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56話 王都到着。でもまずはザライさん家です。

 ウルプスの城門を出てすぐ魔法で王都へ飛んだ姉弟と愛馬は、まずザライ家に向かった。

「ナタリーさん、魚介類を仕入れてきました!」

「おかえり、ヒメカ! ありがとね!」

 挨拶のハグをするナタリーとヒメカはいそいそとキッチンへ向かう。この世界の人達は基本的に胃が丈夫で基本肉食だったりするのだが、魚が嫌いというわけではない。単に入手のしやすさの問題であり、元冒険者のナタリーは海辺の街に行ったことがあることもあり、魚が好きだった。前回少しだけ届けた時に目を輝かせたのを見逃さなかったヒメカは、今回は消費可能な量をお土産にしようと決めていたのだ。

「ユウト、とりあえずお前も上がれや」

「あの、その前にこいつらを裏手に繋いで良いですか?」

「こっちだ」

「あの! ユウトさん! また剣を見てもらってもいいですか!?」

「いいよ」

「おい、ギル。剣なら俺も教えてやれるんだが……」

 取り残された男性陣は、そんな話をしながら裏手へと移動した。



「じゃあ今日は泊まっていけるんだね」

 魚をさばいて天日干しの用意をする主婦ナタリーとヒメカ。今はさばいた物を塩水に漬けているので、空いた時間に洗い物をしているところである。

「はい。いつもありがとうございます」

「いいのいいの。むしろ、毎回お土産まで貰ってこっちが申し訳ないくらいだよ。本当に気にしなくていいんだからね!」

「それこそ大丈夫です。お土産を選ぶ楽しさがあるので」

 魚介類以外にも、異国のスカーフと自作の香水をプレゼントしたヒメカ。香水は冒険者を引退してもオシャレでつける女性も少なくない。ナタリーも外出時に時々つけているため、凄く喜んだ。

「それにしても香水を作るなんて、本当、多才だねぇ」

「石鹸なんかも作りますから」

「そうだったね」

 ザライ家の石鹸類もすでに姉弟謹製の物に入れ替わっている。ちまちまと作っては訪れる度に置いて行くので在庫は年単位であるのだが、最近の物は経年劣化を抑える魔法陣も刻まれているので10年経っても使える。その他にもさりげなく魔法処理をしている物がいくつかあるが、空気中の魔素を吸引して効果を持続させる仕様にしているので、魔法陣が削られでもしない限りは半永久的に保つ。いつギルがそれに気づくか、という悪戯心もあって黙っているヒメカだった。

「ふふふ」

「どうしたんだい?」

「いえいえ。ギル君はいつアレに気付くのかと思いまして」

 ちなみにその仕様はナタリーには伝えてある。その上でナタリーもまた黙っているため、共犯者とも言えた。

「ああ。まだ気付いてないね。せっかくギルの時に新しいのを出したりしてるんだけどね」

「もう教えてあげた方がいいでしょうか?」

「いや、まだいいよ。冒険者になるならそういう些細な違和感を気付けるようにならないといけないからね」

 出来れば学生の内に魔法陣を研究してもらいたいヒメカだが、ナタリーは冒険者になるには観察力がないといけない、と言う。ここは母親であり先輩冒険者であるナタリーの教育方針を支持することにした。

 ちなみに余談だが、違和感に気付いたザライがギルの前で指摘しようとしてナタリーに睨まれたとか。後日説明を受けて納得したのでそれ以来、気付いても気付かないふりをしているようになった。

「ところで今日はどうするんだい?」

「用事があるのでもう少ししたら悠と一緒に出掛けます。夕食の用意には間に合うように戻ってきますね」

「じゃあ買い出しは済ませておくよ。何か要る物はあるかい?」

「そうですね……では食物油をお願いできますか?」

「任せときな」

 今日の夕食は天ぷらの予定である。マジックポーチで新鮮とはいえ、生食は漁師でも躊躇うのでヒメカは天ぷらを提案した。油で揚げるという考えはこの世界では新鮮だが、ザライ家は異世界レシピで揚げ料理に慣れている。むしろ大好きである。もちろん、魚介類以外の具材も用意する予定。レシピのおかげで、ザライ家には野菜類のストックが多く、肉類は姉弟のマジックポーチにたんまりある。

