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6話 訓練に同行しました。

 翌日。ヒメカは教会へ行き、騎士団の野外訓練への参加の旨を伝えた。神官長は、それはもう喜んだ。お礼とばかりに中位回復魔法を教えてくれた。

「……やはりお気づきでしたか」

「治療院での依頼を受けてくださる冒険者の方のほとんどはそうですからね。それに中位回復魔法までは各個人の裁量で教えても良い事になっているのです。ですが、これでも人は選んでいるのですよ?」

「それは光栄です。ちなみに、野外訓練についてお話を聞いてもよろしいですか?」

「ええ。勿論です」

 その日は野外訓練について詳細を聞き、午後は治療院で働いた。



「おはようございます」

「おはようユウト君! 良い朝だね!」

 良い笑顔で出迎えてくれたナル。その手はユウトに差し出され、弁当が置かれるのを待っていた。調合師としての腕前は優秀。Bランク冒険者だけあって、知識も豊富である。ただ、こういうところはつくづく普通の人だなぁ、と心の中で呟く。

「お昼になったら渡しますね。それで今日は何を作るんですか?」

「今日は中級ポーションにしよう。今まで下級ポーションばかりだったからね。少し難しいけどユウト君なら大丈夫だよ」

「頑張ります」

 テキパキと調合に使う道具を準備し始めるユウト。一通りの知識は初日に叩き込まれているし、記憶力も悪くないので問題ない。せっかく得た優秀な教師がいるのだから、今は勉強あるのみ。

 習得に時間がかかるものを選んだのは自分とはいえ、姉に置いて行かれないように頑張らなければ。とひそかに思うユウトだった。



 翌日からは、ヒメカは遠征への準備と資金繰り、ユウトは調合の毎日であった。それぞれ忙しくしているとあっという間に日は経ち、遠征の前日となった。

「明日から遠征だね」

「ねー。この3日で大分稼げたし、準備も終わったし。お弁当とご飯は日数分用意してるからちゃんと食べてね」

「わかった。あ、これ、上級マナポーション。ナルさんからお弁当のお礼にってさ。騎士団の訓練は厳しいって聞くからって。俺からは中級ポーションと毒消し」

「わー。ありがとう! 悠もどんどん調合が巧くなるね」

「で、もう一つ。これも持って行ってよ」

 そう言って差し出したのは、細身の片手剣。スピード重視の剣士が好んで使うもので、ヒメカの手にもしっくりくるように調整されている。

「さすがに、Dランクの冒険者の武器が解体用ナイフだけなのはどうかと思う」

「うっ」

 すっかり素手orナイフで魔物を狩るのに慣れたヒメカはそろりと視線を逸らす。

「治癒師として参加するわけだし、危険もさほどないだろうから、まあ、保険みたいなものだよ。基本的にはマジックポーチに入れておけばいい」

「ありがたく使わせて頂きます」

 マジックポーチに武器を仕舞い、代わりにお金の入った袋を取り出す。

「遠征中はお金を使うこともないから管理お願い。一応金貨3枚だけ持っていくけど」

「分かった」

 持ち金は基本的に折半で管理している。一応、銀行に似たことを商業ギルドが行っているが、Aランク以上の冒険者しか使わない。管理維持費が高いからである。預けるとしたら白金貨(=大金貨10枚=金貨100枚)単位で稼げるようになってからだ。

 金銭感覚は似ているのでお互いに信頼しているし問題ない。

「じゃあ、明日早いから先に寝るね。おやすみなさーい」

「おやすみ」

 出発は日の出前。さらにその前に教会へ立ち寄らないといけないため、ヒメカは早々に就寝した。



 翌早朝。ヒメカはきっちり準備して(といってもマジックポーチ頼りなので手ぶら)、少し早目に教会へと来ていた。

 教会の朝は早いらしく、ヒメカと同じ出張組以外にもほぼ全員が起きているようだ。

(そういえば畑もしてるって言ってたっけ)

「あ、ヒメカさんですね! 私、本日ご一緒するエナと申します」

「おはようございます。ヒメカ・ホウライです」

 エナと名乗った女性の神官は、荷物の最終チェックをしているところだった。食糧等は騎士団が用意するので、教会側は看護用用品がほとんどである。大半がマナポーションなのは見ない方が良いだろうか。MPは一晩寝れば回復するというのに。

