれば他は自由にしていい、などという条件は聞いたことがありません。それに奴隷をただの道具として見ていない。それに、2人の奴隷を養っても余りある資産をお持ちでは?」

「可能ではあると思っています。ちなみに、資産うんぬんはどこを見て判断なさったので?」

 姉弟はこちらの世界基準でも成人したばかりで、貴族でもないし、服は平民が着るような服を買っている。この街ではまだほとんど冒険者業はしていないので騒ぎになったこともないはず。何故お金を持っていることが分かったのか、気になったヒメカは素直に聞いてみた。

「そうですね……言葉や仕草が綺麗なことも一つですが一番は“服”でしょうか?」

「「服?」」

 転移してきた時の服はこちらでは上質すぎるので、ロザリア王都で服を買ってからはこの世界の服しか着ていない。完全オフの日は平民服と決めているのでおかしなところはないと思っていた姉弟は理解できなかった。

「たしかに御二方の服は平民が着る服ですが、平民服の中でも上等な部類で、デートや求婚などの特別な日に着るような服なのです。そして、何度かこちらへ足を運ばれていますが、来店の度に同品質の違う服を着ていらっしゃいますよね? 普通、平民はその手の服は1着か2着持っていればいい方ですし、普段使いされている様子なのに常に新品のように綺麗です。服の手入れをする余裕もあるという現れですね」

 次に、と、靴も同様に上質な上に綺麗でデザインも最近のものである、だとか、魔晶石で作った指輪やイヤーカフもしっかり見られていた。それに、マルスランは役職持ちで、そのマルスラン自らが案内してこの店へ来店したことで上客であると予想される等も教えてくれた。

「大変勉強になりました」

「いえいえ。この程度ならばいくらでもお教えいたしますよ。ところでもう1人2人追加で引き取られたりはされませんか? あのエルフの娘も残っておりますよ」

 雑談になりそうだった時分に商談を放り込むルーベン。先も言ったが、姉弟のような主人は理想的であり、奴隷を大切にするルーベンは是非とも沢山の奴隷を引き取って貰いたい。

 しかし、ルーベンの思惑とは反対に、これ以上は責任が持てないから、と、姉弟は丁重にお断りした。

 残念に思いながらも、ルーベンはそれ以上商談を続けようとはせず、最後に、テオとジェードを引き取る際の代金と、契約途中であっても返金は出来ないという2点を再度確認して終わった。「些少ですが」と、相談料として、奴隷の首輪にも使われている小粒の魔石が入った小袋を差し出した。

「こちらは?」

「魔石です」

「!? そ、そんな高価な物はいただけません! 相談料もなくていいくらいなのですから!!」

「大丈夫です。それでもほんの一部ですし、これから中級、上級とダンジョンに挑むのでもっと増えると思うので」

 魔晶石でさえ余らせている姉弟なので、魔石をあげる位で懐は痛まない。冒険者的な目線で見た魔石は、本来の主目的である魔物を倒したらたまに出てくる副産物扱い。単なる小遣い稼ぎでしかない。しかも、冒険者ギルドで売っても市場の何分の一かの値段でしか買い取ってもらえない(そもそも市場の値段を知らない)し、小粒の魔石ならば魔物の素材の方が余程良い値段で売れるので価値が分かり難かったりする。

 そんなこともあり、姉弟は半ば無理矢理魔石を押し付けて奴隷商を後にした。



「「ただいま」」

 姉弟が家へ帰ってきたのは夕方だったので返事はない。今頃は庭で仕事に従事しているだろう。ルーベンの店を出たのはおおよそ2時頃。その後は、食材を中心に買い物を堪能してから帰ってきた。

「風呂の用意してくる」

 そう言って風呂場へ向かったユウトを見送ったヒメカは、早速夕食作りを始めた。今日からは大手を振って同じごはんをテオとジェードに食べさせることが出来るので、ご機嫌な様子で調理を進めるヒメカである。

(今日は私が作るからいいとして、テオとジェードに料理は教えないと。あと、今日中に冷蔵庫と冷凍庫代わりの魔道具を作って、容量拡張と時間経過減少も付与して……生ものがどの程度日持ちするか確認しておかないと危ないわよね? 鑑定があるから判定は楽だけど、とりあえず中級ダンジョンに潜っている間を実験期間として、ヤンさん達が帰って来るのが4日後の予定だから、前日には戻ってきておきたいし中級ダンジョンに潜れるのは往復合わせて3日。迷賊の目撃情報もあるけどスルーして最深部を目指すことにしてるし問題はない……はず。『光の風』が戻ってきたらもう一度食事会でもしようかな。食材は充分あるし何を作ろう? 前回人気だったのは作るとして、何種類か別の――――)

