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53話 色々作ります。

「では夜の見回りに行ってきます!」

「あ、はい。お気を付けて……?」

 ビシッと背筋を伸ばしながらヒメカに報告するナストに、ヒメカは首を傾げながらも見送った。今日はユウトも当番を外れていたので、ヒメカに何か聞かれる前に消耗品の調合に取り掛かるのだった。それを遮ってまで詰問をするヒメカではないので使える手である。

 ユウトは黙々とシャンプーやトリートメント、石鹸等々を作りながら、興味を逸らそうとヒメカに調香を任せる。香りや使用感に関してはユウトよりもヒメカの方が敏感なので、これまでに作ってきたものもヒメカが監修していたりする。

「悠、この中ならどれがいい?」

 何種類か用意されたサンプルを一つ一つ確かめる。どれも良い香りだが、順位付けをして、2人のランキングを加味した上で決定、という手順を取る。好みは似ているが、やはり完全一致とはいかないのでこの方法で香りは決めていた。

「こっちのは? ……あれ、なんかこの匂いナストに似合いそう」

「そのつもりで調整したから」

 別にしてあった小瓶を確認するユウトは、すぐに誰用のものか当てた。ヒメカ曰く、Bランク冒険者ともなれば自分用に調香された物を用意する物が多い、と『ブラッシュ』や『ヴィスタ』の先輩冒険者達に聞いたのだそうだ。実は香水は冒険者の必須アイテムだったりする。

 ヒメカやユウトは魔法を使えるので身綺麗にできるが、普通、冒険者はそうはいかない。だから、街へ入る時など香水で体臭を誤魔化すのだ。

「ちなみにこっちは消臭特化」

 ヒメカがアトマイザーをワンプッシュすると、仄かに香っていた匂いが一瞬で消えた。

「これ、どうやったんだ?」

「瓶に『消臭』の魔法陣を刻んでみたの。『洗浄』にしようかと思ったけれど、それだと吹きかけた部分が綺麗になるだけだったからやめたの。中に入っているのはただの水よ」

 模様の様に直接瓶に魔法陣が刻まれているそれは、ヒメカが土魔法で作った1点もの。物に魔法陣を刻むことはあることだが、アトマイザーのように小さなものに魔法陣を刻むなどという器用なことが出来る者はそうそういないため、ありそうでなかった代物となっている。

 香水はサンプルなので小瓶だが、あとで専用のアトマイザーを作って『状態保存』の魔法陣を刻む予定だったりする。

「これがあれば香水はいらないんじゃないか?」

「もっとランクを上げたいみたいだし、貴族の依頼を受ける時に多少役に立つんじゃないかしら。指名を貰うならこういうのも判断材料になるかもしれないし」

「ああ、なるほど」

 ユウトが瓶の魔法陣をじっくり観察しながらそう零すと、納得の答えが返って来る。貴族は男性も香水をつける、という情報を手に入れているヒメカならではの視点である。ちなみに、その情報は王宮の侍女様方から聞いた話である。

 ユウトも、そういえばナルさんからそんな感じの話を聞いたことあったな、と思い出していた。

「ちなみに悠イメージの香水もあるわよ」

「……俺はほとんど使わないと思うんだけど」

「使わなくてもいいわよ。でも、ナストさんに作ったのに悠に作らないわけにはいかないもの」

「んー……?」

 そうなのか? と首を傾げるユウトだったが、他にもこっちが誰々イメージでこっちは、と次々に出てきたので、たんに嵌っただけのようだ。

 とりあえず当初の目的を果たそうと、シャンプー用の香料をヒメカから受け取り、再度調合に勤しむことにしたユウトだった。



 翌朝、ヒメカはベーコンとチーズを中に包み込んだナンをフライパンで焼いていた。これならば見回りしている者も歩きながら食べられるので後で渡しに行く予定である。

 今回の旅では大分料理の時間を取れるので、昨日から仕込んでおいたパン生地も焼成して焼き上がった物は朝食用以外マジックポーチへ。これでいつでも焼き立てパンが食べられるとヒメカはご機嫌でひたすら料理を作っていく。

(せっかく窯を作ったことだし、色々と焼いておこう)

 魚介類も手に入ったので今までできなかった石窯料理を作ろうと張り切った結果、野営にも関わらず、立派なキッチン(魔法製)が出来上がっていた。

「……いったいどこを目指してるんだ?」

「悠。おはよう」

「おはよう。それよりもこの設備、昨日はなかったよな?」

「魔法って便利よねー」

「……そうだな」

 料理に関しては一切妥協しないヒメカに呆れながらも、ユウトは手伝いを申し出る。とはいえ、朝食分はほぼ完成しているので備蓄用ではあるが。

「何を焼いてるんだ?」

「それは魚介系。グリル、塩釜、パエリア、グラタン。隣は肉・野菜系」

 先程までパンを焼いていた3つの窯には、現在いろいろと焼いているが魔法でニオイ対策をしているため近づいてみないと分からない。

「一番右の窯はそろそろいいから出してくれる?」

「りょーかい」

 結局、時間いっぱいまでフル稼働したキッチンは役目を終えて土に還った。



「いやぁ。朝からこんなに美味しいものが食べられるなんて幸せだなぁ」

 ハリソンは美味しい美味しいと朝食を噛みしめながらちらりとヒメカを見る。すると、ヒメカも視線に気づいてニッコリと笑みを返しゆっくり首肯した。

 ヒメカは料理をするときは出来合いの調味料を取り出すか、魔法による加工をするのでおいそれと真似できない。レシピを秘匿する権利は彼女にあり、商人の暗黙の了解で無理に聞き出したりしないが、物は試しと石鹸等々を譲り受ける時に交渉してみると、あっさりとOKを貰えたのだ。

 先ほどの視線は「この料理のレシピを譲って欲しい」というもので、ヒメカの返事は了承。ハリソンはご機嫌で朝食をパクパクと食べるのだった。

 ちなみに、交渉だけあってヒメカ側にも利はある。

 ポリティス商会は個人との取引は基本的にしない。しかし、ヒメカに限って出来る限るの便宜を図る、というものだ。

 食料品を中心に、異国の名品珍品も扱うポリティス商会ならば、欲しい物が見つかるかもしれないと思い、ヒメカはレシピをいくつか差し出す。因みに取引を持ち出したのはポリティス商会側からで、ヒメカはそれに乗っかっただけである。

 独占契約こそしなかったが、一番に教えてもらったレシピもあるので他の追随を許さないように努力すればいいだけである。

 レシピの譲渡はウルプスにて行われる手筈で、現在は食事時に現物の味を知る程度だが、それでもハリソンの展望は明るい。これからの儲けを算出してはやに下がる。かつて冒険者を目指していたとはいえ、根っからの商人だった。

 そうして朝食を終えて一休憩の後、再度出発してウルプスを目指した。

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