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70話 1つ疑問が解消されました。

「…………」

「…………」

 久しぶりに魔法に頼らない野営だが、マジックポーチのおかげでほぼ取り出すだけで終わってしまう。他の受講生がテントの骨組みをしている中で、早々に手持無沙汰になってしまったユウト達。集団行動はこういう時不便である。

「あら、もう終わったのね。何か困ったことはなかった?」

「現状は問題ありません。しいて言えば暇なくらいでしょうか? 他の方達となるべく協力しないようにと言われているのですることがなくて」

「そうね。他の子達のためにならないからね」

 マリベルはヒメカ達が行動を制限されていることを知らなかったようだが、すぐさま納得した。

「でも周囲の警戒は怠らないようにね。たとえキャンプ地の中心寄りでも、ね」

 ユウト達も経験が浅いとはいえ、他の受講生よりランクが上なので、他の受講生に経験を譲る意味で『光の風』のテントに程近い場所にテントを張っている。他にも近い場所にテントを張っているパーティもいるが、ユウト達とは意味が違って安全の保障と引き換えにせっかくの経験をふいにしている。

「魔物の位置はおおよそ察知しているので大丈夫です」

 そう言ってヒメカが指差す。マリベルがそちらに目を向けると、1体のコボルトがキャンプ地へ向かって歩いて来ているのが遠目に見えた。一番近い場所でテントを張っていたパーティもコボルトに気付いたようで、見張り役の声で全員が武器を構えた。

 マリベルが再びヒメカに目を戻すと、先程までもっていなかった弓矢を担いでいつでも矢を射られるようにしている。しかし、コボルト1体だけということもあり、対峙したパーティだけで十分対処できそうなので、すぐにそれを仕舞った。

「弓も使えたのね」

「突出して得意なものもないですけどね。コレ(マジックポーチ)のおかげで持ち運びには苦労しないので持って来ていました」

「攻撃手段が多いのは悪い事じゃないわ。マジックポーチがあれば持ち運びもだけど、収納するだけで武器の持ち替えが可能だから便利よね」

 冒険者がマジックポーチを欲しがるのはそういう理由もある。遠距離から弓で攻撃し、近づいてきたら剣に持ち替えるというのは常套手段だ。

「ところで貴方達はこの講習が終わったらすぐダンジョンに挑むの?」

「1ヶ月後に知り合いの子がこっちに来る予定なので、それまでにマルズ周辺のダンジョンを一通り見てみたいとは思っています。一応初級から始める予定ではありますが」

「いっ……!? ちょっとそれはさすがに無理があるんじゃないかしら? 初級ダンジョンはともかく、中級は4~5日は潜らないと踏破は難しいし、上級はもっとよ?」

「大丈夫です。知り合いの子が来たらゆっくり街を見て回るので、それまでの1ヶ月はダンジョンに挑戦しようというだけなので」

「そ、そう。そうよね」

 マリベルの顔が引きつっているが気にしない。ヒメカは気になっていたことを質問することにした。

「ところで、この街の冒険者は魔法士を敵視……まではいきませんがあまり良く思っていませんよね? ロザリアではむしろ優遇職だったので不思議で。何故なのか聞いてもいいですか?」

「ああ。それね。確かに普通は優遇職と言ってもいいでしょうけど、ダンジョンは狭い場所も多いし、横穴なんかも多いから。そんなところで大きな魔法を使って他の冒険者が巻き込まれることが何度もあったのよ。しかも避けない奴が悪いんだって言い張って謝らないし。他にも、別パーティが狙った魔物を遠くから攻撃してルール違反ギリギリのことをして揉めたり、せっかくの素材を丸焦げにしてダメにしたり、宝箱は見つけた人の物なのに魔法でガードして取れないようにしたり。色々あったのよ。たしか魔法ギルドにも所属している人達だったけど、パーティメンバーを奴隷の如く扱き使ったり、一番貢献したんだからとか言って分け前を半分くらい取ろうとしたり、やりたい放題で物凄く評判が悪かったわ。だから正直良い印象はないんじゃないかしら? ダンジョン専門の冒険者は特に。……でも貴方剣士よね? どうしてそんなことを聞くの?」