 調理しながら、食事会(予定)の献立を考えるヒメカ。普段の家庭料理もいいが、パーティ料理を作るのも好きなため、誘うだけ誘ってみようと計画する。如何せん、この家の人間には大食漢がいないため、人を招かない限り不可能である。その点、『光の風』のメンバーはよく食べてくれるため大歓迎。ギルも割とよく食べるのでこちらへ来た際は御馳走を用意するつもりのヒメカであった。



 その頃、ユウトは給湯タンクや排水タンクの中を一度空にして『洗浄』と『消臭』をかけて清潔にし、再び給湯タンクを作動させながら風呂場の清掃に取り掛かるがそれも魔法ですぐに終わるので、魔道具:盥を取り出して洗濯もしておく。

(魔法って本当便利だよな……風の素質がないのが悔やまれるけど水があるからまあいいけど)

 衣服の乾燥は不要な水分を絞り出す感覚で水魔法を使うのがユウト。ただし、この場合はコントロールに気を付けなければならないので神経を使う。

(適度に乾かして後はドライヤーで仕上げてもいいけど。というか乾燥機みたいなの作れないかな? 後で言ってみよ)

 ドライヤーも勿論魔道具。生活を便利にするためならば、色々な魔道具を作るのがヒメカである。勿論、ユウトも魔法陣を刻む道具を作ったり、試行錯誤しながら意見を出したりと協力している。乾燥機のフォルムをどうしようかと考えながらユウトは洗濯を終わらせた。



 夕食も完成し、テオとジェードが風呂から上がるのを待って事情説明。今日から、姉弟の正式な奴隷になった場合の生活スタイルをお試しすると伝えた。

「とりあえず今日からは一緒にご飯ね。食べる物も一緒よ。私達は家を空けることが多いから、出来れば少しずつ料理を覚えてもらいたいわ」

 いいかしら? と小首をかしげるヒメカに、テオとジェードは頷いた。

「取り急ぎ、冷蔵庫と冷凍庫を明日までに作るわ。お肉とか入れておくから好きに使って食べてね。食材庫の物も……というか家にある食材は好きに食べていいわ。野菜でも果物でも何でも。腐っている物はないと思うけど、見つけたら食べずに捨てるか別にして置いてね」

「そういえば救急セットがなかったな。今日にでも調合しておくから体調が悪い時や怪我したら使って。効能はラベルを貼っておく。怪我も体調不良も放置厳禁で」

 姉弟がいればほぼ医者いらずなためうっかりしていた、と、ユウトは急いでポーション類を用意することにした。

「えっと……あの、いいのでしょうか……?」

 何に対してなのか、テオは困惑しながらそう呟く。

「大丈夫よ。ルーベンさんには許可は貰ったわ」

「2人にはまず俺達を知ってもらおうと思ってる。これはその一環だな」

「まあ、完璧からはほど遠い人間だけど、食うに困るような生活はさせないから安心してね」

「冒険者で流浪人とかよくよく考えれば割とダメ人間だよな、俺達。金はあるけど」

「あ、安心してね。この家はちゃんと購入してから旅に出るし、貴方達名義の口座も作ってからにするから。購入した後、家のセキュリティは強固にしないとね」

「家の中なら大丈夫だけど外が心配だな……催涙スプレーでも作っておくか」

「なら私は攻撃を受けた時に『障壁』が発動するような魔道具を作ろうかしら? 使用者登録は絶対でしょう? 発動条件は……うーん、一般生活に支障がないけど非常時のみ発動するような条件って難しいわね。不意打ちにも対応出来るようにじっくりと考えておくわ」

「ま、待ってください! あの、本当に俺達を……その……」

 話がどんどん逸れそうなタイミングでテオが声を上げた。その表情は困惑と焦りと少しの喜色が混ざり合って複雑そうである。

「とりあえず一つだけ。俺達はすでに腹を括ってる。ウチの子になれば、マルスランさん監修の元、無駄遣いしなければ80歳まで生活できるだけの資産を2人の口座に入れる事に決めている。それを使って市民権を得て自立してもいいし、一生その金で細々と生きてもいい。結婚したいならちゃんと自分で稼ぐように」

「冒険者って死にやすい職業だからもしもの時の保険みたいなものね。あ、賃金は別で渡すわよ? 主な仕事はこの家の管理。といっても住んでもらえればそれでいいわ。勿論、兼業OKだから他の仕事をしてもらってもいい。仕事が決まったら一応教えてね」

「そういうわけだからよく考えてくれ」

 もはや奴隷契約と言うより養子である。何処の世界に多額の資産を奴隷に一括で渡す主人が要るのかと問いたいが、残念ながらそれを問える者がこの場にはいない。

 テオどころかジェードまでもが目を見開いて固まっている。

 しかし、暢気にもヒメカの「さ、ご飯にしましょう!」という掛け声で夕食となったのだった。


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