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63話 家の改装が完了しました。

「とりあえず家具はトレントかイビルエントでいいよね?」

「ん」

 借りた家の居間で相談する姉弟は、早速家具を作ることに。

 トレントもイビルエントも樹木系の魔物で、イビルエントの方は火耐性もある面倒な魔物だ。だが、樹木系魔物の素材は普通の木材よりも頑丈なので家具作りにはぴったりである。家具だけでなく、魔法士の杖など、需要が高いので割と高値で売れるのだが、ヒメカ達はいつか使うかもしれないというふんわりとした理由でそれらを溜め込んでいた。

「調合室の薬品棚は普通の木材がいいのよね?」

「うん。魔物の素材に含まれる魔素に反応して変質する物もあるから」

「了解」

 話しながら風魔法で木材をカットするヒメカと、それを組み立てるユウト。ヒメカの風魔法はmm単位の誤差もなく、さらには繊細な彫刻まで施すこだわり。塗装はユウトの担当で、部屋に合うよう塗料の調合から行い、着色後の乾燥は水魔法で時間短縮。表面に光沢が出るまで研磨するのは共同作業で、仕上げにコーティングして汚れにくく手入れもしやすいよう処理を施す。

 ユウトは風属性の適正がないので木材のカットはもっぱらヒメカの担当で、食器棚などガラスが必要な物はユウトが土魔法で作るように役割分担する。ヒメカに比べたら少ないMPも、すでに4桁あるので問題なく作業出来る。

 音と臭い対策もばっちりしてあるので思う存分に作業に打ち込めた。

「…………」

「…………」

 初めこそいくらか話していたが、流れと分担がはっきりしてくるとともに作業スピードは上がり、口が数は減っていった。気が付けば真上にあった太陽は傾き、空がオレンジ色に染まる頃には全部屋の家具が完成し、明日の午前中までに終わらせればいいと思っていた厩舎の用意や風呂場の改装工事、防犯用魔法陣の設置まで完了して、後は荷物を置くだけの状態になっていた。

「まだ夕方ね」

「そうだな」

「……」

「……」

「とりあえず宿に戻りましょうか」

「そうだな」

 家中を『洗浄』できれいにしてから防御用魔法陣を起動。施錠し、宿へ戻ると2人とも『洗浄』で体を清めてからベッドへ潜ると泥のように眠った。



 翌日、朝日で目が覚めたヒメカとユウトは、昨日の疲れが残っていないことを確認して、朝食を食べた後にチェックアウトした。

 勿論向かうのは、昨日姉弟がさんざん手を加えた家。途中から楽しくなってきて、こだわれる部分はとことんこだわってしまったのはご愛嬌。特にベッドはマットレスだけじゃなく下部フレームにまでこだわった自信作。通気性にも優れていて、一流ホテルにも負けない寝心地の良さを追求した一品となっている。勿論使われた素材は魔物素材(高級品)である。

「セキトバ、スイ、床を整えてみたけどどうかしら?」

「…………微妙そうだな」

 馬房に案内するも、2頭の反応はイマイチ。宿の従業員任せか野宿しかしてこなかった2人では限界があったようだ。

「うーん。やっぱり人を雇って正解だったわね」

 出来ないことは仕方がない。午後、青年2人を引き取りに行った後、必需品を購入したら早速仕事をお願いすることに決めた。

「改装も終わっているし、商業ギルドへ行って内覧してもらいましょう。多分問題はないはずだし、すぐ済むでしょ」

 見てもらうならば私物がない状態の方がいいだろう。というわけで早速商業ギルドへ向かった。



「え!? もう改装が終わったのですか!?」

「はい」

 姉弟が商業ギルドへ行くと、丁度マルスランが出勤したばかりというので取次をお願いして今に至る。

 突如決まった内覧だが、マルスランは姉弟の魔法士としての腕を確かめるためにも優先的に事に当たるようにと上司から言われていたので、すぐさま準備をして家へ向かった。

「随分きれいになっていますね」

「『洗浄』を使ったので」

 まず目に入る外観は少し綺麗になったかな? というくらいで普通といえば普通。商業ギルドが管理する物件ということもあり、定期的に綺麗にするくらいはしていた。ただ、やはり魔法での清掃の方が、より効果が高かった。

 そんな話をしながらヒメカが鍵を鍵穴に差し込むと、一瞬だけ扉に魔法陣が浮かび、すぐに消えた。

「今の魔法陣は防犯用ですか?」

「はい。このキーホルダーに解除の魔法式を組み込んでいて、これを使うか、家の内側から扉を開けるかしないとロックがかかって家全体に強化魔法がかかるようにしてあります。裏口も同様ですね」

 それでも無理に開けようとすれば一度目で静電気レベル、二度目でさらに強い電流、三度目で失神する程度の電流が流れる、というのは、一瞬現れる魔法式を読み解ける人しか分からないことである。

