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71話 ゴブリンの臭いは衝撃的でした。

本日2回目の投稿です。

 ヒメカ以外の受講生が5時間ほど睡眠時間を確保したところで、手分けして全員を起こす『光の風』のメンバー。何故かヒメカも起こす側の数に含まれていたので、ユウトを起こしてから他のテントへ声を掛けに行った。

「よし、全員起きたな? それじゃあこれから8階層まで潜るからテントを片付けろー。朝食は移動しながら食べろな」

 8階層はゴブリンとコボルトが混在する階層で、ここ、3階層よりもずっと数が多くなる。

 とはいえ、普通のゴブリンやコボルトと違って、ダンジョンのそれらはあまり大きな群れを作らないという特徴がある。ダンジョンは内部構造がよく変わるので巣を形成しにくいためだと言われている。それなので、新人冒険者でも気を抜かなければ対処が可能であり、今は高ランク冒険者のお目付け役もいるので深い階層で2日目を過ごすのがこの講習の流れだ。

「ん? どうした? 早く片付けないと討伐訓練が出来ないぞ?」

 全員が「はい」と返事をするものの、昨夜の襲撃が余程ショックだったのだろうか、その表情は暗い。しかし、だからといって内容が変更されるわけではないので渋々テントを片付けるのだった。



 途中の階層では最低限の戦闘のみで素早く移動し、目的の8階層へ到着。集合場所だけ決めて早速メインイベントである討伐訓練に移る。昨夜の襲撃はカウントしないようだ。

 『光の風』のメンバーはリーダーであるヤンも含めて4人なので、講習生は2パーティ毎の班に分かれての行動となる。ユウト達『メラン』は、『ミラージュナイト』という剣士、剣士、弓術士、盾役の4人組のパーティと一緒に行動することになる。お目付け役はエーランド。ヒメカと似たタイプで、状況によっていくつかの武器を使い分ける遊撃メインの前衛~中衛タイプ。

 班別行動の前、ユウト達はエーランドにこっそり呼び出され、視界から逸れない距離ならば好きにしていい、というお言葉をいただいた。ただし、狩り過ぎて『ミラージュナイト』の分まで殲滅しないように、という条件付き。昨夜、別行動後に1匹もキャンプへ魔物を寄せ付けなかった手腕故の忠言だろう。ユウト達は素直に頷いておいた。エーランド自身は『ミラージュナイト』の傍で行動するようだ。

 ヤンの掛け声で班ごとに適度に離れるよう移動し、エーランド班は途中までヤン班と共に進み、途中で別れてさらに進んだところでのスタートとなった。

 8階層は3階層ほどではないがそれなりに広い空間が点在しており、2パーティが適度に距離を置いて戦闘しても問題ない広さだ。これならば横道に入らない限りエーランドの視界から逸れることもなさそうだ。

 その広い空間に入る手前の横道で立ち止まり、エーランドが少しだけ講義を挟んだ。

「では訓練を開始する前に注意事項だ。冒険者の基本だが、他のパーティが戦闘している場合、後に来たパーティよりも先に戦闘しているパーティが優先される。この位の広さがあれば2~3パーティがいたら別の場所で戦闘行為をするように。どうしても通過しなければならない場合は邪魔にならないように素早く通過。魔物にはなるべく手を出さないようにしろ。ダンジョンでは狭い場所が多く、他のパーティが戦闘をしている場所はなるべく避けて通るのが基本だ。手を出していいのは応援を頼まれた時のみ。それ以外では横入り行為とみなされるので注意するように。当たり前だがなすりつけ行為は禁止だ。緊急時は近くにいる他の冒険者に必ず応援要請をするように」

 講義をしながら、時々やってくるゴブリンやコボルトを屠るエーランド。かならず1撃で倒すその手際の良さに新人達は目を輝かせていた。

「では早速訓練に移る。『メラン』は左、『ミラージュナイト』は右で戦うように。散開!」

 エーランドの合図で左右に分かれる2パーティ。『メラン』は魔物のひしめく広間を自力で突き進みながら『ミラージュナイト』と距離をとる。『ミラージュナイト』の方は時々エーランドの補助をしてもらいながらも、なるべく自分達で突き進んでいるようだ。

「連携確認でいいか?」

「うん」

 ある程度進んだところで足を止め、2人が立ち回れる程度の空間を確保。指標を決めるのはリーダーであるユウト。ヒメカはそれに従い、ユウトと背中合わせで細剣を構え直した。

 そこからは単なる蹂躙劇。声を出すまでもなく互いの動きを把握し、ユウトがゴブリンの振り上げた棍棒を剣で受け止めればすかさずヒメカが隙だらけの胴体へ攻撃し、ヒメカにコボルトが数体集中すればユウトが位置を入れ替えてまとめて切り伏せ逆側のゴブリンをヒメカに任せる。そうやって、位置取りを入れ替えたり微調整したりして死角をなくし、自分達へ向かってくる魔物はすべて切り伏せた。