 マリベルはダンジョン都市であるこの街の専属ということはほぼダンジョン専門の冒険者なのだろう。もしかしたら被害者の1人なのかもしれない。魔法士に良い感情を持っていなくても不思議ではなかった。

(魔法ギルドと冒険者ギルドって仲が悪かったはずだけど、冒険者登録している人もいるのね)

 どうせ魔道具含め色んな素材を安く手に入れたかったのだろう、と、ヒメカは考えるのも面倒になり、適当に結論づけた。それにしても傍迷惑な話である。

「学院に通う冒険者志望の子がいるので聞いておきたくて。まあ、本人は魔法より剣が好きですけど。ロザリアでは素養があれば問答無用で通学が義務付けられるので、そのせいでパーティを組めないなんてことになったらと考えてしまいました」

「へー。それは知らなかったなぁ。でもそうよね。まともな人も中にはいるのよね」

「まあ、結局は本人の心持ち次第ですけどね。もしダンジョン講習で魔法士の子がいたら、ダンジョンでの注意事項も教えてあげてもらえれば嬉しいです。無知でやらかしてしまうのは可哀想ですから。知ろうともせずにやらかす人はどうでもいいですけど」

「……優しいのか厳しいのか分からないわね、貴方」

「冒険者のルールも守らず状況判断も出来ない魔法士より、腕利きの冒険者の方がいいというのは同意ですから」

 魔法を使う上で周囲の安全確認は必須。ヒメカもユウトも広範囲魔法は滅多に使わないし、人の忠告は聞く方なので、マリベルの話に出てくる魔法士のような状況には陥らないはずだ。まあ、弓も調達しているのでダンジョン内では魔法を使う機会はあまりないだろう。

 他のダンジョンについても聞きたかったが、ヤンにマリベルが呼ばれてしまったので話はそこで終わりになった。

「…………姉さんの言う通り、魔法士は敵視されてるみたいだな」

「そうね。隠しておいて正解だったわ」

 マリベルが完全にいなくなってから声を落として口を開いたユウト。ヒメカもそれに小声で答える。

「でもここで魔法ギルドの名前を聞くとは思わなかった」

「同じく。というか、こっちでは魔法ギルドと冒険者ギルドは敵対してないのかしら? そこも少し疑問だわ」

 1つ疑問が解消したら新たな疑問が湧き出てくる。だが、2人にとって魔法ギルド関連はさほど重要度が高くないのですぐに頭の隅に追いやったようだ。空いた時間は、少し早いが夕食を食べたり、テント内で魔力循環をしたり、練習用の矢で的当て勝負をしたりしながら時間を潰した。動かない的だと勝敗がつかなかったため、結果はドロー。2人の様子を見ていた他の受講生や引率冒険者達からは称賛の声が上がった。



 周囲の景色はまったく変わらないまま夜になり、交代で見張り番をしながら睡眠を取る。今はユウトが見張りでヒメカが眠っていた。

(あれは……)

 テントが近いこともあり、ユウトは『光の風』の誰かが気配を消しながらキャンプ地を離れるのに気付いた。

 見張り中ずっと展開している『探知』でその動向を追うと、少し離れた場所にあった魔物の小隊に近づき、こちらへ誘導しているのが分かった。

「(一応起こすか)姉さん」

 少なくとも3時間は睡眠を取っているはずなので、講習中であることを加味して起こすことにした。

「んぅ…………把握したわ」

 起き上がったヒメカは、下ろしていた髪を結び、細剣を腰に差すとテントの外へ出た。眠気を飛ばすように軽くストレッチして接敵に備えるが、他の受講生はまだ気付いていないようだ。

「この場合は教えた方が良いのか?」

「見張りもいるし大丈夫でしょう。そろそろ見えてくるでしょうし」

「香を焚いてるからと油断して起きない奴がいるかもしれないけど」

「そこは『光の風』と私たちでフォローすればいいんじゃない?」

 魔物避けの香は魔物を寄せ付けにくくするだけなので頼りすぎるのはよくない。その性質を知っていればダンジョン内で熟睡する冒険者はいないだろう。ただ、魔物避けの香を持って来ていないようなパーティもいるくらいなので、もしかしたら、という疑念が姉弟の頭をよぎる。

