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65話 仕事以外は自由です。

「ここが今日から生活してもらう我が家だ。早速だけど、馬達の寝床の用意を頼む。一応道具類は用意しているけど、正直全く分からないから必要な物があれば遠慮なく言ってくれ。発言は常に許可する。まずはこれに着替えてくれ」

 予想より遅くなってしまったが、とにかくセキトバ達の寝床を準備しなければならない、ということで、テオとジェードを部屋へ案内したユウトは、2人を古着屋で買った服に着替えさせる。

 2人は素早く着替えを済ませ、ユウトを先頭に厩へと案内された。ヒメカは別行動である。

「井戸はここ。靴はここで履き替えてから作業してくれ。作業が終わったら靴を履きかえてから家に入って。馬の世話に関しては2人に任せるからやりやすいようにしてくれ。馬糞はここに捨ててコレ(消臭スプレー)を吹きかけてくれれば時間があるときに処分するから。それじゃあスイとセキトバに紹介するからこっちきて」

 靴を履きかえると、スイとセキトバが繋がれている馬房の前へ行って紹介をする。スイもセキトバも理解したようだ。これで、変な事でもしない限りはテオとジェードに攻撃することはないだろう。今までに宿の従業員を攻撃したことはないのだが、不審者には容赦なく蹴りを放つ番犬ならぬ番馬達なので顔合わせは大事である。

「とりあえず2頭を庭に連れて行くから寝床の用意を頼む。終わったら呼びに来てくれ」

「「かしこまりました」」

「セキトバ、スイ、少し外へ出るぞ」

 ユウトが2頭を庭へ連れだすと、早速作業に取り掛かるテオとジェード。ユウトは2頭を庭に放つと少しだけ様子を見ていたが、全く問題なかったのでスイとセキトバへと意識を向けることにした。



 寝床の用意が出来たとテオが報告しに来たので、ユウトは2頭を呼び寄せて再び厩舎の中へ。スイとセキトバは満足そうな表情で馬房へと入っていった。

「道具は問題ないか?」

「はい。あの、ただ、エサが見当たらなかったのですが……」

「家にいる時は毎朝1日分の飼料を飼料置場に置いておく。いない時は……まだ決めてないから保留。決まったら伝える」

「わかりました」

「後は何かないか? …………大丈夫そうだな。また不都合があったり質問があったらその都度教えてくれ。じゃあ靴を履きかえて風呂へ行こう」

 何もなさそうだったのでユウトは風呂場へ誘った。おそらくすでにヒメカが色々と準備してくれているはずだ。

「あの、風呂、ですか?」

「ああ。俺達がいる日は基本毎日入浴してもらう。使い方はこれから説明する」

 ユウトに連れられるままにテオとジェードは風呂場へ向かった。



 テオとジェードが風呂から上がると、説明をヒメカに交代してユウトは風呂に入った。

 折角全身を洗ったのに、2人がリビングの床に座ろうとするので、椅子に座るように指示して向いにヒメカが座って契約内容の確認から始めた。

 後は、なるべく清潔に保ちましょう、家の中ならば私室と調合室以外は好きにしていい、物も施設も好きに使っていいし、使い方が分からなければ聞いてほしい、物を壊しても罰しないけど報告はすること、わざと壊すのは論外、などといった基本事項を伝えた。

「――――以上です。質問はありますか?」

「あの……それだと性奴隷以上の待遇になるのですが……」

 恐る恐る質問するテオに、ヒメカは笑顔で頷いた。

「んー……例えば、みすぼらしい恰好をしている人と、身綺麗にしている人。周囲に与える印象が良いのはどちらでしょう?」

「え……と、身綺麗にしている方、でしょうか……?」

「そういうことです。なので、うちではなるべく身綺麗にしてもらいたいです。服を仕事用と私服で分けて用意しているのはそういうことですね。他に気になる事はありますか?」

「あの、昼間は馬を庭に放すだけでいいとユウト様がおっしゃられたのですが、それだと昼間の仕事がなくなってしまうのですが、何をすればいいですか?」

「部屋でゆっくりしてもいいですし、リビングの本棚に置いてある本は好きに読んでくれて構いませんし、手仕事をして小遣い稼ぎしてもいいですよ? 出かけるのも好きにして構いません。特に制限はしませんから。防犯の関係で1人は家に残ってもらえると助かりますが」