 横穴から新手が来ても、ユウト達が切り伏せる方が速いのであっという間に広間の半分が魔物の死体で埋め尽くされた。

「討伐証明だけでいいよな?」

「いいと思う。というか臭いからさっさと済ませましょう」

 後は新手が来ても剥ぎ取りナイフで応戦可能なので、手分けして証明部位のみを切り取っては適当な袋にいっぱいになるまで詰めてマジックポーチに放り込む。そのままマジックポーチに放り込んでも他の物には影響がないが、2人は気分の問題でそうしている。

 ゴブリンもコボルトも素材としての価値はほとんどないので証明部位以外は放置してダンジョンに取り込ませる。もし魔石持ちがいても、ダンジョンに取り込まれた後に魔石のみがその場に残るので拾えばいいだけである。何故魔石のみその場に残るのかは解明されていない。

「魔石持ちはいないわね」

「特別強い個体もいなかったからな」

 必ずしも強い個体が魔石を持っているわけではないが、通常個体よりも強い個体の方が魔石を持つ可能性があるので1つの指標にはなる。魔石持ちは鑑定スキルでも分かるし、魔力の流れが普通の個体と違うので2人には判別可能だったりする。今回はハズレだったようだ。

「後は向かってくる魔物以外は放置してあちらを待ちましょうか」

「そうだな」

 時々エーランドに指示をされながらゴブリンとコボルトを相手取る『ミラージュナイト』の様子を眺めながらのんびりする2人。

 弱い魔物ほどダンジョンが吸収を始めるのも早いので、最初の方に討伐した魔物の死体が変色し始め、完全に変色した個体はボロボロと崩れて地面と同化した。

 とうとう臭いに耐え切れなくなったヒメカがマジックポーチから消臭剤を取り出し、無言で自分とユウトの全身に吹きかけ、まだ吸収されきっていない死体にも同様に吹きかけると、『ミラージュナイト』側から漂ってくる臭い以外は消えた。

「ゴブリンが臭いのは昨日から分かっていたけれど、こうも大量だとなお酷い」

 顔を顰めながらぼやくヒメカに、ユウトも同意する。なるべく返り血は浴びないようにしていたので防具はましだが、剣はそういうわけにもいかないので拭った布は二度と使いたくない。街に戻ったらすぐに研ぎに出そうと決めたユウトだった。



 大分時間が経過して、ある程度数が減ったところで仕上げとばかりにエーランドが残りを殲滅し、戦闘訓練は終了した。まだ集合場所へ向かうのは早い時間だったが、『ミラージュナイト』の面々に疲労が見られたので剥ぎ取りだけ済ませて一足先に戻ることになった。

「予想はしていたがここまでの腕だとは思わなかった。連携も見事の一言だ」

 集合場所兼今日のキャンプ地に戻って解散、テントの用意を始めように言うと、エーランドがユウト達の所へやって来て手放しに褒めた。姉弟が恐縮しながらもありがたくお言葉を頂戴すると、エーランドはさらに言葉を続けた。

「ところで君達から臭いがほとんどしないのだが何故なのか聞いてもいいだろうか?」

 冒険者ならば気になるところだろう。ダンジョンは何日も潜り続けなければ踏破できないので、臭いは鼻が慣れるのを待つしかない。それを解消できるアイテムがあるならば是が非でも手に入れたいというものだ。

「……消臭、の魔道具(?)です?」

「消臭の魔道具……聞いたことがないな。だがそれだけの物ならば噂にならないわけが……いや、すまない。詮索するつもりはなかった。聞かなかったことにしてくれ」

 これは魔道具に分類されるのか? と疑問に思いながら答えたので口調がたどたどしくなってしまっただけでヒメカは秘密にするつもりはなかったのだが、エーランドが自己完結したのでそのままスルーした。希少な魔道具を自慢するのも秘匿するのも個人の自由。冒険者の中には詮索を嫌う人も多いので、無理に情報を聞き出すのはマナー違反とされている。

「よろしければ、使ってみられますか?」

「……いいのか?」

「はい。ただ汚れまでは落ちませんけど……」

 臭いが落とせるだけありがたいと言うのでエーランドに吹きかけてやるヒメカ。臭いが頑固なので普通は1回で充分なところを2、3回吹きかけて完全に臭いを落とすことが出来た。

「ふむ。これは素晴らしいな」

 静かに感動するエーランド。お礼の言葉と、このことは仲間にも秘密にすると約束をしたところで、戻って来たヤンとその担当のパーティを出迎えにいったエーランド。担当した班の様子はヤンへ情報共有するようになっているので報告しに行ったのだろう。

 その背を見送ったヒメカは、くるりと体を反転させてユウトに向き直った。

「これって魔道具でいいと思う?」

「魔法陣を刻んだ道具なんだから魔道具でいいんじゃないか?」

 そうよね、と、確かめるように頷いたヒメカにユウトも頷き返し、魔物避けの香を焚いて寝床の準備をするのだった。


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