 その事を知らされないまま、マルスランは家の中へと案内される。

「こ、これは……! 素晴らしい家具ですね!! 良く見せていただいても!?」

「はい。構いませんよ」

 リビングに設置された家具を見るなり顔を輝かせるマルスラン。2人はその反応に嬉しそうである。なにせ、リビングの家具は姉弟がこだわった部分である。どのくらいこだわったかというと、最初に家具を揃えたにもかかわらず、すべての家具を作った後に一式全て作り直したくらいにはこだわった。やはり人目に触れる部屋なので出来の良い物を置きたかったのだ。

「木目を生かしつつ、暗めの色で落ち着きのある物になっていますね。表面の処理も素晴らしい。この光沢は丁寧にヤスリ掛けされているのか……彫り物がしてあるのに手触りにまったく引っ掛かりがありません。しかし表面に薬剤が塗られているようだが臭いがしませんね……彫られているのは花に……こちらは鳥と木の実、果物も。この曲線は風でしょうか? それにしてもここまで繊細な細工が出来る職人といえば…………まさか!?」

 正解に行き着いたマルスランが視線を向けるが、視線を向けられた2人は、片やにこやかに、片や表情を変えずに、否定も肯定もしなかった。

「あ、あの、差支えなければ部屋の方も見せていただいてよろしいでしょうか?」

「構いませんよ」

 改装した部分だけみせてもらう予定だったが、どうにも気になってお願いするマルスラン。まだ何も荷物は置いていないので見られて困る物はない。姉弟は快く了承した。

 リビングから行けるのは奴隷が生活することになる部屋とユウト、ヒメカの私室、食料庫、庭である。とりあえず右手奥の奴隷の部屋を見る事にした。

 派手さはないが落ち着きのある彫刻が施された家具が設置されていて、小さいながら共用の本棚もある。ベッドは2つ、鍵付きの引き出しが付いたナイトテーブルもあり、クローゼットも1人1つ用意されているようで、普通に2人用の客室となっていた。

「よければベッドに寝てみられてください」

「いいのですか? ……では失礼して」

 マルスランが興味を示していたのが丸わかりだったので、ヒメカが提案すると取り繕いながらもマルスランは意気揚々と横になった。

(むむむ、何だこの寝心地の良さは……! ふんわりと全身を包み込むように沈み込む柔らかさ。だが、長時間同じ体勢でも負担がないようにある程度の硬さも持たせているのか……それにしても肌触りがいいな。これは……え!? スパイダーシルクなのか!? 貴族の家でもあるまいし、何故こんな高級品!? いや、金持ちだったな。じゃなくて! よくよく見れば他の物も魔物の素材なんだけど!? カーテンとかいいのか!? 日に焼けてしまうぞ!?)

 マルスランは汚さないように慎重にベッドから下りた。

「どうですか?」

「いやぁ……これは素晴らしいですな。素晴らしすぎて言葉が見つかりませんよ。ハハハ…………もしや他の部屋のベッドも?」

 ここが奴隷の部屋だということは、他の部屋は同等かそれ以上だろう。恐る恐る確かめると、ヒメカからは「同じものですよ」との答えが返ってきた。

 次に案内されたのがすぐ隣のユウトの部屋。順路としては、この後リビングを挟んだ反対側にあるヒメカの部屋、一度玄関前の廊下に出てギルの部屋へ行き、調合室を見てから、最後に庭に作られた風呂場を視察する予定である。マルスランの目的は家具なので食料庫や物置などは特に立ち寄る予定はなかった。

 ギルの部屋と玄関の間にある一番広い物置を、魔法陣を一括管理する部屋にしているが、聞かれていないのにあえて言うほどの事でもないかとそのまま姉弟は黙っていた。

 そんなこととも知らず、とにかく確認を、ということでユウトの部屋へ入ったマルスランの感想がこちら。

「……シンプルですね」

「この方が落ち着くので」

 家具の装飾は最小限。ヘッドボード側の壁に木製のアートパネルが飾られているくらいで、前の部屋にあった本棚さえ無い。部屋の広さはどれも同じなのでベッドとクローゼットが1つずつない分スペースが余っている。あえて言うならばベッドが少し大きいくらいだろうか。

 特に見るものがないので次である。

 食料庫の隣に位置するヒメカの部屋は、大きな本棚が置かれていて、机や椅子、棚などもある読書家の部屋。

 本は得てして高価な物であるが、その本を集める職業は限られる。マルスランはヒメカこそが魔法士であると確信した。

 先入観を持たず、情報を集めてから判断する点は評価できるが、残念ながら情報が足りていなかった。姉弟がまだこの国で冒険者業をしていないのも理由の一つではあるが、提示金額が高すぎて膨大になった該当物件の選定に時間を取られ、通常業務を早めに片付けて情報収集をしようとすればその翌日(今日)には改装を完了させてしまう。マルスランでなくとも満足のいく情報収集が出来るわけがなかった。金と人手を使って調べさせても良かったのだが、それをするだけの価値が、まだ若いこの2人にあるのか測りかねていたこともある。