「…………??」

 契約内容を伝えられた時は馬の世話以外何もないので、書いてない時間帯は色々と扱き使われるのだと思っていた。予想外の連続でテオは混乱する。とりあえず、テオは文字が読めない事を自己申告した。

 ちなみにジェードはテオと違って反応は薄く、ヒメカが質問を投げかけたり確認したりする時だけスラスラと応答してみせるので話は聞いているようだ。意見を言う気配はない。

「希望するならば私の手が空いている時は読み書き計算を教えましょうか?」

「……いいんですか?」

「勿論です。技能を教えてはいけないとは言われていませんので」

 テオは即座にお願いしようとしてピタリと動きを止めた。教育を受けるためには金を払わなければならないと教わってきたからだ。教育の代わりに何か対価を求められるのではないかという考えが頭によぎった。

 テオの思考は筒抜けで、ヒメカは困ったように微笑んだ。

「対価は必要ありません。暇な時にしか教えませんから」

 これはマルスランの入れ知恵でもある。読み書き計算の出来る奴隷は仕事に困らないのだとか。ただし、こちらもやりすぎ注意である。せいぜい、食事処のメニューが読めるとか、足し算引き算が出来る程度に留めておかなければいけない。頭の良すぎる奴隷は嫌われる。

「ジェードも何もしたいことがなければテオと一緒にしませんか?」

「かしこまりました」

 別に命令じゃないんだけど……とヒメカが苦笑するが、嫌がっている様子もないのでしばらく様子を見ることにした。

「他にも挑戦してみたいことがあれば相談してください。可能であれば許可します」

 その後は家の中を見て回り、使い方の説明や、備品や掃除道具等の場所を確認してリビングへ戻ると、ユウトと合流した。

「説明は済んだ?」

「一応は。あとは生活しながらじゃないと分からないかな」

「そこは追い追い。とりあえず食事にしよう」

 テオとジェードは自室で食事をすることになっている。ユウトはヒメカからパンと干し肉、水の入ったピッチャーとコップを受け取って2人を引き連れて行った。テーブルと椅子はないのでナイトテーブルで食べてもらう。

「食べ終わったら流しに持って来てくれ」

「わかりました」

「かしこまりました」

 2人が頷いたのを確認してユウトはリビングへと戻っていった。



 夕食の席でヒメカは読み書きを教えることになったと報告すると、ユウトも時々なら手伝う、と協力する意思を見せた。

「基本調合室にこもると思うけど」

「それでもありがたいわ。食事の面倒をみてくれるだけでも助かっているもの」

「共有で雇っているんだから世話を分担するのは当たり前だろ。姉さんこそ魔法関係の研究はいいのか?」

「んー……行き詰っている案件はあるけれど、無理に進めてもいいひらめきは浮かばないもの。だったら別の事をした方がいいじゃない? とりあえず、家の中の環境を整えることからしていくわ。ここってあと2~3週間もすれば結構暑くなるみたいだし、日除けなんかも用意しておかないと」

 ヒメカの言葉に、ユウトも確かに、と頷く。アーンスはロザリアよりも北に位置するが、あまり涼しいとは感じない。マルズに入ってからは特に暑く感じる。

「ロザリアはここより南だけど温暖な気候なのに。人口密度の関係か?」

「そうかも。植物もないしね。うちに観葉植物でも置こうかしら」

「グリーンカーテンとか」

「いいわね! 何かいい植物はある?」

「種を何種類か持ってる。成長促進させる薬のレシピもある」

 家を快適にする方法を話し合い、必要な物は明日買い物に出ることにした。どうせ明日は木材の搬入で商業ギルドへ行くことになっているのだ。文字練習用の紙やペン、インク等を買いに行き、ついでに、街中を練り歩きながら色々と見て回ることにした。

 生活がある程度安定するまではダンジョン講習はお預け。冒険者としてはどうかと思うが、それよりも観光優先の姉弟だった。

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