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68話 商業ギルドのお宅訪問(2回目)です。

 翌日。午前中は来客の用意で少しだけ慌ただしかったが、無事、家事も片付けも終わらせて、あとはマルスランと同行者がいるらしいのでそちらを待つのみである。マルスランには庭側から入って来てもらうように伝えているので、呼び鈴が鳴ったら庭へ向かえばいい。セキトバ達は、来客中、厩舎に入ってもらった。

 勉強をしたり、刺繍をしたりしながら待っていると、チリンチリンと来客を告げる音がした。

 全員で庭へ出ると、どうやら馬車で着たようなのでテオとジェードに誘導させて、馬車は搬入口兼倉庫に停めてもらう。後の対応はヒメカとユウトがするので、テオ達には自由にしていいと言付けて家の中へ入ってもらった。

 マルスランと共に来たのは、明らかにマルスランよりも地位が高そうなご老人。そして書記官らしき若い男性である。ご老人は商業ギルドの支部長でダドリー・ヴィンと名乗り、書記官は本当に書記官だったようで、ヨニー・シュタルクと名乗った。

(ただの風呂場の視察に支部長が同伴って……)

 お互いに自己紹介を済ませたところで早速風呂場へと向かい、マルスランにした説明をそのままして自由に見てもらった。

 質問があればその都度ヒメカかユウトが答え、書記官が手元の紙にメモをする。

「ふむ。石鹸の類がないがどうしてかね?」

「施設の視察ということでしたので関係のないものは一旦片付けさせていただきました。それに使用感を人目にさらすのも憚られるので……」

 ヒメカは女性である自分も使っていることを前面に押し出して言い訳とした。相手もそれ以上は聞いてこなかったので、ヒメカの言い訳は成功したといえるだろう。



 視察が終わり、さっさとお引き取り願おうと当初は思っていたヒメカ達は、今現在、家のリビングで商業ギルドの面々と向かい合ってお茶をしていた。

「おお、これはなかなか。初めて食べる物ですがヒメカ様がお作りになったので?」

「そうですね」

 何故このような状況になったかといえば簡単で、ダドリーが家具を見たいと言い出し、マルスランが約束なのでと一応止めるふりをし、なおもダドリーが見たいと言う。その白々しい茶番に付き合うでもなく、ヒメカは家に招いたのだ。余りにも潔すぎてその場にいた全員が呆気にとられた程である。

(姉さん)

(マルスランさんにやり込められる程度の私があの支部長をどうにか出来るわけがないじゃないの)

 元々、面倒臭いなぁ、というのが根底にあったので、どちらがより面倒なのかを天秤にかけただけである。勿論、譲る部分と譲らない部分はある。今回はどっちでもいいと思ったのだろう。

「この菓子はなんというものなのですか? とても軽い口当たりで手が止まらなくなりそうです。紅茶にとてもよく合いますね」

「私はラングドシャと呼んでいます」

 甘いものに目がないというヨニーはお菓子に夢中である。甘い物は総じて高い。商業ギルドに就職したのも、若くして支部長の秘書にまで上り詰めたのも、給金が高いからという理由だそうだ。料理は苦手なので買ってばかりだが、ラングドシャというお菓子は知らない、と熱弁する。

 ヒメカもヨニーのお菓子談義に興味津々で、甘味を売っているお店の情報を聞き出したり、気が乗ったのか、他のお菓子も取り出しては感想を聞いたりしながら交流を図った。

 ヒメカとヨニーが意気投合している状況だと、自動的にユウトがダドリーとマルスランの相手をしなければならないのだが、こちらはのんびりとお茶を楽しみ、家具の鑑賞会である。

 ユウトは初っ端に「自由に見てくれていいが家具の知識はないので質問には答えられないと思う」と宣言したので、本当に家具を眺めるだけなのだが、それでも興味深く家具を眺める2人を眺めるユウト。

「これは随分見事なガラスだな……こんなに薄く透明度も高い上に継ぎ目も歪みもない」

「そうでしょう。私も見た時は驚きました」

 ダドリーとマルスランの話を聞きながら、ユウトはどういったものが好まれるのか勉強していた。

(これ、予備の方が好まれそう……)

 初期に作ったリビングの家具は、ヒメカもユウトも試験的な感じだったので装飾過多だった。この家にはゴテゴテし過ぎだったので、2回目は余白の美を意識しながら家とのバランスを考えて作ったので華美過ぎず地味すぎない物になっている。彫刻や色味は今設置している方がクオリティは高いが、売るならば予備の方が良さそうだとユウトは判断した。

 ユウトは家具に夢中になっている2人からこっそり離れてヒメカの方へ行き、そのことを伝えると「じゃあ見てもらおうか」とヨニーとのお菓子談義を打ち切ってダドリー達の方へと向かった。

「よろしければ予備の家具もご覧になられますか?」

 ちょうどリビングの家具を一巡した所でヒメカが声をかけると、ダドリーとマルスランは目を輝かせながら「是非に」と賛同した。ヨニーも後学の為に、と輪の中へ入った。



「いやぁ良い物を見させていただきました」

「恐縮です」

 家具鑑賞会が終わって再びのお茶会。茶菓子はチーズケーキ。

 部屋で待機していたテオ達は、夕方のお仕事をする時間になったのでユウト達に許可を貰って厩舎へ向かっている。

 そろそろ風呂と夕食の用意をしなければいけない、という頃になって漸く帰ることにした商業ギルドの面々。ユウトとヒメカは心の中で、もっと早く帰れよ、と呪いながらも、手土産にクッキーを渡して見送った。

「…………やっと帰ったわね」

「さっさと風呂の用意をして冒険者ギルドへ行かないか?」

 何となく商業ギルドとは今後関わりがありそう、という漠然とした予感があったので丁重に持て成したが、疲れるものは疲れる。精神的に疲れているが体力は有り余っているので、少し外出して気晴らししたかった。ヒメカも同意見のようですぐさま首肯する。

「夕食作る気が起きないから外で食べない? もしくは出来合い」

「賛成。テオ達の分は置いて行けばいいだろ」

 テオ達も連れて行きたいが、食事処は奴隷を嫌う。ならば家で留守番をさせた方がマシである。

 そうと決まれば、ヒメカは風呂の用意を始め、ユウトはテオ達に出かけることを伝え、風呂と夕食は用意しておくことを伝えた。

 マルズに到着して初めての冒険者ギルドへ行った姉弟は、私服で行ったこともあり、一般人と間違えられて真っ先に依頼受付へと案内されてしまう。その場でダンジョン講習の予約をしに来たと伝えると、少々受付嬢を慌てさせてしまったが、手続きをする窓口へ案内されて、一応、無事に予約を済ませることが出来た。ただ、ちょうど今日が出発日だったらしく、次回は3日後と言われてしまう。残念に思いながらも、予定通り予約をして、注意事項や事前準備についても確認してからギルドの食堂で夕食を食べることに。

 食事をする時にはすっかり気分は回復しており、マルズらしい味付けを楽しむ。

「(少し濃いけど)おいしいわね」

「(少し辛いけど)おいしいな」

 今まで食べた物も含めて、マルズでは基本味付けは濃い目。香辛料も手に入りやすいために辛い物も多い。冒険者の好みに寄らせているのでおつまみ系が多く、酒の種類も豊富だったが、姉弟は酒には興味がないので果実水を何種類か楽しみ、酔っ払いに巻き込まれない内に帰途についた。

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