「凄い量のマナポーションですね」

「え、あ! そ、その、騎士団からの依頼を受けている分もあるので……!」

 視線が逸れていますがそれは。それに、彼女の背後で馬車に荷を積みこんでいる男の神官さん(おそらく出張組)の目が半分死んでますけど……

「(まあいいや)……何かお手伝いすることはありますか?」

「ありがとうございます。ですが後は最終確認のみなので。現地ではよろしくお願いします」

「分かりました」

 全てを見なかったことにした。ニッコリ笑顔でスルーすると、エナも笑顔で返してきた。

 そして出発の時刻。

 お迎えらしき騎士の方々がやって来たところで、出張組は馬車へ乗り込む。これから半日かけて目的地へと向かうため、馬車の中はそこそこ穏やかだった。

「きちんと紹介していなかったのでここでしますね。彼女はヒメカ・ホウライさんです。今回、神官長の推薦でご一緒していただきます」

「よろしくお願いします」

 エナが今回の出張組のリーダーらしく、簡単に紹介する。ぐるりと面々を見回すと、治療院で見かけた顔もあれば、全く見たことがない人もいる。

「ヒメカさん。こっちから順に、アル、リーシャ、トトル、リュドー、そして、マイラです。リュドーとマイラはまだ見習いのため、主に他の者の補佐をします。何かあればこの二人に声を掛けてください」

「分かりました。リュドーさん、マイラさん、よろしくお願いします」

「は、ひゃい!」

「マイラ、落ち着け。この通り、マイラは初参加なので色々と大目に見ていただけると嬉しいです」

 明らかにテンパっているマイラのフォローをするリュドー。リュドーは三回目の参加らしく、大体のことは把握しているそうだ。

 それをきっかけに、他の人とも会話が広がる。

 先程荷を積んでいたのはアルで、野外遠征には、男手ということもあり、よく参加させられるらしい。エナの次に参加回数が多い。リーシャは、参加回数はアルほどではないが、それなりに参加しているそうだ。トトルは今回治癒師としては初参加の男性神官だか、見習いとしてついて来ていたこともあるので完全な初参加というわけではない。

「今回の野外遠征ではウォーウルフの討伐も行うので、怪我人が多くなることを覚悟しておいてくれ。重傷者が出るだろうことが予想される」

 ウォーウルフは単体でCランクながらも、群れで行動するためにBランク指定されている魔物である。ヒメカも知識では知っているが、実際に見たことはない。

「中位回復魔法が使えるのは、私、アル、そしてヒメカさんだけですので、あまり無理をなさらないでくださいね。魔力消費を抑えるために、可能な限り下位回復魔法で対応してください」

 口調は穏やかなのに目が怖い。参加回数が多ければ多い程その傾向にある。可哀想に、初参加のマイラは怯えていた。

「大丈夫です。魔力管理は冒険者には必須なので任せてください」

「あ……そういえば冒険者でしたね」

「え?」

「申し訳ありません……ヒメカさんってなんだか冒険者らしくないのでうっかり」

「神官っていわれた方が納得ですよね」

「……これでも前衛もするのですが……」

『え!?』

 全員の驚いた顔に、つい苦笑してしまう。そこまでか。冒険者らしいってなんだろう。筋肉つければいいのか。だが悲しいかな。筋肉がつかない体質なのだ。周囲からはそのままでいいと言われるが、実はヒメカのコンプレックスでもあった。

 その後の道のりも和やかに談笑しながら進むが、まもなく森へ入ると騎士が教えてくれるとスッと静かになった。

 すでに陣を張っている騎士団の先発隊が、一応魔物を退治して安全確保しているとはいえ、ここは魔物の住む森。陣に入りさえすれば多くの騎士がいて安全だが、移動時が一番危険なのだ。急に静かになったことに、唯一、マイラだけがオロオロしていた。隣に座るエナが小声で教えると、ようやく理解したようだ。

 緊張感を保ったまま、馬車は何事もなく目的地に到着した。

「本日は我が騎士団の野外訓練にお付き合いいただき誠に感謝します」

 到着した一向を出迎えてくれたのは、いかにも「騎士」という感じの20代後半~30代前半くらいの男性。騎士というだけあって体は鍛え抜かれており、精悍な顔立ちの中に品位を感じられる。

(この人貴族だ……)

 世の女性が一目合えれば歓喜の悲鳴挙げるほどの美形。現にマイラは荷卸しをしながらチラチラと視線を送っている。そこに色が混じっていないのは年の差があるからだろう。

 ヒメカはさりげなく騎士のステータスを確認すると、Bランク冒険者のゴーシュよりも数値は少し高めだった。

(このステータスなら騎士団の中でもかなり優秀な方なのかな……?)