(不満なのはお米がないことなのよねー)

 異世界へ来た時に様々な調味料は持っていたが米はなかった。米は基本的に父方の祖父母家経由で米農家から直接取引していたのが仇になった。

(こっちの世界にお米があるといいんだけど……)

 ヒメカの希望的観測としては、鰹節もどきがあるところに行けばお米も見つかるのではないか、という位。ただし、確信はなく、それがどこなのか現状分かっていないので、アーンスのダンジョン都市には期待したいところである。



「なあ、お前ら次はどこへ行くつもりなんだ?」

 ギルのMP切れで剣の練習を一旦休憩していると、ザライが手ぬぐいを差し出しながらそう切り出した。ユウトは礼を言って受け取り、軽く汗を拭きながら答える。

「マルズへ行こうかという話はしました。ダンジョンに潜ってみたいですし」

 マルズはアーンスのダンジョン都市の1つで、5つのダンジョンがすぐ近くにある都市である。しかも、初級・中級・上級という全ての区分のダンジョンがあるので、腕試しに訪れる冒険者も多い。

「なるほどな。上級に潜るにはCランク以上ないと許可が下りないが大丈夫か?」

「ウルプスでなりました」

「そうか」

 ザライが頷くと、ようやく回復してきたギルが起き上がって話に入った。

「父ちゃんは行ったことがあるんだっけ」

「ああ。王都から北に居を構える冒険者は、ダンジョンへ潜ろうと思えばロウラよりアーンスのダンジョンへ行くからな」

「そうなんですか?」

「ああ。ロウラはダンジョン都市だが中級ダンジョンが1つあるだけだからな。まあ、ここからロウラは遠いから国越えしてでもアーンスへ行った方が色んなダンジョンがあって経験になるし実入りもいいんだ」

 王都からロウラへ行くには馬を使っても半月以上。ロザリアの王都は国土の中央より北寄りにあるのでアーンスとの国境まで半月かからないで行ける。マルズはさらに北西へ向かわなければならないが、5つのダンジョンが近く、ダンジョン都市の中でもかなり規模が大きいという利点がある。

 そういうこともあり、ザライもまたマルズへ行ったことがあるのだ。

「いいなー……」

 自分も行きたい、と分かり易く零すギル。しかし、ギルはまだ冒険者登録をしていないし、学院へ通わなければならないため、ダンジョンへ潜れるのは5年以上先の話である。

 ただし、マルズへ行くだけならば学院の長期休暇を利用すればいい。学院には地方貴族も多く通っているので、年に一度、2ヶ月間ほど休みがあるのだ。しかし、王都在住の平民は長期休暇だからといって何をするというわけでもなく、家の手伝いをする子どもがほとんどである。ギルはナタリーの手伝いや、冒険者登録をしなくても出来る依頼をこなして小遣い稼ぎをしている。

「……ダンジョンに潜るのは無理だが、一度マルズへ行ってみるか?」

「え!?」

「ただし、ザライさんとナタリーさんの許可が下りれば、だが」

 連れて行くだけならば魔法ですぐである。滞在費と入国税はかかるが、移動費は掛からない。護衛もユウトとヒメカがいるので問題はないだろう。

「父ちゃんっ!」

「うーん……見聞を広めるのは悪い事じゃないし、俺は別にいいがナタリーが何と言うかだなぁ」

「えー!?」

「手紙に書いてくれれば迎えに来る。交渉に失敗しても、マルズの街の様子は姉さんが手紙で書くと思うし、行けなくても雰囲気は分かるだろ」

「ユウトさんが手伝ってくれたりは……」

「俺に交渉は無理だ。姉さんなら、と言いたいところだが、『交渉術も大事な技能だと思うの。だから自力で頑張ってね』とか言って手伝わないと思う」

「そんなぁ」

 ちなみに、ギルがダメ元でヒメカにお願いするものの、一言一句違わず却下されたのだった。

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