「テントはどうする?」

「一応仕舞っておこうか」

 着々と用意を進める姉弟がテントを収納すると、一番外側でテントを張っていたパーティの見張り役が声を上げた。

「魔物だ!! 皆起きろ!!!」

 その声に場は騒然となり、一斉にテントを出ようとして入口に嵌る人達、慌て過ぎて武器を取り落とす人、冷静に対応しようとしているが顔が強張っている人と様々である。

「これは予想以上。そう思いませんか? ミストさん」

 ミストと呼ばれた軽戦士は、魔物をキャンプ地に連れて来た後は素知らぬ顔で自分達のテントまで戻ってきていた。気配を上手く殺していたので気付いた者は少ないだろうと油断した所にヒメカの一言である。この場合の「予想以上」とは、悪い意味で使っている。弱い魔物だからこそ見張りと間に合ったメンバーとで戦線は維持されているが、連携と呼べるものはそこにはない。

「これも講習の一環ですか?」

「……まあな。香は絶対じゃないって最初に教えとかないと死亡率が上がるだけだからな」

 世間話でもするような雰囲気の姉弟とミスト。戦闘をしている前線との差が激しい。

「っと、ちと騒ぎ過ぎだな。違う奴らが近づいてきやがった」

「そっちは俺達が行ってきます」

「私達に魔物がまわってきそうにないですしね」

「んじゃ頼むわ。なんかあったら大声出せよ」

「「はい」」

 あっさりと2人を送り出すミストに見送られながら、講習生の合間を縫って魔物の気配がする方へと一直線に向かった。



「お、お疲れさん。そっちは問題なさそうだな」

「ただいま戻りました」

「問題ありません」

 ユウト達が接近する魔物を一掃して戻ってくると、ちょうどこちらも落ち着いていたようで、講習生はヤンの前に集合させられていた。

「討伐部位は回収したか?」

「はい」

 討伐証明を見せるように言われたのでマジックポーチから取り出してヤンに渡すと、1つ頷いて返却された。

「さて、それじゃあ反省会といくぞー。睡眠時間は後で取ってやるから眠くても頑張って起きとけよー」

『はーい……』

 眠いのかぐったりしているのか分からない状態で始まる反省会。途中から離脱していたユウト達は知らなかったが、なかなかにグダグダな結果だったようだ。

 ヤンに反省点を列挙され、どうすれば良かったのかを話し合う。予想通りというかなんというか、熟睡していて戦闘に参加しなかった者もいたようだ。睡眠に関しては訓練するしかないが、ダンジョン内で熟睡できる神経の太さはある意味凄い。

 うつらうつらと舟を漕ぐ人が増えてきたあたりで反省会は終了となり、見張りは『光の風』がするので全員寝てもいいことになった。甘いとは思うが、明日はゴブリン討伐でもう少し下の階層で戦闘訓練をすることと、夜はきちんとパーティ内で見張り番を立てるということで今日は体を休める方を優先させるように、ということだそうだ。

 ユウトは前半見張りをしていたのですぐにテントを出して就寝し、特に疲労もなくすでに睡眠を取っていたヒメカは一応テントの前で見張りをすることにした。

「ヒメカ、だったか? お前も寝てくれていいんだぞ?」

 見張りをするヒメカにヤンが声を掛ける。講習生の中で起きているのはヒメカだけのようだ。皆余程疲れたのか、よく眠っている。

「ありがたい申し出ですが、充分睡眠は取ったので大丈夫です。ダンジョンは初めてですが野宿は何度も経験があるので」

「ま、お前さんらのランクなら自己管理は出来るか」

 さすがに詳しい情報は伝えられていないようで、ヒメカ達が短期間で階段を駆け上がるようにランクを上げたことは知らないようだ。この分ならば年齢も知らないだろう。

 まだ冒険者歴数か月であることを指摘するのも面倒だったヒメカは、そのまま話を流しつつ、周囲に同じ受講生がいないことを利用して時間が許す限り色々と話を聞くことにしたのだった。


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