 魔力は他のステータスよりやや少なめながらも500以上、その他、ほとんどのステータスで1000を超えていた。

「(あの方は騎士団の副団長で第五部隊隊長をしておられるアーノルド・ランドルフ様です。ランドルフ伯爵家の次男様でも在らせられるのですよ)」

「(……私、貴族様ってもっと偉そうにしているのかと思っていました)」

 さらりとストレートな物言いにリーシャが苦笑する。

「(ランドルフ様は別です)」

 その言葉の意味はすぐ後になって体験することになる。



 副団長に案内されて向かった先にはすでに簡易テントが張ってあり、神官達は大急ぎで支度を始める。ヒメカも勿論手伝うわけだが、少し遅れてやってきた騎士団の医師達は、完全に支度を終えていなかった神官達をバカにする発言をかましてきた。

(うわぁ……)

 さしものヒメカもドン引きである。人手が足りないから応援としてやってきた神官達を小間使いと勘違いしているのではないだろうか。見習い含め神官達の方がよほど大人で、嫌味を聞き流しながら自分の仕事を淡々とこなす。明らかに神官達の方が年下なのに。

「君は……初めて見るな。その服装も神官ではないようだが?」

「(うわ、こっち来た)……依頼を受けてきました冒険者です」

「ほう……冒険者とな」

 じろじろと不躾な視線を向ける医師長。ヒメカは顔が引きつらないよう、いつも以上に深く猫を被る。

「ふむ。そうだな……君は私の補佐に付けよう」

 いかにも、光栄に思えよ、という顔でそう言うのは医師団の長である。しかし、依頼には医師団の補佐は含まれていない。

「依頼内容に反しますので遠慮いたします。依頼内容を変更する際は、ギルドの規定により、一度、元の依頼の取り消しを神官長へお願いした上でギルドへ新たに申し込んでくださいませ(そんな依頼受けないけどねー)」

「な!?」

「冒険者の分際で医師長の指示を拒否するというのか!!」

 外野が騒ぎ出すが、ヒメカは素知らぬ顔で答える。

「依頼内容は、医師団の手の及ばない騎士様の治療、ということでお引き受けさせていただいております。医師長の補佐をしてしまえば依頼は失敗扱いになります。冒険者にとって、依頼の失敗は今後一生残る汚点となりますのでご理解ください。では準備がありますので御前失礼いたします」

 鉄壁の笑顔でつらつらとそれらしい理由の並べ、即退散。別に成功として報告されればそれは成功になるので、医師団の補佐をしても問題はない。

(……これ絶対嫌がらせされるやつよね。でもあんな奴に媚びうる位なら嫌がらせの方がマシ!)

 最悪、ユウトには悪いがこの国を出てもいい。と、そこまで考えるが、そもそも冒険者は国と国を自由に行き来できる職業である。別にこの国で冒険者をしなければならない、ということもない。

(まあ、4日間の我慢だよね)

 そっと神官達にも医師団に敵視されるだろうことを伝えておく。さりげなく距離をおくように、と。しかし、返ってきた言葉は予想外だった。

「大丈夫ですよ。教会の寄付をされている貴族の多くは医師団とは仲が悪いので。それよりもヒメカさんって案外はっきり言う人なんですね。おっとりしている方だとばかり思っていました」

「むしろ、今回の件は神官長にきちんと報告しなければなりませんから、嫌がらせされた時は包み隠さず教えてください。それも報告しておきます」

「神官長が報告を読んだ後、猛抗議しそうですよね」

「たぶん、確実にそうするだろ」

 上から、エナ、アル、リュドー、マイラである。リーシャとトトルもうんうんと頷いている。

「教会は神の庇護下にあるので、そこへ口出しするのは貴族様であろうと御法度なのです。それに神官長は教会に入る際に爵位は返納されましたが、元公爵家のご出身なのです。ヒメカさんはその神官長の推薦を受けているのでご安心ください」

 神官長ってそんなに凄い人だったんですね。そして、医師団が彼らに当たりがキツイ理由もなんとなく分かったよ、とヒメカは心の中で思った。

「ありがとうございます」

 お礼を言いながら口元を綻ばせるヒメカ。別に医師団に嫌がらせされることは織り込み済みなのでいいが、同行した人にも被害が及ぶのを危惧していただけだ。これでとりあえず一安心だ。

アル(っっっ! これが聖女の微笑みなのか……!)

マイラ(私、一瞬息が止まっちゃいました……///)

トトル(治癒院に通いたくなる方の気持ちが分かります)

エナ(凄い威力ね……女の私でさえドキドキしたわ)

リュドー(…………///////)

リーシャ(ヒメカさんの恋人になった方は大変ですね……結婚するなんていったら血で血を洗う争いが起きそう……)

(((((………………)))))



(……今、姉さんが何かやらかした気がする)

「ユウト君? どうかしましたか?」

「いえ。大丈夫です。続きをお願いします」

 調合に勤しむユウトはとても勘が良いようです。

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