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7話 妨害は妨害になりませんでした。

 野外訓練が開始され、怪我人が次々にやってきたのは日が傾いてきた頃合いだった。

「あの……なんだか人が多くないですか?」

「そうね……マイラ、少し医師団のテントを見てきてくれない?」

「分かりました」

 初めに異変に気付いたのはリーシャ。エナもそれに同意する。バタバタと忙しく走り回るマイラを呼びつけ、医師団の様子を見てくるように言った。

(もしかしてこれが嫌がらせなのかしら?)

 ヒメカとすれば別段苦労はない。魔物を倒したり、魔法を使ったりすると次第にMPの量も成長するので、お金目的とはいえ、Dランクに上がる任務とは別に色々な魔物を狩った今のヒメカは余裕があり過ぎる位あるのだ。

 そんなヒメカが出来ることといえば、効率よく癒すこと。

(あ、そうだ)

「リュドーさん、5、6人まとめて連れてきて頂いてもよろしいでしょうか?」

「え、あ、はい。分かりました」

 首を傾げるリュドーに再度「お願いしますね」と念を押す。神官達も治療を施しながらも、ヒメカの方を気にしている。

(MPはまだ全然余裕があるし、お試しだけどやってみたいことがあるのよね)

 常にユウトと2人でしか組まないヒメカのしたい事。それは、多人数相手の範囲回復魔法である。

(魔法の大前提はイメージ。鑑定とセットで使えば効率よく出来る気がするのよね~)

 まあ、ようは思いつきである。しかし、それを成功させるのがヒメカクオリティ。

「おお! 傷が一瞬で……」

「スゲェ……こんなの初めて見た……」

「さすがは聖女様!」

 聖女? とヒメカは首を傾げるが、スルーすることにした模様。騎士たちに軽く問診をした後、完治した騎士たちを見送った。

(6人やってMP消費40……これならまとめてやったほうが効率良い)

「リュドーさん、この調子で6人ずつお願いします」

「うえ!? わ、わかりました……」

 リュドーは言われた通り、6人ずつ連れてきた。治癒自体は一瞬で終わるし、問診も違和感がなければそれで終わりなのでサクサク終えることが出来た。

「ヒメカさん凄いですね……あんなたくさんの人を一気に治療出来るなんて……」

「なんとなく出来る気がしたので試してみました。まさか成功するとは」

 いや、あなた思っていましたよね?

「もしかして即興でやってみせたのか!?」

「回復魔法を覚えた時も同じようなものでしたし。せっかく機会があるのなら試さない手はありませんから」

「……ヒメカさんには驚かされてばかりだわ。でもおかげでこうして一息つけて助かりました。それはそうとして、マイラ。医師団の方はどうでしたか?」

 いつの間にか戻ってきていたマイラは、リュドーが半ばヒメカ専属となっていたために報告も出来ず補佐をしていたのだ。

「はい。それがですね…………」



「やはり、ですか」

 マイラの報告によると、医師団のテントでは、患者の治療を一応しているとはいえ、その数は少なく、人員が余っていたそうだ。つまり、医師団が受け持つべき怪我人もこちらへと回されていたのだ。

「医師団の方は何をお考えなのでしょうか? 軽傷とはいえ、こちらの対応が間に合わず、怪我人が溢れかえっていれば騎士団側からお咎めを受けるのでは?」

「医師長が騎士団長と懇意にしているのでそれはないでしょう。しかし、放置された騎士様達からの信用は失墜するでしょうね」

 中流貴族以上の騎士の治療はするが、と、そういうことらしい。下級とはいえ、同じ貴族に対してその扱いはいいのか。

「…………」

「大丈夫ですよ、ヒメカさん。このことはきちんと報告しておきますから」

 ここに来て一番の爽やかな笑顔のアル。エナもそんな彼を見て苦笑するだけで、止めるつもりはないようだ。

「いえ。私は私の仕事をするだけですから。それよりも皆さんは大丈夫ですか?」

「私共も問題ありません。むしろ、予想よりもマナポーションの消費が少ない位です」

 ヒメカさんのおかげです。と、トトルが答える。トトルは以前まで見習いで参加していたせいか、治療しながらも在庫数をチェックしていたようだ。

「あら、次の騎士様達がいらしたようです。さ、皆さん頑張りましょう」

『はい』



 その日の野外訓練が終わったのは、日が暮れる頃だった。

 教会側のテントでは、そこからが本番で、最後の患者を治療し終えた時にはすでに月が上っていた。

「やっと夕飯……」

「お腹すきましたー……」

 食事は朝と夕だけらしく、昼はない。見習いの2人は特に動き回っているのでお腹が空くだろう。ようやく夕食を食べようとテントを出ると、騎士たちは見張り番を交代しつつも、各々自由に過ごしていた。

「こんなに人がいたんですね」

「ふふ、凄いでしょう?」

 治療に来る人は一陣、二陣と分かれてくる上、怪我をしなければこないわけだから不思議ではない。

「ああ、でも約半数の方は治療にいらしていましたね」

「え!? 一人一人の顔を覚えているのですか!?」

「? はい。……なんだかマイラさんの向かった方が騒がしいですね?」

「え、あ、そうですね。何かあったのでしょうか?」

 リーシャはあり得ないものを見るような目を向けるが、ヒメカにはなんのその。結局マイラの声で打ち切りとなった。



「ええ!? 私達の分がもう無い!?」

 空の器を持ったまま、絶望するような声を出すマイラ。食事係だった騎士によると、医師団の方々が予想より多く食べたせいで、遅れてやってきた教会側の分がなくなってしまったらしい。食料はギリギリしか持って来ていないので、作るとしても明日以降の分が足りなくなるそうだ。アルの顔が怖い。

