72話 ダンジョン講習終了です。
すべての班が戻り、設営も終わったところでヤンの前に集合。各班の担当から注意点とアドバイスを戴く。一応、各パーティに対するものだったが、複数パーティに共通する点もあり、パーティ構成の参考にもなる内容で皆真剣に耳を傾ける中で『メラン』の番になった。
「『メラン』に関しては問題点がなかった」
簡潔過ぎる一言に一瞬その場が静まり返る。一拍遅れて、困惑するような空気が講習生に広がった。中には、『メラン』と行動を共にしたパーティに尋ねる者もいるが、自分達のことで精一杯で『メラン』がどう立ち回っていたのか覚えていない『ミラージュナイト』の面々は正直に告げる。
そこで面白くないのが散々注意点を挙げられた他の参加者達である。声を潜めているが、そんなことがあり得るのか? や、贔屓なのでは、等という疑惑の声でざわざわとする。さすがに問題点がないことはないだろう、と。
ヤンはさすがにマズイと思ったのか、ユウト達に目配せして了承を得ると、あまり推奨されないが『メラン』の情報を一部開示することにした。
「あー、それなんだがな、『メラン』は他国で活動していた冒険者で、完全に初心者というわけではない。ダンジョンが初めてというのは本当だろうが、冒険者としての経験はお前らよりもずっと上だ。守秘義務に抵触するので詳しくは言えないが少なくともランクはお前らより上だ」
参加者はFランク冒険者ばかりなので、少なくともEランク以上。さすがにCランクとは誰も予想していない様子だが、かなり言葉を濁しながらも納得のできるヤンの説明にその場は落ち着いたのだった。
「あ、あの! 『メラン』の2人に質問してもいいでしょうか!」
再びヤンが目配せして姉弟が頷いたので、手を挙げた受講生に先を促す。
「ランクアップのコツとかあれば教えていただきたいです!」
『光の風』に聞いてもいいような質問だが、やはり同じくらいの年頃でランクアップしている『メラン』に聞いてみたいのだろう。
「あくまで個人的意見ですが、常時依頼の採取なんかは群生地を見つければ複数回分の依頼達成ができるのと、メインの依頼のついでに別の依頼も達成するようにする、とかでしょうか? 一件の依頼のポイントは微々たるものですが、メインの依頼を確実にこなしておけば失敗扱いにはなりませんし昇格ポイントも貯まるのでおススメです。ただし、引き際は重要です。武器や防具の状態は常に把握、周辺にも気を配りながら怪我をしないよう気を付けてください。依頼を失敗すると査定に響くので情報収集はしっかり行ってから任務に取り組むのを推奨します。あと、採取系は素材の状態にも気に掛けると印象がいいです。最初は倒すだけで手一杯かもしれませんが主だった魔物の剥ぎ取りや採取方法は知っておくといいと思います」
この場で伝えきれるものではないが、少し先輩風を吹かせることにしたヒメカはDランクになるまでのやり方を伝授する。姉弟の場合は複数依頼達成の数が尋常ではなかったのと、上質な素材の納品で評価が高かったためにスピード出世したので、ゴブリンやコボルトの群れに苦戦する新人にそれを真似しろといっても無謀である。そんな新人でも出来そうなちょっとしたコツをいくつか挙げながら言葉をまとめた。
つい話が長くなってしまったことに気付いたヒメカがヤンの顔色を窺うと、ヤンは苦笑しながら、「俺よりお前の方が教官役に向いてるわ」との言葉を零した。その横でうんうんと頷く『光の風』の面々。
「いえいえ。私なんかよりもずっと経験のある先輩方の方が色々と知っているはずです」
ヒメカの言葉をきっかけに、『光の風』へと質問対象がシフトする。そこからは、途中途中で講習生達の質問を交えながら『光の風』の話を聞き、笑いも起きたり、真剣な表情になったりと、和気藹々とした雰囲気で時間を過ごした。
「あー話し過ぎた。お前らが質問するからだぞ」
すっかり打ち解けた『光の風』と講習生達。軽口を叩きながら、予定よりも遅くなった夕食を取ることにしてパーティ毎に分かれての行動となった。