 マルスランが1つの結論を出したところで部屋の観察に戻る。まだ物がないので寂しい印象ではあるが、本棚が埋まり、棚に雑貨等を飾れば温かい雰囲気になるだろう。家具には花を基調とした彫り物がされていて女性らしい物になっていた。

 そして次に向かうはギルの部屋。本棚も机もソファもあり、雑貨を置けるような棚もある。ベッドはゴロゴロと転がっても大丈夫なように大きめ。家具はシンプルだが居心地は良く、部屋の主がカスタマイズできるようゆとりを持たせてある。

 そして調合室。この部屋だけは入室制限がかけられていて、入室するには専用の鍵が必要だった。鍵を開けて中に入ると、薬品棚と作業机、簡易キッチン、本棚があり、薬品棚と作業台は魔物素材ではない普通の木材で作られている。本棚の奥には仮眠スペースがあり、シンプルなベッドが置かれていた。

 とりあえず部屋を一通り見たので、本来の目的である風呂を見ることにした。

 一度リビングへ戻り、裏口から庭へ出ると、右手に厩舎、左手に風呂場がある。厩舎へ行くための屋根もなかったので土魔法で裏口とそれぞれの入口を繋ぐように屋根を作り、足元は地面より少しだけ高くして雨の日も濡れずに行けるようにされている。倉庫兼搬入口に繋がる食料庫横の扉からも行けるようになっていて、風呂場に近いのは搬入口側だ。

「靴はここで脱いでください」

 靴を脱いで脱衣所に上がると、さっそく風呂場の見学である。

 床はタイル張りで滑り止め加工もされている。浴槽は1つあり、手前に体を洗うスペース。外に設置してあるタンクに魔法で沸かしたお湯を貯めておいて、蛇口をひねれば使えるようにしてある。姉弟は自分でお湯を作れるので主に他の人用である。

 排水は地中に作っておいたタンクにたまるようにしておき、全員の入浴が終わった後に『洗浄』してから蒸発させるつもりだ。素直に下水道に繋げばいいのだが、工事に時間がかかるのと、魔法でどうにか出来る問題だったのでこの方法になった。排水タンクは5日分くらいなら余裕でためておけるようにしているので、お湯をためる方のタンクを魔道具に改造していつでも入浴できるようにも出来るのだが、それは実際のお湯の使用量など様子をみてから考えるようだ。

「つまりお湯を沸かせるように魔道具を設置し、排水が下水道に流れるようにすればそのまま利用可能ということですね」

「そうなりますね」

 マルスランはこの施設をそのままこの家の設備として残すか否かを考える。基本的に風呂は大衆浴場を利用するものなので、魔道具を設置してまで風呂という施設を維持するメリットは薄い。しかし、姉弟の作った風呂は完成度が高く、このまま取り潰すには勿体なかった。

(厩舎に繋げている屋根はそのまま残してもらうとして、風呂はどうしたものか……)

「あの、一度ギルドに持ち帰り、退去時に風呂を残すかどうか話し合わせていただきたいのです。それに関しまして、日を改めてもう一度この施設の見学をさせていただきたいのです」

 契約期間が終われば取り潰すつもりだった姉弟はマルスランの提案に思案する。

(どうしようか?)

 人を呼ぶのは構わないが、相手が商人だと気疲れする。何に商機を見出すか分からないからだ。現にマルスランは家具に興味を持った。まだ交渉はしてこないが、そのうちするだろうな、というのが姉弟の見解である。

(……仕方ないわね。適当に理由をつけて風呂場を見せるだけにしましょう)

 興味のある事には邁進するが、そうじゃないことに時間を取られたくない。商談もしかり。

 この家の家具の素晴らしさを切々と語り、ぜひ上司にも見せたいと言い募るマルスランだったが、姉弟は改装の条件として全て元に戻すという約束を持ち出してから「風呂は取り壊すし外の屋根と通路も元に戻します」と突っぱねたことで、マルスランもその条件を飲んだ。その代わりに、家具作りで余った木材を商業ギルドに売ることになったので、きちんと利益は確保するマルスランはさすが商人であった。

 明日の午前中に搬入するという約束を取り付けてマルスランは笑顔で帰っていった。



「……商人ってこれだから……」

 してやられたことが悔しかったヒメカは、冒険者ギルドの買い取り価格(1体金貨8枚)に2割上乗せした値段を提示したのだがむしろ喜ばれてしまった。交渉が終わった後に教えてもらうには、更に3割上乗せした位が実際の取引額なのだとか。どれだけ暴利を貪っているんだ冒険者ギルド。

「まあ、俺達は損をしないわけだし」

「…………うん」

 ヒメカの中でマルスランの警戒度が上がった。


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