「あの……材料があれば作っても構いませんか?」

「ヒメカさん?」

「私、食材をいくらか持って来ているので、7人分なら用意出来ますから」

 ヒメカのマジックポーチには大量の食材が入っている。マジックポーチに入れておけば腐ることもないからと大量購入しておいた分と、見たことがない食材だったためにいつか挑戦してみようと思って買っておいた分がある。7人分なら遠征中、毎日作っても賄える程度には在庫があった。

「ああ、それなら……一応副団長に許可を貰ってくるので少々お待ちいただけますか?」

 団体行動故に制限があるのだろう。食事係だった騎士はすぐに戻ってきて、許可を貰えたと伝えてくれた。というか、何故か副団長までやってきてしまった。

「皆様、これはこちらの落ち度です。申し訳ありません」

「い、いえ、ランドルフ様のせいではありませんから……!」

 頭を下げるアーノルドに、エナが慌てる。伯爵家の人間に頭を下げられたら誰でもそうなるだろう。というか、大して働いていないくせに大量に食べた医師団が悪いというのが教会組の総意である。

「こちらこそ、個人的に所持していた食材の使用許可を頂き、心より感謝申し上げます」

 肝の太さはさすがというべきか、ヒメカは伯爵家相手でも平静を保ちつつ感謝を述べると、食事を作り始めてしまった。勿論、失礼がないように挨拶をしてからであるが。


「♪~」

 一先ず、魔法でお湯を沸かし、乾麺を茹でる。乾麺はパスタに限りなく近いので献立を考えるのには困らない。ただし、この世界では麺は茹でて塩コショウをしてメインの添え物扱いなので、少し驚かれるが気にしない。

 麺を茹でている間にソース作り。今回はカルボナーラもどきを作る。

 広く流通しているオークの肉は豚肉に近いため、それを燻製にしたものをベーコン代わりに、ミルク(やや臭みがあるものの、火を通せば気にならない)はあるので、魔法で作ってみたチーズもどきとバターもどきも用意する。ニンニクはパルゥというものが近いのでそれを使う。

(肉は少し大きめに切って多めに入れよう)

 油とパルゥを一緒に鍋に入れ火に掛ける。オーク肉は表面に焼き目つくまで焼き、ミルク、バターもどき、チーズもどきを加えて温める。この時に顆粒コンソメも加える。丁度パスタがゆで上がったので水気を切ってソースに絡め、塩コショウ。そこで火から下ろし、卵を入れて軽く混ぜれば完成である。

 それだけでは物足りないかと野菜たっぷりのスープ(魔法で時短)も用意された。

 ニオイで魔物がやって来ないとも限らないので、『消臭』の魔法を常時展開しておくのも忘れない。

「お待たせしました」

「まあ、美味しそう! 凄いわ、ヒメカさん! それでは皆さん、お祈りをしていただきましょう」

 エナが胸の前で手を組み、静かにお祈りをして自身の額にトンと指を当てる。どうやらそれがお祈りらしい。他の者も同じ動作をしている。

「美味い!」

「美味しい!」

「こんなにおいしい物、生まれて初めて食べました」

 まとめ役でもあるエナやアルまで嬉しそうに食べている。ヒメカにしてしまえば即席ご飯だが、食文化の発達していないこの世界では大層な御馳走である。

 遠目に見ていた騎士までもが羨ましそうにちらちらと視線を向けている。

 アルはというと、ヒメカへ多大なる感謝をしつつ食事をしながらも、医師団の悔しそうにしている顔を見て満足した笑みを浮かべていた。勿論、だからといって報告書に手は抜かないが。



 お腹も落ち着いたところで、テントへと戻った一向は、明日の予定を確認する。

「今日はお疲れ様でした。今夜はゆっくり眠って魔力を回復してくださいね。明日は夜間訓練があるので、特にしっかりと休んでください」

 夜間訓練はその名の通り夜に行われる訓練なのだが、魔物は夜に活性化することが多い。よって怪我人も多く出るのだ。今日の比ではない、と、釘を刺される。

「リュドーとマイラは常にマナポーションの在庫をチェックするように。他の者は魔力管理をしっかりしてくださいね」

「睡眠は交替で取るようになるから、まず俺とトトル、次にエナとリーシャ、最後にヒメカさんの順だな。リュドーとマイラは話し合って交替で睡眠をとってくれ。補佐のどちらかが睡眠をとるときはトトルが補佐を兼任してもらう。トトル、大変だがよろしく頼む」

「はい」

 睡眠は魔力回復にかかわるので不眠不休で、とはいかない。仮眠を取るだけでも多少魔力は回復する。

「夜間訓練では昼間よりも重症者が出易いのでエナとヒメカさんは特に注意しておいてほしい」

「はい」

「承知しております」

 その後も注意事項が続き、最後に今日の反省をして解散した。

 寝床はテントの中を仕切って男女に分かれるだけのだが、今日の疲れからと明日に備えて即行で就寝した。

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