先輩の話を聞いて昨日よりも真剣な表情で取り組む講習生達。夕食中はパーティの問題点の洗い出しをしたり、戦術の話をしたり、他のパーティとも忌憚のない意見交換をしたり、かといって協力関係を結ぶのではなくするのは意見交換のみで、見張り役などはパーティ内でシフトを組んで取り組んだりと充実しているようすだ。
それを見る『光の風』の面々もどこか嬉しそうであり、時には話に交ざったりもしている。ギルド所属とはいえ、初心者講習の教官役を引き受けるあたり、基本的に面倒見がいいのだろう。
この日の夜は、臭いのしないエーランドに気付いたパーティメンバーによる犯人(?)探しでユウト達のテントを訪れた『光の風』がヒメカ特製の消臭スプレーの恩恵に預かったのと、最後まで口を割らなかったが結果的に迷惑をかけてしまったことに対してエーランドが謝罪に来るという珍事件があったくらいで何事もなく終了。
翌日は最下層である10階層まで潜り、ボス部屋のホブゴブリンとそのおとも達にパーティ毎に挑戦して成功者から転移陣で地上へ戻った。
「これでダンジョン初心者講習は終了だ! 1人の脱落者もなく終了出来たことを嬉しく思う。これから本格的にダンジョンへ挑むだろうが、この講習で教えたことを忘れないようにしながら日々精進してくれ。この後、受講終了の手続きを受付でしてくれ。では解散!」
全員がボス部屋突破した後はマルズの冒険者ギルドへ戻り、簡単に総評を行った後、ヤンが解散を宣言した。
全員で『光の風』へお礼を言い、受講生同士で一言二言挨拶をしてパーティ毎に訓練場を後にする。講習は受講証明がギルドカードに記載されるので、その手続きをしてから、早速依頼ボードを確認したり、情報収集をしようと相談カウンターへ向かったりと、早速教わったことを実践する様子がギルド内で見られた。
受付が混むだろうからと、訓練場に最後まで残っていた『メラン』の2人は、出入り口へ向かおうとした所でヤンに声を掛けられた。
「あー、まあ、その、なんだ。お前らのおかげでいつにない充実した講習になった。ありがとな」
「講習を受けたのは私達の方ですが……?」
照れるヤンに、首を傾げる姉弟。わざわざお金を払ってまで講習を受けるのだから、2泊3日という短い期間で何か得ようとするのは当然である、と姉弟は考える。他の受講生より行動制限が掛かっていたといっても、割と『光の風』のメンバーと話す機会は多かったし、此度の講習で得たものには満足しているのでお礼と言われる理由が分からなかった。
「それはそうなんだけどね。でも最終日……2日目の夜からか。全員があそこまで仲間意識を高めて真剣に講習を受けるってなかなかないから。少なくとも私は知らないわね」
「大抵問題児はいるからなー。初日遅刻してきた奴らなんかは要注意だと思ってたんだけど」
「何度も講習を担当してきた俺達が保証する。今回の講習は大成功だった。その一助を担ったのが君達なのだから礼を言わせてほしい」
「あと最初は疑って悪かった。なんでCランクがこの講習を受けてんだって思ってなー。メンバー全員に様子を見て報告するように俺が言っておいたんだ。まあ、全く問題なかったわけだが」
ランクが上の冒険者が新人を悪い道へ引き込むことはままあることらしく、年の割にランクが高すぎる2人なので何かあるのではないかと警戒していた、と告白するヤン。すでに実力の程は聞いているし、自身も何度か話したことや質疑応答で頭の良さも性格も分かったので杞憂であった、と。
「別に気にしなくていいです」
「普通の初心者講習も受けていなかったのでこの講習を希望しただけですから」
通常ではない事を警戒するのは当たり前だと思っている姉弟なので、別段気にしていなかった。もし講習に影響するようならば抗議くらいはするだろうが、少し監視されるくらいで実害はなかったので後腐れもない。そのことを伝えると『光の風』全員が気まずそうに笑った。
「まあお前らが気にしてないならこれ以上は言わねえが、何か困ったことがあったら言えや。俺達はここじゃそれなりに顔も名前も知れてるから力になるぜ」
それならば、と、早速姉弟はお願いを聞いてもらう事にした。
姉弟はマルズ近郊にあるダンジョンの情報と、ついでに美味しい料理屋の情報を手に入れた。




